カナダ銀行(中銀)の利下げサイクル入りで、カナダドルは長期下落トレンドを形成する可能性が高まっています。原油相場の軟調地合いも、カナダドル売りを後押し。反転材料があるとすれば、トルドー首相の退陣が見込まれる総選挙の早期実施ぐらいでしょう。
カナダ中銀は9月4日に開催した定例会合で政策金利について4.50%から4.25%への引き下げを決めました。4年3カ月ぶりの利下げに踏み切った6月以降、今回で3会合連続。過度な減速によるインフレ率の急低下するリスクに警戒感を示しました。実際、直近の消費者物価指数(CPI)トリム値は前年比+2.7%と、ほぼ一貫して低下。目先の追加利下げも視野に入れているもようです。
8月30日に発表されたカナダ4-6月期国内総生産(GDP)は前期比年率で+2.1%と、市場予想の+1.8%を上回りました。しかし、6月単月では前年比+1.2%と予想ほど改善せず、前月比ではゼロ成長に。今後発表されるインフレや雇用などの経済指標が回復しなければ、10月と12月の残り2回の会合でも0.25%ずつの利下げが想定されます。
カナダドルは8月上旬から下旬にかけてドルに対して強含み、3月以来5カ月ぶりの高値圏に浮上。さらに節目の1.34カナダドルが視野に入り、年初来高値をうかがう展開でした。米連邦準備制度理事会(FRB)が7月30-31日の連邦公開市場委員会(FOMC)でハト派的な見解を示し、急激なドル売りに振れたことが背景にあります。ただ、弱いGDPを受け、カナダドルは足元で下落基調を強めています。
カナダドルの値動きに影響を与える原油相場も、伸び悩みが鮮明です。7月末にイスラム組織ハマスの最高幹部の殺害でイランとイスラエルの緊張が高まる場面がありました。NY原油先物(WTI)はこの時1バレル=80ドル台に浮上したものの、足元は70ドルを割り込んでいます。地政学リスクには目を離せませんが、やはり中国経済の回復の遅れによる需給のダブつきが相場の重石となっているもようです。
一般に金融緩和は政権与党をアシストする手掛かりになりますが、トルドー首相の支持率は30%付近から回復していません。与党・自由党は支持率調査で野党・保守党に20ポイントものリードを許し、来年の総選挙で政権交代は必至の情勢。6月に最大都市トロントで行われた下院補欠選挙では1993年以来の地盤を失いました。党勢の立て直しに向けたトルドー氏の辞任観測は、カナダドルを下支えするかもしれません。
(吉池 威)
※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。
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