2024年11月23日にログミーFinance主催で行われた、第88回 個人投資家向けIRセミナーの第3部・株式会社FUJIの講演の内容を書き起こしでお伝えします。
自己紹介
五十棲丈二氏(以下、五十棲):株式会社FUJIの会社説明を始めます。まず、簡単に自己紹介です。代表取締役社長の五十棲です。新卒で制御系のエンジニアとして入社しました。
その後、スライドに記載のとおり、シリコンバレーでスタートアップ投資やオープンイノベーション、他社との協業などを経験する中で、スピード感を持って経営することが必要だと痛感し、2023年から現職を担当しています。
目次
五十棲:本日はFUJIの紹介、事業の紹介、中間期の決算状況、中期経営計画、経営指標と株主還元の順番でお話しします。
企業理念
五十棲:まずは企業理念です。コーポレートメッセージに「innovative spirit」と掲げています。我々はイノベーションを起こし、新たなものを生み出します。人々の心豊かな暮らしのためになるようなものを生み出していくことを、パーパスに掲げて取り組んでいます。
会社概要
五十棲:会社概要は記載のとおりです。「6134」という証券コードを、ぜひ覚えてください。みなさまに関心を持っていただければと思います。
数字でわかる FUJI
五十棲:FUJIを数字で表してみました。創業66年目になる会社であり、規模や業績等はスライドに示したとおりです。
スライド左列の真ん中をご覧ください。海外売上比率は90パーセント近くあります。グローバルに事業を行っている会社だとご理解ください。
国内外拠点
五十棲:グローバル体制として、全世界に子会社を含め、代理店・サポート拠点を構えています。スライドに示したのは主要な拠点です。中でも注目いただきたいのはインドです。インドは現在、非常に活況な市場ですが、我々は25年間ビジネスをしており、2019年にはグループ会社であるフジ インディア コーポレイション プライベートリミテッドも設立しています。このように、全世界で、ホットな市場に対応できるような体制で事業を運営しています。
沿革
五十棲:弊社は工作機械から事業をスタートしました。自動車が伸びるという世の中の流れに沿って、品質の安定した自動生産、量産を行う機械からのスタートです。その後、電子機器が増えていく時代の流れに合わせて、現在の電子部品実装ロボットにつながる事業を開始しました。
その後、パソコンなどの電子部品、電子基板が増え、スマートフォン(以下、スマホ)や携帯電話などが伸びてきた中で、「モジュール型高速多機能装着機 NXT」をリリースしました。こちらは今もなお、12万台以上を出荷する機械として、世界でベストセラーとなっています。
近年では、物流課題解決に向けた、スマートロッカーでの物流自動化支援、高齢化社会に向けた介護ロボットなども開発し、世の中の変化に応じて必要となるオートメーション、製品、事業を生み出している会社だとご理解ください。
事業概要
五十棲:現在、祖業のマシンツール事業(工作機械事業)の売上は10パーセント未満になっています。売上の大半はロボットソリューション事業、つまり電子部品実装ロボットやダイボンダといったロボット製品が90パーセントを占めています。
innovative spirt
五十棲:「innovative spirit」を掲げている中で、技術的な優位性において、我々は買った物を集めて構成するような機械では他社と差が出せません。そこで、リニアモーターや画像処理カメラなどの自社開発、特にカメラにおいてはCMOSの開発からすべてを自社で行っています。
このように世界のトップを走る製品作りに取り組むとともに、特許を出願し、独自性の維持に努めています。その結果、スライドに記載のとおり多くの賞を受賞しています。
半導体チェーンにおけるFUJIのかかわり
五十棲:半導体チェーンにおいて、我々がどの工程に製品やサービスを提供しているかについて、お話しします。
まず半導体製造工程では、後工程のウエハのダイボンディングを行う機械です。チップ化された後の表面実装工程では、はんだの印刷機と電子部品を並べる実装ロボットです。自動運転やVR、遠隔医療など、今後の人々の豊かな暮らしに役立つような市場へ、我々の製品を提供しています。
電子部品実装ロボット(マウンター)とは?
五十棲:電子部品実装ロボット(以下、マウンター)についてご説明します。FUJIのマウンターでは、スライド右下にあるように、胡麻粒より小さい「0.25ミリ×0.125ミリ」の極小の電子部品を、1秒間に16個の速さ、15ミクロン以内の高精度で基板に実装することができます。
左下にスマホを分解した写真があります。我々はスマホに使用されるような小型部品の実装を非常に得意としており、世界のスマホの約2台に1台は、我々のマウンターによって製造されています。
実際のマウンターの動き
五十棲:マウンターの動きを動画でご説明します。手前に電子部品を供給するフィーダーと呼ばれる装置があります。フィーダーから取った細かい電子部品を、超高速に基板上に実装していきます。人では行えないような工程です。
FUJIの強み
五十棲:FUJIの強みについてです。先ほど述べたような通信(スマホ)だけでなくコンピューター、サーバー、車載、産業機械などさまざまな分野で製品を提供し、地域的にもヨーロッパ、アジア、米国など、世界各地へ出荷しています。
さらに、マウンター全体の市場は、電子機器の高機能化や自動車のエレクトロニクス化に伴い現在の約3,000億円から、2030年には5,000億円にまで伸びる見通しです。それに向け、我々はシェアの維持・拡大を行っていく計画です。
半導体製造装置(ダイボンダ)とは?
五十棲:半導体製造装置(以下、ダイボンダ)についてご説明します。グループ会社のファスフォードテクノロジ社の事業です。
ダイボンダの領域は、メモリー、ICなどのロジック、パワー半導体やイメージセンサーなどのその他の3つの分野に分かれます。
ファスフォードテクノロジ社のダイボンダは、非常に薄いダイを高精度に積層する技術とストレスをかけずにダイをピックアップする技術を持っています。メモリー領域においては、世界シェア80パーセントです。
2025年3月期 第2四半期(中間期)決算状況
五十棲:中間期の決算状況についてご説明します。2025年3月期上期の実績は、前年同期比で、ほぼ横ばいとなっています。2025年3月期の通期予想は、8月公表値から変更はありません。
中期経営計画 2026
五十棲:中期経営計画についてご説明します。左側は2024年3月期の実績です。2027年3月期までの3年間で、右側に示す数値まで成長させていきたいと思います。
現在、セミコン事業はロボットソリューション事業に含めていますが、1つの柱にする考えで、計画を進めていきたいと思います。
中期経営計画 2026 基本方針
五十棲:中期経営計画における、3つの基本方針です。1つ目は、既存事業の拡大と収益力強化です。2つ目は、それに続くような次世代ビジネスの創出と事業化です。3つ目は、ESGに基づく事業基盤の向上です。
既存事業の拡大と収益力強化
五十棲:既存事業の拡大と収益力強化です。電子機器の高機能化やEV(電気自動車)・HV(ハイブリッド自動車)問わず自動車のエレクトロニクス化が進む中で、電子基板の需要は増加傾向にあります。
その中でマウンターとダイボンダのニーズも、非常に高まることが予想されますので、事業をグラフのように拡大させる計画です。
既存事業の拡大と収益力強化 〜電子部品実装ロボット(マウンター)〜
五十棲:マウンターの具体的な方向性についてご説明します。
まず、新世代機種「NXTR」「AIMEXR」をリリースしています。こちらは従来比1.5倍の高速化を実現し、スマホや車載のような、超量産市場で効果を発揮します。
さらに、高精度化も実現し「±10ミクロン」のレベルまで、高精度な実装を可能にします。これにより、SiP(System in Package)のような、セミコン領域での用途にも対応できます。
また、「AIMEXR」においては対応基板サイズを拡大しました。1メートル以上の基板にも実装できるため、AIサーバーなどの大型基板にも対応可能です。
我々は、製品の能力を向上させるとともに、中央に示したように、自動化において業界の先頭を走っていると自負しています。深刻な人手不足に対して、機械の能力だけでなくフロア全体を自動化するソリューションも、数多く提供しています。
そして、製品をしっかりと生産できる事業体制として、岡崎工場に新棟を建設しました。生産能力は1.5倍になり、ロボット倉庫や自律走行ロボットを活用し、効率的な生産ができるようになってきています。
既存事業の拡大と収益力強化 ~電子部品実装ロボット(マウンター)~
五十棲:我々がアドバンテージを持つ自動化について、動画でご説明します。従来の機械では、電子基板生産に必要な部品の補給を人が行っていましたが、その作業を自動化します。ロボットが倉庫から部品を出し、ラインへ運び、各機械に補給します。このようなラインはすでに提供を開始しており、お客さまの工場で稼働しています。
既存事業の拡大と収益力強化 ~半導体製造装置(ダイボンダ)~
五十棲:ダイボンダについてです。増加していくメモリー市場でシェア80パーセントを維持していきます。それに加えて、ロジック向けも拡大していきます。すでに今年度からロジック向けの比率が非常に上がっています。
さまざまな市場に対応していくとともに、開発環境の構築のため、R&D棟を建設しました。そこで新たな製品や技術の開発に取り組んでいます。
次世代ビジネスの創出と事業化
五十棲:次世代ビジネスの創出についてです。すでに事業として取り組んでいるのが、移乗サポートロボットとパブリックストッカーシステムの2つです。
左側の移乗サポートロボット「Hug」は、高齢者や障害のある方々の座った体勢から車椅子やトイレなどへの移乗をサポートするロボットです。出荷台数は約4,300台、シェアは約65パーセントです。
右側のパブリックストッカーシステム「Quist」は、店舗や駅、空港、また、企業の受け入れや部品管理において、ロッカーとさまざまなシステムがつながり、IoTロッカーとしてスマートかつ高機能に稼働します。約70パーセントのシェアがあります。
次世代ビジネスの創出と事業化
五十棲:ロボットにおいても、新規領域に取り組んでいます。
左側のエレクトロニクス3Dプリンター「FPM-Trinity」は、樹脂で土台を作った上に、銀ナノペーストで電子回路を作る機能があり、横に並べたマウンターとも連動して電子部品を実装し、熱プロセスも加えることで、部品実装された電子基板を一晩で製造することができます。
スピーディな開発・試作・量産につながるため、さまざまなメーカーから、新たな電子基板の製造方法として期待されています。
右側は、廃棄物選別ロボット「R-PLUS」です。道路工事など、さまざまな工事現場で出た廃材は主にリサイクルされます。しかし、木やプラスチック、ビニールなどの不純物が混ざるため、現状では人が過酷な環境下で苦労して除去しています。
そこで我々は、AI画像認識で材料を特定して不純物を見つけ、自動的に除去するロボットを開発しました。高い成功率での不純物除去を実現し、すでにお客さまのもとへ納入しています。リサイクルなどの静脈産業において、ロボットによる自動化を実現する製品です。
ESGに基づく事業基盤の向上
五十棲:ESGに基づく事業基盤の向上についてです。
まず、環境への取り組みです。環境省のモデル事業にサプライヤーとともに参加し、バリューチェーン全体でのCO2排出量削減に取り組んでいます。
さらに我々の機械自体も、省エネを実現しており、それらを生産する工場も、再生可能エネルギーを利活用しています。
ESGに基づく事業基盤の向上
五十棲:人的資本経営の推進についてです。企業にとって人材は、非常に重要な資産であるということは言うまでもありません。当社でも、すでにさまざまな取り組みを実施しています。
それぞれのテーマに対して目標値を設定して取り組んでいます。我々は、グローバルなお客さまに対応しているため、グループ全体では約20パーセントが外国籍の従業員です。さらに国内では若手のエンジニアなどを中心に、マルチスキルな人材を育成するべく、海外へ出ていく機会を積極的に提供しており、世界で通用する人材の育成に力を注いでいます。
ESGに基づく事業基盤の向上
五十棲:我々は、社会貢献活動にも取り組んでいます。
社員だけでなくグローバルにエレクトロニクス産業で活躍する人材の育成も支援しています。海外の大学や高等専門学校など、専門性の高い学校に我々の機械を無償提供し、授業や講座を開設しています。ヨーロッパや北米(メキシコ)、南米(ブラジル)などで、すでに我々の機械を使った教育が始まっています。この課程を経た若いエンジニアは即戦力になり、我々の製品の善し悪しをよく理解した人材として、お客さまのもとで活躍しています。
右側の「teracoya THANK」は、本社のある愛知県知立市で運営している、イングリッシュアフタースクールです。ここでは「かがく」を「えいご」で学びます。科学実験やプログラミングの授業をネイティブやバイリンガルのスタッフが英語で授業を行うことで、子どもたちが科学に興味を持つような環境を整えています。
将来弊社に入社いただくかたちで還元されればありがたいですが、そうでなくても世界で活躍する人材になって欲しいという思いで、施設の運営を行っています。
ESGに基づく事業基盤の向上
五十棲:ガバナンスの体制です。当社の取締役は常勤4名に加え、女性を含む社外取締役が3名です。監査役においても、常勤1名に加え、女性を含む社外監査役2名という体制です。しっかりとガバナンスを強化し、不正のない経営を進めています。
ROE ・ PBR の継続的な向上
五十棲:経営指標と株主還元についてです。「資本コストや株価を意識した経営」を行う上では、ROEが重要です。近年は材料費の高騰や部材不足などの要因が重なり、ROEが低下していますが、従来の10パーセント台まで戻すことを意識しています。また、PBRも1.1倍以上を実現できるよう、意識して取り組んでいます。
株主還元
五十棲:株主還元についてです。我々は株主さまへの還元を大切にしており、2025年3月期の配当性向は59.6パーセント、配当金は80円の予定です。
2027年3月期までの3年間は配当金の下限が80円、配当性向が50パーセント以上を基本としています。この両方を満たすことができるよう指標を持って取り組んでいます。
自己株式取得に関するお知らせ
五十棲:自己株式の取得についてです。先期も約100億円の自己株式を取得し、すでに完了しています。
そして、中期経営計画でも発表した今期の自己株式の取得について、2024年8月から100億円規模でスタートしています。10月31日現在で、31パーセントまで取得が完了しており、順調に進捗している状態です。
以上、株式会社FUJIの事業と経営状態について、ご説明しました。
質疑応答:精密機械製造における独自性と強みについて
坂本慎太郎氏(以下、坂本):お話しいただいた内容について、ご質問します。
まず、主力製品のマウンターについてです。映像も見せていただきましたが、この機械は非常に精密で正確な動きが必要かと思います。このような機械の製造における、御社の独自性や強みを教えてください。
五十棲:当社は、もともとは工作機械の製造からスタートした会社です。非常に剛性の高い製品作りをしてきたのですが、剛性の高さは精度の高さに大きく貢献しています。
さらに精度やスピードを追求するために、リニアモーターや画像処理技術を独自に開発し、市場に存在している製品レベル以上の開発に取り組んでいます。
また、我々の機械はモジュールというコンセプトを持っており、いろいろな部品をユーザーサイドで簡単に脱着できます。そのようなコンセプトについて、しっかりと特許を確保していますので、例えば電子部品の装着を行うヘッドは、当社の機械だけが取り外せる仕様になっています。
そうすることでメンテナンスが容易になりますし、お客さまが違う基板を作ろうと思った時にヘッドだけを取り替えることもできます。世の中の流れが変化しても、非常に柔軟に対応できる製品であることがFUJI独自の強みです。
坂本:マウンターについて、ライバル企業にはどのような会社があるのでしょうか?
五十棲:マウンター業界において、FUJIはハイエンドクラスに属しています。ライバルとしては、パナソニック コネクトとASMPTが挙げられます。ASMPTは、旧シーメンスのマウンター事業を買収したASMグループの半導体系製造装置メーカーです。
坂本:意外と日本勢が多いのですね。
質疑応答:業種別シェアについて
坂本:15ページに業種別のシェアが記載されていますが、近年はどの用途が増えているのでしょうか? 変化があれば教えてください。
五十棲:そこまで極端な変化はありませんが、車載や半導体関連は伸びる傾向にあります。そのため、我々もこの市場に注力してシェアを伸ばしていきたいと考えています。
質疑応答:海外売上比率の高さと地域性について
坂本:海外売上比率が高いという話がありました。すでに生産が海外に移っていることが要因の1つかと思いますが、海外売上高比率はいつ頃から高くなっていったのでしょうか?
五十棲:まず1990年代には、売上の約半分が海外向けでした。海外での携帯電話、家電、電子製品の生産が増えてきたため、現在は約90パーセントが海外となっております。
坂本:地域別シェアは中国をはじめとしたアジアが多いのですが、近年は変動していますか?
五十棲:スマホがかなりの勢いを持っていた頃は、生産地として、中国向けの売上が占める割合は大きかったです。しかし、現在はさまざまな事情もあり、中国一極からベトナムやタイ、マレーシアなど、他の東南アジア地域への分散が進み、アジア全体に市場がシフトしてきている傾向があります。
質疑応答:ダイボンダのシェアについて
坂本:もう1つの主力製品であるダイボンダについてです。マウンター以上に高いシェアとなっていますが、こちらは以前から高いのでしょうか? また、シェアが高い理由も教えてください。
五十棲:DRAMやNANDと呼ばれるメモリー向けは、以前から高いシェアを持っています。理由として、この非常に薄いウエハのダイを高い精度で積み上げていく必要がありますので、その技術を大きく進化させてきたことが挙げられます。
そのような高い精度や、薄いウエハのダイが割れないような加圧制御技術を持っていることで、メモリー領域で高いシェアを確保しています。
質疑応答:マウンターとダイボンダのリードタイムについて
坂本:マウンターとダイボンダの利益率は、どちらが高いのでしょうか?
五十棲:構成の近い機械でもありますので、利益率は同程度です。
坂本:これらの製品のリードタイムはどのくらいですか?
五十棲:マウンターは、部材不足がかなり解消してきましたので、現在は1.5ヶ月から2ヶ月となっています。
坂本:非常にジャストインタイムで早いですね。半導体関連の製品には、受注のリードタイムが1年くらいかかるものもあります。御社のリードタイムが高いのは、「製品群をある程度絞っている」「あまりカスタマイズせずに出荷できる」などの理由でしょうか?
五十棲:先ほどお伝えしたモジュールコンセプトは、ベースの上に乗せる本体が2種類、ヘッドも数種類で、スマホ向け・車載向け・サーバー向けなど、お客さまの生産物が違っても組み合わせを変えることで対応できます。したがって、生産工程において標準化されたものを大量に作ることができます。この点がリードタイム短縮の鍵になっていると思います。
質疑応答:既存事業の拡大と収益力強化について
坂本:既存事業の拡大と収益力強化について、ダイボンダも含め、売上予想がかなりチャレンジングなのではないかと思っています。
現在およそ8割のシェアを占めていますが、ここからさらに伸びると予想する理由は、今後2年から3年の間に市場が拡大していくためなのか、用途が増えるためなのか、市況も合わせてもう少し詳しく教えてください。
五十棲:世の中の電子機器は、車関連も含めて高機能化してきています。これは、みなさまもご承知のとおりです。その中でメモリーが急拡大していくのは、メモリーメーカーの予測を見ても、間違いありません。
我々が得意とするメモリー領域では、生産計画や伸びに応じてシェアをキープして、市場を取っていきます。加えて、今まで手が回っていなかったロジック向け、イメージセンサー、パワー半導体などの攻略がかなり進んできています。
今まで取れていなかった、ロジック向けの広い分野で市場を取りにいくため、非常に高い目標ではありますが、このような計画で進めています。
坂本:ロジック向けについては、御社の既存製品で対応できるのでしょうか?
五十棲:メモリー向けと少し違う部分はありますが、基本構造は同じです。したがって、メモリー向けにもロジック向けにも対応しやすい機種を販売しています。それらが評価をクリアし、納入に至り始めています。
質疑応答:輸出規制の影響について
荒井沙織氏:中国向けの拡大について、半導体製造装置を含んだ輸出規制の影響はあるのか、具体的に教えてください。
五十棲:結論から言うと、ほぼないと考えています。前回のトランプ政権の時にも、露光装置等に対する規制はありましたが、ダイボンダやマウンター領域への規制はありませんでした。そのため、この領域の規制はないだろうと考えています。
坂本:どちらかというと、半導体の性能を高めていく、先端の部分が規制されているイメージでしょうか?
五十棲:おっしゃるとおりです。
質疑応答:次世代ビジネスの海外展開について
坂本:中期経営計画については、マウンターやダイボンダを中心とした収益力の強化が基本だと思っていますが、今日のご説明になかった部分について、もう少し詳しくお聞きしたいと思います。
次世代ビジネスでは、特にスライド右側のパブリックストッカーシステムが国内シェア70パーセントとのことですが、海外展開の考えはあるのでしょうか?
五十棲:スライド左側の移乗サポートロボットからご説明します。こちらについては、圧倒的に国内が多いのは事実です。国内の介護保険が適用されるレンタル事業を利用して、月額数千円の利用料で借りられます。国に特化した制度や事業をうまく利用しているため、国内での普及が非常に進んでいます。
ただし機能として、特にアジアにおいては体型も似ており、高齢化が進んでいる国もあることから、中国、韓国、シンガポールなどには、すでに出荷が始まっています。したがって、国内中心にしっかり実績を積んだ製品を海外にも出していきます。
スライド右側のパブリックストッカーについて、圧倒的に多いのは店舗受取です。オーダーしたものを待たずに店舗で受け取ることができます。国内の大手ホームセンターやスーパーへの設置が多く、一部テスト的にシリコンバレーに持っていったことはあるものの、海外への出荷はありません。
ただし、海外とのつながりでいうと、今、空港にこのロッカーが入り始めています。我々がシェアを伸ばしたのは、本業でのソフト開発力を活かし、さまざまなシステム、機器、顧客データベースなどをつないで柔軟に対応してきたためです。
そのような中で、このロッカーでは、パスポートを認証し、画像処理で本人確認を行うことにより、免税品の受け取りができます。みなさまもご経験があるように、従来は出入国審査を通過した後に免税店へ走っていたのが、事前にモバイルオーダーしておけば、こちらのロッカーで本人確認し、受け取ることができます。
当然ながら海外の旅行客の方々がオーダーすることもできますし、逆に、海外からモバイルオーダーし、大量の荷物を持たずに日本で物品を受け取るような使い方もできます。そのため、製品は日本にありますが、グローバルな方々と連携した市場ができ始めています。
坂本:非常に高い技術を使って事業を拡大されてきたことがわかりました。この非対面のロッカーですぐに思いつくのは、マンションかと思います。マンションのロッカーでは、すでに大きなシェアを持っている会社がありますが、レッドオーシャンには行かずに、御社の技術を活かした部分で今後も展開していくのでしょうか?
五十棲:おっしゃるとおりです。個別住宅やマンションなどの個人向けは、すでにある程度の企業が納入しています。我々は「システムとつなぐ必要があるか」「ロッカーという箱を使ってどのようなサービスを提供するか」といった、発展性のあるものに注力しています。
例えば、工場で部材が納入されたら、人を介さずに受け取るなどの使い方もできます。また、実際に医薬品を扱うメーカーでは、残量を必ず管理して保管しなくてはならないため、ロッカーが電子計測器と連動し、残量を測らなければドアが開かない仕組みになっています。
このようなプラスアルファの機能が必要なところに、ソリューションをどんどん広げていくことをベースとしています。
質疑応答:配当の見直しについて
坂本:株主還元について、2027年3月期の予想では、増益により配当が増えていく図になっています。今後、恒常的に収益が伸びたり、主力事業が伸びれば利益も伸びてきたりすると思います。その場合、次期中期経営計画、またはそれ以前に下限80円の見直しもあり得るのでしょうか?
五十棲:今中期経営計画期間である2027年3月期までは、下限80円は妥当だと考えて、見直す必要はないと思っています。次期中期経営計画の策定時には、再確認して検討するタイミングがあるかもしれません。
質疑応答:自社株取得について
坂本:自社株買いをかなりハイペースで行われており、総還元性向が100パーセントを超えるような状況です。例えば、株価の上昇等で自社株買いを行わない年もあるかもしれませんが、どのくらい先まで続けていくのでしょうか? また、自社株買いを行わない年は増配に回すような選択はあるのでしょうか?
五十棲:自社株取得については、成長戦略を考え、手元資金の状態、株価などを考慮して、機動的に実施していくべきだと思っています。したがって、配当と自社株取得は別だと考えていただければと思います。
質疑応答:具体的な差別化戦略について
坂本:会場からのご質問が1点あります。「前期から今期にかけて、売上、受注残が減少傾向にあり、受注残に関してはリードタイムが短いためとお話しいただきましたが、今後の見通しについて、御社が選ばれるための具体的な差別化戦略などがあれば教えてください」というご質問です。
五十棲:我々の市場においては、昨年末頃が景気的に底であったことが、今になって数字からもはっきりしてきたところです。つまり、今年に入って少しずつ上昇傾向にある中で、受注に関しては、以前のように、年末に計画が発表されて春頃に具体化するスマホのシーズン性の流れはかなり崩れています。そのため、案件自体は非常に短納期で、即納を求められることが多く、山や谷があるのは事実です。
上期は、前半で少し上昇し、途中で一服したものの、下期に入ってまた着実に上がり始めていますが、ショートタームの案件が多く、長い予測を立てるのが非常に難しくなっています。主に牽引しているのは、中国ローカルのスマホメーカーなどです。これらは自動運転をはじめとする車載系のエレクトロニクスも製造しており、このようなユーザーが設備投資を始めています。
また、米国大統領選で、次期政権がトランプ氏に決定したことにより、米中間の規制問題が懸念されます。今後も脱中国の企業が出てくると予想されており、東南アジアの近隣国の設備投資は増加傾向にあります。
坂本:中国から移すということですね。非常によくわかりました。