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ゴーン氏の腐敗を許した日産の罪~「ガバナンス(統治)が働かなかった」は的外れ=吉田繁治

日産をV字回復させた英雄ゴーン氏は、いつから成果の達成にコミットするリーダーから、命令する絶対権力者に変節したのか。そして経営者の犯罪までを行ったのか。その理由を考えます。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)

※本記事は有料メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』2018年11月21日号の一部抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

理想的なリーダシップ型経営が、いつの間にか「絶対権力経営」に

社内告発で「報酬隠し」発覚

日産のV字回復を主導したカルロス・ゴーン氏が、5年間で50億円と見られる報酬隠しと、会社経費の20億円超の私的な流用のため、成田に到着直後に逮捕されました。

発覚は、社内告発からです。関与していた関係者が、捜査協力することで告発と刑が減免される「司法取引」です。

<偽装された有価証券報告書>

有価証券報告書は、会社の取締役が、会社のオーナー(株の所有権者)である株主に対して行う、資産/負債の変化の内容、利益と投資状況、そして利益金処分案の説明です。

この中に、まず代表取締役会長であるゴーン氏の役員報酬が、過小に書かれていたこと。ゴーン氏のストックオプションの利益が、意図的にゼロとされていました。これが、年間10億円、5年で約50億円です。

さらに、ベンチャー企業への投資のためとして日産が全額出資したオランダの子会社(資本金60億円)を通じて別荘の建築が行われ、ゴーン氏が賃貸料を払わずに利用していたことです(20億円相当の利益供与になる)。これは、会社の業務に忠実でなければならない役員の任務にそむく背任に当たります。

「リーダシップ型経営法」が招いた?

ゴーン氏については、1年でV字回復を果たした2001年に、本メール・マガジンで「リーダシップ型経営」の事例としてとりあげたことがあります。『鋭利なメスをもつ精神分析医:カルロス・ゴーン』という標題でした。

複雑な要素をもつ経営を単純化し、「車づくりのビジョン」にまとめて引っ張るリーダシップ経営の典型に見えたからです。

リーダシップ型経営は、「ビジョンの実現のために実行すべき」ことを明確に示し、社員の仕事の努力の方向を成功する1本にまとめるものです。

これは上からの強制権力による統制(命令)ではない。示されたビジョンへの社員の共感が、MBO(成果目標による経営)の形になって、その目標が、社員の自己目標になり、自発的に展開されていくものです。

成果目標の達成にコミットするということも、当時は新しかった。日本型経営にはなかった、成果責任を負うものでした。日産の強固な縦割り組織を横断する、クロス・ファンクションチームも新鮮だった。

対極は「権力型経営」

こうしたリーダシップ型経営の対極が、権力型の経営です。CEO(経営の責任者の意味)は、経営の実行において権力を持ちます。権力とは、当人の意に染まないことでも強制し、実行させる力です。

権力は、CEOに帰属している以下の職能から生まれます。主なものを示します。

<CEOの主な職能>

  • 人事権(雇用と解雇の決定)
  • 仕事の評価権(昇進、昇給、降格、降給、配転の決定)
  • 経費の配分権(増額経費とカット経費の決定)
  • 会社が目指すビジョンの決定権
  • 仕事の標準的な方法の決定権
  • 組織の決定権

社員(雇用される人)の仕事、そして仕事の条件や環境となるももののすべては、CEOが決定できます。CEOが命じる通りのことを実行し、仕事で求められた成果を上げないと評価権または人事権が発動されて不利益を受けるか、最悪の場合は解雇されても対抗できないのが社員です。英米型経営では、社員は、上長の「ファイア」の一言で解雇されます。

上記の権力は、取締役と執行役員、または部長に分有(権限の移譲)されますが、分有の程度を決めるのもCEOです。

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