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三竿郁夫氏:「地球環境とEV ~2020年多様化するEVビジネス~」【FISCOソーシャルレポーター】

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以下は、フィスコソーシャルレポーターの個人ブロガー三竿郁夫氏(ブログ「IA工房」を運営)が執筆したコメントです。フィスコでは、情報を積極的に発信する個人の方と連携し、より多様な情報を投資家の皆様に向けて発信することに努めております。

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※2019年12月19日に執筆



国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)の話題が取り上げられるなど、地球環境保全のための行動や事業展開の必要性の認識が注目されるようになってきている。とりわけアジアの国々の今後の石炭、火力発電、石油、ガソリン、輸送機関等の基盤産業構造の変化を見据えた企業変革への着手を考える時がきているのかもしれない。


2020年は、自動車産業にとって激震の年になるのではないかと思われる。ガソリン・ディーゼル車から、ハイブリッド、プラグインハイブリッドを経て、EV(電気自動車)、FCV(燃料電池自動車)に向かっていく道筋の中で、多くの国が目指すEV大量導入が壁にぶつかり、多様な技術、多様な会社の参入、多様なニーズに呼応するビジネスモデルがつぎつぎと生み出されていくだろう。その中からどんな斬新なビジネスが大きく育つか、いろいろな視点から注目したい。

1、石油および化学業界の変身


EVによる脱ガソリンや消費者の脱プラスティック志向で逆風の石油、化学業界は、まさに変身の時代に入っていると考えられる。

・出光興産<5019>

高山で小型EVカーシェアの実証実験を始めた。タジマモーターコーポレーションの超小型EV使って全国にあるガソリンステーションをEVカーシェアの基地として利用する地方活性化事業を検討している。

・三井化学<4183>、三菱ケミカルHD<4188>

消費者の脱プラスティックの動きにより徐々に打撃を受ける可能性もあるが、モビリティ材料部門は、EV時代になってもますます需要が高まると予想される高機能プラスティックに力を入れている。三井化学<4183>は、モビリティ事業の主力製品ポリマーの製造施設を増強してきた。アジアでは短期的に需要が鈍化してきているように思われるが、将来は有望だろう。

・旭化成<3407>

リチウム電池の正極材に始まり、EV産業への積極的な姿勢を示してきた。M&Aを含めたEV関連事業の拡大がすすんでいる。

2、新興EV事業者と大手自動車グループの活発な動き

・欧州では、FCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)とグループPSA(プジョー・シトロエン)が合併に動き出した。フォルクスワーゲンやダイムラーは、2025年までにEV比率を20%以上にする目標を立てており、大手自動車会社のEV化の熾烈な争いが始まりつつあるようだ。

・ルノー・日産自<7201>グループは、最も積極的な「2023年に30%のEV化」という目標を掲げている。リーフで日本のEV市場をリードしている日産は、2020年には「ニッサン・インテリジェント・モビリティ」の新コンセプトカー「アリア」を登場させる。

・中国には、50を超えるEV製造会社があると言われている。生産台数は、年々急速に伸び2018年は120万台を超えたと伝えられたが、2019年後半に補助金制度が変更され減速した。

・トヨタ<7203>、三菱自<7211>、ホンダ<7267>、日本電産<6594>は、早々に中国との連携を目指し中国の広州汽車と提携して足場を作り始めてきたが、今後先行きが不透明だ。

3、小型EVの進化

・中国で急成長したLEV(低速電気自動車)だが、この量産実績は東南アジア・中央アジアでのEVビジネス展開に役立つだろう。大気汚染で苦しむニューデリー、ムンバイ、バンコク、ジャカルタ等に安価な4輪EVセダンや3輪EVタクシー(タイではE-TukTuk)の普及が加速していくだろう。

・川崎のEVベンチャー企業であるFOMM(フォム)は、タイにEV工場を作り生産を始めている。洪水の多いタイで活躍する水に浮いて走れるEVだ。エンジンという心臓部品のなくなったEVは、いわゆる破壊的イノベーションの対象になり、部品がコモディティ化しつつあるので、小型EV市場では、こういったニッチなビジネスが今後も容易に立ち上がるだろう。

・さらに、小型EV市場では、充電時間が長い・バッテリーが高価という弱点を補う、バッテリー交換モデルと交換バッテリー供給ビジネスも有望なビジネスに発展するだろう。

4、モビリティサービス


将来、自動車販売ビジネスの市場をモビリティサービスビジネス(MaaS)の市場がはるかに上回る予測が出ている。各社のモビリティサービスの展開からも目を離せない。

・トヨタのT-Connect、日産のNissanConnect、ホンダのeMaaS等の自動車会社だけでなく、ITの巨人も動き出している。米Googleは、FCA、韓国サムソン電子と提携し、AI画像認識、自動運転、ビッグデータ処理等巨大な市場に向けて動き出した。

・EVの重要部品は、モーターとバッテリーといえよう。EVビジネスに1兆円を投資すると宣言した日本電産もモビリティサービスの将来を見据えて、モーターからリアルタイムデータを送信できる「インテリジェントモータ」の実用化研究を進めている。

・EVユーザーにとって至れり尽くせりのサービスが本当に必要かは疑問だが、便利さと居心地の良さを求める顧客の要望が尽きないのも間違いない。

5、再生エネルギーとEV

~地球環境保全をめざしてコミュニティレベルからアジア連携レベルへ~


電気は、2次エネルギーにあたるので、EVがCO2を削減しているとは言い難い。CO2削減に貢献するには、EVの充電に使われる電気の発電方法を変える必要がある。


ただ、スマートグリッド(次世代送電網)のような概念で充電ステーションやその近隣で再生エネルギーによる発電ができれば、そのコミュニティではっきりとEVがCO2削減に貢献することになるかもしれない。

・地区コミュニティを支援する配車サービス会社、コンビニ、駐車場ビジネス会社等も、充電ステーションも含めたEVビジネスを視野に入れていることだろう。

・セブン&アイ・ホールディング<3382>は、太陽光、EV蓄電池を活用した循環型再エネシステムの実証実験を始めた。

・福岡県の自然電力株式会社では、太陽光・風力のメガファームを日本発で世界中に作っていくという大きなビジョンを掲げて事業展開を始めている。

・ソフトバンク<9434>子会社のSBエナジーは、アジアスーパーグリッドのコンセプトを掲げ、風力・太陽光発電でアジアの再生エネルギー比率を上げようとしている。その延長として、EVビジネスへの連携が見えてくる。



それぞれの業界でスピードが違うものの、地球環境保全を考慮したビジネスの変革は、かならず起こっていくだろう。政府や環境省・経産省のリーダーシップと企業経営者のリーダーシップに期待したい。


日本の国内だけでCo2削減の努力をして解決できる課題ではないだろう。日本の役割は、日本の環境技術と環境人材を生かして、中国やインド等アジアの国々の環境課題の解決に貢献することではないだろうか。アジアで行動力のある人材、アジアの国々と連携してビジネスを展開できる企業が、地球環境保全に貢献できるビジネスをどんどん展開していくのを応援したいと思う。


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執筆者名:三竿郁夫 IA工房代表
ブログ名: 「IA工房」




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