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イラン革命防衛隊司令官殺害、元統合幕僚長の岩崎氏「米国は納得のいく説明や根拠を示すべき」

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新年早々、私は多くの友人にメールで新年の挨拶をさせて頂いた。私が昨年来気にかかっていた北朝鮮の金正恩の「クリスマス(年末)プレゼント」は、結果的に1月1日午後(米国東部時間の新年)になっても北朝鮮の具体的行動がなかったことから、「皆様、穏やかな新年をおむかえのことと拝察申し上げます・・・・」と送付した。

確かに今年の我が国は一部の地域を除けば天候的には比較的穏やかな年明けで、それぞれがいいお正月をお迎えしたものと思う。しかし、私のもとには1月2日、台湾の参謀総長の沈一鳴大将が部隊激励の為、台北松山飛行場から宜蘭に向け、UH=60で飛び立って間もなくしてレーダーから機影が消失し、その後の救出活動も空しく、亡くなられたとの訃報が飛び込んできた。沈大将は、私が最も尊敬する軍人の一人である。彼は空軍の戦闘機パイロットであり、台湾国産機「経国」や仏製「ミラージュ2000」、米国製「F-16」等に搭乗していたパイロットであり、またテストパイロットでもある大変有能な軍人であった。人間性も豊かで多くの兵士から慕われていた。これまで台湾国民の為、多大なご功績を残された偉大な軍人を失うことは台湾としての大きな痛手であろう。謹んで哀悼の誠を捧げる次第である。

そして翌日には、米国がイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を無人機による攻撃で殺害したとのニュースが流れた。我が国は一見平穏な年明けだが、今回の米国の空爆やこれに対するイランの報復攻撃等が予測され、北朝鮮の不穏な行動や発言等もあり、世界は益々緊張度が高まり不安定さを増す方向に動いている。エネルギーの80%以上を中東に頼っているため、特に中東の緊張は即座に我が国に大きく影響する。我が国としても遠くの対岸の火事として見ているわけにはいかない。

今回は、米国のこの空爆についての現在の所感を述べたい。今回の空爆は、ソレイマニ司令官がレバノンからバグダッドの国際空港に移動し、空港施設から出て間もなく、米国の無人機が司令官等を乗せた車列を空爆した。米国政府は今回の空爆は「正当防衛である」、「自衛行動」だったとし、この空爆や司令官の死亡により、「当分の間、戦争は回避された」と説明している。また、米国防総省は「ソレイマニ司令官は米国の外交官や兵士への攻撃を画策していた。(だから米国にとって自衛行為だった。)」と発表している。

この空爆行動は果たしてどのような問題を孕んでいるのだろうか?また今後、どの様に展開していくのだろうか?

まずは、問題点である。(1)今回の空爆行為そのものに関する米国のこれまでの説明で、世界各国は納得したのだろうか?否、殆ど理解できないのではないか?米国は他国に対しては「人権」、「民主主義」、「法による支配や法に基づく秩序」等の言葉を使い、時々これを理由に実力行使することがある。では今回の行動は、どの「法」に基づいた行動なのであろうか?残念ながら、これまでの米国政府や米国防総省の説明では十分納得がいくものではなく、不十分であると言わざるを得ない。このままでは恰も「私(米国)が法である。米国は常に正しい。(特に説明をすることはない。)」と言っているのに等しい。「米国は、米国そのものを、または米国人を攻撃するいかなる者であろうが、組織や国であろうが、米国の判断で殺傷しても許される。」ということか?

問題点(2)となる今回の空爆は、イラクのバグダッド空港周辺で行われた。即ちイラク国内で行われた。国連憲章には、もしある国が他国の領土内で武力を行使する場合、当該国の合意が必要とある。今回、米国はイラクの合意を取り付けていたのだろうか?これは定かではないが、イラクのアブドル・マハディ首相が空爆後、即座に「米軍は米軍のイラク駐留を巡る合意に違反している」との発言したことを考えると、合意はなかったと考えるのが妥当だろう。また、米国とイラクが2008年に合意した「米国とイラクの戦略的枠組み」ではどうであろうか。やはり、この枠組みの中でも米国は勝手にイラク国内で武力行使が出来ないとされている。であるとすれば、再度「法の支配」や「法による秩序」・・・等との関連は?との疑問が出てくる。米国は今後、世界各国がある程度納得のいく説明や根拠を示してくれることを切に願いたいし、そうすべきである。それが大国としての責務である。

では、この状況が今後どのように展開していくのだろうか?これは最も予測しがたい事である。トランプ大統領はこれまでも何回も大方の予想に反し世界の驚くような行動を取っており、その行動を予測することがなかなか困難である。なお、既にイランのハメネイ師は「厳しい報復」を宣言しており、また周辺国もこれに同調する発言がなされている。空爆後のイラン国内のデモを見れば、もしイランが米国に対し何もしないのであればイランの指導者達は国民からの罵声を浴びることになるだろう。そして、このイランの報復攻撃があれば、トランプ大統領も応ぜざるを得ない。米国は既にイランからの攻撃があれば52ヶ所の攻撃を行うと公表している。(52ヶ所とは大統領自ら、1979年のテヘランの米国大使館占拠事件で人質になった米国人の数と明かしている。)この52ヶ所には、「イラン及びイラン文化で極めて重要なもの」が含まれているとの事である。もしこのことが実行されれば、2001年にタリバンがアフガンのバーミヤンで行った大仏破壊にも似ている決して許される事のない暴挙である。

いづれにしても、私は、イランによる報復攻撃は行われるものの、イラン側の報道で「報復攻撃は米軍施設等」としていること等からすれば、限定的な報復攻撃であろうと想定する。11月に控えた米大統領選挙を考慮すれば、トランプ大統領も即座に52ヶ所の全部に対する反撃とせず、限定的な攻撃であろうと考えられるし、そう信じたい。しかし、この報復合戦は、短期で終結することもないと考えている。だらだらと続き、今年11月3日の米国大統領選挙に大きな影響を与えることになろう。

この中東での緊張とともに、米中経済戦争の先行きも不透明であり、北朝鮮の今後の出方も気になる。そのような状況下、我が国にはどのような選択肢があるのだろうか?私は、我が国の考え方は極めて明快であると考えている。2013年末に策定された「国家安全保障戦略」、そして2018年末に閣議決定された「防衛計画の大綱」に明示されている通り、基本的には「独自の自衛保持」、「日米安全保障堅持」そして「多くの国々との安全保障協力の強化」が大切と考える。「日米同盟」は極めて重要であるが、全てを同盟国と行動をともにすることはできない。我が国は独立国である。仏のドゴール大統領が「同盟国とは一緒に戦うが、ともに倒れることはない。」と表現している。最後はどの国であろうが、「自国第一である。」我が国は、昨年のホルムズ海峡でのタンカー襲撃事件を受け米国の有志連合への誘いもあったが、独自に護衛艦と哨戒機をインド洋から中東に送ることを昨年末に閣議決定した。

2020年は我が国ではオリンピック・パラリンピックが開催される。この大会を成功裏に行えるか否かは、我が国の信用に大きく影響する。2020年は課題・難問だらけであるが、既に航海は始まった。安倍政権にはしっかりと将来を見極めた上で機敏でかつ柔軟な対応して頂く事、そして「令和」の心、Beautiful Harmonyの精神をもって各種難題に臨んで頂きたくお願い申し上げたい。(2020.1.7)

岩崎茂(いわさき・しげる)
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。

写真:ロイター/アフロ

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