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2020年新型コロナウイルス流行の中国経済に与える影響【中国問題グローバル研究所】

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【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している孫 啓明教授の考察となる。

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2019年は中国経済にとって、過去10年間で最悪の一年となった。2020年なら中国経済は回復すると期待していたが、2020年初頭のコロナウイルス大流行というブラック・スワンにより、中国経済はまさに泣きっ面に蜂である。2020年1月30日、アジア株は「ブラック・チューズデー」を経験し、オフショア人民元のレートも1ドル=7元台に下落した。2020年2月2日、米株式市場が暴落し、ダウ平均株価は600ドル(2%)以上値下がりし、2019年8月26日以降米株式市場最大の前日比下落であり、米国の3大株価指数はいずれも急落した。世界経済の景気下押し圧力が強まるこのご時世では、中国の2020年第1四半期のGDP成長率はわずか5%になる可能性もあり、通年でも6%の成長率は望めないであろう。今回のコロナウイルス流行は中国経済にどれだけの影響を与えるのか。中国が時代の流れに沿って、時代遅れの産業を廃止し、これを機に産業をアップグレードして、伝統的な製造業を改造、新しい現代的な産業を発展することができるのか。またそのためには、どのような努力をすべきなのか?以下、これらの問題に対して簡単な議論を行いたい。

試練が国を強くさせる場合が一つ考えられる。中国経済は景気循環の法則に従って収縮するが、量的収縮とともに質的改善を行い、このまま衰退することにはつながらず、逆に中所得国の罠を脱出するための力を蓄えることになる可能性がある。現状では、中国経済の産業分布は合理的であり、産業の自己推進力も強い。コロナウイルス流行の中心地である武漢は、医薬品、自動車部品、光エレクトロニクス、エレクトロニクスなどの産業に関してはいくつかの利点を持っている。短期的なコロナウイルス流行は、特に原薬、エレクトロニクス産業などのコアの製品の生産能力を影響し、下流部門のサプライチェーンにある程度影響を与えることになるが、これらの影響は価格変動に留まり、供給が断絶するわけではない。何せ他の省や地域にも同様な製品があるため、日本の地震によって世界中のエレクトロニクス産業のサプライチェーンが断絶するような深刻な事態にはならないであろう。

SARSの時期と比較してみると、中国の2003年第1四半期のGDP成長率は11%であり、第2四半期は9%に低下したが、翌年の第1四半期は11%に回復した。SARSの流行は中国経済全体の成長傾向に影響を与えず、GDPに対する影響は、第1四半期で計算すると-2%、通年に換算すると-0.5%となっている。17年前中国のGDPは12兆人民元程度であり、おおよそ500から1000億人民元の損害を出すことになった。2020年、中国のGDPは100兆人民元に達しており、SARSの年と比べて、中国のリスク対応能力には雲泥の差がある。国内のコロナウイルスの流行がこれ以上広がらなければ、経済全体への悪影響は制御できるであろう(編集者注:執筆は2月3日)。

しかし、万が一流行を制御できず、拡大し続ける場合、より深刻な影響を与える可能性もある。1月31日、世界保健機関(WHO)が今回の新型コロナウイルスの流行が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC: Public Health Emergency of International Concern)」に該当すると宣言した。世界第二位の経済国である中国が主要なアウトブレイク地域として指定され、更に中国への観光と貿易の制限が拡大すれば、世界の主要国が中国経済を閉鎖することを意味し、極端な場合には、すべての貿易、サプライチェーン、受注、輸出入、物流、人口移動、そしてエネルギー価格にすら深刻な影響を与えることになるであろう。そこまで事態が悪化すれば、中国経済に深刻な影響を及ぼすだけでなく、世界の景気後退につながる可能性すらある。

もっとも、中国の管理能力を以て、予期せぬ事態を起こさないようにすることができれば、コロナウイルスの流行は二ヶ月以内に制御され、中国のマクロ経済の長期的な成長を変えることはないと、個人的には楽観的な判断をしている。

中国の産業構造に対して、プラスの影響を与えることもあれば、またマイナスの影響も与えることもある。そして長期的および短期的効果に関しても、それぞれ異なる結果をもたらすだろう。短期的に見るならば、飲食業、旅行業、輸送業、宿泊施設などの様々なオフラインビジネスに大きな影響を与えるであろう。長期的に見るならば、中国はまだ産業をアップグレードする巨大なチャンスを持っていると言える。例えば、スマートシティ建設、スマート交通管理、スマート医療システムの構築、遠隔医療、医療用ロボット、スマート看護、スマート農業、デジタル産業サプライチェーン、スマートロジスティクス、緊急災害備蓄産業、デジタル情報トレーサビリティなどが挙げられる。

伝統的な製造業のアップグレードでは、より包括的なデジタル化、スマート化を実現し、より広範囲を管理できるシステム管理プラットフォームを構築することになるであろう。更に人工知能を応用する防災、災害予測機能を備えることにさえなるであろう。医療の階層化問題と、如何にして医療資源をより効率的に配分するかという問題は再び注目されることになるだろう。今回のコロナウイルスの流行は、食事構造、食生活に大きな影響を与え、多くの産業変革をもたらすであろう。フィットネス、健康管理、オンライン学習、オンラインゲーム、映像配信などの業界はさらに細分化するだろうと思われる。特にブロックチェーン技術はより広く応用されるであろう。私見では、今回のコロナウイルス流行は、中国経済に大きな悪影響を及ぼすと考えているが、長期的に見ると、中国経済の変革とアップグレードに新しい刺激を与え、中国経済の新たな出発点となり、中国の産業構造のハイエンド化を更に促進することになる可能性も秘めている。

長期的に見ると、経済危機と景気後退は、産業構造を強制的に調整するための好機であり、中国の製造業が世界のハイエンド産業に参入し、中国が中所得国の罠から脱出することチャンスとなるであろう。一般的に、ある経済国が中所得国であるか否かに関しては3つの判断基準がある。1、一人あたりGDPが10,000ドルから12,000ドルに達し、2、第1次、第2次、第3次産業の割合おおよそ10:30:60であり、3、投資の限界効用が低下し、同国の経済成長は主に投資に依存せず、主に経済国国内の消費によって支えられる。中国の経済は、まさにこの3つの基準を満たしている。すなわち、中国はすでに中所得国の仲間入りをしていることを示している。

近代史を振り返ると、中所得国になった国は多い。ブラジル、ベネズエラ、マレーシアなど100カ国以上が中所得国になったが、一度中所得国の罠から脱却しても再びその罠に陥る国がほとんどである。中所得国の罠から完全に脱却し、先進国の仲間入りをし今日に至っている国は、日本、韓国など十数カ国しかない。その根本的な原因は、継続的な技術革新が可能か否か、ハイエンドな産業構造を維持できるか否かにある。中所得国の罠から脱却できない国は、主に資源や観光業のような短期的なGDP収入に過度に依存していることが多い。しかし日本や韓国のような国が、中所得国の罠から徹底的に脱却し、先進国の水準を長期的に維持できる主な理由は、継続的な科学研究と技術革新をし、世界でもハイエンドレベルの産業を維持し続けてきたことにある。

歴史を振り返るとわかるように、産業構造、技術構造の進歩には、逆境の強制的調整の法則がある。すなわち緊急事態や経済危機の中で、市場の力を借りて、強制的に時代遅れの産業を淘汰すると、新しい産業が力強く発展することになる。「SARSの流行」、2008年の金融危機と同じように、今回の「新型コロナウイルスの流行」も中国の技術進歩と産業構造調整の契機となる可能性がある。だから、中国は今回の「新型コロナウイルスの流行」を契機に、ブロックチェーンベースのデジタル経済産業、オンライン経済を発展し、人工知能ロボットを核としたスマートロジスティクス、スマート農業、スマート自宅勤務などの新しい業態を促進し、中国経済を一刻も早く世界産業構造の最先端に押し上げるべきである。

この評論は2月3日に執筆
写真:AP/アフロ

※1:https://grici.or.jp/

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