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新型コロナウイルスの「両面作戦」は中国に「新しい経済」のモデルを生み出す【中国問題グローバル研究所】

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【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している孫 啓明教授の考察となる。

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2月23日、国家主席習近平が新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)の流行阻止と管理及び経済社会発展作業展開会議に参加し、重要な講話を発表した。講話では、感染症の流行を厳重に管理し、阻止すると同時に、ゾーニングやグレーティングをすることで、精確に生産再開を行い、雇用率・対外貿易・外国投資・国民生活を安定させる「両面作戦」の方針を発表した。これはつまり、「力を合わせて大事を成す」という中国政府の制度の優位性を示しつつ、様々な小さな問題は市場メカニズムの調節機能に任せるということであり、この作戦で政府のマクロコントロールと市場の調節機能を完璧に融合することを目指す。

一、「両面作戦」は中国の政府と市場の力を並行に利用できるという制度の優位性を表している
周知のように、今の世界では、中国政府のマクロコントロールの能力は圧倒的であり、「力を合わせて大事を成す」というのは、中国の制度の優位性である。このことは今回の新型ウィルス流行阻止のプロセス全体に示されている。しかし、どんなことでも二面性がある。政府という強力な「見える手」は、正確な意思決定の下では、個々の利益の一部を犠牲にしながら力を合わせて局面を維持して「大事」を成すことはできるが、市場という「見えざる手」に取って代わることはできない。なにせ、膨大な数に及ぶ企業と消費者の、多様で多層的かつ様々な需要といった「小事」を全方位的にカバーすることはできないからだ。

中国政府は新型ウィルス流行の間に、全国の医療資源を迅速に統合し、42,322人の医療スタッフを武漢に送り込み、10日間で病院を一つ建設した。また軍隊を動員して病院を建設し、雷神山医院・火神山医院2つの病院の管理を引き継ぎ、都市の封鎖と外出の制限をおこなった。しかしながら、国民の日常生活、商品の供給、企業の生産再開、個人事業主の生産経営活動などは、政府という「見える手」では完全に管理することができない。そのため、政府は減税、家賃削減、目的型ローンなどの優遇政策を通じて、市場のミクロの経済主体がそれぞれの活力を発揮するよう奨励する。それによって社会経済の正常な秩序を回復し、大衆の日常生活を効果的に守ることができる。ただ実際問題として、ウィルス流行の制御には封鎖が必要だが、企業の生産再開は流通が必要であるため、ジレンマに陥ることになる。このようなジレンマから抜け出すために、政府が知恵と管理能力を発揮している。流行が深刻な地域で厳しく封鎖し、それ以外の地域で流通を開放するといったように、地域によって、状況によって、正確に生産再開させる方式は、政府と市場が完璧に協力した結果である。高いコストを厭わずに感染症の流行を抑え込むことは、中国政府の「人権」を非常に重視する政治思想のあらわれであると同時に、政府の強力な管理能力をもつことを示している。今回の「両面作戦」は、中国政府の大胆さ、決断力、知恵と能力を体現している。

二、「在宅経済」、「クラウド経済」、「マルチ領域経済」時代の新しいモデルを作る
「在宅経済」という言葉は、2008年金融危機の時、台湾由来の言葉である。2009年における上海天連の広告調査によると、「在宅経済」が多くの第一線、第二線の都市で台頭し、景気低迷の時代の新しい経済成長の突破口となっている。実際、金融危機がなくとも、在宅経済は台頭したであろう。在宅勤務、自宅にいながらテレワーク、副業、ビジネスを行うことは、今後も発展していくことは間違いない。今回の感染症流行の間、自宅に引きこもる人々が新しい雇用と経済成長ポイントを作り出し、「在宅経済」はもっともクールなネット流行語の一つになっている。今後ますます多くの「引きこもり」は、テレワークの経験を通じ、自身のキャリアプランを変えることが可能になるだろう。一部の企業も、集中型ビジネスセンターから分散型在宅ワークのモデルへ切り替えている。

オンライン業務、オンライン医療、オンライン教育、ビデオフィットネス、オンライン教室などの「在宅経済」は、関連する電子製品の販売を牽引している。蘇寧易購のデータによると、最近勉強で必要なパソコン、タブレット、プリンタなどの販売数は急速に成長している。プリンタだけでも、前年同期比で200%以上増加した。

「在宅経済」はインターネットの急速な発展の派生物だ。迅速なネットワーク、便利なビジュアルコミュニケーション、安定したネットの契約と便利なオンライン業務が、「在宅経済」の協力、雇用、取引に対し、直接会わなくても関係構築ができるプラットフォームを提供している。「在宅経済」は、近いうちに、比較的独立した新しい経済モデルを形成し、商品や人を一箇所に集める既存の仕事スタイルや実店舗での商売と融合し、相互補完することになるだろう。「在宅経済」には、例えば信用経済、道徳経済、自由経済、相互利益経済、レジャー経済、視覚経済など、まだ様々な検討できるモデルがあり、大きな発展の余地が残っている。

「クラウド経済」は、インターネットと通信ネットワークを介し、超大規模なクラウドサービスセンターのコンピューティングとストレージ機能を利用し、低コスト、高効率、実用的な方法で、データの共有と交換を世界中の政府、企業、個人消費者に提供することである。これは独立した経済モデルであると同時に、ブロックチェーンと「在宅経済」のインフラと技術基盤でもある。2012年、科学技術部は、中国のクラウド科学技術に関する「第12次5カ年計画」を策定した。クラウドアプリケーション、クラウドデータ、クラウド産業は、すでにある程度の規模を形成しており、「在宅経済」を十二分に支えることが可能だ。

「マルチ領域経済」は、複数の領域に跨がる投資の経済モデルを指している。領域を跨ぐ投資は、インターネットの投資家の好みであり、例えば馬雲が金融業に投資し、Apple、Facebook、Googleが新エネルギー事業に投資するなど、通常、成長性のある新興産業に投資する。新型コロナウイルスの流行により、「在宅経済」は多くの投資家の支持を得るであろう。現在、上海光明、北京三元、四川新希望などの乳製品メーカーは、新型コロナウイルス流行のために物流が厳しい状況の中で乳製品を家に届けると同時に、他の業界の生ものの配送業務をも開拓している。そのため、注文数が急増し、乳製品販売の成長も牽引している。「在宅経済」は様々な新しい産業を生み出すであろう。投資者の性質により、これらの産業は主にインターネット産業、デジタル経済産業及び「インターネット+伝統産業」になる。

三、今回の流行における「両面作戦」は、中国製造業の完全なるシステムと柔軟な変革の強さを体現している
今回の流行において、マスクと医療用防護服はもっとも必要とされる商品となっている。2月15日まで、中国には医療用マスクメーカーが358社、医療用防護服メーカーが44社ある。そのうち、医療用防護マスクを生産できるメーカーは56社、医療用サージカルマスクを生産できるメーカーは149社、両方ともに生産できるメーカーは22社しかない。2019年中国のマスクの総生産量は50億枚を超えている。中国は旧正月休みのせいで生産が不十分のため、中国は1社の軍需企業に緊急の生産転換を要請した。2月5日医療用防護服の生産量は7850セットのみだが、2月16日になると、8時間勤務から三交代制に切り替え、一日4万5000セットの防護服を生産でき、その生産量は全国の医療用防護服の総生産量の1/3以上を占めることになった。

さらには3月5日の時点では,中国でのマスクの1日の生産量は1億を超え、医療用マスクの1日の生産量は166万を超えている。最前線の医療スタッフを保護するニーズに効果的に対応している。

新型コロナウイルスの流行阻止の段階で、多くの国から中国は支援を受けた。「山川異域 風月同天」のように、中国が自身の困難を克服し、今度はこれらの国々にできる限りの支援を行い、世界における流行の拡散防止に貢献できるであろう。

(写真:ロイター/アフロ)

※1:中国問題グローバル研究所 https://grici.or.jp/

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