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“武漢ウイルス”の裏で起こっていること、元統合幕僚長の岩崎氏「流石!中国は只者ではない」

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おそらく多くの方々は、毎日繰り返される“武漢ウイルス”にウンザリしてきている事と思う。世界の感染者数は増加し続け、留まるところ知らない。欧州は当初、イタリアのみが注目されていたが、最近ではスペイン、フランス、イギリス、ドイツと欧州全域に拡大してきている。また、アメリカの感染者数は世界で最多となり、依然として増加、一部の州や都市で医療崩壊の危機寸前と言われている。医療崩壊が起これば、更に感染者や死者が爆発的に増加すると考えられる。我が国においては、感染者が発見されたのが1月中旬であり、世界に比較すれば早い時期であったが、その後の感染者数の増加率を世界と比較しても、それほど多くない。しかし、安心できる状況でもない。
この“武漢ウイルス”は医学的分野のみならず、殆ど全ての分野に多大なる影響を及ぼしつつある。特に経済分野においては、リーマン・ショック以上の莫大な影響を及ぼすことが予測されている。アメリカは約2兆ドルの支援策を決定しており、各国で懸命の経済対策が検討中である。また、このウイルスは安全保障分野にも大きな影響を与えている。各国の軍隊の中にも感染者が出始め、多くの国で通常の訓練や教育が困難になってきている。我が国周辺で毎年定期的に行われていていた米韓合同軍事訓練が中止された。我が国でも、アメリカ等との共同・協同訓練が中止され、各国との防衛相会議等も出来ない状態である。当然、自衛官の将官級の各国との交流や会議等も中止や時期未定の延期となっている。

この様に世界が“武漢ウイルス”に目を奪われている最中、我が国ではあまり注目されていなかったが、中国がビックリする様な行動をしている。中国海軍の軍艦「呼和浩特」(052D型ミサイル駆逐艦;2019就役)を含む数隻(4隻は確認)がハワイ沖(300km程度西まで)まで進出する訓練を行ったのである。これまで中国海軍は、米海軍が定例で行っているリムパック演習に2014年、2016年と参加した経験を有しているものの、中国海軍単独のハワイ周辺までの訓練は初めてである。今回の訓練には前述のミサイル駆逐艦のみならず、「査乾湖」(新型補給艦;空母への給油能力あり)も参加していた。これは、近い将来、中国の空母「遼寧」若しくは「山東」が太平洋に進出してくる前触れとも取れる行動である。そしてこの艦隊が中国への帰路途中の2月17日、グアム島周辺を通過した後、公海上を飛行中の米海軍P-8A対潜哨戒機(中国艦隊の警戒監視に当たっていたと考えられる)にレーザー照射をしたのである。アメリカ軍は約10日間かけて機材確認分析及び搭乗者からの聞き取り等の調査を行い、その結果をもって2月末、中国に対して正式に厳重抗議を行った。

このレーザー照射に関しては、米中間及び多国の海軍も含めた「取極め」を行っている。「乗員の特に目に対して、又は機材等に対して深刻なダメージを与える」可能性がある危険な行為だからである。以前、中国軍はジブチで米軍機に対しレーザーを照射し、パイロットに障害を与えたことがある。このような事からアメリカ海軍は、精緻な機器の分析を行って、証拠を中国海軍へ突き付けたのである。

この抗議に対して中国側は特に反応を示していなかったが、3月10日に南シナ海のベトナム沖の西沙諸島周辺をアメリカ海軍の軍艦が航行したことに対し、アメリカ及び同海軍に対し厳重な警告をしたことを公表した。中国の主張は、「中国固有の領土である西沙諸島周辺海域に不法に侵入したアメリカ海軍の軍艦」に対する抗議との事である。そして、国内向けには、「アメリカ海軍軍艦の西沙諸島周辺の不法行為に対し、中国軍は艦艇・航空機をもって取り締まり、中国の主権海域から追い出した」と説明した。この、アメリカへの厳重抗議は、当然のことながらレーザー照射に対するアメリカの中国に対する厳重抗議への仕返しであろう。大変分かり易い行動である。また、同時に国民の眼を“武漢ウイルス”から逸らす意味合いもあろう。

中国は平時においては三戦、即ち「世論戦、心理戦、法律戦」で勝ち抜くと宣言している。中国軍はこの戦術を至る所で駆使している。今回の“武漢ウイルス”でも、2月下旬から「このウイルスは誰が原因か?」という疑問をネット上に流し始めた。3月4日には中国政府が「ウイルスの発生源と伝搬経路を特定せよ」との命令を発出している。当初、ネット上に「このウイルスは武漢を訪れていたアメリカ軍が撒き散らしたもの」との記事が上げられ、その後に政府として追認した感はある。確かに、昨年10月18日から27日に武漢で「世界軍人運動会」が開催され、数百名のアメリカ軍人も参加していた事は事実である。この競技会には世界の109ヶ国から9,000人を超える軍人が参加していたが、“武漢ウイルス”が中国で初めて確認されたのは11月中~下旬で時期がズレている。かつ、運動会に参加した各国の軍人からは感染者が出ていない。また、アメリカ国内の感染者数が10万人を超えている事を考えれば、アメリカ軍人が自業自得的な行動をする筈がない。残念ながら今回の世論戦には、世界のどの国も乗ってこなかったし、中国国民でさえ全く信じていない様にみえる。もし仮に中国のこの作戦が成功すれば、次なる彼らの行動は、「原因はアメリカであり、損害賠償を求める」であろう。これが「法律戦」である。自国に都合のいい部分を切り取り、「法律」を盾に相手に迫る。中国にとって都合の悪い事は「無視」すればいい。2012年にフィリピンのスカボロー環礁を中国の海警等所属の公船が一挙に占拠した事件が起こり、フィリピンが中国政府を相手取って国際司法裁判所に訴えた。最終的に国際司法裁判所が2016年7月、「中国がフィリピン漁民の伝統的な漁業権を侵害している」との判決を出したが、中国はこの判決を完全に無視している。

注目すべきがもう一点ある。中国は3月24日に「長征2Cロケット」を打ち上げた。そして、このロケットに搭載した3個の軍事偵察衛星「遥感30」を宇宙軌道へ投入することに成功したのである。中国は2017年以降、偵察衛星を宇宙軌道へ送り込んでおり、これまでに18機の軍事偵察衛星が軌道上に存在し、「深セン(センは土偏に川)-5偵察衛星群」を構成しているが、ここに今回の3機が合流することになる。この偵察衛星群は様々な機能を保有している。今回の3機は電波環境検出その関連技術が詰め込まれたものとの報道がなされている。この偵察衛星群は多様な領域を監視することが可能であり、中国国内はもとより我々の行動の全てが中国軍の手の中にあると言っても過言ではなくなりつつある。

この様に、中国はどんな状況下でも、弛まぬ努力を行っている事を我々は忘れてはいけない。我々も、“武漢ウイルス”対策にも真剣に取り組みながら、決して相手に隙を見せてはいけない。(令和2.4.6)

岩崎茂(いわさき・しげる)
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。

写真:新華社/アフロ
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