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ドル円の「回復」シナリオ【フィスコ・コラム】

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コロナ禍の不確定要因に囲まれ、ドル・円は方向感を探る展開が続いています。7月以降のドル安トレンドは一服し、対円では緩やかに値を戻しつつあります。米大統領選に向け、どのようなシナリオが考えられるでしょうか。


7月はアメリカのISM(サプライマネジメント協会)製造業景況指数など、堅調な経済指標を受けリスクオンのドル安が強まりました。月末に発表された国内総生産(GDP)の空前の落ち込みで、先行き不透明感に伴うドル売りにリスク回避の円買いが加わり、ドル・円は1カ月間で108円前半から4円も下落しています。ただ、8月に入って106円付近での底堅い値動きをみると、100円に向かうドル安・円高シナリオにも疑問がわいてきます。


確かに実質実効為替レートは比較的大きく下げ、ドルが他の主要通貨に対して弱含んだことを示しています。その背景には、昨年から進んでいたアメリカの実質金利の低下が欧州連合(EU)復興基金の創設をきっかけに注目され、ユーロ買い・ドル売りが強まったとの要因が考えられます。ドルの実質実効為替レートは足元で下げ渋るものの、市場関係者の多くは年末に向けドル安トレンドがなお続くとみています。


目先のイベントのなかで、焦点は9月15-16日の連邦公開市場委員会(FOMC)での政策決定です。連邦準備理事会(FRB)は実質ゼロ金利を延長するなど、フォワードガイダンスの変更に踏み切る可能性があります。その際には米長期金利の低下を招き、ドル売りの要因となるでしょう。それに先立つ8月27-28日のジャクソンホールでの会合は、一段のハト派政策に向けた地ならしの場となりそうです。


金融政策面でドル安を避けるのは困難ですが、ユーロなどの主要通貨は対ドルだけでなく、対円でも同様に上昇が見込まれ、クロス円がドル・円をサポートする場面が目立っています。また、ドル安を背景に資源価格も大幅下落は想定できず、やはり対円で堅調になりそうです。ドル・円は105円を割り込むと国内勢の買いが膨らむため、その点でもやはりドル売り圧力は弱まるでしょう。


政治面からアプローチすると、むしろドル安は巻き戻されるかもしれません。11月の米大統領選に向け、支持率で民主党候補のバイデン前副大統領の後塵を拝したトランプ大統領は中国のみならず隣国のカナダまで通商上の敵国に仕立て上げ、保守層の支持を獲得する狙いです。貿易摩擦はドル売り要因ですが、同時に地政学リスクを意識した根強い「有事のドル買い」が相殺する可能性もあります。


そして、最大の不確定要因である新型コロナウイルスのワクチン開発はトランプ氏の切り札になりえます。7-9月期GDPの急回復とワクチン実用化なら、NYダウの危機前水準の回復は必至。FRBも金融政策について超ハト派スタンスを改めざるをえません。トランプ氏のあのテンションの高さをみると、ドルがこのままズルズルと泥船のように沈んでいくようには到底みえません。

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。
(吉池 威)


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