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ベラルーシルーブルの行方【フィスコ・コラム】

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ヨーロッパ最後の独裁国家といわれるベラルーシで、6期目に入る現職大統領への抗議活動が激化しています。同国の併合を目指すロシアの影響力拡大が焦点で、先行きへの懸念から通貨ルーブルは急落。金融市場にも不安が広がり始めました。


8月9日の大統領選でルカシェンコ氏が 6 選を決めると、反政府ブロガーで身柄拘束中の夫に代わって出馬したチハノフスカヤ氏の陣営などから不正選挙との批判が高まり、市民と警官隊が衝突。長年にわたる独裁体制や暴力による恐怖政治に対する市民の怒りが爆発し、過去最大となる数十万人規模の抗議活動に発展しています。国営企業の社員や治安部隊も参加し、国内の主要工場では労働者がストライキを決行中です。


こうした混乱のなか、ベラルーシ通貨ルーブルはドルやユーロ、そしてロシアルーブルに対して急激に値を下げています。外貨準備高不足への警戒感が背景にあります。波及効果で安全通貨のスイスフランにも買いが入り、ドルやユーロに対し上昇。ベラルーシルーブルの今後の値動きは同国の政治情勢と対ロシア、対欧米の関係次第とみられますが、どのようなシナリオが考えられるでしょうか。


ベラルーシはもともと旧ソ連邦の一角で、独立後も東ヨーロッパに位置しながらロシアからの圧力で併合の危機にさらされてきました。ソ連型の社会主義政策を導入して経済が上向いた時期もありましたが、2010年以降は低迷。それでも経済を掌握するロシアからの介入を抑え主権を維持してこられたのは、1995年に大統領に就任したルカシェンコ氏が巧みな政治的駆け引きで主要な関係各国と渡り合ってきたためです。


ただ、ルカシェンコ氏への抗議活動の広がりをみる限り、同氏の退陣は避けられそうにありません。そのうえで、選挙後に治安部隊から圧力を受けリトアニアに逃れたチハノフスカヤ氏中心の政権が発足する可能性があり、新政権とロシアあるいは欧米との関係が注目されます。ベラルーシはロシアからの圧力を受けながらも強い反ロシア勢力は存在していないことから、やはり親ロシア路線が現実的でしょう。


とはいえ、ベラルーシでのプーチン政権に対する警戒は根強いようです。一方、プーチン政権もこの問題への対応には慎重になっています。舵取りを間違えれば、ロシア内での自身への抗議活動に結び付く可能性があるためです。ロシアは2014年のウクライナへの介入で欧米と敵対し経済制裁に甘んじた経緯から、ベラルーシの新政権に対して強硬路線を控え、静観するとみられます。


親ロシアの新政権発足なら、ベラルーシルーブルの暴落は回避されるでしょう。最悪のシナリオは、ルカシェンコ氏が退陣してもその腹心による暫定政権が発足し、それをプーチン政権が後押しするケースです。コロナ禍がまん延するなか政治も経済も身動きがとれない状況が想定され、通貨安に歯止めがかからなくなる可能性もあります。いずれにしても、ベラルーシルーブルの回復には相当な時間を要するとみられます。

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。


(吉池 威)
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