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日米政局下のドル円【フィスコ・コラム】

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日本とアメリカの政局が為替相場の大きな変動要因となりつつあります。日本での長期政権の終えん、アメリカにおける政権交代の可能性は、秋口に向けドル・円の下落圧力になりそうです。アベノミクスの残像だけで、円高を抑えられるでしょうか。


8月28日午後の東京市場。その日の夕方に予定されていた安倍晋三首相の記者会見を前に、緊張感がまったくなかったわけではありません。が、それに先立ち菅義偉官房長官が定例記者会見で安倍氏は来年9月までの自民党総裁としての任期をまっとうすると述べていたことや、安倍氏が在任期間の歴代最長記録を更新したばかりで辞任などしない、との見方が支配していたのは確かです。


そのため辞任報道はネガティブ・サプライズとなり、日本株は急反落、円は全面高となり、ドル・円は107円手前から105円前半に大きく下落。「アベノミクス」の後退、長期政権の退陣による政治の不安定化への懸念から、円買いは海外市場でも続きました。米連邦準備理事会(FRB)のハト派的な金融政策にもかかわらずドル買いに振れた修正の動きもあって、ドルは下げが加速しました。


安倍政権を支えてきた菅氏の総裁選への出馬により党内力学から同氏が後継者として最有力視され、「アベノミクス」継承への思惑で円買いはいったん遠のきました。9月14日の総裁選やその後の国会での首班指名を経て「菅政権」が発足すれば、日本発の株安・円高要因はとりあえず取り除かれます。その直後に解散・総選挙が行われても、野党の敵失で与党は善戦するでしょう。


日本の政局は、奇しくも米大統領選のタイミングに重なっています。しかし、こちらの方は共和党のトランプ大統領と民主党のバイデン前副大統領のどちらが勝利するのか、まったく読み切れません。やや優勢とみられていたバイデン氏はトランプ氏との差がここへきて縮小しており、投資家を悩ませています。前回2016年よりも接戦が予想されており、取引は慎重にならざるを得ません。


両候補の政策を比べると、トランプ政権の2期目は減税と雇用創出を柱に、製造業の超大国を目指します。現在の政策をさらに強化するのなら、貿易赤字の是正を進める以上、少なくともドル高政策は避けたいでしょう。それに対し、バイデン氏は財政再建に向け法人税を中心に増税を予定しています。特に注目されるのは、株式などの売却益にかかるキャピタルゲイン課税の引き上げで、株価への影響が警戒されます。


最近のドルは株買い・債券売りだと上昇基調に振れますが、「バイデン政権」ならその逆になります。米中貿易戦争は収束が見込まれるため、その点での円買い圧力は緩和されるかもしれません。いずれにしてもドル安は必至とみられます。「菅政権」は発足後いきなり直面しそうなドル安・円高に、どう対峙するのでしょうか。「アベノミクス」といっても、金融政策への期待は当初に比べ薄れています。


※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。


(吉池 威)
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