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欧州も中国と対決へ(2)【中国問題グローバル研究所】

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【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信しているフレイザー・ハウイー氏の考察「欧州も中国と対決へ【中国問題グローバル研究所】(1)」の続きである。

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◆一緒にされたくない
欧州が対中行動に消極的なのは、多くの欧州人、特に政治エリートがドナルド・トランプ氏を嫌っているからだ。中国に関して欧州と米国は共通の不満を抱えているが、「アメリカ・ファースト」の政策は、欧州にもトランプ大統領の怒りの矛先が向いていることを意味する。このコラムでは、共通の考えを持つ国のグループによる協調した対中政策の展開にトランプ氏がいかに失敗したかを嘆いてきたが、トランプ氏はまず欧州に声を掛けるべきだった。現実には、協調的な政策対応という面で何年もが無駄になった。

中国に対抗しようとすれば、トランプ大統領やポンペオ国務長官の側についたとみなされがちで、これはほとんどの欧州指導者が望んでいなかった。彼らは国家レベルの懸念は理解していたものの、トランプ氏のアプローチのレトリックと態度が不愉快だったのだ。欧州の指導者は、訪欧したポンペオ国務長官から自国ネットワークでのファーウェイ使用を禁止しないなら米国の情報・軍事の協力から外されると言われた際に、脅しに応じて動いたと思われたくはなかった。たとえファーウェイを巡る安全保障上の懸念に加え、競合関係にある欧州のエリクソンやノキアの中国市場へのアクセスが非常に制限されていることは認めるにしてもである。

米国とEU(英国を含む)の対中政策が近づきつつある中で、両者にはなお大きく相違する部分がある。米中の第1段階の貿易合意で欧州は動揺した。合意は開かれた自由貿易の考え方に逆行し、米国が中国の膨大な需要を囲い込むことにより、欧州の企業や産業にとって不利になると受け止めたからだ。これと同様に重要なことがある。米中間のいかなる貿易合意とも矛盾しているように見えるものだが、それは両国経済を切り離すデカップリングの問題である。

欧州側ではEUと中国のデカップリングについて誰も話題にしていない。トランプ氏は9、(貿易合意があるにもかかわらず)米国と中国の経済のデカップリングについて言及した。欧州は貿易と投資を追求し、しかもより多くのものを求めているが、それは今よりもはるかに対等な条件の下である必要がある。

◆新たな関係
王毅外相の訪欧は、ここ数か月にわたる欧州での中国への反発を受けて、親善関係を回復するとともに、中国共産党の習近平総書記とEU議長国であるドイツのアンゲラ・メルケル首相とのオンライン形式の会議を前に、その土台づくりをするのが狙いだった。メルケル首相の6か月間の輪番制EU議長国職は間もなく任期が終わる。習氏はまた、欧州理事会のシャルル・ミシェル議長や欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長とも会談する。習氏は王毅氏のように反感を引き起こすことはまずないだろうが、期待は極めて低く抑えておくべだ。今回のバーチャルサミットで最高のニュースは二酸化炭素排出量の最小化がせいぜいだろう。

貿易と投資環境の改善を重視したい人たちもいるが、長期にわたって未決着の包括的投資協定(CAI)については、中国側になすべき大きな課題がある。中国は経済の在り方を根本的に変える必要があるが、それが実現すると考えている人はまずいないだろう。 習氏の厳格な支配の下で、国家と党は経済のあらゆる分野にその力を押し付けてきた。これに関して習氏の立場を変えるものは何もない。彼は相互利益や共有された未来などについて立派な発言をするかもしれないが、実態は何も変わらないだろう。

習氏は香港での行動について異議を唱えられる可能性が高い。ドイツは、英国や米国などと同様に、新たな国家安全維持法の施行に伴い、香港との間の犯罪人引き渡し条約を撤回した。ただこの分野での進展はもっと見込みが薄いだろう。習氏は、香港問題は純粋に内政問題であり、中華人民共和国の絶対的な核心的利益だと考えている。国家安全維持法が撤回されることはなく、習氏は法律を巡る曖昧な表現を明確にしようともしないだろう。過去4か月にわたる中国当局の香港に対するあらゆるアプローチには、香港の地元住民や国際社会のいかなる懸念も無視する意思が表れている。

習氏は(国際社会が望んだものを)何も提供できないが、彼は、世界は変化しており、その変化は中国にとって好ましい方向でないことを知っておかなければならない。欧州は、中国による国際規範を踏みにじる行為についてようやく口にし始めたが、言葉の変化は始まりにすぎない。昨年末に就任したばかりのジョセフ・ボレルEU外務・安全保障上級代表は、このコラムの読者になじみのあるアイデアをいくつか提案している。世界で独裁的な政権が増えている中、米国とEUの対話の必要性と、同じ志を持つ民主主義国と協力する必要性である。ボレル氏はロシア、トルコ、中国に明示的に言及した。

問題は、EUがそのようなグループをつくり、大統領であるトランプ氏とともに意味のある政策を策定できるかどうかだ。 それとも、中国に対するEUと米国の姿勢の歩み寄りは、欧州指導者の個人的な好みにより近いバイデン氏の大統領就任にかかっているのだろうか。 今の段階では誰にも分からない。 欧州が直面している問題は、中国との対決の必要性はあと4年も待っていられないことだ。欧州は早急に行動を起こす必要があり、米国と行動を共にすべきである。新型コロナウイルスの世界的大流行は、今後何年にもわたって経済的、政治的ショックをもたらすだろう。志を同じくする民主主義諸国の協力が不可欠である。中国はもはや欧州で自由に振る舞えず歓迎もされないだろう。時代は変わったのだ。しかし、特定の取引や個別の発言を制限したり、国際社会での悪弊を非難したりすることは、世界最大の貿易ブロックにふさわしい対中政策ではない。欧州は中国に関してこれまでとは異なるスタイルで関わったり対抗したりできるはずだが、現状はそうした動きとほど遠い。欧州はボレル氏の提案を実行に移し、米国との間で分断ではなく一層の団結を実現しなければならない。特に中国の台頭に対応するためにはそれが必要である。

写真:代表撮影/ロイター/アフロ

※1:https://grici.or.jp/
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