AppleやAmazonも。今なお世界の経済に影響を与える「トヨタ生産方式」

150707_toyota
 

世界の小売・流通ビジネスを根本的に変えたAmazon。それを支えたのは、トヨタの教えだった? シアトル在住の世界的プログラマー・中島聡さんは、今なお世界の経営者に大きな影響を与えるトヨタ式「カンバン」「カイゼン」について、自身のメルマガで語っています。

トヨタの強さ

日本にいたころの私にとっては、トヨタという企業のイメージは、自動車会社の一つでしかありませんでした。最初に買った車は三菱車でしたが、結婚してから買った中古のクラウンのバン(わずか1年落ちなのにも関わらず、新車の半額で入手)が気に入り、それ以来のトヨタファンです(我が家にはプリウスとレクサスがあります)。

しかし、米国の大学でMBAの授業を受けて、トヨタという企業のイメージが大きく変わりました

MBAの授業は、大きく分けると、ファイナンス、企業戦略、オペレーション、マーケティング、組織の5つの分野の勉強から構成されていますが、その中で学問として確立しているのが、ファイナンスオペレーションで、他の三つはケーススタディなどを素材にしたディスカッションにとどまるソフトな授業です。

ファイナンスという学問は、戯曲「ベニスの商人の時代」の舞台でもある15~16世紀のイタリアで発展した複式簿記をベースにした歴史がある学問です。

一方のオペレーションは、20世紀の後半に日本の高度成長経済と同時期に起こった「生産・流通効率革命」をベースにした学問で、その研究対象のど真ん中にあるのがトヨタなのです。米国でMBAを取得した人が、在学中に学ぶ日本語は「カンバン」と「カイゼン」と言われることがあるぐらい、MBAのオペレーションの授業はトヨタを意識してられているのです。

そのベースには、極東の小さな敗戦国に過ぎなかった日本の自動車産業が、圧倒的な品質と生産効率で米国の自動車産業を脅かすまでに育ったことに対する米国の危機感があります。なぜトヨタがあれほどの品質と生産効率をあの価格で提供できるのか、それを米国の経済学者や研究者が徹底的に研究した結果が、MBAコースのオペレーションの授業なのです。

倒産寸前の状態にあったAppleを、Steve Jobsの下でCOOとして立て直したTim Cookの一番の強みは、ビジネス・オペレーションにありますが、彼ももちろん、トヨタのそんな米国のMBAコースで勉強した人です。

先日、Amazonでオペレーションの責任者をしている人とゴルフをする機会があったのですが、Amazonがプライムメンバー向けに無料配送を可能にしている配送システムは、トヨタから学んで作ったものだそうです。

2005年に、世界規模の配送システムを作ることを決めたJeff Bezosは、重役たちを引き連れて、トヨタの工場を見学に行ったそうです。MBAの授業で学べる以上のものを、トヨタから学べると期待してのことだそうです。そのツアーの結果、Jeff Bezosはますますトヨタが好きになり、トヨタのOBたちを雇ってAmazonの配送システムの設計に根本から加わることを依頼したそうです。

彼によると、そのOBたちの関与は大きな変化をAmazonにもたらし、彼らの助けがなければ、今のAmazonは存在しえないぐらいの価値をもたらしたそうです。

今やAmazonは世界の小売・流通ビジネスを根本的に変えるまでの巨大な企業に成長していますが、その根底にあるのが、極東のベンチャー企業であったトヨタが見出した「カンバン方式」や「カイゼン」だというのは、とても興味ふかい話です。

image by: Shutterstock

『週刊 Life is beautiful』
著者/中島聡(ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア)
マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。
≪無料サンプルはこちら≫

 

『トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして』
 これが原典。

print
いま読まれてます

  • AppleやAmazonも。今なお世界の経済に影響を与える「トヨタ生産方式」
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け