MAG2 NEWS MENU

学校の「ブラック部活」が深刻化。形だけの週休2日では解決しない

生徒のけがの防止、顧問の負担減などを目的とした、「中高生の部活の週休2日」の流れが各都道府県に広がっています。この動きに、「時間を減らすだけでなく具体的な対応策を考えることが必要」とするのは、米国在住でスポーツに造詣の深い作家の冷泉彰彦さん。冷泉さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』の中で、日米の部活における大きな違いを例にあげつつ、日本の部活のあり方や今後について論じています。

部活の週休2日、対応策を考えよ

サッカーのワールドカップ、日本のA代表は現地2日に行われたベスト8をかけたベルギー戦で惜敗しました。ピッチの上には勝利も敗北も潜んでいる、そんなサッカーの恐ろしさを象徴した試合でした。

最後のロスタイム、日本は勝ちに行くべきではなく、延長に持って行くことを考えた方が良かったのかもしれませんが、それはもう仕方のないことです。いずれにしても、大健闘ということは言えるわけで、更に多くの若い選手を育てて戦って行くしかありません

そのサッカーもそうですが、野球にしても陸上にしても、日本のトップレベルのスポーツが成果をあげている背景には、巨大な裾野があり、その裾野の広さとレベルが頂点の質を決定しているという面は極めて重要です。

その意味で、今回、中高の部活において出てきた「週休2日」の動きについては、単に「ブラック部活」への批判をかわすために「時間を減らせばいい」という発想だけでなく、具体的な対応策を考えることが必要です。

今回の変化は、顧問教諭の長時間労働問題を契機として、「365日部活動という現状への反省がされたことにあります。ですが、仮に高校のトップレベルであれば、サッカーにしても陸上にしても、「選手も完全週休2日」でいいというわけにはいきません。

まずその代替としての民間人材の活用が必要ですし、またスポーツ活動を全て校内活動とするのではなく、一部を地域の校外活動へ委ねるべきという議論も必要です。

アメリカの場合は、例えば野球の場合ですと、高校野球のシーズンは全国的に春だけ、つまり3月から5月の3か月間しかありません。また州大会はあっても、そこで終わりとなっていて、高校の全国大会はありません。では、野球人気が下降したり、世界的に見てアメリカからトップレベルの野球選手が出なくなっているかというと、そうではありません。

では、トップレベルの高校生たちは何をやっているのかというと、3つあります。1つは校外のコミュニティでやっている野球で、例えば警察とそのOBが主催していたり、リトルリーグの全国組織に付随したシニアリーグなどです。多くの野球を「ちゃんと」やりたい中高生は、こうした校外のチームに属して通年でプレーするわけです。

2つ目は個人指導者です。アメリカの球技の場合は、部活はほとんど試合形式であり、実戦を楽しみながら力をつけるという方法を取ります。校外のコミュニティのチームも同じです。1年生だから球拾いとか、練習時間に千本ノックというのはなくて、ひたすら試合をしています。

そうは言っても、投球フォームだとかバッティングの技術などは、そこだけ「取り出して」専門の指導者に学ぶということは必要です。そうしたコーチングを商売にしている人が、各地域にいて補足的な指導をしています。

3つ目は、他のスポーツです。野球が春なら、秋はフットボールかクロスカントリー、冬はバスケというように、各シーズンに違うスポーツの部活に属してプレーするのです。それが全体的な体力の向上や筋力の向上になるということから、野球の指導者もそれを否定はしません。アメリカでは、多くの一流選手が「野球とフットボールの双方からドラフト指名」されるのはこのためです。

この3点は、そのまま日本に応用できるとは思いませんが、とにかく「学校の部活一色」という選手たちの過ごし方を、多様なものに属し複数の指導者にコーチングしてもらう機会を与えるよう変えていかねばなりません。

もう1つ重要な考え方は「文武両道」です。日本の現状では、いわゆる受験校の場合に、部活は「高校2年の秋」に引退するということになっています。そこまで極端でなくても多くの学校では「3年の6月」で引退し、その後は「受験勉強に専念する」というのが常識であるようです。中学校の場合も、高校受験を意識して「中学3年の6月に引退」が主流であり、例えば「県大会に出て7月まで続けると受験に不利」などいう声も聞かれます。

要するに24時間365日の部活というような硬直したことをやっているので、受験の際は引退などという妙なことになるわけです。アメリカの場合は、高校は全入なので受験はないのですが、大学受験の場合はどうかというと、受験だから引退などというのは「問題外」であり、受験だからこそ「出願時点で必死で部活をやっているアピールが必要」とされます。アメリカ流の大学入試における判定制度では、スポーツの活動実績が「現在形で重視されているわけです。

この「スポーツ重視」については、大学の体育会がスカウティングの対象とするようなエリート選手だけでなく、全ての受験生が対象です。名門と言われている大学になればなるほど、スポーツ活動をちゃんとやっているか、その質と量が厳格に問われます。多くの場合、どんなに成績優秀でもスポーツ活動への参加履歴が消極的では不利になる仕組みがあります。

その背景には「健康な精神は健康な肉体に宿る」という生き方の問題、つまりスポーツをちゃんとやって、激しい練習を行いつつ、多量の宿題を期日までに終わらせ、しっかりした学力をつけるためには、睡眠や食事も含めた自己管理能力が問われるということがあります。

これに加えて「同時進行している多くの課題に取り組み、複数の組織に属し、全てについて期日までに成果を出す」というスキル、つまり「マルチ・タスク管理能力」とでもいうものを、大学が重視しているということがあります。

更に、スポーツ活動というのは集団活動であり、モチベーションを持って参加し、活動の中で指示に従い、ルールに従い、その中で集団としての成果に貢献することが重視されるわけです。また、リーダーシップを取って行く機会もあり、その際には年齢や学年の順位から自動的に権力が来ると言った「なんちゃってリーダーシップ」ではなく、真に尊敬され、下級生のモチベーションを引き出しつつ、スキル向上の援助をすると言った真のリーダーシップの訓練が必要です。そして、そのような訓練の成果は一生の宝になります。

この文武両道という考え方に立つのであれば、部活週休2日になった分、生徒を遊ばせておくのではなく、徹底的に勉強させるということも重要でしょう。1つだけ言うのであれば数学です。数学力は国力だからです。

image by: Shutterstock.com

冷泉彰彦この著者の記事一覧

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 冷泉彰彦のプリンストン通信 』

【著者】 冷泉彰彦 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 第1~第4火曜日発行予定

 
print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け