日本の「海水浴離れ」が深刻化。それでも湘南・三浦が賑わう理由

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いま、日本全国で海水浴客が激減しています。その数は、ピークだった33年前の2割にも満たないとのデータもあり、猛暑の続く日本の夏から「海水浴」という娯楽が消える日も遠くないのかもしれません。そんな状況にあって、徐々に客足を取り戻しつつあるのが神奈川の湘南・三浦半島の海水浴場です。新しい「海の家」、騒音問題の解決など、そこには並々ならぬ努力と苦悩、そして巧みな戦略がありました。フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんが、現地に直接足を運び、海人気「復活」の理由とその奮闘ぶりを詳しく分析しています。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

日本の「海水浴離れ」が進む中、賑わいを取り戻した湘南・三浦半島の奮闘

海水浴客は全国的に減少している。ピークだった1985年に3790万人だったのが、なんと2016年には730万人へと2割以下に激減している(日本生産性本部「レジャー白書」より)。しかも昨年は、日焼けしないナイトプールが話題をさらったうえに、8月が雨天続きで、集客を減らしてしまった。各海水浴場はかき入れ時のお盆から8月下旬の天候に気をもんでいる。

夏のレジャーで海離れが進んでいる中、神奈川県の湘南から三浦半島の海水浴場は、家族で楽しめるファミリービーチとしての魅力アップをはかり、「去年の2割近く客数が増えている」(三浦海岸海水浴場組合)、「クラブ化問題の解決が進み基本的に昨年並み。昨年も梅雨明けが早く7月は良かった」(鎌倉市観光課、逗子市経済観光課)と前半戦は順調に集客している。特に三浦海岸は東京に近い立地を活かして、関東で最長の9月30日まで海開きを行い、攻めの姿勢で大幅な集客増を狙う。

関西最大の海水浴場、須磨海水浴場(神戸市須磨区)が昨年の6割程度の客数にとどまるなど、外出を控えるほどの猛暑の影響もあり、全国的には苦戦している海水浴場が多い。そうした中で、神奈川勢は全般に健闘が目立っている。また、猛暑対策として、テラスで食材を焼いて、クーラーの効いた室内で食べる“涼しいBBQ”を提案するレストランも現れている(後述)。海水浴場を借景とした、熱中症の不安のない新しいBBQのスタイルとして注目されているようだ。

海に賑わいを取り戻す、神奈川県の主要海水浴場の奮闘を追った。

ピーク時の10分の1まで激減した三浦海岸海水浴場

三浦半島の南端部に位置する三浦市の三浦海岸海水浴場は、神奈川県とはいえ東京から遠いイメージがあるが、京浜急行線で品川駅から快特に乗って1時間10分程度と、手軽に行ける行楽地である。横浜駅からだと45分ほどである。

神奈川県の海水浴場では、片瀬西浜・鵠沼(藤沢市)、由比ガ浜(鎌倉市)、片瀬東浜(藤沢市)に次ぎ4番目に客数が多く、昨年は41万人を集めたが、一昨年の43万人よりも2万人減ってしまった。

過去に遡れば、1971年には過去最高の客数399万人を集めており、ピーク時のほぼ10分の1にまで減ってしまった。

三浦海岸海水浴場

三浦海岸海水浴場

その背景にはレジャーの多様化、過度の日焼けを嫌う傾向、海水のべたつき感が好まれない、東日本大震災の原発事故による海洋汚染の懸念などの理由がある。全国の衰退している海水浴場に共通する課題として、海の家の飲食店化、ブラッシュアップに後れを取ったことも挙げられるだろう。

事実、藤沢市の片瀬西浜・鵠沼海水浴場では、旧来型の海の家を改革して、夏限定のビーチカフェのような大人が楽しめる海の家を積極的に出店した結果、東京から多くの観光客が訪れ、客数が2000年の104万人から07年には360万人にまで3倍の増加を見せている。

しかしその後、後述するクラブ化の問題により、音楽を規制するなどの対策を行ったため、15年には112万人へと、07年の3分の1以下に再度激減してしまった。このように海の家のレストラン化には賛否両論あり、光と影の両面があるが、同様のチャレンジを、藤沢市、鎌倉市、逗子市、葉山町、茅ヶ崎市といった相模湾沿岸東部の各海水浴場は続けてきて、若者にとって行きたいビーチというブランドイメージを確立しているのも事実である。

海の家という概念を覆した「夏小屋」、スポーツで差別化も

停滞した三浦海岸の状況を変えようという鏑矢は、2013年に放たれた。この年初出店した「夏小屋」はIT系企業関係者をバックに持ち、東京資本で、片瀬西浜、由比ガ浜、逗子にあるようなおしゃれ感ある海の家を、三浦海岸に持ち込んだ第1号店だ。三浦海岸の海の家の経営者は全般に高齢化しているが、こちらはスタッフたちの年齢も若い。

三浦海岸夏小屋

昔ながらの海の家は、浮き輪やラーメン、かき氷などを売っていて、大人数を一括して収容する脱衣場兼休憩所という感じだ。しかし、海の中よりも海辺で遊びたい今の海水浴客は、水着にならなくてもリゾート気分に浸れる、リラックスできる空間を求めていて、海の家も外国にいるようなトリップ感や、プライベート感ある雰囲気づくりが必要である。

海水浴客は水着を来て波打ち際でも遊ぶが、泳いだり潜ったりはあまりしない。日焼けする日光浴より、ビーチパラソルの下や海の家でのんびりと過ごすのを好む。

「夏小屋」はミュージシャンを呼んでのライブ開催、ブラジル・リオデジャネイロ発祥のビーチでプレイする卓球とバドミントンの中間のようなスポーツ「フレスコボール」を発信するなど、多彩なイベント企画により三浦海岸の活性化に取り組んでいる。フレスコボールは三浦海岸ではよく見るスポーツで上手い人も多いが、他所の海岸ではまだあまり見ない。その意味で差別化に成功しており、売りになっている。

三浦海岸フレスコボールで遊ぶ人々

三浦海岸で「フレスコボール」に興じる人々

2014年から三浦海岸海水浴場は京急と組んで、「みうら海水浴きっぷ」というお得な切符を売り出している。効果も出ていて、昨年は1万7,000人以上が利用した。この切符を使うと、品川駅から三浦海岸駅までが大人1人で往復1,800円。それにプラスして、海の家6施設から1つ選んで利用でき、コカ・コーラ300mlのペットボトルの引換券も付いてくる。

通常なら運賃と海の家利用代を合わせて3,220円になるので、通常の6割以下の出費で海水浴が楽しめる。

今年は昨年より18%増ほどのペースで売れており、首都圏の他の海水浴場でやってない鉄道会社とタイアップした集客作戦が実を結びつつある。駅から浜まで歩いて7、8分程度で、案外と近い。海水浴場組合では「サッカー、テニス、バレーボールなどビーチスポーツの楽しさを体験してもらいたい」と、先ほどのフレスコボールを含めて、スポーツ関連のイベント、教室を積極的に誘致し、リピートにつなげたい意向だ。

三浦海岸ビーチスポーツ体験コーナー

三浦海岸のビーチスポーツ体験コーナー

三浦海岸は今年、6月29日から9月30日まで、3ヶ月間海を開く決断をした。組合によると昨年は9月10日まで開いて、手応えを得たうえでのさらなる延長とのことだ。

「夏場の天候が悪いと海の家がペイするのは難しい。そのリスクを考えて9月末まで延長した」と三浦海岸海水浴場運営委員会委員長で、地魚料理「魚敬」社長の大島敬三氏。

「同じ三浦市内でも、三浦海岸は三崎港と違ってマグロも獲れないから、活性化するには海水浴場が頑張らないと未来はない。客数が30万人を切ったら地域の死活問題だ」と、厳しく現状を見据えている。

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