元国税が論破する「公共事業を増やせば賃金が上がる」の大ウソ

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賛否両論を呼んだ前回掲載の「元国税が暴露『日本の財政赤字は社会保障費が原因』という大ウソ」。SNS上などでも活発な議論が展開されましたが、「公共事業を増やせば日本経済はよくなる」と主張する方も多いようです。これを真っ向から否定するのが、元国税調査官で作家の大村大次郎さん。大村さんは今回も自身のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』で、これまで行われてきたあまりに酷い公共事業の実態とその弊害を、データを明示しながら記しています。

※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2019年4月16日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール大村大次郎おおむらおおじろう
大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)がある。

“公共事業を増やしさえすれば日本経済はよくなる”という愚論

前回2019年4月1日号のメルマガで、筆者は、「今の日本の財政赤字の原因は、社会保障費の増加ではなく、90年代の狂乱的な公共事業のせいです」と述べました。

元国税が暴露「日本の財政赤字は社会保障費が原因」という大ウソ

しかし、昨今の日本では、「公共事業を増やしさえすれば日本経済はよくなる」という「公共事業信者」ともいうべき、愚かな人々がいて、その人たちが非常に反発をしたようなのです。

「公共事業信者」の方々は、「公共事業を行えば経済は活性化し、賃金も上がり、景気はよくなる」と固く信じています。しかし、不思議なことに、「公共事業信者」の方のほとんどは、日本の公共事業の実態をほとんど知らないのです。とにかく、「公共事業をしさえすればいい」と思っておられるのです。

確かに、経済が収縮したときには公共事業を行うことで、経済が活発化することもあります。また国に必要なインフラの整備をすることは国にとって非常に大事なことでもあります。だから、筆者としても、「公共事業はすべて悪」だと断罪するつもりはありませんし、公共事業は国にとって必ず必要なものだと思っております。

が、問題は公共事業そのものではなく、その」なのです。ネットでご活躍されている「公共事業信者」の方は、公共事業を増やせというばかりで、公共事業の質や量、具体的な方法論とその効果などを論じることはほとんどありません。つまり、日本の公共事業の実態を知らずに机上の空論として、ただただ「公共事業を増やせば景気がよくなる」と思っているのです。

公共事業の適正な「質」と「量」を検討したとき、90年代の日本の公共事業は、「巨額のお金をドブが埋まるほど捨てる」という愚行だったと言えるのです。

アメリカの要求で行なった630兆円の公共事業

90年代に行われた大規模な公共事業は、90年当時の日本の首相であった海部氏がアメリカに対する公約として、今後10年間で430兆円の公共事業を行うと明言したことから始まりました。当時、アメリカは日本との貿易赤字に苦しんでおり、日本の内需を拡大するために、公共事業を増額させアメリカ製品をたくさん買わせようともくろんだのです。

90年代初頭、日本は、歳出を歳入だけで賄える、いわゆる「プライマリー・バランスの均衡を達成していました。これは、先進国では珍しいことでした。現在の日本は、赤字国債無しではやっていけない財政状況が続いておりますが、90年代初頭はそれとはまったく違っていたのです。

その財政バランスの取れた日本政府に対し、アメリカは、もっと金を使えと要求したわけです。「他国に公共投資を強いる」というアメリカの姿勢にはもちろん問題があります。が、この公共投資に関しては、日本側の対応が最悪だったのです。

その後、村山内閣のときに、この公約は上方修正され630兆円にまで膨らみました。1年に63兆円を10年間、つまりは630兆円です。630兆円というのは明らかに異常な額です。当時の日本の年間GDPをはるかに超える額であり、当時の国家予算の10年分です。当時の社会保障費の50年分以上です。それを丸々公共事業につぎ込んだのです。

いくら当時の日本政府が財政を健全化していたといっても、こんな負担に耐えられるはずがありません。当然のように、あっという間に、巨額の財政赤字を抱える羽目になりました。現在の国の巨額の借金というのは、間違いなくこのときの630兆円の公共事業が原因なのです。

国は、現在の巨額の赤字国債について、「社会保障費の増大で生じた」などと弁明していますが、数理的に、どこからどうみても無理があります。当時の社会保障費はわずか11兆円ちょっとです。公共事業費は年間60兆円以上でした。だれがみても、どちらが借金の原因かは一目瞭然なのです。

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