【書評】結局のところ、誰が日本国憲法第9条を発案したのか?

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改憲論が喧しい昨今ですが、そもそも日本国憲法は、誰がどのように作り上げたものなのでしょうか。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、憲法の成立に関わった人々にインタビューした著者による一冊をレビューしています。

偏屈BOOK案内:西 修『証言でつづる日本国憲法の成立経緯』

81ajncmrtuL証言でつづる日本国憲法の成立経緯
西 修 著/海竜社

日本国憲法は、どのような人たちが、どのような場面で、何を考え、どんなふうにかかわって作成されたのか。著者は1984年から85年にかけて、GHQで日本国憲法の原案(マッカーサー草案)を起草した8人を含む関係者にインタビューした。その前後で、日本で憲法の成立にかかわった人たち、身近で見聞した人たちにもインタビューした。これに応じた殆どの人は、もう存命していない。

第1編6章、第2編3章、第3編1章、500ページ超の分厚い本。その中から「第9条の発案者をめぐって」の章をとりあげてみる。近年、従来のマッカーサー発案説を否定し、護憲勢力からしきりに幣原喜重郎発案説が流されるようになった。9条は幣原が発案したのだから「憲法押しつけ論」はあたらない、というのがこの“怪説”の目的だ。発信源は「世界」とTBS報道特集だから察しがつく。

当初はマッカーサー発案説が有力だったが、幣原とマッカーサーの両当事者の述言により幣原発案説が浮上してきた。1950年、朝鮮情勢が厳しくなるなかで、マッカーサーが年頭にあたり、日本にも一定の役割を期待して、9条が日本人の発案であること同条が自己防衛を否定したものではないことを公言した。幣原発案説に言及したのは、連合国最高司令官の地位を退いてからである。

一方の幣原も自著『外交50年』で、誰から強いられたものではなく自分の発案であると書く。両当事者の述言により幣原発案が確定したかにみえたが、それは絶対ありえないと主張するのがほかならぬ幣原内閣で憲法改正案の作成に汗を流した主要閣僚たちだった。軍の廃止はアメリカが拵えて押しつけてきたので、日本側は相当抵抗した幣原にも廃止の考えは絶対になかったという。

幣原は閣議で「日本がモラル・リーダーシップをとってもだれもフォロワーとならないだらう」と述べており、彼は戦争放棄条項にすこぶる懐疑的だった。もし自分から先に言い出していたのならば、閣議でそのような発言がなされるはずはない。幣原内閣の外務大臣だった吉田茂も、同厚生大臣だった芦田均も、そう証言している。幣原のおかれた厳しい状況と苦しい胸のうちが窺われる。

幣原発案説が否定されるとすれば、マッカーサー発案説ということになりそうだが、天皇発案説、GHQ民政局の局長だったコートニー・ホィットニーと次長だったチャールズ・ケーディスの共同発案説、意気投合説とやらがあるという。天皇発案説を主張するのは、ケーディスを取材した大森実。だが著者が84年にケーディスに直接尋ねたところ、率直に言ってミステリアス、との返答だった。

諸説あるが、著者はマッカーサー発案説に合理性があるとみる。その理由は四つあるが略す。幣原の長男・道太郎は「父の深い悩みと心情を知らずして“平和憲法”の生みの親として讃えることは、幣原を誤解するものであり、幣原を冒とくするものである」と述べる。「押しつけ憲法論」を否定したいがために、幣原発案論を流している偏向マスメディアに騙されないようご用心。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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