前ダメだった商品で成功。ライオンの「アイディアキラー」撃退法

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新規事業・新商品をリリースして成功する確率は決して高くありません。そこで大抵は、失敗したアイデアを捨ててまた新たなプランを探す作業を繰り返しがちですが、実は一度失敗したアイデアから成功を生み出す方法もある、そう解説しているのが読者1万6千人の大人気無料メルマガ『売れたマーケティング バカ売れトレーニング:売れたま』の著者でMBA中小企業診断士の佐藤義典さん。ライオンの新製品・バスタブクレンジングの成功事例を見てみましょう。

ライオン バスタブクレンジングが人気!

お風呂掃除は、家事の中でもつらいことの1つ。特に腰痛をお持ちの方だと、かがんでバスタブをこするのがつらい…そんな方に人気になった新商品が、これ!

『腰をかがめて磨く負担が敬遠される浴槽掃除。その風景を変えたのが、ライオンの浴室用洗剤「ルックプラス バスタブクレンジング」だ。洗浄液を浴槽全体に噴霧して60秒後に水で洗い流すだけで、汚れが落ちる。2018年9月の発売以来、詰め替え用を含めて1800万個超を売り上げたこすらないと落ちないという常識を打ち破り家事の時短を望む共働き世帯などの心を捉えた

『ライオンの調査では、共働き世帯の女性が苦手な家事の筆頭は風呂掃除だ。「こすり洗いの負担を解消したい」。リビングケア事業部の宮川孝一ブランドマネジャーは考えた』

『開発期間は累計7年。想定価格は350円前後と従来より割高だが、発売から約1カ月で計画の2倍以上が売れた。交流サイト(SNS)で投稿が相次ぎ、妊婦や腰痛持ちの人を含めて幅広い支持を得た。繰り返しの購入が増え、詰め替えで450ミリリットル入りのほか800ミリリットル入りの大容量品も今春加えた。テレビCMで定番の洗浄力の訴求ではなく洗い方の変化を強調したのも奏功した』

2019/06/28 日経MJ  P. 4

この「ルックプラス バスタブクレンジング」(以降バスタブクレンジングと呼びます)は、日経MJの2019年上期ヒット商品番付の「前頭」に番付入りしたヒット商品。

ということで、早速買いました。スーパーの店頭で「こすらずに60秒待つだけ!」と大きく書かれた、製品につけられたPOPが目立ちます。早速使ってみると…バスタブにかけると少し流れますが、その流れていく液体がすでに汚れています。汚れが落ちている何よりの証拠。

ただ、「水で流すだけで落ちる」はちょっと言いすぎかと…。軽くこすりながら水で流していくと汚れが落ちる、という感じですから、「軽くこするだけで汚れが落ちる」というのが正確な表現かな、と個人的には思いました。それでも、お風呂掃除がラクになることは確かです。ユーザーのブログなどを見ても、ポジティブな意見が多いようです。

HPによれば、「湯アカ汚れ」はこすらずに落とせますが、他の汚れ(水アカなど)はこすって落としてください、とのことです。

価値は使い方に現れる:「使い方」を訴求しよう!

「こすらない」という使い方

洗剤などの新商品でよくあるのが「洗浄力アップ!」です。「性能が上がった」という、性能軸での戦いですね。今回の「バスタブクレンジング」は、「洗浄力」はあまり訴求していません。訴求しているのは、記事によれば…『テレビCMで定番の洗浄力の訴求ではなく、洗い方の変化を強調』という、「洗い方」すなわち「使い方」です。

価値は使い方に現れる」というのは、売れたま!で繰り返し主張している命題です。

〇価値=使い方

とすると、両辺に「新しい」を掛ければ

〇新しい価値=新しい使い方

となります。

「こすらないで洗える」という新しい価値=新しい使い方がお客様に刺さったわけです。HPでも、動画などを使って「使い方」を徹底的に訴求しています。「使い方」をここまで訴求するのは珍しいと思います。ちなみに、洗剤の色は」です。それは、バスタブのどこにかけたか、をわかりやすくするためです。「使い方」を考えて、商品の「色」までを決めているわけです。『しかも、ミストが青いからかけた場所がすぐわかります』。

「こすらない」という使い方が刺さる人

そして、その「こすらない」という使い方が刺さった人は…まず、忙しくて時間がなく、家事の時短をしたい人。そして、『妊婦や腰痛持ちの人を含めて幅広い支持を得た』と、これを見てなるほど! と「腰痛持ち」の私は思いました。私の使用感では、この洗剤が「時短」のための商品かというと、必ずしもそれだけではないように思います。かけて、60秒待って、時間をかけてシャワーで洗い流して…というと、それはそれで時間がかかります。むしろ「省力化」という、「物理的にこする力がそれほどいらない」という側面を私は評価したいです。

それが刺さるのが「腰痛持ち」の人なんですよね。かがんだ姿勢で、風呂を強くこするのはかなり(すごく)苦痛。全くこすらなくても汚れが落ち、時短になればうれしいです。が、時短にならなくても、こする力が弱くなるだけでも、大きな価値が出るわけです。

「前にやったけどダメだった」にきちんと取り組み直す

ここまでは「商品開発」として定番の話です。今回、強調したいのはここからです。

私がこの商品を見たときに思ったのは、「あれ? そんなお風呂洗剤って前にもあったよね?」でした。「お風呂汚れをこすらずに落とす」というのは、よく耳にしたように思ったので、「え? また?」という印象を持ちました。実際そうだったようです。

『過去にも浴槽の水際部分をこすらず洗えるとうたう商品はあったが、洗浄力が十分でなかった。1回の量が少なく、何度も出さないと行き渡らない。結果、消費者に浸透しなかった』
2019/06/28 日経MJ P.4

 

前の商品は残念ながらあまり売れなかったのですね。しかし、うまくいかなかった原因はわかっています。記事の『洗浄力が十分でなかった』という部分。原因がわかっていれば、その対策を取ればうまくいくかもしれません。

実際、今回は対策を打ちました。

『可能にした秘密の1つは洗浄液を霧状にしてムラなく吹き付ける新型容器だ。引き金のような取っ手を1回引くと、従来品の2倍出る。腕をゆっくり横にずらすと1回で幅約1メートルの広範囲に塗布できる』

『もう一つの秘密は汚れをはがしやすくする無力化洗浄と呼ぶ機能を備えた洗浄液だ。研究所で汚れの正体を分析した。浴槽にざらざらした湯あかがこびりつく原因は、水道水に含まれるカルシウム。独自の洗浄成分で取り除き、こびりつく力を弱めることに成功した。吹きかけてから60秒の間に汚れをふやかして浮かせ、シャワーの水圧だけで流せる。研究員らも入浴して実験した』
2019/06/28 日経MJ P.4

うまく行かなかった原因の「洗浄力を2つの点で改善しています。記事から抜粋します。

1)新型容器で、液がたくさん出るようにした

『引き金のような取っ手を1回引くと、従来品の2倍出る』

2)洗浄液を改善し、より汚れを落とせるようにした

『汚れをはがしやすくする無力化洗浄』

そして、その結果が、冒頭にあるように『2018年9月の発売以来、詰め替え用を含めて1800万個超を売り上げた』という大ヒットに。私が買った店では、

・スプレーボトル(500ml):318円
・詰め替えパウチ(450ml):148円

でした。平均単価200円としても、1800万個ですから36億円という売上を1年待たずにたたき出しました。そして、何よりリピートがつきました。記事のこの部分。

『繰り返しの購入が増え、詰め替えで450ミリリットル入りのほか800ミリリットル入りの大容量品も今春加えた』

私が買った店でも、ボトルが2フェースに対して、詰め替えがなんと3フェースも展示されていました! 詰め替え用のニーズがある、ということですね。詰め替え用が売れる=リピートがある、ということは、実際に使ってみて、効果を実感された方が多い、ということです。『洗浄力が十分でなかった』という失敗要因をきちんと解決しヒット商品になったわけです。

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