【元国税調査官】税金のプロが指南する「改正相続税法」の乗り切り方

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●あなたにも相続税はかかるのか?

『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2014/11/15号

平成27年1月1日から相続税が増税されますよね?

これに関連して、昨今では、相続税関連の特集を組んだ雑誌や、相続税の解説本などが、多数出回っています。

今回の相続税改正では、基礎控除が5000万円から3000万円に引き下げられます。また法定相続人一人あたりの控除も800万円から600万円に引き下げられます。
だから、これまでは5800万円以上の相続資産がないと課税されなかったのに、今回の改正で、3600万円以上の遺産があれば、相続税がかかってくる可能性があります。課税対象者は1.5倍に増えると言われています。
そのため、「もしかしたら自分にも相続税がかかってくるんじゃないか」とびくびくしている人も多いのではないでしょうか?
3600万円程度の相続資産は、都心に家でも持っていたら、すぐに超えてしまいますからね。

「3600万円以上の財産があれば相続税がかかってくる」
とよく言われますが、これはまったく正確ではないのです。
3600万円以上の財産があれば、場合によっては相続税がかかってくることもありますが、それは非常に稀なケースなのです。
普通の場合、だいたい数億円以上の財産を持っている人じゃないと相続税はかかってきません。
数千万円程度の財産を持っている「普通の人」ならば、よほどの悪条件が重ならない限り、相続税がかかってくることはないのです。
相続税には、様々な控除措置があります。

また相続税がかかったとしても、今回の税制改正で網に引っ掛かったような人は、税率は高くないし、税額もそれほど多額ではないのです。むしろ、下手な相続税対策を行なって資産を目減りさせることの方がよほど損になるのです。

と言われてみても、実際にいくらくらいの財産なら、いくらくらいの相続税がかかるか、出されてみないと実感がわきませんよね。

なので、ここで、実際にどのくらいの財産があれば、どのくらいの相続税がかかってくるのかをシミュレーションしてみましょう。

5000万円の資産を残して、死亡した人がいるとします。
法定相続人は、妻と子供二人です。
法定相続人が3人ということは、基礎控除は、3000万円にプラスして、法定相続人3人×600万円です。つまり、基礎控除は4800万円です。
この人の遺産は5000万円なので、200万円オーバーしていることになります。
この200万円に対して、いくら相続税がかかってくると思いますか?
実は、わずか20万円なのです。
つまり妻と子供二人の遺族が5000万円の遺産を相続したとき、かかってくる相続税は20万円だけなのです。

相続税というと最高税率の55%のイメージが先行していますが、相続税は累進課税になっており、1000万円以下の場合は10%なのです。しかも、この1000万円以下というのは、遺産の総額ではなく、相続人一人一人がもらった額のことなのです。

だから、妻と子供二人が相続人だった場合、一人1000万円、合計3000万円までは10%の税率でいいのです。つまり3000万円もらったとしても、税率は10%だから300万円です。基礎控除分の4800万円と合わせれば7800万円もらっても、相続税は300万円でいいのです。相続資産全体に対する相続税の割合は、4%程度なのです。

この程度の相続税額ならば、不動産購入などの相続税対策は不要だといえます。不動産を購入したりすれば、諸経費で相続税分のお金は吹っ飛んでしまいます。変な不動産を持つよりも、まともに相続税を払った方がいいということです。

しかも、ここに例示した家族の場合、基礎控除以外の控除は受けておりません。他の控除も受ければ、これよりももっともっと相続税は少なくなります。

なので、相続税に関しては、あまり慌てないことです。慌てずに、まず自分(の家族)がどのくらいの相続資産があるのか、相続税はいくらかかるのかを冷静に計算してみることです。

以下に、課税対象額の計算方法と相続税の税率を乗せていますので、ぜひ自分でチェックしてみてください。

課税対象額の計算
3000万円+600万円×法定相続人の数=基礎控除
相続した資産-基礎控除=課税対象額

相続税の税率
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 控除額50万円
5,000万円以下 20% 控除額 200万円
1億円以下   30% 控除額700万円
2億円以下   40% 控除額1,700万円
3億円以下   45% 控除額2,700万円
6億円以下   50% 控除額4,200万円
6億円超    55% 控除額7,200万円

もし、相続資産が6000万円で、遺族が妻と子供一人だった場合。

基礎控除は3000万円+600万円×法定相続人2人=4200万円です。
課税対象となる相続資産は、6000万円-4200万円=1800万円です。
この1800万円を、妻と子供が半分ずつ分けた場合、一人あたり900万円です。
900万円の税率は10%なので、一人あたりの相続税額は90万円となります。二人合わせて180万円です。

つまり、6000万円の相続資産を受け取っても、相続税は180万円しかかかっていないのです。わずか3%です。消費税よりもはるかに少ないのです。

 

『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2014/11/15号

著者/大村大次郎
作家。元国税調査官で、「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)など著書多数。
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