中国の「外堀」を埋めろ。アメリカが台湾軍の強化をはじめた理由

kitano20190822
 

8月20日、台湾の現職総統としては史上初の公開形式で米政府機関を訪れた蔡英文氏。これを受け、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、米中関係の強弱を基準として変化する台湾の国際的な立場を時系列で紹介した上で、米中覇権戦争が続く当面の間の「米国と台湾」や、「中国と台湾」の関係に起こるであろう変化について事実を基に詳しく解説しています。

アメリカの台湾政策が変わった

アメリカの台湾政策が変わっています。なぜ?

まず、ここまでの流れを復習しておきましょう。第2次大戦中アメリカは蒋介石の国民党を支援していました。第2次大戦後、中国で国民党と共産党の内戦がはじまった。アメリカは国民党を支援し、ソ連は共産党を支援しました。勝ったのは共産党。1949年、毛沢東の共産党は中華人民共和国建国を宣言しました。国民党は台湾に逃げた

時は流れ、ソ連はますます強くなっていきました。ソ連は、世界初の人工衛星を飛ばし、世界初の「有人人工衛星」も飛ばした。技術的に、「アメリカを凌駕している」と思われていた。そんなソ連に対抗するため、アメリカは1972年中国とくむことを決意します。

1979年アメリカ中華人民共和国国交は正常化されアメリカと台湾中華民国断交することになった。そう、台湾は、アメリカに捨てられたのです。以後、アメリカと中国の仲は、概して良好でした(1989~1993年まで、天安門事件の影響で、関係は悪化していましたが…)。

2015年AIIB事件が起こりました。イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スイス、オーストラリア、イスラエル、韓国などなど、日本以外のほとんどの親米諸国が中国が主導する国際金融機関AIIBに入ってしまった。ちなみにアメリカは、親米諸国に、「入るなよ!」と警告していました。それを、完全に無視された。スリーピー・オバマさんも、これで、「嗚呼、真の敵は中国なのだ!」と悟った。そして、アメリカは、中国を大バッシングするようになったのです。

2016年11月、反中で知られるトランプが大統領選で勝利しました。彼は同年12月、蔡英文総統と電話会談。1979年の断交以後はじめてのできごとに、世界は仰天しました。ところが2017年4月、彼は訪米した習近平に会い、態度をがらりと変えます。トランプは、「私は習近平が大好きだ!と公言するようになった。何が起こったのでしょうか?

2017年は、金正恩が主役だった年。ミサイル実験、核実験で世界を恐怖に陥れていた。北朝鮮の貿易、95%は対中国です。だから、「習近平がその気になれば、北朝鮮経済を破壊することも金を失脚させることも核を放棄させることもできるだろう」と、トランプは考えた。当然ですね。それで習近平は、にっこり笑って、「もちろん協力しましょう」といった。米中関係は2017年好転し、台湾はまたもや捨てられた格好になりました。

しかし習近平は全然北朝鮮問題で助けてくれない。1年経ってトランプは、「自分で会って解決しよう」となった。2018年6月、シンガポールで1回目の米朝首脳会談が行われました。これ、世界中のメディアが「失敗だ!失敗だ!」と大合唱していた。唯一RPEだけは、「成功だ!」と書いていました。理由は、トランプが制裁解除に応じなかったからです。そして、金はその後、ICBM実験も核実験もしていません。もちろん核兵器は放棄していませんが、「兵糧攻め」にあって身動き取れない状況になった。

トランプは2018年6月、北朝鮮問題を沈静化させ、いよいよ米中覇権戦争を開始しました。同年、7月、8月、9月と3か月連続で関税を引き上げた。こうして米中覇権戦争がはじまったので、中国に冷たくなり台湾に優しくなったのです。どんな風に?

蔡英文、アメリカで歓迎される

台湾の蔡英文総統が米国で存在感 NASA訪問、ロス郊外で講演も

産経新聞 2018.8.20 22:35

 

【台北=田中靖人】台湾の蔡英文総統は20日、中南米訪問を終えて台湾に戻る。経由地の米国では往路と復路でそれぞれ演説など公開の活動をこなし、米中両国の関係が貿易戦争で冷え込む中、台湾の存在感を示した。

中南米にいった「ついで」にアメリカによった。そうはいっても、メインはアメリカ訪問だったのでしょう。

蔡氏は19日、米南部ヒューストンで米航空宇宙局(NASA)のジョンソン宇宙センターを訪れた。米国は台湾の地球観測衛星の開発に協力しており、「政治性は低い」(台湾の研究者)ものの、現職の総統が公開形式で米政府機関を訪問するのは初めて。台湾側は米台高官の相互訪問を促す「台湾旅行法」の成果と受け止めている。

蔡総統、NASAを訪れた。現職の台湾総統がアメリカ政府機関を訪問するのははじめてだそうです。

台湾メディアが期待した米政府高官との接触はなかったもようだが、在米台湾人らとの夕食会には超党派の米議会議員も出席した。米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は19日、米議会では反中感情の高まりが親台派議員の行動をより大胆にしているとして、大統領の許可が必要ない議会演説を、蔡氏に認めることもあり得るとする米研究者の見方を紹介した。

蔡総統、議員とは会うことができたのですね。厚遇の理由は反中感情の高まりだそうです。そして、議会演説の可能性もある。実現すれば、まさに「歴史的」です。

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