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恩着せがましい「軽減税率」を「天下の大悪法」と断言できる理由

消費税が10%に引き上げられる10月が迫ってきました。日本の現状から多少の増税は「やむなし」と諦めていても、新消費税については「天下の大悪法である」と断言するのは、メルマガ『8人ばなし』を発行する山崎勝義さんです。山崎さんは、「軽減税率」が採用されたことにより、分かり易さが失われる弊害を訴え、何よりその対応という「手間賃」を支払わされる小規模の小売業者への大きな影響を憂慮しています。

軽減税率のこと

いよいよ来月より「新消費税」が始まる。今更言葉を選んでいても仕方がないのではっきりと言う。これぞ天下の大悪法である。

無論税金は安いに越したことはない。しかし国のことを思えば我儘勝手ばかりも言えない。現状の人口動態を見れば多少の増税はどうあってもやむなしといったところである。これに関しては、どうだろう、国民のコンセンサスは得られていると概ね言ってもいいのではないだろうか。少なくとも「やむなし」と飲み込める程度には納得できているのではないだろうか。

そういった国民の覚悟(と言うより諦め)を全く無視するような形でこの制度にみっともなくぶら下がっている条項が所謂「軽減税率」である。

連立政権の場合、それぞれの与党がその存在感を示すべく一本の法案に対して党独自のアイデアを条項として付け加えていくことが多い。あるいはそうしてそれなりに良くなることもあるのかもしれないが、大概は悪くなる。連立政権というものの最大の弊害であると言えるだろう。

そもそも消費税は、一年に一度きりの個人の確定申告や法人の決算申告とは異なり、毎日財布を開く度に支払うものである。となれば一番求められるべきは分かり易さである。何もわざわざ面倒くさくする必要などないのである。面倒くさければ、いつまでも引っ掛かるし、いつまでも気になるから、一旦は「やむなし」と飲み込んだ筈のものがいつまでたってもストンと腑に落ちない。何事においてもそうだが慣れないというのは結構なストレス要因である。

大体さも恩着せがましく「軽減税率」などと言ってはいるが、よくよく考えると「増税後軽減税率」なのであって現時点から言うとただの現状維持である。

先の参院選でも、これもまた恩着せがましく頻りに「庶民の味方」などと言ってはいたが、どうだろう、例えば月に10万円の食費がかかる世帯に軽減税率分(=2%)に当たる2千円を支給して「これであなた方の生活も楽になるだろう」と言えるほどの蛮勇の持ち主などいないのではないか。ただでさえ暑いのに、こう「がましく」恩を着せられたのではとんだ厚着になってしまう。

それでも消費者の立場として支払う新消費税についてはテレビなどでそれなりに特集されているからまだいい。問題は小売業者の方である。中でも特に商店街にあるような小さな店の経営者にとっては致命的なものとなりかねない。

新しいレジやキャッシュレス決済に対応するための設備投資も相当応えるだろうが、何と言ってもこれまでにはなかった手間がかかるというところが大問題なのである。例えば、老夫婦二人でギリギリの損益で経営しているような小さな店で言うと、新しいレジの使い方、キャッシュレス決済とポイント還元制度の理解、そして煩雑化する会計、全てが新たな手間であり、大きな負担である。

手間というものを経営用語に翻訳すれば結局のところ人件費である。店主のがんばりと言ったってやはり人件費なのである。今以上の経費負担は無理、と音を上げる店も決して少なくはないであろう。実際、新税制導入に当たって準備された各種の助成金へのレスポンスがあまり良くないという報道を耳にした。いよいよ閉店準備かもしれない。

「庶民の味方」「弱者の味方」などと大見得を切って始められる制度が、日本中の商店街を完全シャッター街に変えてしまうといったような、どこか終末的な風景をもたらすかもしれないのである。もしかしたら後年、新消費税を定めたこの法律こそが小規模小売業者の死亡証明書となった、と言われるようなこともあるいはあるのかもしれない。

image by: Shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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