サウジの石油施設への無人機攻撃を読み解く。得をするのは誰か?

shutterstock_730156321
 

9月14日、サウジアラビアの石油施設を無人機が攻撃。中東情勢はまたしても混沌としてきました。メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』の著者で数々の国際舞台で活躍する国際交渉人の島田久仁彦さんは、もっとも割を食ったのは中東諸国に防衛システムを売ってきたアメリカだと解説。反対に「得をするのは誰か?」を考えることで、「真犯人」が見えてくると、独自の情報網から驚きの推測を展開します。

石油施設を襲った“テロ”が明らかにする“皮肉な現実”

9月14日(土曜日)、突然、耳を疑うようなニュースが飛び込んできました。イエメンのフーシー派が、複数のドローン及び無人攻撃機を使って、サウジアラビア東部の石油施設に対し、同時多発的に攻撃を仕掛け、その“任務”を完遂したという内容の一報でした。

米・イランの対話への機運が高まり、24日か25日にでもNYでトランプ・ロウハニ会談が実現するのではないかとされていたこの時期に、その前向きな機運を一気に吹き飛ばすようなサプライズに唖然としました。

この一連の攻撃の結果、サウジアラビアの原油産出量の5割強を失うという、世界のエネルギー安全保障にも大きなショック(サプライズ)を与え、一時NYのWTI(原油先物)価格は20%弱の暴騰となりました。

すぐにサウジアラビアのアブドラアジズ石油相が「月末までに産油量のキャパシティーをもとに戻す(日産1100万バレル)」と発言し、原油価格も1バレル60ドル弱まで値を大幅に下げていますが、サウジアラムコ社のキャパシティーが本当に戻るのかは確証がありません。

また各国は石油の備蓄の放出の可能性を示唆し、何とか市場の混乱を避けていますが、攻撃によるショックの影響は完全には払拭できていません。実際に、LNG・天然ガス価格も原油価格に連動することが多いため、LNG・天然ガスへの転換も、効果的かつ持続的な代替案とは考えづらいため、エネルギーセキュリティの面で、アラブ原産のオイルに依存する国々、特にアジア諸国に大きな懸念を与え、エネルギー調達の戦略を急ぎ練り直す必要性を突き付けました。

今回のことで、アメリカが“同盟国”に呼びかけたホルムズ海峡における共同警備行動への参加(『有志連合』)に対する各国の方針にも変化が出てくるかもしれません。しかし、今回の一連のサプライズが国際情勢に与えたショックは、エネルギー安全保障問題以外にも、大きな課題を世界各国に与えました。

最大のサプライズは、最新鋭の防衛システムをもってしても、今回の攻撃を検知し、対応できなかったということです。イエメンから発射されたと仮定した場合、約1200キロメートル(仮にイエメンのフーシー派としたら)を、ドローンや無人攻撃機、そして巡航ミサイルがサウジアラビアのレーダーに探知されることなく飛行し、確実にターゲットを攻撃し、ミッションを遂行したというサプライズでしょう。(注:サウジアラビアに配備された最新鋭の防衛システムは、首都ジェッダとイスラム教の聖地メッカに偏在しているという、防衛システム網の穴を狙った攻撃とも言えます。)

これが誰の犯行であったとしても、今回の事件は“新たな戦争の形態”を示すものであるといえます。言い換えれば、これまでの防衛システム(ある程度の高度で飛行するミサイルには有効だが、低空飛行が可能なドローン兵器や無人攻撃機、そして巡航ミサイルによる攻撃には対応しきれない)では対応できない事態に直面することになったということです。

そして、非政府組織の武装集団が、そのようなキャパシティーを手にし、自在に操る時代になったという見方もできます。皮肉にもAI兵器やロボット兵器などへの国際的な対応(規制)が話し合われる中、今回の事件の首謀者は見事に攻撃をやってのけたという非常に懸念される事態だといえます。

print
いま読まれてます

  • サウジの石油施設への無人機攻撃を読み解く。得をするのは誰か?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け