12月3日、中国当局のウイグル人弾圧を「人権侵害」として制裁できる法案を可決したトランプ政権。この事態に真っ向から反論できない中国は、19世紀の米国の植民地政策を槍玉に挙げ反撃を開始しました。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、中国の反撃内容を「民族弾圧正当化の理由にはならない」と切り捨て、人権批判高まる中国トップの国賓訪日の見直しを強く求めています。
中国、アメリカは最悪の大量虐殺国家と主張、その根拠は?
アメリカは、中国に対する情報戦を強化しています。その一つは、中国政府がウイグル人100万人を強制収容している問題。
追いつめられた中国は、反撃したい。しかし、アメリカは民主国家で、言論の自由がある。テレビをつければ、トランプの悪口を聞かない日はない。一方、中国では、公式の場で習近平を批判すれば捕まってしまう。要するに、中国には、アメリカを批判できる「ネタ」がない。そこで中国は、ユニークな反撃方法を考えました。
中国は、アメリカの「先住民大量虐殺」を非難
ニューズウィーク12月5日から。
米下院が12月3日、少数民族ウイグル族の人々を不当に拘束するなどしている中国を批判し、人権侵害に関わった当局者に対し制裁の発動を求める法案を可決した。中国政府はこれに反発し、アメリカが先住民を組織的に迫害した過去を槍玉に挙げ始めた。
なんと、「ウイグル人100万人強制収容」を批判された中国は、アメリカの「先住民迫害」で対抗しはじめた。中国外務省の華報道官は
法案を通した米議会を「無知」で「恥知らず」と非難し、アメリカにも先住民迫害の歴史があることを持ち出して、「偽善的」と決めつけた。「2世紀にわたるアメリカの歴史は、先住のインディアンの血と涙で汚されている。彼らのほうが先にこの大陸に住んでいたのに、19世紀以降アメリカは西漸運動を通じて、武力に物を言わせて先住のインディアンを排除し、虐殺して、広大な土地を占領し、膨大な自然資源を収奪してきた」「そればかりか、アメリカは先住民に同化政策を押し付け、彼らを殺し、排除し、追放して、市民権を認めなかった」と、華報道官は述べた。
(同上)
正直いうと、「そのとおりだな」と思います。私も、たとえばイギリスが、日本の植民地支配を批判するとき、「世界一広大な植民地をつくった国にいわれたくない」と思います。アメリカが戦中の日本を批判する時、「原爆を落として、史上最悪の民間人大量虐殺をしたあんたたちにいわれたく
ない」と思います。
とはいえ、「あんたたちは『昔』悪いことをしていた。だから、私が『いま』悪事をしていることについて批判するな!」とはならないですね。たとえば、アメリカでは1860年代まで合法的奴隷が存在しました。だからといって、それを根拠に、ある国が現在奴隷を合法化したらダメでしょう。イギリスは広大な植民地を所有していた。それを根拠に、ある国が今、他国を植民地にしたらダメでしょう。
確かにアメリカは、先住民を大虐殺してできた国です。しかし、そのことは、中国が今現在、ウイグル人100万人を強制収容している事実を正当化する根拠にはなりえません。
米中覇権戦争がはじまったので、中国のウイグル人弾圧は広く知られるようになってきました。
安倍総理は、国際世論の動きをよく見て、「超人権侵害国家の長」の国賓訪日を是非やめていただきたいと思います。天皇陛下と習近平が談笑する姿が世界に流されることで、「日本の天皇は、中国の人権侵害を容認しているのだな」と誤解されかねません。
安倍総理が習近平に会うのは構いませんが、失策によって天皇陛下と日本国の評判を下げることは、是非やめていただきたいと思います。
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