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新型コロナ「楽観論」に殺される国民。官邸の誤魔化しと思いつき

新型コロナウイルスの感染者数が爆発的に増加し国民の間で不安が高まっていますが、「局面はこれまでと変わらず」という姿勢を崩さず、「GoToトラベルキャンペーン」についても従来のまま進める意向の安倍政権。なぜ官邸は効果的な新型コロナ対策を打てないでいるのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、考えうる2つの理由を記すとともに、政策決定のプロセスが見えない政権を批判しています。

新型コロナ楽観論をどう評価すべきか

三井住友フィナンシャルグループのシンクタンク「日本総研」が7月13日に出したレポートで、「政府が三つのメッセージを発信することが必要」として、以下の三点をあげている。

  1. 若年・壮年者にとって新型コロナは脅威でない
  2. 感染者が増えるのは心配ない
  3. 日常生活を取り戻そう

東京から全国に急速に広がる新型コロナ感染。連日、テレビ番組でそれについて、侃侃諤諤の談議が交わされているのを断ち切らんとするかのごときメッセージである。

若年・壮年層はいくら感染拡大しても、無症状・軽症が多いのだから、感染者数の増加に惑わされることなく、安心して以前の日常生活に戻るよう政府は呼びかけるべき、というのだ。

たしかに、第2波感染の中心がこれまで若年・壮年層だったため、今のところ死者数に関しては抑えられている。全国の感染者数が7月1日の127人から、7月28日の981人にも跳ね上がったわりには、死者数は7月1日が2人で、その後も0~3人の間で推移している。5月2日には31人だったことを考えると、そこは冷静に見ておく必要があろう。

しかし、「三つのメッセージ」提案からもうかがえるように、高齢者にとっては依然として、新型コロナが脅威であることに変わりはない。

そして、日常生活を取り戻すにしたがって、若年・壮年者と高齢者の接触機会も増え、今後は重症者の急増が予測される。

そうした視点の欠けた日本総研のメッセージ提案には説得力がなく、政府もそのまま採用するわけにはいかないだろう。

それでも、日本総研レポートのような考えは経済界のみならず、政官界にもかなり蔓延していて、感染防止と逆行する「Go Toトラベル」を後押ししているように見える。二階幹事長や菅官房長官が、関係の深い観光業界に気配りしたのは確かだろうが、それだけではあるまい。

7月10日、安倍首相はこう断言した。「重症者は大きく減っており、感染者の多くは20代、30代で、医療提供体制はひっ迫した状況ではない」。

政府の基本姿勢が凝縮された発言だが、医療現場の認識とはかなり開きがあるようだ。7月22日に開かれた東京都のモニタリング会議で、杏林大病院の山口芳裕・高度救命救急センター長はこう述べた。

「国のリーダーが使われている『東京の医療はひっ迫していない』は誤りです。病床拡大にはレイアウトを変えたり、医療者のシフトを変えたり、感染対策を徹底したり、入院患者を移動させたり、大変な作業です。2週間先をみて現状の評価をするのが責任ある態度だと思う。150%の増加率で患者が増加し、重症者が倍増している状況です。現場の労苦に想像力も持たない方に、大丈夫だから皆さん遊びましょう、旅しましょうという根拠に使われないことを切に願います」

すでに東京の医療はひっ迫している。現状のレベル1(1,000床)のベッド数では間に合わなくなったため、中等症でレベル2(2,700床)、重症はレベル1(100床)を確保できるよう急いでいる状況だ。国のリーダーは想像を働かせよという言葉から、じれったい思いがひしと伝わってくる。

中高年層にジワジワ感染が広がっているのは不気味だ。6月19日の専門家会議資料によると、年代別重症化率は

だ。東京都の重症者数は7月12日に5人だったが、28日には21人に増えた。このまま高齢層に広がっていくと、たちまち100床では足りなくなるだろう。

こんなさなかにも、安倍政権が「Go Toトラベル」などの経済政策を優先させるのは、経済の数字を少しでも引き上げたいからだ。

第2次安倍政権が発足した12年12月から景気拡大局面が続いていると喧伝していたアベノミクス物語が実はデタラメで、18年10月を境に下降してきたという事実を近々、認めざるを得なくなっている。

野党が共闘体制づくりにもたついている間に、隙あらば、解散、総選挙に打って出たい。そのためには、急激に落ち込んだ経済を、たとえ一瞬でも上向いたように見せるのが肝心だ。「みなさん、新型コロナの流行で日本経済は大きな打撃を受けましたが、安倍政権でなければ再生できません。その証拠に、すでに景気回復の兆しが数字に表れております」などと、ごまかすのだ。

総選挙で勝利が転がり込めば、安倍首相をめぐる数々の疑惑をそっちのけにして、「国民は信任してくれた」と吹聴するだろう。そしてレームダック化を防ぎ、ポスト安倍にまで影響力を及ぼす皮算用だ。

だが、そんなにうまくいくだろうか。一時的に観光業界などが潤ったとしても、さらに感染が拡大し、それにともなって重症者が増え、ICUや人工呼吸器や病床が不足すれば、またしても緊急事態宣言を発するほかなくなるではないか。

安心して社会生活を送るには、検査を最大限に拡充し、その結果、陽性と判明した人には、申し訳ないが、しばし街に出ないようにしてもらうほかない。

政府がいつまでたっても検査拡充に本気にならないのは、過去にハンセン病など人権を無視した隔離政策で非難を浴びた厚労省医系技官のトラウマがからんでいるといわれる。

たしかに、咳も熱もない無症状の人が、検査で陽性になったからという理由で、個々の仕事や学業などの事情を無視してホテルなり自宅なりに閉じ込められたら、たとえ2週間でもつらいだろう。しかし、こういう世界的な危機にあっては、有事の対応が必要であり、国民の合意が得られるはずだ。

安倍政権がピシッとした新型コロナ対策を打てない理由はそれだけではない。一部の医学専門家が唱える新型コロナ楽観論が、政財界に少なからず影響を及ぼしている。

京都大学大学院医学研究科の上久保靖彦特定教授、吉備国際大学の高橋淳教授らの研究グループは「日本人はすでに新型コロナウイルスの集団免疫を獲得している」と、英・ケンブリッジ大学出版局の公開研究サイトへ投稿した。

同グループは新型コロナを、最初に武漢で発生した弱毒性のS型と、それが変異したK型、K型が毒性を増したG型に分類する。

日本政府は武漢など湖北省からの入国を1月31日にストップしたが、中国全土を制限対象にしたのは3月9日と遅れたため、S型とK型が国内に流入し、風邪やインフルエンザに紛れて、知らないうちに多くの日本人が感染した。しかし、幸運にもこれでK型の集団免疫ができたため、その後に、肺炎を起こすG型が入ってきても対応でき、死亡者は欧米よりはるかに少なくて済んだ。一方、欧米は日本より1か月以上早く中国からの入国を制限したのでK型が流入せず、日本のようにG型にも応戦できる集団免疫ができなかったのだという。

国際医療福祉大学の高橋泰教授も、すでに多くの日本人が新型コロナに感染していると指摘する。ただし、上久保グループが、「T細胞」が活性化されたため集団免疫を持ったというのに対し、高橋教授のほうは「自然免疫」でほとんどの人が治ったという分析だ。

こうした視点からは、当然、PCR検査不要論が出てくる。高橋教授は言う。

「PCR検査でどこから見ても元気な人を捕捉することには大きな問題があると考えている。PCR検査はコロナウイルスの遺伝子を探すものなので、体内に入って自然免疫で叩かれてしまい他の人にうつす危険性のないウイルスの死骸でも、陽性になってしまう」(7月17日東洋経済オンライン)

集団免疫が日本人にはすでにできているのなら、そう心配することはない。原初的な自然免疫でこと足りるとしたら、けっこうなことではある。ちょっとした風邪のようなものだとか、インフルエンザの死者数が多いほうが問題だとか、テレビはコロナ危機をあおりすぎだとかいう論調は、こういうところから出てくるのだろう。

しかし、急増した感染者のなかから重症化する人が出てくるのはこれからである。いったん重症化し人工呼吸器やECMOにつながれるようなことになれば、命拾いしたとしても、リハビリを含め、社会復帰に半年近くもかかるのだ。気楽にかまえていられるものだろうか。少なくとも、検査など不要という考えには賛成しかねる。

諸説紛々で、安倍官邸は混乱の極みなのかもしれないが、早く基本に立ち戻ることが肝要だ。未解明のウイルスで、分からないことのほうが多い。それなら、楽観論より悲観論をとって、もっとも効果的な感染症対策である検査の徹底をはかるべきではないか。ベトナムは初期段階から検査、隔離、追跡を徹底し、死亡者ゼロに抑え込んでいる。成功例を見習うべきだ。

それにつけても、この政権、毎度のことながら、政策決定のプロセスが見えないのが気になるところだ。

コロナ対策の分科会にしても、メンバーの数が多すぎて、談論風発とはなりようがなく、話の流れは事務局たる内閣官房の筋書き通り。となると、結局は、例のごとく安倍官邸の懲りない面々の思いつきが通ってしまう。

そういえば、新型コロナ対策分科会の尾身会長ですら7月26日のNHK日曜討論で「Go Toトラベル」キャンペーンについて、こう語っていた。

「我々はもう少し今回は感染状況をしっかり分析してしっかり議論をしたうえで決めたらいいんじゃないかと提案をしてたんですけど、採用されなかった。ただ、東京を外すことには分科会として賛成しました」

メンバーの一人、東京財団の小林慶一郎研究主幹は経済専門家としての視点から、かねてよりPCR検査の大幅拡充を主張していたが、それを分科会で発言しても、議論はまったく深まらなかったという。

分科会は、「Go Toトラベル」ありきで進められ、専門家、有識者たちはお飾りや権威づけに体良く使われた。

官邸のなかの見えない司令塔に左右され、いつまで、われわれ国民はさまよっていなければならないのか。

image by: 首相官邸

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