コロナ禍が収まらずとも、開会式の演出案が白紙であろうとも、菅政権に東京五輪中止という選択肢はありえないようです。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野孟さんが、菅首相が五輪開催にこだわる理由と思い描いているであろう理想のシナリオを考察。しかしそれはあくまで画餅にすぎず、逆に首相にとって最悪の筋書きが展開するであろうとの見解を記しています。
※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2021年3月22日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
早くも半壊状態に陥った菅義偉政権――だからこそ余計にしがみつく五輪開催
首都圏の感染者数は「下げ止まり」どころか横ばいからさらにジリジリと増加に向かっていて、「さらに大きな第4波を招く危険がある」という専門家の警告すら発せられている中、菅義偉首相は敢えて3月22日からの「緊急事態宣言」の全面解除に踏み切った。
理由は簡単で、コロナ禍は収束に向かいつつあるという共同幻想を作り出して、25日の聖火リレー出発式典を盛り上げるのでなければ、いよいよ五輪開催が危うくなるからである。しかしこれは、何の勝算もない危険な賭けで、それに失敗して本人がコケるのは勝手だが、全国民にも全世界にも大迷惑をかける結果になりかねない。そのことへの想像力が全く働いていないのが菅である。
第4波の発生は避けられない?
そもそも、首都圏に限って緊急事態宣言を延長するに際して、政府はなぜそうするのかの理由を合理的に説明しておらず、従ってまた延長したその2週間に何と何をすればどこまで感染を低減できるのかの見通しも示していないので、「ここまでは達成した。そこで、解除はするが次の段階としてこのことが大事だ」といった説得性を以て国民を導くことができない。
本来であれば、鎮静化に成功した多くの国がそうしたように、
- まずはPCR検査を誰でも無料で何度でも受けられるようにして、今回のコロナ禍の最大の困難である「未発症感染者がその自覚なしに感染を拡大してしま
う」という事態に歯止めをかけること - そこで見つかった感染者は自宅待機だとかホテル滞在だとか中途半端なことをせずに、野戦病院型の臨時施設を増やして問答無用で完全隔離してしまうこと
- そしてクラスターが発生した場合の局所的ロックダウンを徹底すること
――などが必要なのだろうが、そのようなメリハリのついた対応はなされず、ただ単に国民の自粛と飲食店の営業時間短縮だけに頼るだけだった。だから、多くの人々には、「解除」と言っても、首都圏の飲食店の営業時間が1時間延びるだけか?といった印象しか残らないことになる。
緊急事態宣言を出すのも引っ込めるのも何の論理性も科学性もないこの腑抜けたやり方では、リバウンドを避けるのは難しい。中村好一=自治医科大学教授は「第4波は8割の確率で起こる。4月に発生してもおかしくない」と指摘している(3月21日付日経)。