本命は癌の治療。ビル・ゲイツも後押し、mRNAワクチン誕生秘話

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世界各地で接種が進み、人々が一度は失った日常の再獲得を強力に後押しする新型コロナワクチン。このうち世界で初めて認可され、日本での集団接種にも用いられているmRNAタイプのワクチンですが、もともと癌の治療薬としての効果が期待されていたそうです。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では「Windows95を設計した日本人」として知られる米シアトル在住の世界的エンジニア・中島聡さんが、これまであまり語られることのなかったmRNAワクチン開発の歴史を詳細に辿るとともに、接種の副反応についても言及。心筋炎を起こす可能性があるとは言うものの、その確率は極めて低いものであり、コロナに感染するより遥かに安全と結論づけています。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

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先日、知り合いの医者と夕食を食べたのですが、その時にmRNAワクチンの話題が出て、二人で熱く語り合ったので、今週はその話をまとめます。

彼曰く、mRNAワクチンの本命は癌の治療だったそうですが、これまでのワクチンとは全く異なる手法であるため、業界では、実用化はかなり先のことになると見られていたそうです。しかし、新型コロナに向けのワクチン開発が世界中で積極的に進められた結果、mRNAを活用したBionTechとModernaワクチンが米国で承認され時計の針が一気に進んでしまったそうです。

これにより、本命であったmRNAの癌治療への応用も一気に進む可能性があり、「5年以内に実用化されても不思議ではない状況だ」と彼は主張します。

mRNA(message RNA)の存在を最初に指摘したのは、Jacques Monodran?ois Jacobの二人で(二人ともフランス人)、二人とも1965年にノーベル医学賞を受賞しています。彼らの功績は、DNAに書かれた情報がmRNAを介してタンパク質の合成にいたる分子レベルの仕組みを解析したことにあり、Molecular biology(分子生物学)の父と呼んでも良い存在です。

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image by: Sverdrup, CC BY-SA 3.0, ウィキメディア・コモンズ経由で

上の図は、WikipediaのmRNAのページから拝借したものですが、コンピュータで言えば、ディスクに相当するDNAに格納された情報が、(メインメモリに相当する)mRNAに転写され、その情報を使って体に必要なタンパク質が作られる様子を表しています。

インフルエンザウィルスやコロナウィルスは、細菌と違って自分自身を複製する能力をもっておらず、自分を複製するのに必要な遺伝子情報を含むRNAを、あたかも宿主自身の遺伝子情報を持つmRNAのように見せかけて、複製させるのです。

このウィルスがmRNAの仕組みを利用して宿主に自分を複製させる点に注目し、それと同じ仕組みを医療に応用できるはずだと最初に考えたのが、ペンシルバニア大学の助教授だったKatalin Karikóです(ハンガリー人)。

彼女は、mRNAを細胞の中に送り込むことさえ出来れば、どんなタンパク質でも作らせることが出来るので、体が必要とするタンパク質を作らせたり、逆に、退治すべきもの(ウィルス、細菌、癌細胞)が持つタンパク質をあえて作らせることにより、そのタンパク質に対する免疫を作らせたりすることが可能だと考えたのです。

当初(1990年代)は、あまりにも突飛なアイデアだったため、なかなか研究予算もつかず、とても苦労したそうです。

彼女の苦労話は、「The Unlikely Pioneer Behind mRNA Vaccines」というポッドキャストで聞くことが出来るので、通勤途中にでも是非とも聞いてみてください。

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