本命は癌の治療。ビル・ゲイツも後押し、mRNAワクチン誕生秘話

 

なかなか認められなかったKatalin Karikóが本格的に(十分な研究開発費で)mRNA医療の開発に関われるようになったのは2013年にドイツのBioNTechに引き抜かれてからのことで、その成果が、米国で接種が始まり、日本でも使われているPfizer-BioNTechワクチンです。

BioNTechは、元々、免疫の力を利用して癌治療をする「免疫癌治療」の研究開発をする会社でしたが、Karikó氏が参加して以来、mRNAの医療への活用に力を入れるようになりました。BioNTechは、2019年にビル・メリンダ・ゲイツ財団から$55 millionの資金を集め、その後Nasdaqに上場しています(ティッカーシンボルはBNTX、株価総額は現時点で$53.27 billion)。

一方のModernaは、2010年にHarvard Medical Schoolで研究者をしていたDerrik Rossiによって作られましたが、Karikó氏の2005年の論文を読んだ彼は「これはノーベル賞に値する」と直感するほど感動したそうです。

Derrick RossiはMITのRobert Langerと組んで、Modernaを設立、Cambridgeのベンチャーキャピタル、Flagship Venturesから資金を集めました。Modernaは、BioNTechと違って、最初からmRNAの医療への応用に力を入れている会社です。

Modernaは、2011年にStéphane BancelをCEOとして雇いました。Bancel氏は、医学の博士号ではなくMBAを持つビジネスサイドの人ですが、早々にAstraZenecaとの$240 millionの契約を結ぶなどの経営手腕を発揮しています。

Modernaは、上場前に$1 billion以上の資金を集めてユニコーン(株価総額が$1 billionを超える未上場ベンチャー)になり、2018年に上場しました(MRNA、株価総額は現時点で $83.28 billion)。

BiNTechもModernaもペンシルバニア大学でKatalin Karikóが開発したパテントをライセンスしていますが、彼女の研究にそれほどの価値があることに気がついていなかったペンシルバニア大学は、早々にそのパテントを別の会社に売却してしまっていたそうです。

mRNAの医学への応用は、今では実用化されてその有効性が理解されることとなりましたが、当初はメディアから大きな疑いの目で見られており、2016年にはSTATにより、「Modernaは第二のTheranosかも知れない」とする厳しい批判記事が出たことすらあります(「Ego, ambition, and turmoil: Inside one of biotech’s most secretive startups」)。Theranosは医療ベンチャーとして莫大な資金を投資家から集めましたが、後に、投資家向けに提供していた情報が嘘だったことが判明し、経営者は刑務所に入ることになりましたが、そこと比較されるほどの疑いの目が向けられていたのです。

ちなみに、mRNAワクチンに関しては、ドイツのCureVacという会社も開発を進めていますが、まだ認可は降りていないそうです。CureVacは2013年にJohnson & Johnson とmRNAを利用したインフルエンザワクチンの研究開発を開始していますが、まだ実用化はされていません。

CureVacは、BioNTechと同じく、上場前にビル・メリンダ・ゲイツ財団から資金の提供を受けており、2017年には$359 millionの投資を受けて、ユニコーンの仲間入りをしました。2020年の8月にNASDAQに上場しています(CVAC、株価総額は現時点で$11.53 billion)。

株価が最近になって急落しているのは、治験の結果、有効性が47%と低い値だったことが判明したため、認可が降りる可能性が低いと投資家たちが判断したためです(「CureVac fails in pivotal COVID-19 vaccine trial with 47% efficacy」)。

有効性が低いのは、現在はイギリスやインドからの変異株が流行しているからという説もありますが、米国は有効性50%以下のワクチンは認可しない方針なので、このままでは難しい状況です。

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