外食大手のワタミが、新型コロナウイルスのワクチン接種を済ませた店員に「安全マーク」を着用させることを検討していると報じられ、大きな波紋を呼んでいる。
報道によると、ワタミでは社員に対して新型コロナワクチンを原則として接種するよう働きかける方針で、接種を望まない場合、代わりに定期的に検査を受けてもらうとのこと。対象は国内社員の約1500人で、約7000人のアルバイトについても検討するという。
安全マークは、11月に新規出店する居酒屋の新業態で導入し、その後全店へ段階的に広げる予定。店員に接種を推奨し、安心して飲食できる環境を整備することで、集客につなげたいという思惑があるようだ。
ワタミは「接種率向上」のため悪者に?
日本国内の企業では、プライバシー尊重などの観点から、社員のワクチン接種状況をあえて把握しないといったスタンスを取るところも多いなかで、アルバイトも含めた全従業員に接種を推し進めることを公表したワタミ。
ただ海外、特にアメリカに目を向けると、感染力が強いデルタ株が拡大の一途で、伸び悩むワクチン接種率の向上が公的機関から呼び掛けられていることもあり、グーグルやフェイスブック、さらにモルガン・スタンレーなどの名だたる企業で、出社する社員に対してワクチン接種を義務付けていると報じられている。日本でも、今回のワタミの方針公表をきっかけに、そういう流れになる可能性も考えられなくもない。
いっぽうで政府の新型コロナ対策分科会の尾身会長も17日、インタネット番組に出演した際に、ワクチン接種が進んだ後の接種証明などの活用について、議論する時期が迫っているとの認識を示している。コロナ渦による景気低迷が長引くなか、感染拡大防止と経済活動の活発化を両立させる方向へと持っていきたいという声が、期せずしてほぼ同時にあがった格好だ。
そんなワタミの「従業員は原則接種方針」「安全マーク導入」だが、今年11月から段階的に導入予定ということ。最近のワクチン供給不足の状況とは異なり、さすがにその時期には接種希望者には行き届いている頃で、「働きたいけど接種できなくて働けない」といった状況に陥ることはなさそうである。ネット上では「ワタミは接種率向上のため悪者になっている?」といった擁護意見もみられ、さらには「ノーマスクの客や、ウレタンマスクの客にきちんと注意してくれる店のほうがありがたいなあ」といった要望も飛び出すなど、以前のような安心・安全な酒場の復活を願う人の声は多いようだ。
ワタミすげー菅ちゃんでも出来ない事を平然とやってのける。接種率を上げるために悪者になって下さっている。 https://t.co/mF7YC2QiPN
— いさや (@isaya) August 18, 2021
店員のワクチンも大事なんだけど、ノーマスクの客や、ウレタンマスクの客にきちんと注意してくれる店のほうがありがたいなあ。
接種社員にマーク着用 コロナワクチン推奨―ワタミ:時事ドットコム https://t.co/rA3nhoMpWc @jijicomより
— 安達裕章 (@adachi_hiro) August 19, 2021
ワタミ上層部での「クラスター発生」も背景に?
ただ、日本国内においてはワクチン接種があくまで「努力義務」とされているなか、接種非希望者は定期的な検査という選択の余地はあるものの、半ば接種を強制させるような方針には反発する声も。
ワタミ、ワクチンの2回接種者に「安全マーク」。デルタ型に関してブレークスルー感染が広がっていることを踏まえると、この表現は適切とは言えないのではないか。
— てつや (@tezheya) August 19, 2021
ワタミ、接種店員に安全マーク ワクチン推奨、対応巡り議論も(共同通信)#Yahooニュース
https://t.co/J2ggqaZpdbワクチン接種したら、感染もしなければ、人にもうつさないとか思っているのか?
そういう無理解が、感染を拡げるのではないか?— にゃあにぃ🎉 (@tantantantany) August 18, 2021
ワクチン接種済店員に安全マークを身につけさせるというワタミの取り組み…そもそもワクチンは『重症化を防ぐ』というものであり、『ウイルスを拡散させない』というものではないはずです。ワクチン接種者のみを安全とし、ワクチン未接種者を危険人物かのように扱うのは不当な差別に繋がると思います。
— Childish Teacher (@TeacherChildish) August 18, 2021
それらのなかで多く見られるのが、「安全マーク」とは言うものの、そもそもワクチン接種済みなら「安全」なのか、といった意見。接種が済んだ人でも、その後陽性反応が出たといった話は連日報道されており、また今後出て来るであろうの変異株に今のワクチンが有効かどうかにも疑問符がつくところ。むしろ「接種したから安心」といったメッセージが、逆に感染拡大に繋がるのではという声もあがっている状況だ。
また、接種後の副反応なども多く報じられるなか、ワクチンを打たないという判断をした方も多く存在するわけで、そういった人々への不当な差別に繋がるのでは、といった意見も。これは先述の接種証明、ワクチンパスポートなどの件でも同様の問題が指摘されおり、企業側も慎重な対応が求められるところだろう。
いっぽうで、今回ワタミが従業員の「原則接種方針」を打ち出したのは、今年7月に社長を含めた上層部でクラスターが発生した件が背景にあるのでは、といった見方も。
週刊文春電子版が8月17日に公開した記事によると、社長をはじめ執行役員数名、部長、課長など、幹部クラスだけでも9名の陽性者がでて、社長の清水邦晃氏は救急車で搬送されるオオゴトになったという。幸いに現在は快復しているようだが、このような経験が今回のような思い切った施策に踏み切るきっかけになったとも考えられなくもない。
さらにネット上では、「接種したら無期限の自宅待機」というワクチン禁止令を社員に命じて、大いに物議を醸した住宅メーカー大手の「タマホーム」との“対比”を面白がる層も多く、「夢の対決」「龍虎相見える」といった声も。ワタミやタマホームといえば、いわゆるブラックな体質が指摘されることが以前から多いだけに、「ブラック企業はやることが極端」といった冷静な意見も聞こえてくる。
たしかに「ワクチン推進」でも「ワクチン禁止」でも、どっちも叩かれてしまうというのは、現象としては興味深いところ。ワクチンを「打つ自由」と「打たない自由」、そのいずれも尊重されるべきという考えが広く浸透しているなかで、そのどちらかにスタンスとして偏ってしまうことが、何よりも反感を生むといったことだろうか。