それでも安倍晋三氏を支持するのか?北方領土2島返還への転換を認めた元宰相の「売国」ぶり

2022.01.15
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一度投げ出した首相の座に再び就くや、強引極まりない政治手法で民主主義の基本を揺るがした安倍晋三元首相。その無責任ぶりは、自身が売りにしていた外交面でも発揮されていたようです。元毎日新聞で政治部副部長などを務めたジャーナリストの尾中 香尚里さんは今回、年末の北海道新聞でのインタビューで元首相の口から飛び出した北方領土問題を巡る発言を取り上げ、その独善にすぎる姿勢を批判。さらに安倍氏の支持者に対して、元首相の「売国」的な方針を称賛できるのかとの疑問をぶつけています。

プロフィール:尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。1988年毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長、川崎支局長、オピニオングループ編集委員などを経て、2019年9月に退社。新著「安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ」(集英社新書)、共著に「枝野幸男の真価」(毎日新聞出版)。

安倍晋三元首相「北方領土2島返還」発言、支持者はどう受け止めたか?

おとそ気分も抜けた頃だが、それでも忘れがたいのが、年末年始に各種メディアでやたらと安倍晋三元首相の姿が目についたことだ。保守系の雑誌が「やっぱり安倍さんだ!」などと特集を組むのは今に始まったことではないが、複数の一般紙で大型インタビューが組まれたのには、さすがに少々驚いた。

ねじれ国会やコロナ禍という、自分の手に負えない政治状況が生まれるたびに、任期途中で病気を理由に政権を投げ出しては、辞任から間を置かずに「薬が効いた」などとして復権をうかがってきた安倍氏。しかし、2度目の辞任から1年以上が過ぎ、現在の岸田文雄首相はもはや「次の次」だ。岸田氏は昨年10月の衆院選で、議席を減らしたとは言え、世間的には勝利と呼ばれる結果を残している。

ここまで来てまだ「安倍」なのか。無理矢理「影の権力者」を演出する必要がどこにあるのか。年明け早々うんざりしたが、結果としてあの報道の山は、国民がいい加減脱却し、克服すべき「安倍政治」のありようを、年頭に改めて思い起こさせることになった。

山ほど登場した安倍氏の言葉のなかで個人的に強く引っかかったのが、北海道新聞のインタビューで北方領土問題について、四島ではなく歯舞群島と色丹島の2島返還を軸とした交渉に転換したことを、事実上認める発言をしていたことだ。

安倍氏は2018年11月、シンガポールで行われた日ロ首脳会談で、両国の平和条約を締結した後に歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すとした1956年の日ソ共同宣言を「交渉の基礎」に位置付けることで合意した。この時点で「2島返還への転換」は、ある種「公然の秘密」状態になっていたと言えるので、安倍氏の発言は、その意味では別に驚くほどのものではないのかもしれない。

だが、機微に触れる外交課題について、安倍氏がそれまでの「四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結する」という国家方針を自ら転換したことを、軽々しく自慢げに語られると、さすがに「ちょっと待って」と言わずにはいられない。

安倍政治の最大の特徴は「権力行使の仕方が雑に過ぎる」ことだと、筆者は考えている。集団的自衛権の憲法解釈を、国会も通さず閣議決定のみで変更したこと(2014年)。東京高検検事長の定年延長をめぐる国家公務員法の解釈を変更したこと(2020年)など、枚挙にいとまがない。憲法や法律や過去の政治的蓄積などに縛られることなく、自分の都合の良いように権力を行使しようとする。そういうトップが長く政治権力の頂点に君臨した結果、日本の政治から規範意識が失われてしまった。

安倍氏のこうした姿勢は内政において多くみられたが、今回の領土問題をめぐるインタビューは、安倍氏が外交でも同じ態度で臨んでいたことを、改めて知らしめる結果となった。

報道によれば安倍氏は「100点を狙って0点なら何の意味もない」「時を失うデメリットの方が大きい」と語ったという。「時を失う」という言葉に「自分の政権のうちに」外交で目に見える「レガシー」を遺したい、という安倍氏の焦りがうかがえた。

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