中国「ウクライナに同情」の意外。プーチン“報告なき軍事侵攻”に不満の隣国

2022.03.03
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アメリカとの対決では共闘姿勢を見せる中ロですが、ロシアのウクライナ侵攻に対する中国の受け止め方は複雑なものがあるようです。今回、中国とウクライナの親密な関係性や、中国国営テレビ局CCTV4の報道内容を記しているのは、拓殖大学海外事情研究所教授で国際教養大学特任教授も務める名越健郎さん。名越さんは政府の統制下にあるCCTV4のウクライナ侵攻に関する報じ方が、日本や欧米のメディアと変わらぬ点に注目するとともに、旧ソ連圏諸国においては両国が覇権争いを繰り広げている現実を紹介しています。

プロフィール:名越健郎なごし・けんろう
1953年、岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒。時事通信社に入社。バンコク、モスクワ、ワシントン各支局、外信部長、仙台支社長などを経て退社。2012年から拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学特任教授。主な著書に、『北方領土はなぜ還ってこないのか』、『北方領土の謎』(以上、海竜社)、『独裁者プーチン』(文春新書)、『ジョークで読む国際政治』(新潮新書)など多数。

ロシアのウクライナ「侵略戦争」、平和勢力・中国が不満か

ロシアがウクライナに侵攻し、凄惨な市街戦が進む中、ウクライナに居住する中国人も路頭に迷っている。欧米や日本政府はウクライナ在留国民に事前に退去を求めたが、中国政府は注意喚起を呼び掛けただけだった。プーチン政権は2月24日のウクライナ攻撃の最高機密情報を、準同盟国・中国に報せていなかったことになる。

ウクライナの中国人は6,000人

中国はウクライナとも緊密な関係を築いており、「一帯一路」の拠点国と位置付けていた。2020年の貿易総額は154億ドルで、ウクライナにとって、中国が最大の貿易パートナーだ。

ウクライナ在住中国人は、コロナ禍で減少したものの推定6,000人。うち留学生が1,000人という。キエフ、ハリコフ、オデッサの3大都市を中心に居住し、商港のオデッサには富裕層の中国人が多いという。

キエフとハリコフでは市街戦が起きており、中国人もウクライナ市民とともに逃げ回っているはずだ。

中国メディアによれば、在ウクライナ中国大使館は26日、滞在する中国人に、みだりに身元を明かさないよう呼び掛けた。中国政府がロシアの欧州安保構想を支持するなど、ロシア寄りの立場を取ったことから、中国人留学生が脅迫を受けるケースがあるという。

ロシア軍の攻撃で中国人に犠牲者が出れば、中国で反露感情が高まるだろう。

中国TVはロシアの侵略を報道

ロシアと中国のメディアでは、ウクライナ戦況報道が異なる。

ロシアの国営テレビは、キエフなどウクライナ各地の戦況は一切報道せず、東部でロシア系住民がウクライナ政府の迫害を受けているといったプロパガンダ報道を長々と伝えている。

これに対し、中国国営テレビ局CCTV4(国際放送)はウクライナ各地の惨状や庶民の嘆き、ゼレンスキー大統領の悲痛なアピールを大きく報じているという。プーチン大統領の姿が映されることはほとんどなく、ウクライナ側に立つような報道ぶりという。これは、日本や欧米のテレビ報道と変わらない。

● 遠藤誉『中露間に隙間風――ロシアの軍事侵攻に賛同を表明しない習近

政府の統制下にある国営テレビの報道ぶりは、ウクライナへの中国の同情を示唆している。

プーチン政権下でチェチェン戦争、ジョージア戦争、シリア戦争、一連のウクライナ戦争を推進し、好戦的なロシアに対し、中国は1979年の中越戦争以降、本格戦争をしていない。中国の方が「平和勢力」なのだ。

中国の王毅外相は侵攻前、ミュンヘン安保会議で、「ウクライナの主権、領土保全の尊重」を訴えていた。

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