感情論は抜きで議論せよ。安倍氏「国葬」の是非を冷静に考察する

2022.09.19
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賛成派・反対派ともに一歩も譲る気配のない、安倍元首相の国葬の是非を巡る論争。岸田首相の閉会中審査での説明にも国民の多くが納得せず、内閣支持率も危険水域一歩手前となっています。そもそも何がこのような状況を招いてしまったのでしょうか。今回、立命館大学政策科学部教授で政治学者の上久保誠人さんは、生前の安倍元首相の政治姿勢にその原因があると指摘。さらに岸田首相が挙げた「安倍氏の国葬を実施する4つの理由」を丁寧に検証した上で、安倍元首相を国葬で送ることが妥当か否かについての見解を記しています。

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)
立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

安倍氏「国葬」問題。賛成派も反対派も冷静な議論が必要だ

安倍晋三元首相の「国葬」実施を巡り、世論が二分されている。元首相が死去し、岸田文雄首相が国葬実施を決定した直後は「開催賛成」が多かった。だが、次第に「国葬反対」が増えている。メディア各社の世論調査で、「反対」「評価しない」が多数という結果が相次いでいる。

「国葬」を巡って国論が二分している状況は、「政治家・安倍元首相」を象徴しているように思う。安倍元首相は、「お友達」と「敵」をはっきりと分ける政治家だったからだ。

安倍元首相を知る人は口々に絶賛する。「優しい人だった」「よく人の話を聞いてくれた」「困った時に助けてくれた」という人柄を評価する声がある。「アベノミクスで日本経済を救った救世主だ」「憲法改正、安全保障政策に取り組み日本を守ろうとした」「世界中の指導者に慕われた。日本の世界におけるプレゼンスを高めた」などという経済、外交、安全保障などの成果を評価する声もある。

安倍元首相を手放しで絶賛する「お友達」にとっては、「国葬」の実施は疑うべきことのないものだ。岸田首相自身が元々どんな考えだったかはわからない。だが、少なくとも首相に対して「お友達」が「国葬」実施を強く働きかけた結果なのは間違いない。

一方、安倍元首相は「敵」に対しては徹底的に厳しかった。国会で、民主党政権を「悪夢」だったと発言して憚らず、発言撤回を求められると「私にも言論の自由はある」と拒否した。選挙演説では「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と野党支持者に罵声を浴びせた。「日教組」など野党の支持団体に「反日」と言わんばかりの激しい批判を展開し続けた。首相としては、いささか行きすぎた「敵視」だった。

安倍元首相に「敵」とされた人たちは言う。政策的にも、アベノミクスは大企業、富裕層のみに恩恵があり、格差を拡大した。外交も確たる成果がなかった。復古的な軍国主義を進めようとした。彼らは、安倍元首相に「憎悪」といってもいい感情を持つ。「国葬」の実施に激しく反対している。

野党だけでない。自民党内や官僚組織内という身内でさえも、「非主流派」は人事で徹底的に干し上げた。身内からも安倍政権を批判する自由闊達な議論が消えた。官僚組織には「忖度」が横行した。彼らは沈黙を守っているが、心の中では「国葬」に反対している。

「賛成派」と「反対派」は、安倍元首相に対する評価が極端に分かれている。双方に一致する点がまったくなく、歩み寄ることがない「水掛け論」となっている。論争ではなく、感情のぶつかり合いだ。まさに、国民が「分断」している状況といえる。

この「分断」は安倍政権期に起こったさまざまな問題によって広がってきたものだ。だから、「国葬」を巡る現在の状況は、「政治家・安倍晋三」を、よくも悪くも象徴していると思うのだ。

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