核廃絶「全ての人の問題」 被爆者運動、懸けた半世紀―日本被団協の田中代表委員
「核兵器廃絶は、もはや被爆者の問題ではない。今生きている全ての人の問題だ」。被爆者唯一の全国組織・日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)代表委員の田中熙巳さん(88)=埼玉県新座市=は半世紀にわたり被爆者運動に人生を懸けてきた。原爆投下から75年目の夏を迎え、多くの仲間は鬼籍に入ったが、運動への情熱を絶やさず燃やしている。
節目の年、新型コロナウイルスの感染拡大で、高齢化した日本被団協の活動も制約された。国連で開かれる核拡散防止条約(NPT)再検討会議に被爆者約30人の派遣を予定していたが断念。会議自体も延期となった。だが、田中さんは「75年もやってきた。半年や1年なんて大したことはない」と、今夏も取材対応や慰霊式への出席を精力的にこなす。
13歳の時、爆心地から約3.2キロの長崎市中川の自宅で被爆。伯母や祖父ら親族5人を失った。運動には1970年ごろから携わり、日本被団協の事務局長として約20年間、政府や国連との交渉役を担ってきた。2017年に代表委員に就任した。
コロナ禍の現状を「人類規模で自分たちの存在を考えるチャンスかもしれない」と言う。日本被団協はオンラインでの被爆証言を始めており、「若い人と一対一でつながりやすくなった。集会より気持ちが伝わる」と新たな手応えも得た。
日本被団協は1956年の結成以来、核兵器の非人道性を体験に基づき伝え、核廃絶を目指してきた。地道な取り組みもあり、17年には核兵器禁止条約が採択されたが、発効には至っておらず、日本政府も批准していない。
田中さんは「われわれは政治家でも外交官でもない。放射線の影響でどれだけ多くの人が苦しんできたか。人間の一生を支配する核兵器は二度と使ってはいけない、と言い続けるのが被爆者の役割」と力を込める。
一方、被爆者に残された時間は多くはないとも実感している。だからこそ、「核廃絶は被爆者の運動ではない。人類が存続するため、全ての人の運動だ」と声を上げ続ける考えだ。(2020/08/08-07:25)