誰もが発信できるという恐怖。ジャーナリストが伝授、ネット時代の情報はどう扱うべきか

 

社員になるかフリーで生きるか

「リポーター」というと、訳せば「記者」なのですが、片仮名で言う場合のそれは普通、テレビの現場報告者のことを指すことが多い。現場に行かないで、テレビのワイドショーなどでスタジオに座ってどうだこうだ言っているのは「コメンテーター」で、訳せば「解説者」です。私は昔、リポーターもコメンテーターもずいぶんやりましたが、文章だと「推敲」と言って、読み直して手直ししたり書き直したりすることも出来るのに、テレビの生のリポートやコメントではそうはいかず、その場限りの瞬間勝負なので、自分の発する「言葉」の取り返しのつかなさという厳しさを味わいました。

文章や言葉ではなく写真や動画など映像で日々の出来事を報じる場合もあり、報道写真家やビデオジャーナリストがそれ。ビデオジャーナリストは1990年代にアメリカから出てきた報道スタイルで、たった一人で小型のソニーかパナソニックの小型ビデオカメラと三脚を持って現場に行ってカメラマン兼リポーターをこなします。まあ今ではユーチューブなどSNSを通じて誰でもそういうことが出来る時代になってしまいましたが。

さて、職業としてのジャーナリストということになると、大手のマスコミに就職してサラリーマンとして仕事をするのか、フリーランスとして特定のメディアには所属しないのかという違いがあります。私は約55年になるジャーナリスト人生のほとんど、50年間をフリーランスで過ごしていますが、これはなかなか悩ましい問題で、端的に言いますと、会社に就職すればメシを食うのに心配はないが思い通りの仕事が出来るかどうかの保証はなく、他方、フリーだと好きな仕事はできるかもしれないがメシを食うのは難しい――という矛盾です。

情報は「凶器」であるという自覚

近頃に起きている大きな問題は、「発信」するについてのプロとアマチュアの境界線はどこにあるのかということです。今時の若い皆さんは、生まれついた時から、あるいは遅くとも物心ついた頃にはすでに「ネット」があって、それで何もかも検索することが出来てこれほど便利なことがあるのかと思っておられるでしょう。しかし、このネットの恐ろしいところは、「受信」出来るだけではなくて「発信」出来てしまうというところにあるのです。

驚くべき長い年月を通じて、グーテンベルグの印刷術の発明以来600年と言えばいいのでしょうか、人々にとっての情報の自由とは「受信の自由」のことでした。ところが1995年インターネットの出現によって、いきなり「発信の自由」が解禁されて、誰もが「発信の自由」を謳歌することができるようになってしまった。それは素晴らしい情報の民主化の進展ではあるけれども、反面、ヘイトスピーチの乱発に見るような発信の自由の濫用が横行する。

そこで、ジャーナリストの仕事におけるプロとアマという問題が浮上します。誰でも発信できるというのは究極の情報の民主化であるには違いない。しかし、それを享受するにはそれなりの資格とは言わないけれども、或る試された知的水準によるチェックが求められるのは当たり前だとは思うけれども、そうはなっていないのです。

こういう風潮が恐ろしいのは、「情報は凶器である」ということの自覚を欠いていることにある。誰もが発信することが出来るのは結構ではあるけれども、その言論が簡単に他者を傷つけたり殺したりすることが出来ることの怖さを知るべきでしょう。〔続く〕

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年1月29日号より一部抜粋・文中敬称略)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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