葵マガジン

  • ¥0

    無料

毎週土曜日発行のオリジナルSF・ファンタジー小説マガジン。 【現在連載中】 『聡明鬼』 神鬼たちが閻羅王の統治の下に人間界の土地を統べる世界。地獄の王に唯一人追従しない鬼がいた。名はリューシュン。通称は聡明鬼。森羅殿の営みを揺るがす力を、彼は持っていた。その力を与えたのは、上天を統べる玉帝であった。長編異界ファンタジー。全100話。

著者サイト
 

メールマガジンを登録(無料)

もしくは

※ 各サービスのリンクをクリックすると認証画面に移動します。
※ 各サービスで登録しているメールアドレス宛に届きます。

メールマガジンを解除

もしくは

※ 各サービスのリンクをクリックすると認証画面に移動します。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
 
メルマガ名
葵マガジン
発行周期
週刊
最終発行日
2019年02月16日
 
発行部数
3部
メルマガID
0001683577
形式
PC・携帯向け/テキスト形式
カテゴリ
アート・文芸 > 文芸 > 小説

まぐまぐ!メールマガジンの用語集です。
下記の用語以外の不明な点はこちらをご覧ください。

 
発行周期
週1回、月1回などの発行頻度です。
部数
メルマガの配信数を記しています。
カテゴリ
まぐまぐ!に登録されているカテゴリです。
形式
メルマガには以下の配信形式があります。下部「メルマガ形式」をご参照下さい。
 
最終発行日
最後にメルマガが配信された日付です。
メルマガID
メルマガを特定するIDです。
RSSフィード
RSSを登録すると、更新情報を受け取ることができます。

― メルマガ形式 ―

  • PC向け
    パソコンでの閲覧に最適化したメルマガ
  • 携帯向け
    スマートフォンやフィーチャーフォンでの
  • PC・携帯向け
    PC・携帯どちらでも快適にご購読いただけます。
  • テキスト形式
    文書だけで構成された、一般的なメールです。
  • HTML形式
    ホームページのように文字や画像が装飾されたメールです。
  • テキスト・HTML形式
    号によって形式が変更する場合があります。

閉じる

メールマガジン最新号

*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*
  葵マガジン 2019年02月16日号
*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*
◇◆◇◆聡明鬼◆◇◆◇
 第35話 疑心暗鬼(全100話)

 荒野に、風が吹く。
 枯れ枝が揺れ、草がなびき、乾いた砂が舞い上がる。
 道もなければ、通る者もいない。
 虫と鳥と小動物が土の上や土の中、枝の上、低い空などで生を営む。
 兎が、雑草の柔らかい葉を無心で齧っている。
 が不図動きを止め、耳をそばだて、その黒い眼で周囲を見回す。
 出し抜けに草薮の中から薄茶色の毛並を持つ天敵が飛び出して来た。
 兎は文字通り脱兎のごとく駆け去る。
 茶色の影はするするする、と何にも体を擦らせることなくしなやかに兎を追う。
 兎は死に物狂いで地を駆けるが、哀れにも天敵の疾さに到底敵うものではなかった。
 茶色の天敵は牙を剥き、走りながら兎の背中から喰らいつく。
 兎の体は跳ね上がり、容赦なく貫かれ--
 しかしそのまま何事もなかったかのように止まりもせず兎は走り去って行った。
「楽しそうだな、お前」リューシュンが後ろから声をかける。
「へへ」茶色の影--ケイキョはうきうきとした様子で笑う。「いやあ、懐かしくって、つい」
「流石に精霊と化した今はもう、兎に噛み付いて捉えることはできないな」リンケイがリューシュンに続く。
「それで、ムイはどこに生えているんだ?」コントクとジライがリンケイに続く。
「ああ、ほら、あそこでやす」鼬は鼻先でその方向を示した。
 示された方角には、数多の雑草が生い茂っており、どれがムイなのかすぐにはわからなかった。
「ふむ」だが草木学を専門とする陰陽師には流石にすぐにそれは見つかったようだった。「僅かだが、確かに野生のムイだな」がさがさと、雑草を踏み分け無造作に進んで行く。
「どれが?」リューシュンが続く。
「これさ」リンケイはやはり無造作に、雑草の中の一株を手で握り、根元の土を傍に落ちていた枝で掻き退け引き抜いた。
 葉も小さく根も短い、吹けば飛ぶようなか弱き印象の草だ。
「これが、中毒を引き起こすのか」コントクが感慨深げに陰陽師の手の中の草を眺める。
「はい。種子を粉に挽いたものを摂取すれば幻覚作用が起こり、体力が増大したかのような感覚を催し、岩を打ち砕くことさえ可能になることもあります」
「すごいな」リューシュンがため息混じりに言う。「幻覚でそんなになるのか?」
「ああ。人間の思い込みの力というものは馬鹿にならん。だがその代わり薬の効能が切れると、これまた反作用で凄まじく不快で苦痛を伴う別の幻覚が起こる。例えば体中を小さな虫が何千、何万匹と這いずり回るような」
「うええ」ケイキョが呻く。「最悪でやすね」
「よし、それではこの草を鼬の身に纏わせるとしよう」リンケイが腰に下げた巾着から小さな鉢と陶製のすりこ木を取り出した。「実は成っていないが、草の成分にも多少の作用はあるから全体を粉にする。皆、少し離れて、あまり深く息を吸い込まぬよう気をつけていて欲しい」
 話しながら草を千切って鉢の中に落とし、小さな別の巾着から黒い粉を振りかけた後息を止め、火打石をその上でかつ、と打ち鳴らす。
 たちまち鉢の中に炎が上がり、草は一瞬異様な匂いを放った後黒焦げになった。
 リンケイは鉢に陶製の板を置いて炎を消し、息を止めたまま素早くすりこ木で焦げた草を挽いた。
「これを、あっしの身に?」鼬が不安そうに聞く。「あっしが中毒になったりするようなことは、まさかありやせんよね」
「精霊には効かん」陰陽師はそっけなく答える。
「本当でやすか」ケイキョはほっと息をつく。
「恐らくな」付け足したかと思うとリンケイは鉢の中身を鼬の頭から背にかけて振りかけた。
「--」ケイキョは口を開いたが言葉は出てこず、げほっ、げほっ、と咳き込んだ。
「よし、では行こう」リンケイは立ち上がる。「リョーマ、行くぞ。今は鼬を咥えるな。お前が中毒になってはいかん」
 げほっ、げほっ、と咳き込みながらケイキョは涙眼で、自分を哀れむかのように見下ろす龍馬を見上げた。

          ◇◆◇

 冷たい大気を顔に受けながら、空を昇る。
 巨石が積み上げられた砦と集落ほどの木の家々が見えてくる。
「ここで散開するとしよう」提案はコントクだ。
「では皆、後ほど」リンケイが応じ、彼を除く三人と一匹は一旦低空に降りたリョーマの背から飛び降りた。
「罠が仕掛けてあるようだな」着地したジライが素早く周囲を見渡す。「上を行った方がいい」
「わかった」リューシュンは地を一蹴りし、近くの木の枝を次々に駆け登るとそのままさらに山頂の方角へ昇り始めた。
 ジライとコントクはその疾さに追いつけずにいたが、リューシュンの心は逸り、二人を待っていることなどできなかった。
 走る。
 木の上を、走る。
 山賊たちの姿が地の上にちらほらと見受けられ始めた。
 だがやはりその者たちも、高みをゆく鬼の姿をすらまともに捉えることができずにいた。
「来たぞ」
「聡明鬼だ」
「上へ行ったぞ」
 ただそう伝令を叫びあうのみだ。
 上を目指す。
 だが急に、リューシュンは跳ぶのを止め地に降りた。
 --あ、こいつは俺の役目じゃなかったか。
 降りてしまってから、それを思い出す。
 長い間たった独りで好きな時に好きなようにやってきたせいだろうが、他の者たちと役割を分け合って活動するという枠をついはみ出してしまうところが、リューシュンにはどうしてもあるのだ。
 --まあ、いいか。
 微かに肩をすくめながら、しかしそんなことを思う。
 そもそも、その男の持つ得物がどんなに恐るべきものであろうと、そんなことを怖れるような鬼でもない。
 降り立ったリューシュンの前にいるのは、山賊側の降妖師だった。
「聡明鬼か」テンニは低く呼びながら、打鬼棒を抜いた。「お前とは一度やってみたかった……が、キオウの奴がお前だけは殺すな、と言ってる」
「言われなくても殺される気はないがな」リューシュンはその得物の抜かれる様を目で追いながら答えた。
 一見何の変哲もない、素朴な木刀に見える。
 だがそれに打たれた瞬間、二度と転生、投胎のできぬ、いわば鬼にとっての永遠の“死”に見舞われるのだ。
 --そうすると、もう景色も何も、見ることはできなくなるのかな。
 ふとリューシュンはそんなことを思う。
 血となって流れる、ということになった後は、もう何も見たり聞いたり感じたりすることはなくなるのだろうか。
 --俺は、誰の中にも入ることができないもんなあ。
 またふと、そう思ったりする。
 人が死んで鬼魂になれば、自分の中に入ることができる。
 そしてその後上天へと行くことができる。
 だが自分は、そもそも人ではないのだから、死んだところで鬼魂になることも、誰かの体の中に取り込んでもらえることも、そして上天に召し上げられることも、ない。
 --だから玉帝は俺を、人にはしなかったのかな。もう二度と、上天に戻れなくするために--
 リューシュンの碧の眸が、ふっと翳った。
 --もう二度と、上天には--
「お前次第ということだ」テンニの声がリューシュンの想いに歯止めをかける。「我等につけばよし、あくまで抵抗するならばこの打鬼棒をお前の脳天に打ち下ろすも仕方なき事」
「俺に何をしろってんだ」リューシュンは視界の隅にケイキョの姿を捉えた、だが無論視線は動かさない。
「閻羅王の首を取る手助け、といった所だろうよ」テンニは打鬼棒を無造作に肩に担ぐ。「だが儂が一人いれば、閻羅王を斃すなどたやすいこと、手助けなぞ必要ない。してみると、今儂がお前を斃してもそう不都合はないはずだな」ぽんぽんと打鬼棒をまるで肩叩き棒のように使いながら、半分笑みを浮べてテンニは誰にともなく言う。
「なんで模糊鬼は閻羅王を斃したいんだ」リューシュンは問うた。「一体閻羅王に何をされたというんだ」
「鬼の私怨さ」テンニはくっくっと肩を揺すって笑う。「母親を十八層地獄へ堕とされた事への恨みだ」
「その母親は、なんで十八層地獄に堕とされたんだ」リューシュンは尚問う。「何かやらかしたのか」
「そこまでは知らん」テンニは面白くもなさそうな顔をした。「閻羅王の気まぐれによるものだろう」
「閻羅王は」リューシュンは腕組みをした。「阿呆だが、そんな気まぐれで人や鬼の生命や人生を勝手に書き換えるような暴虐はしない」
「--」テンニはリューシュンをじっと見た。「えらく肩を持つな、閻羅王の」
「そういうんじゃないさ」リューシュンは口をすぼめた。「本当のことを言ってるだけだ」
「ではキオウの母親は自業自得だというのか?」
「多分な」リューシュンは空を見る。「キオウは辛いだろうが、閻羅王に恨みを持つというのはあんまりいいことじゃない」
「まあしかし、あの女が現れたせいでキオウの奴半分腑抜けのようになっておるようだからな」テンニは打鬼棒の先で斜め上をつんと差した。「下手をするとすっかり丸め込まれて、閻羅王退治などもうどうでもいいなどと言い出しかねん」
「--」リューシュンはテンニの言葉に、またしても考えを巡らせ始めた。
 二人で一緒にいると、怖いものはないという状態になるのだと、陰陽師は言った。
 それは、閻羅王さえ怖れるものではないという意味にもとれるが、逆に、閻羅王が何をしようがどうでもいい、まったく構わない、そういう境地をもまた示すものではないだろうか。
 そうなると、今テンニの言った閻羅王退治を止めるという事態も考えられ、そうなると--
「もうお前には用はなくなるということだな」
 その言葉は虚空の中から聞えた。
 すなわちテンニは突如リューシュンの目の前から姿を消し、その上でその言葉を放ったのだ。
 瞬時にリューシュンも跳んでいた。
 右斜め後ろ。
 そっちへ跳んだのは、そこに精霊がいることを察知していたからだ。
 案の定、今までリューシュンが立っていた場所を、テンニの打鬼棒がしたたか空打ちした。
 地が割れる。
「確かにな」リューシュンは片膝を地につけた恰好で体勢を整えながら答えた。「そして同時に、あんたの方もお役御免になるってことだよ」
 テンニはじろり、と上目遣いにリューシュンを睨んだ。
「つまりあんたは」リューシュンは立ち上がった。「ムイを手に入れられなくなる」その片手には、茶色い毛並の鼬の精霊が襟首を掴まれぶら下げられていた。
「--」テンニの目は大きく見開かれた。「そ、れは--」
「さすがにわかるだろ」リューシュンは掴んだケイキョを無造作に振った。「こいつの体に何がついてるか」
「ムイ……なぜ……」テンニの眸が矢庭に落ち着きなく揺れ始める。
「ほら」リューシュンは鼬をテンニに向けて投げた。
 鼬は空中でしなやかに身をよじり、思わず伸ばされたテンニの腕をまるでじゃれつくように体を捻りながらするすると駈け昇り、次の瞬間その反対の手の先にある打鬼棒を咥えて空中に跳んだ。
「こっ--」テンニは慌てて、鼬を掴もうと再び手を伸ばしたが、リューシュンの逞しい両腕によってその手、その腕、その体はがっきと抑えられた。
 もがくが、鬼の力には敵わず、鼬のすばしこさに目も追いつかない。
「あの、鼬は--」声が詰まる。
 実のところ、フラによってムイを見つけてもらったことはまだ一度もないのだ。
 テンニの胸中にひっそりと、本当にこのフラとキオウは自分にムイを供給することができるのだろうか、という疑いが影を落していた。
 そこへスンキが現れ、キオウは存外な程に心を持っていかれたようで、ますます自分との契約についての確かさが危ぶまれてきた。
「あんたが嗅いだ匂いの通りさ」リューシュンはテンニを羽交い絞めにしたまま答える。「ムイのありかを、確かにあいつは知ってるってわけだ」
「--」テンニの頭の中に激しく渦巻くものがあった。
 言葉でなく、思考と呼べるものでもない、得体の知れぬ暗い風のようなものだ。
「あの女を取り戻したいんだな」羽交い絞めにされたまま、テンニはかすれた声で呟いた。「力を貸そう、儂が」
「いらねえ」リューシュンはそっけなく答えた。「あんたの力がなくたって取り戻せるし、あんたにムイをやる気もねえ。交換条件なんてもんは成立しねえぞ」
「--」」テンニは言葉を失い、彼の中を渦巻く暗い風は勢いを増した。
 それは、生への執着と呼んでも良いものだった。

 ふう--

 テンニは突然大きくため息をつき、全身の力を抜いた。
 リューシュンは一瞬緩みそうになったテンニへの拘束を、慌てて締めなおさなければならなかった、だがテンニは策を仕掛けたわけではないようだった。
 降妖師はそのまま、手を離せば地に崩れ落ちそうなほど、気だるげに俯き一切の抵抗を止めたのだ。
 --なんだ……?
 リューシュンは却って警戒した。
 だがテンニは俯き目を閉じたまま、観念したようにしか見えないのだ。
「聡明鬼」後ろから呼ぶ声がした。
 ジライだった。
「捕えたか、テンニを」
「……ああ」リューシュンは降妖師から目を離さぬまま答えた。
「では、あの大木に縛り付けておこう」ジライは太い麻紐--通常鬼の捕獲に使うものだろう--を取り出し、言葉通り杉の大木に手早くテンニをくくりつけた。
 その間もテンニは頷いたまま、言葉も発することなくされるがままだった。
 リューシュンの鬼の手は、今にもその喉首を締め上げたくなるのを耐えるため、小刻みに震えた。
 --何か、あるんじゃないのか……
「よし、ではスンキを取り戻しに行こう」ジライの声がリューシュンを、なすべき事へと引き戻す。
「……ああ」碧の眼はテンニから離れることを嫌がったが、リューシュンはそれを引き離し、スンキのいる場所、キオウの元へと向かった。
 スンキを救い出すのだ。
 そう自分に、言い聞かせながら。

◇◆◇◆次号へ◆◇◆◇
*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*
 発行者:葵むらさき
◇◆◇◆葵むらさき言語凝塊展示室◆◇◆◇
http://aomra.jugem.jp/
*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*v*
 購読解除は以下のページで行って下さい。
http://www.mag2.com/m/0001683577.html#detailbox
メルマガ全文を読む
 

▲ページトップへ

▲ページトップへ