月刊オンライン白馬社

白馬社編集部と社会学作家・秋嶋亮の対談を収録した「週刊オンライン白馬社」の一月分の記事をまとめて配信しております。

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　　　　　　　　　　　　　　　★第7回対談「菅政権が行う恐怖の政策とは」★


編集：　菅内閣が74%という歴代3位の圧倒的支持率とともに発足しました。どうせこれも官邸と御用マスコミによる毎度の
デッチアゲなのでしょうが。

秋嶋：　そもそもこの政権はアベノミクスの継承を主張していますからね。日本を実質破綻させた政策を続けると宣言する
政権の支持率が、そんなにあるわけないじゃないですか。


編集：　ここまで世論調査の捏造がまかり通ると、もはや北朝鮮と大差のない体制です。平壌放送を笑えませんよ。

秋嶋：　そもそもアベノミクスとは80年代頃からラテンアメリカ諸国で実施された「フリードマン型経済プラン」の焼き直
しです。つまり民営化・規制緩和・自由貿易・福祉廃絶・外資優遇・不安定雇用を柱とするステレオタイプな市場原理主義
です。これは世界にただの一つも成功例がありませんからね。すなわち100％の確率で国家を崩壊させる政策メニューなのです。

編集：　にもかかわらず新政権はこれをさらに推進すると言うのだから全く狂っていますよ。

秋嶋：　政治的レント（法案ノルマを達成することによって得られる報酬）のためには、国が滅びてもかまわないという強固
な決意をもって臨んでいる、と言っても過言ではないでしょう。

編集：　これでは「日本を滅ぼす気満々内閣」です。（笑）

秋嶋：　注意すべきことは、「アベノミクスによって日本国の経済は上向き、外交も良好に保たれている。そしてそれを
引き継ぐ形で菅政権が発足した」というトンデモのコンテクスト（文脈）が形成されていることです。

編集：　たしかに新聞やテレビの論調は皆そんな感じです。みんな嘘ばかり垂れ流しています。

秋嶋：　政治学者のアンダーソンは、現代社会がメディアの媒介する相互行為の重層だという「想像の共同体説」を唱えま
した。これは要するに新聞テレビのデッチアゲによって認識の基盤が作られ、それを国民が共有することによって支配が
成立するという論理なのです。

編集：　国民はマスコミを全く疑いませんからね。

秋嶋：　結局のところ、大衆が国家と認識するものはメディアによって誤認せしめられた疑似共同体なのです。ちょっと
難しい言い方をすれば、国家という語は「従属化されたヒト集団」というコノテーション（意味を転化された語）であり、
我々の体系はまさにこのような営みなのです。　

編集：　「現実の安倍政権下」では、GDP、雇用、賃金、貯蓄率、報道自由度、地価、自殺、倒産、廃業、為替、年金、
生活保護、財政など（国民の金融資産をぶち込んで吊り上げた株価以外の指標は）軒並みワーストを記録していますからね。

秋嶋：　それにもかかわらず、これらの一切が真逆の評価を付与され（絶好調のように宣伝され）、あたかも名相の大
実績が、そのまま引き継がれるかのように報道する様は余りにも異常ですよ。

編集：　ここまでデタラメだと、或る種の歴史修正と言ってもいいですね。

秋嶋：　おっしゃる通り、これはもはや人治国家的リヴィジョニズム（歴史修正主義)です。こうして「現代が改竄され
ている」わけです。

編集：　日本社会の狂いの構造が見えてきたように思います。

秋嶋：　リヴィジョニズムは、”客観的・論理的・科学的に構築された歴史モデルから逸脱し、或るイデオロギーに沿って
修正された歴史観”と定義されますが、それは今や我々の社会で新たな規範を形成しつつあるのです。

編集：　具体的にはどういうことでしょうか？

秋嶋：　「素晴らしい政治実績が新しい政権に引き継がれる」という公然の嘘に対し、国民は異議しません。そしてそれを
素直に受け入れています。そんな無思考で従順な態度がプラティーク（無意識の慣習的行為）と化しているわけです。

編集：　確かにその通りです。「安倍さんは立派な仕事を成し遂げた政治家」みたいなイメージが刷り込まれて、疑問を抱か
なくなっています。

秋嶋：　もっともアセッサー（評価・査定を行う者）が国民ではなく多国籍資本であることからすれば、彼らの命令に粛々
と従い国富と経済市場を明け渡した安倍政権はまさに完璧です。100点満点ですよ。それを継承する菅政権も申し分ないで
しょう。

編集：　それにしても菅政権は発足早々から憲法改正を公言して憚りません。本当に恐ろしいですよ。

秋嶋：　「市場原理主義は最終的に戦争国家を目指す」という定理の通りです。要するに小泉改革から20年に及ぶ市場原理
主義（≒新植民地主義）の総仕上げとして、社会資本を軍事に優先する先軍体制が確立されるわけです。

編集：　すでに自衛隊の海外派兵や武器輸出などが合法化されていますからね。残すところは9条の実質解体により自衛隊を
米軍の傘下に再編することだけでしょう。アメリカにとっては戦争を只で外注できるわけですから、願ったり叶ったりです。

秋嶋：　そもそもトランプ政権の閣僚は軍事企業のステークホルダー（利害関係者）で占められていますからね。改憲が
アメリカからの外交圧力であることは容易に推論できます。やはり憲法改正は菅政権の背後にある日本会議の思惑であると
同時に、国境を越える「グローバル・イシュー（世界的な支配人種の命令）」の所産なのです。

編集：　外圧による改憲ですか？しかし、ここまで事情が複雑になると、もはや国民は何が何だか分からないでしょうね。

秋嶋：　結局のところ我々の不幸とは、国の自律した政策遂行能力が「主権の超越的否定」によって失われることなのです。　

編集：　もうはっきり「グローバリズムとは主権の廃止である」と言っていいでしょうね。そしてそれによって、国民の暮ら
しは取り返しがつかない程メチャクチャになっている。

秋嶋：　そうです。日本人の悲劇とは、国家がグローバルな作用域となり、パターナリスティック（国民に温情をかける福
祉的）な政策が廃止され、社会資本（課税や国債によって調達されたカネ）が支配層の利益と非生産的な軍事に傾注され、
行政国家（福祉国家）の構造が解かれることなのです。

編集：　しかしそれについての学究が不在ですよね。抵抗するコアな理論が無いから増々酷いことになっています。

秋嶋：　今やポストモダン論は（ゴチャゴチャ小難しい理屈を並べ立てるだけの）衒学に堕した感すらありますが、元々は
このような現代性が徹底される次元についての考察が使命なのです。

編集：　それにしても菅政権によって日本の状況がさらに悪化することは目に見えています。

秋嶋：　彼らは越境的なインタレスト・グループ・リベラリズム（利益集団自由主義）を絶対化する目論見ですからね。貧困
や格差が絶望的に蔓延ることは間違いありません。安倍政権よりもっと酷いことになるでしょう。

編集：　改憲はこのような支配を永久化することが狙いなのでしょうね。現実として改憲草案には、体制に反抗する者を処罰
できる条項が盛り込まれています。

秋嶋：　そろそろ社会学的に論結しましょう。菅内閣の脅威の核心とは「潜勢力（暗黒法を執行する可能性を秘める事）」で
あり、「集合的暴力（法を措定する暴力と法を維持する暴力の両方を兼ね備えた暴力）」なのです。　

編集：　いよいよ弾圧政府の登場ですか？

秋嶋：　だと思います。しかし戦慄を覚えるのは眼前のテロル（恐怖政治）よりも、カウンター・ディスクール（対抗的討議）が
国民間から生じないという脱感作（刺激に鈍麻した状態）的な社会状況です。やはり僕は先行するイメージとして意識に巨大な焼
け跡を見ているのです。

編集：　ありがとうございました。