吉田繁治
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吉田繁治
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著者プロフィール

吉田繁治

東大フランス哲学専攻。経営と情報システムのコンサルタント。各社の経営顧問を歴任。戦略的システム開発でシステムデザインを担当。最新かつ高度な経営原理も、わかりやすく実践的に提供することに定評。http://www.cool-knowledge.com

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   <963号:中国経済と人民元が向かうところ(1)>

   2018年10月03日:金融危機と外貨準備制の人民元
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著者:Systems Research Ltd. Consultant吉田繁治
著者へのメール    yoshida@cool-knowledge.com
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おはようございます。前号までの<金と基軸通貨>の5回シリーズ
では、感想を、普段の数倍いただきました。関心が高いことなのに、
基軸通貨への本格的な論をほとんど見かけないからでしょうか。

IMFの国際通貨であるSDR(特別引き出し金)を話題にする人は少な
いでしょう。われわれは見たこともなく、政府と中央銀行だけが使
う通貨だからです。(IMF=国際通貨基金)

SDRは、「ハードカレンシーの外貨を引き出す権利」という国籍の
ないマネーです。IMFから借りて、あるいは買って100億SDR(今日
の時価は1.59兆円:通貨バスケット)もつことは、1.59兆円分の外
貨(ドル、ユーロ、円、英国ポンド、人民元)を引き出す預金の権
利をもっていることになります。

SDRも信用通貨のように、無限に大きくすることができます。

今は主に、新興国が通貨危機に陥ったとき、数兆円から10兆円レベ
ルの金額が貸付けられています。IMFは、基軸通貨国の米国が、
ユーロ、円、ポンド、元の助け(出資)を借りて、それをバックに
主導している国際金融機関です。世銀と違うのは、ドルとは違う
SDRの発行権をもつことです。

現在は、米国の経済制裁から通貨危機(リラの暴落と金利の高騰)
に陥った、リラ発行を減らし、金利を上げる緊縮経済をとることを
条件に、IMFからトルコへの金融支援が、検討されています(18年
10月時点)。通貨危機のアルゼンチンは、IMFの支援を受けいれて、
利上げしています。

■ドル・トラップ(ドルの罠)にかかった日本

2000年にユーロを作ってドル基軸圏から離脱したドイツと違い、日
本は「ドル・トラップ」にかかっているからでしょう。

ソ連崩壊後の1990年に、東西ドイツを統一したドイツが、10年計画
で慎重にユーロ圏を主導して作ったのは(2000年)、世界に対する
貿易黒字によってドルが貯まり、そのドルは、祖国である米国の経
常収支の構造的な赤字のため、長期的には下落し、今後も下がるか
らです。

隣国のフランスや欧州との貿易でもドルを使って、ドイツの対仏、
対欧の黒字分のドルが貯まっていたからです。ビールやソーセージ
ではなく、メルセデス・BMW・アウディ・ポルシェなどが、ドルを
稼いでいました。

わが国では、「米国との貿易はともかく、中国との貿易になぜドル
が必要か」という疑問を呈する人は、見当たりません。

エコノミストは「ドル以外に代わりがない」というだけで、基軸通
貨はどうあるべきか、論じません。米ドルは空気や水のような自然
になっているからです。自然の空気に対し「どうあるべきか」を言
っても意味がない。

【対外資産1012兆円】
日本には、ドルの価値(購買力)の行く末を懐疑する思考がない。
このため、対外資産を1012兆円(9.2兆ドル)にまで増やしてきた
のです(2017年末:財務省)。

輸出企業の工場と株式の直接投資は、174兆円(構成比17%)と少
ない。官民の金融機関・政府・企業・個人がもつ、外貨建て金融資
産が838兆円(同83%)です。「なぜドルの金融資産をもつ必要が
あるのか」を問う人はほとんどいません。

【対外純資産329兆円】
海外から日本に投資または貸付けられた、日本にとっての対外負債
は、683兆円です。直接投資は28兆円(構成比4%)しかなく、日本
への工場、商店、資本への投資は少ない。ウォルマートも、西友か
ら引きました。他に海外がもつのは、多くが円建てになっている金
融商品(証券、株式、デリバティブなどの)が660兆円(同96%)
です。

まとめれば、日本は、対外資産が1012兆円(所有者は、金融機関、
政府、企業、個人)、対外負債は683兆円であり、負債を引いた対
外純資産は329兆円です。これは、ドイツ・中国・スイスを超えて、
断然世界1です。(注)逆の、対外純負債国は、1位米国、2位英国
です。米英の二か国で、対外純債務の約80%を占めます。
https://www.mof.go.jp/international_policy/reference/iip/
2017.htm

わが国の対外資産が巨額に貯まった理由は、貿易収支と投資利益
(所得収支)の合計である経常収支の、1981年からの「構造的な黒
字(ドルの超過受け取り)」のほぼ全額で、ドル建ての金融商品を
買ってきたからです。
http://ecodb.net/country/JP/imf_bca.html

【ドル安の時の金融危機】
米ドル建ての資産や有価証券に偏っている対外資産の問題は、ドル
が下落(または暴落)したとき激しく現れます。

ドル建て資産の構成比は、65%~70%、ユーロ建てが15%~20%で
す(財務省は、なぜかこれを公表しません)。ドルが大きく下落し
たときは、ユーロを買っているのがドルなので、時期のズレはあっ
てもユーロもほぼ同じ率、下落するでしょう。このため、「ドル・
ユーロ安→円高」になるのです。

逆の「ドル高・円安」のときは、日本には、為替利益が出ます。こ
れが、日本が「円安/ドル高」を歓迎する根底の理由です。2011年
末から、異次元緩和400兆円の円増発がもたらした円安(80円→
110円台)で円は40%近く下がり、ドルは40%上がりました。

アベノミクスのドル高(円安)は、円に対し5年で累計300兆円の為
替利益を金融機関・企業・政府にもたらし、「株価上昇(時価総額
(678兆円:資産バブルの1989年より多い)」の原因になったので
す。これと逆のことが起こるのがドル安(円高)のときです。

【ドル・トラップ:ドルの罠】
●対外資産を大きく貯めた経常収支の黒字国が、自国通貨の下落を
歓迎して、ドルの上昇を願うのが「ドル・トラップ(ドルの罠)」
です。

中国も人民銀行が外貨準備を3.2兆ドル(352兆円)もっていますが、
対外負債が1.7兆ドル(187兆円)あるので、対外純資産は、1.5兆
ドル(165兆円)と少ない(2017年:中国外貨準備管理局)。

(注)中国の対外債権と対外債務の金額には疑問を呈している人も
多い。例によって、政府統計の実態は不明です。

【20%のドル安でも、日本は、金融危機から財政破産になる】
20%のドル下落になると、日本は1012兆円の対外資産に対して、ほ
ぼ20%の為替差損を蒙ります。ドル下落の時は、米国債の価格は下
がって金利は上がるので、米国株も20%以上下落します。

ドルの下落により、対外資産をもつ日本は、300兆円近い損失を抱
えるでしょう。損をする主体では、多い順にいうと、金融機関、政
府、企業、個人です。為替の損益は、満期まで保有するものは差損
を計上しなくていいとされている円国債の下落と違い、当期決算に
計上しなければならない。

20%のドル安(円高)による、対外資産での200兆円余の損は、日
本に「ドルバブル崩壊後の金融危機」を生むのに余りある損害です。
純債務国の通貨の大きな下落は、「ドルが不良債権化」することと
同じです。

1012兆円の対外資産が20%減って円では808兆円になり、204兆円が
蒸発するのは、日本にとっては、「ドル安がもたらす不良債権」に
相当します。

こうなると銀行は、表面化した損失(資産の減少)から、円国債が
買えなくなり、国内要因で金利が上がり(国債価格は下がって)、
政府の財政破産の、きっかけになります。政府の発行する国債が金
融機関に対して売れにくくなると、売れる価格にまで国債価格は下
がり、金利は2%、3%、4%・・・と上昇して行きます。

つまり、今後、ドル危機になると、国債発行に頼っている日本の財
政も破産させます。

日本の対外負債は、日本の株や債券を海外(主は英米のファンド)
が買ったものです。これは、円建てです。ドルが下落しても、円で
の金額は同じです。日本にとってドル安(円高)では、対外資産だ
けが減ります。

【ドルの暴落は、日本を対外純債務国にし、米国を純債権国にする

仮にドルが40%下げれば(1ドル=68円)、対外資産が60%減る日
本は、対外純債務国に転落します。代わりに、ドル安で、ドル建て
の対外負債が減る米国が、逆転し、対外純債権国に浮上するのです。

対外資産を大きく超過させている日本(対外純資産329兆円)は、
20%のドル安で、一方的に、対外純資産のほぼ全額(329兆円)を
失います。

【プラザ合意でのドル切り下げの事例】
1985年の「プラサ合意での1/2へのドル安」でも、日本の対外資産
で為替差損が起こりました。しかし、33年前は対外資産の金額が小
さかったので、為替差損は、あまり大きな問題にはなりませんでし
た。もっぱら、当年度輸出の減少という問題だったのです。

日本の経常収支が構造的な黒字になったのは、第二次石油危機のあ
と、FRB議長ボルカーの20%への利上げでドルが高騰し(1ドル=
250円)、米国製造業が空洞化した1981年以降だったからです。

20%のドル安とは20%の円高であり、18年10月3日では1ドル113.6
円のドルが、90.9円に下がることです。

●米国の対外負債が、2017年の38兆ドルから40兆ドルに向かって、
毎年約1兆ドルも増え続ける数年後を見渡せば、十分な可能性があ
ることです。

■ドル安のヘッジ

【個別の金融機関、企業、個人ではドル安ヘッジの必要性】
日本の多くの対外資産で、「ドル安ヘッジ(=要はドル投資額と同
じ反対売買)」がされていません。

【常に円安ヘッジをしているヘッジファンド】
円安とともに、日本株が上がるのは、英米系ファンドは、日本株を
買うとき、円先物売り(円安を誘導する)によって円安をヘッジし
ているからです。

株の買いに相当する金額の円の反対売買でヘッジしておけば、円安
(ドル高)の利益と損失は、相殺されます。このため、英米系のフ
ァンドは、日本株を買うときは、円安リスク(円投資でのドル高リ
スク)に備えて、円の先物を売っています。このヘッジ取引によっ
て、株が上がるときは、円も同時に下がるのです。

円先物を買っておけば、限月(清算の期限日)までに、円安になっ
たとき、買いの反対の円売りによって、円安の損失と同じ額の利益
が出るからです。

●経常収支の黒字でドル資産を増やし続け、結局は長期で損をする
という「ドル・トラップ」にかかっている日本は、「ドル売りの為
替ヘッジ」をしておくべきです。

100%のヘッジがあると、例えば米国株への投資でのドル安のリス
クは消えて、米国株の値上がりの利益だけになります。

▼対外資産の過剰保有の日本

ところが、すでに対外資産は1012兆円と大きすぎるので、全体のド
ル安・ユーロ安をヘッジすることは、できません。

対外資産の全部に対しドル先物売りのヘッジを行うと、1012兆円の
津波のような「ドル先物売り(円買い)」になるため、ドルは、一
夜で60%以上も暴落し、円は天井知らずに高騰するからです。

●為替差損をヘッジできない額の対外資産をもつことは、すでに
「対外資産の過剰保有」をしていることになります。こうした認識
をもっている人は、日本にいるでしょうか。

むしろ対外資産の多さを、「日本経済の力の証(あかし)」として
誇っています。経常収支(貿易収支+対外所得収支)の黒字分で、
経常収支が赤字の米ドルを過剰にもつことは、避けることできたの
です。ドル以外の、他の国の金融資産を買えばいいからです。

不安になる一例は、2014年から円国債を日銀に売って、ドル債・ド
ル株を買っている年金運用機構のGPIFです(政府系運用機関)。外
国債券が15%、外国株式が25%のポートフォリオです。対外資産と
は、国と国の関係では貸付金に相当します。年金の掛け金が貯まっ
た総資金量は162兆円です。

ドル建て資産が、65兆円でしょう。20%のドル安で13兆円の損失が
出ます。このドル安で、年金基金は、厚生年金と国民年金の支払い
に難渋する事態が起こります。GPIFは、ドル安のヘッジはしていな
いと推計されるからです。その証拠に「ドル高で利益が出た」と発
表しています。

このときは、財務省がもつ外貨準備1.2兆ドル(132兆円)も20%の、
26兆円の為替差損を蒙ります。政府も、同時に資金不足に陥り、年
金の補填も難しくなるからです。

日本は、海外への貸付金の大きさを、対外資産の多さとして誇って
います。しかし本質的に言えば、金融資産は、別の誰かの負債です。
日本の対外的な金融資産は、65%が「米国への貸付金」です。例え
ばわれわれの預金は、銀行の負債です。銀行への短期貸付金と言っ
ても同じです。

●あらゆる貸付金は、返済ができないくらい大きすぎると、不良債
権化して行きます。それが「ドル安」です。

【米国の対外債務、何が、その問題なんだ?】
ブッシュ政権の副大統領のチェイニー(実質的な大統領:日本では
安倍内閣の菅官房長官に当たる)は、記者からの質問に対して、以
下のように答えています。

「質問は米国の対外債務? 一体、何が問題なんだ?」
ドル安にすれば、その分、対外債務は減るからです。

米国は基軸通貨国です。特権として米国の海外からの借金も、ドル
建てです。ドル建ての累積債務は1985年のプラザ合意のように、ド
ルを1/2に切り下げれば、返済ゼロで1/2に減るからです。米国には、
対外債務を返済するつもりはありません、

対外債務35兆ドル(2017年)は、「いずれの日かのドル切り下げや
ドル安」で、返済できるからです。

以上を考慮すれば、「米国の対外債務、何が、その問題なんだ?」
というチェイニーの回答になります。

(注)これは、国債を、政府にとっては無償のインフレで返済する
のと同じです。

【ドル安のヘッジ】
ドルが下がり、大きな損が出てからでは、ヘッジは遅い。対外資産
を1012兆円もつわが国は、金融危機から、財政破産になるからです。
1012兆円は、円国債に匹敵し、世帯がもつ現金・預金の総額(971
兆円:2018年6月)を超えるものです。

対外資産の1012兆円は、日本世帯の預金総額より大きい。5300万世
帯の総預金971兆円は、金融機関の仲介で、円国債と海外貸付証券
になっています。日銀のサイトの日銀資金循環表は、これを示して
います。
https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf

●「いざとなれば、米政府とFRBがドル安策を取れば、対外債務は
減らせる」というチェイニーの回答を、無効にする方法があります。
それがドル安ヘッジ(ドル先物売り)です。日本は、これを、順次
増やしていかねばならない。

米国の経常収支の構造的な赤字により、対外債務の毎年の増加は確
定していて、海外に増加支払いされたドルにより、5年サイクル以
上の長期ではドル安になるからです。

首相を解任された橋本首相も「米国債を売る誘惑に駆られる」とは
言わず、「ドル安ヘッジをかける」と言えば良かったのです。それ
が金融に成熟した態度です。

(注)ドル先物売りは、ドルが下がったとき、反対売買をして清算
する時点で、下げの分が、為替利益になります。ドル資産、ドル国
債、ドル株をもっている人や会社は、資産保全のため「行わなけれ
ばならない」のがヘッジです。ただし、ヘッジのドル先物売りは、
ドル高になると差損が出ます。ドル安の時は差益が出ます。

しかし・・・政治家の金融リテラシーは国家財政を委託している国
民が困らせるくらい低い。先物やオプションを含むデリバティブ、
あるいはヘッジを理解している人が、何人いるでしょうか。政府機
関の、GPIFのドル債の買いを推進したのも、政府です。

金融機関の間の、総契約額が531兆ドル(5京8410兆円)のデリバテ
ィブは、現代金融の主流なのですが・・・(2017年残高:BIS:国
際決済銀行)。通貨の先物取引も、デリバティブに属します。
https://www.bis.org/statistics/d5_1.pdf

            *

本稿のテーマは、<基軸通貨と金>の後を受け、<中国経済と人民
元が向かうところ>とします。経済の問題は、マネーに集約される
からです。

日本経済の、プラスの国際不均衡は、国籍をもつ基軸通貨のトラッ
プという問題を生んでいます。基軸通貨は、ポンド基軸を滑り落ち
た英国のケインズが、1944年の「ブレトンウッズ会議」で言ったよ
うに、「国籍をもつ米ドルではなく。IMFのSDRのような無国籍の通
貨」でなればならない。

『通貨論』も書いたケインズは、これを知っていて、金準備制の無
国籍通貨である「バンコ-ル(銀行通貨の意味)」を提案していま
すが、金準備制のドル基軸を主張した、米国の財務大臣ホワイト案
に敗れました。

国民経済という国籍をもてば、海外へのドル供給の必要もあるので、
米国の経常収支は構造的な赤字になって、価値が一定であるべき基
軸通貨が、5年以上の長期では下がるからです(トリフィンが指摘
した、基軸通貨のディレンマともいう)。

【原油=ドル決済制】
産油国が「原油はドルでなくユーロで売る」という決定をすれば、
原油輸入にはユーロが必要なって、商品輸出ではユーロを受け取る
よう変わっていくでしょう。

このときドル基軸の体制は、ダムに空いた穴が拡大するように、数
年かけて崩壊していきます。しかし、サウジが決済通貨をドルから
変える見込みは、王制が転覆されない限り、ありません。

【米ドルの石油本位性】
●米国が、中東の紛争に関与し続ける理由は、王制を守って、国王
のとの密約である「原油=ドル決済」を続けることが目的です。米
国の大統領が、王制が好きだからではない。王制を守ることが、ド
ルを守ることだからです。

この中で、1979年に王制を転覆し、核兵器開発を名目に、ドル預金
の封鎖を含んで米国からの経済制裁を受け続けているイランは、ド
ルではなく、ユーロ建てで輸出することを決めています(2016年2
月~)。

トランプがイランの経済制裁を強化した理由がこれです。「ドル基
軸を守るため」とは言えないから、イランの核開発疑惑をもってき
たのです。

【イラン原油の禁輸】
日本に対しても「日量生産340万バーレル(サウジの約1/3:2016
年)のイランからは、原油を買うな」と言っています。これも米国
に経済的な特権、つまり「預金をして節約しなくてもいい多消費社
会」をもたらしているドル基軸を守るためです。

マクロ経済では「貯蓄-投資=経常収支の黒字」です。貯蓄がない
国では、投資のためのマネーがない。米国に対しては、中国、日本、
産油国のドル買い(ドル証券の購入=貸し付け)により、米国にマ
ネーを供給されています。ドル基軸のコストは、原油では価格の上
昇としても、世界の人々が負担します。

米国から経済制裁を受けているイランの原油埋蔵は、1480億バーレ
ルで世界4位です。1位は、掘削施設の老朽化からハイパーインフレ
を起こしているベネズエラ(3031億バーレル)、2位がサウジ
(2662億バーレル)、3位がカナダ(1686万バーレル)、4位がイラ
ンです。

【原油の高騰】
原油が、2018年6月の45ドルから75ドルへと67%上がっているのは、
トランプが発動したイラン原油の輸入禁止令のためです。

世界の原油の確認埋蔵量は1.7兆バーレルとされています。(1バー
レル=159リットル:小さな浴槽分)世界の消費量は、人口70億人
が使い1日に1億バーレル、1年に360億バ-レルです(1人5バーレ
ル)。47年分の原油埋蔵があります(確認埋蔵量)。なおこの数字
は、価格が上がると生産コストの高いものが採掘できるので増えて
行きます。採掘コストが高いシェールオイルやオイルサンドもふん
だんにあるからです。

【世界の金埋蔵が枯渇するとき】
採掘可能な埋蔵量が5万トン、つまり2017年並みの3298トンの採掘
を続ければ、15年とされる金のような枯渇は、原油にはありません。
価格が上がれば、原油の採掘可能な埋蔵量は増えるからです。一方、
金の生産は、価格が上がっても、最大500トンくらいしか増やせな
い。生産を増やせば、枯渇は早まるからです。

金は価格が上がっても、電子回路からのリサイクル(1166トン:
2017年)が500トンくらい増えるだけで、金鉱山の採掘可能な埋蔵
量は増えません。

世界最大の金採掘業のバリック・ゴールド社があり、年間5位の
180トンを生産するカナダでは、金を取り尽して廃墟になった金鉱
山にも行きました。労務員の朽ちた宿舎と、客がいない、広い土産
物店だけがありました。店員はレジの1名。所在無げに力のない視
線を投げていました。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 <963号:中国経済と人民元が向かうところ(1)>
       2018年10月3日:有料版

【目次】

1.新興国の中央銀行が、2010年から金買いに転じた理由
2.世界の金を集めている中国
3.2010年からの、世界の中央銀行の買い
4.元を発行する人民銀行のバランス・シート
5.ドルペッグの、金融政策との矛盾
6.リーマン危機後の、ドルの下落

【後記:トランプ関税と、中国の不良債権の急増】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■1.新興国の中央銀行が、2010年から金買いに転じた理由

最初に、中央銀行が通貨を発行するときの、準備資産と準備通貨に
ついて述べます。多くの人が意識していないことですから、示す必
要があるでしょう。

【新興国の通貨発行の準備資産】
<金と基軸通貨>で少し触れましたが、リーマン危機からのドル安
の2010年以降、世界(主に新興国)の中央銀行は、金を買い増す方
向に転換しています。

新興国の通貨は、中央銀行が外貨と金を準備資産として発行されて
いるものが多い(ロシア、サウジがその代表)。

準備資産は、通貨を発行するときの、信用の裏付け(担保)になる
ものです。国内経済の国際的な信用が低いため、中国国債の、世界
からの評価は低く、通貨価値の担保にはならないからです。(注)
先進国は、自国の国債を担保にして、通貨を発行しています。

そして、多くの新興国は、外貨準備(70%はドル、20%がユーロ)
と金(ゴールド)を担保資産にして、通貨は米ドルに連動させる
「ドルペッグ制」をとっています。理由は、自国の通貨信用が、低
いからです。

【ドルペッグ制の香港ドルと人民元】
人民元の、海外への窓口になっている香港ドルも、ドルペッグ制で
す。このため、香港ドルの背後の人民元も、事実上、ドルペッグ制
です。

人民元の、ドルに対するフロート幅(変動幅)を一定にして、
・市場での売買で元が基準より高くなったときは、人民銀行がドル
を買って下げ(元は売り)、
・安くなったときはドルを売って(人民元は買い)、上げています。

通貨フロート制とも言いますが、目的は「輸出の振興」です。

GDPが世界2位だった日本を、2010年に追い越し、2018年は14兆ドル
(1540兆円)になり、日本(実質GDP537兆円)の約3倍に増やした
中国は、今も、外貨交換では1人年5万ドルの上限規制、つまり資本
規制をしている国です。

華僑の血をもつ中国人企業家や富裕者は、本音では、共産党政府を
信用していないように見えます。元が安くなる兆候が出ると、「元
売り=香港ドル買い=ドル買い」が増え、元が海外流出する傾向を
強くもっているからです。

自国政府への、根本での不信は、日本人にはないものです。これが、
中国共産党が、外貨の購入規制をする理由です。逆の、ドルでの元
買いは自由です。中国からの資本流出になる元でのドル、ユーロ、
円買いに規制があります。

【まだ、ハードカレンシーではない人民元】
資本規制のため、人民元はIMFのSDRの、日本の円(8.33%)を超え
る10.92%の、バスケット構成通貨になっても、ハードカレンシー
ではない(2016年9月)。

ハードカレンシーとは、従来は、金と交換できる金準備制の通貨
(硬い通貨が原義)を言っていました。今は金準備制ではない信用
通貨なので、外貨交換が自由できる資本を自由化した国の通貨を言
います。

世界150か国の通貨の中で、ドル、ユーロ、円、英国ポンド、スイ
スフラン、豪州ドル、カナダドルの、わずか7通貨がハードカレン
シーです。(注)ただし、日本の資本規制が撤廃されたのは、橋本
内閣の1995年の「金融ビッグバン(金融と金利の自由化)」からで
あり、ハードカレンシーとしては新参です。

このときから国債の金利が、日銀から銀行に、不足資金を貸し付け
るときの公定歩合に代わって、金利になったのです。ハードカレン
シーの国では、銀行金利と貸付金利は、自由です。ただし、自由と
いっても、日銀による、国債の売買を通じた金利政策に沿って、民
間の金利も動いています。

【ドル安と新興国の通貨】
●新興国は、米ドルが下がると、ドルが中心の外貨準備も減ったこ
とになって、自国の通貨信用が低下するので、リーマン危機後の下
落したドルと逆に、上がる傾向をもつ金を買ってきたのです。

ドルと金価格が反対に動く傾向が出るのは、通貨や金の先物を売買
している金融機関とファンドが、ドル安のときはポートフォリオ
(異なる値動きの金融商品への分散投資)でドルを売って金の保有
を増やすからです。

金とドルを同じ金額もっていれば、ドル下落のリスクヘッジになる
からです。円から言えば、ドルが下がるとき金が上がる傾向をもつ
ので、金を買うことによりドル安による保有資産の損をヘッジする
ことができます。

■2.世界の金を集めている中国(理由は不明)

【中国の金生産は世界1】
中国は、2007年に、金鉱が枯渇した南アフリカを追い越し、2016年
では453.5トンという世界1の産金国になっています。2位はオース
トラリアの年産290.5トン、3位がロシアの252トンです。中国の金
は、国内需要を賄うという目的から、厳重に、輸出が禁じられてい
ます。本当の目的は、人民元の保有金とすることでしょう。

【金の輸入でも、リーマン危機後のドル安だった2010年からはイン
ドを抜き、世界1】
その上に、中国(人民銀行)は、ゴールドバーを1年に313トン輸入
しています(2017年:WGCのデータ)。

日本は、逆に3.3トンの売りでした(2017年)。大きく買った年度
でも17トンですから、驚くくらい少ない。米国も37トンしか買って
いません。中国のゴールドバーの買いは、2位のインドの164トンの
約2倍です。
https://www.gold.org/research/gold-demand-trends

加えて中国は、宝飾用として698トンという世界1の量を輸入してい
ます。2位がインドの573トン(2017年)。日本は16トンとこれも少
ない。 

宝飾用も、輸入はゴールドバーですが、「宝飾加工用」とすれば、
中央銀行の金保有量を管理しているIMFへの申告が要らないのです。
実は、IMFが管理している世界の中央銀行の金の量には、疑問があ
ります。

【金の供給量と中国の需要】
世界の総供給量は、鉱山から3298トン、リサイクルが1166トン、金
鉱山のヘッジ買いが26トンであり、合計は4439トンです(2017年)。
長期で見ても、4300トンから4500トンの新規供給しかありません。

この中で中国の金買いは、ゴールドバー313トン、宝飾用698トン、
合計では1011トンと世界1であり、世界シェアで23%を占めていま
す。

公式統計では、1011トンの全部が、中国の消費者用とされています
が、「果たしてそうか」と思うのです。

【ドル準備制がもつ矛盾】
推計では、50%が消費者用、50%(年500トン)がドル資産の下落
と、元の上昇で困っているはずの人民銀行でしょう。

後述しますが、人民銀行は、外貨準備制で元を発行しているので、
ドルの下落があると、バランス・シートに忠実なら、上がった元の
発行を抑制しなければならない。しかし、人民銀行が金利を上げて
元の発行を減らせば、一層、元高(ドル安)になるのです。

世界の投資用ゴールバーの需要は、ペーパー・ゴールドの202トン
と中央銀行の買い371トンで、1615トンとされています(2017年:
WGC)。しかし中央銀行の買い増しは、実際はもっと多いでしょう。

(注)1年で4398トン生産されている金の用途別の需要は、
(1)宝飾用(2122トン)と工業用(392トン)が合計2458トン、
(2)投資用のゴールドバーが1029トン、
(3)金ETFが202トン、
(4)中央銀行の買いが371トン、合計で4394トンです
(需給の誤差4トン:2017年:ロスチャイルド系WGCの統計)。

■3.2010年からの、世界の中央銀行の買い

中央銀行が、年400トン平均の売り越しから買い越しに転じた2010
年以降の買い増しは、年度別にいうと、2010年が79トン、2011年
480トン、2012年569トン、2013年623トン、2014年583トン、2015年
576トン、2016年386トン、2017年374トンとされています(WGC)。

世界の中央銀行が400トンの売り越し(=金の市場への供給)から、
350トンから600トンの買いに転じたのですから、1年に750トンから
1000トンの新たな金需要が生まれたことと同じです。この大きな新
規需要(供給に対して17%~23%)が、2009年の1オンス(33.1グ
ラム)800ドル付近の価格を、2011年の1800ドルに高騰させた主因
です。「市場の金高騰/ドル下落」のため、固定レートだったスミ
ソニアン体制が崩壊した1973年以降は、公定価格がない金は、株の
ように、需要が供給を上回れば、上がります。

(注)現在は1217ドル(18年10月13日)。2011年の2.2倍への高騰
のあと、下げた原因は、米国FRBの主導による金ETFの売りです
(2013年915トン、14年183トン、15年128トン)。金価格の高騰は、
ドルの価値の下落と通貨の投資家から見なされるので、FRBは、金
を下げたのです。ただしFRBは年20%程度の上昇なら、金売り誘導
には出ず、許容している感じです。

中央銀行が金を買うときも、金融機関やファンドをエージェントと
すれば、中央銀行の買いにはなりません。また、使用名目を宝飾用
や工業用とすれば、ゴールドバーであっても、投資用のゴールド
バーとはされません。

金の実際の売買は、金で売買されることが多い麻薬の取引(国連の
推計で1年5000億ドル:55兆円)と、タックスヘイブンへのマネー
ロンダリング(巨額だが公式統計はなく金額は不明)も絡んでいる
ので、本当の量は、闇の中に思えます。

【金や株の売買では、エージェントを使う中央銀行】
中央銀行は、普通、直接に金を買うことはしません。日銀が株ETF
を、覆面でエージェントの信託銀行から買っているように、金の買
いでもエージェント(代理人)を使います。日銀の株ETFの買いは、
信託銀行の買いになっているのです。

たとえば、1999年まで金の売り手だったFRBの、売買のエージェン
トは、当時のブリオンバンク(金売買が許可された銀行)のゴール
ドマンサックスとJPモルガンでした。

ブリオンバンクにしか大口の金を売買させなかった理由は、FRBが
金価格をコントロールするためです。株の売買を、特定の証券会社
に委任したことと同じです。FRBの保有金が枯渇した現在、高騰し
すぎた価格を下げるための売りに使うのは、ロスチャイルド系のス
パイダーゴールド社が発行している金ETF(ペーパー・ゴールド)
です。スパイダーゴールドは、日本にも上場しています。

●エージェントの金融機関を使って、売買への関与を偽装する理由
は、「金の高騰を抑える」ためです。2010年からは、世界の最大の
金需要者になった中央銀行が買ったとなると、投機買いを誘い、金
価格は高騰するからです。買い集める時期に、高騰しては困るから
です。

消費者用として、金融機関やファンドが買った金の中の相当な分は、
世界の中央銀行の買いが混じっているでしょう。

2010年以降の金価格は、
(1)中央銀行の買い(400トンの売りから約500トンの買いですか
ら、差の900トンの需要増加に相当)によって上がり(=ドルの実
効レートは下げて)、
(2)エージェントを使うFRBの誘導と思われる金ETF(ペーパー・
ゴールド)の売りによって、前記のように下げています。実に、単
純なマーケットです。

【一定している宝飾用と工業用需要は、金価格上昇の原因にはなら
ない】
金の他の需要である工業用は350トンから450トンで一定しています。
金メッキを電子回路に使う工業用は、急に増えることも、減ること
もない。

宝飾用は、2100トンから2700トンです。宝飾用の需要は、金価格が
下がると増え、上げると減ります。この2大需要は金価格を動かす
要素ではない。

結婚で宝飾品が必要な風習のため、消費者需要の構成比が高い
2018年のインドは、10%以上のルピー安のため、ドル高により金価
格が上がったようになって、金需要を減らしています。宝飾品消費
者の需要形態は、「金価格について行く需要」であり、金価格を作
るものではないのです。

(注)2015年までの一人っ子政策のため、男性に対して女性が少な
い中国では、住宅をもつことが結婚の条件です。結婚できない男性
も多い(3400万人:2017年)。インドの文化では、妻となる側の持
参金は金の宝飾品です。結納が、日本とは逆です。

■4.元を発行する人民銀行のバランス・シート

【1994年からは、元の国際的な信用を得るため、ドルペッグ制をと
った】
国際的な信用がなかった人民元は、鄧小平の命令で一国二制度(共
産主義の中の国家資本主義)に変えたあと、輸出経済を作るため、
ドルペッグにしています。人民元の変動を、米ドルに従属させる制
度です。新興国は、国内所得が小さく内需は少ないので、輸出経済
から成長を始めますが、貿易には通貨の安定が必要だからです。

世界の外為銀行の店頭で売買される人民元が下がると、政府・中央
銀行がドル売り(元買い)に介入し、元を一定線まで上げる。人民
元が上がったときは元売り(ドル買い)をして相場を下げます。こ
れが、通貨価値をドルにリンクさせるドルペッグです。総裁も共産
党員である人民銀行は、政府に完全に従属する機関です。中央銀行
の独立はない。

1994年は「中国の輸出成長の開始」のときでした。実体のなかった
1元=30円の公定レートを、1991年から3年かけて、12円に切り下げ、
ドルペッグにしています。
http://ecodb.net/exchange/cny_jpy.html

【元切り下げの効果】
中国製品の輸出価格は1元30円の時代の40%になり、日本では輸入
価格が40%に下がったユニクロとニトリを発展させ、米国ではウォ
ルマートを先頭にした輸入品ディスカウント業を成長させています。
委託生産するファブレスメーカー(工場を持たないメーカー)の、
アップルも生まれました。

ドルペッグ制を敷いた人民銀行のバンスシート(B/S)は以下の、
資産-負債の構造です。(2017年5月:人民銀行B/S:MUFG(三菱
UFJ銀行)のリポート:1元=17円として、筆者が円に換算)

【人民銀行のB/Sの構造】
     資産          負債・資本
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
外貨準備   355兆円   人民元発行    124兆円
金準備     4兆円   当座預金     382兆円
貸付金    170兆円   政府預金      51兆円
その他資産   41兆円   その他負債・資本  23兆円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
資産合計   580兆円   負債・資本    580兆円

日本の日銀は、円国債を買って信用創造(実際は負債の創造)した
円を発行しています。日本経済と財政の信用が、まだ、あるからで
す。

【政府紙幣から、ドルペッグ通貨へ】
社会主義の裁量が効いた中国国債の対外的な信用は低い。ソ連や東
ドイツのように、共産党政府が任意に発行する政府紙幣だった元の
対外的な信用も低い。政府紙幣は、例外なく過剰発行されてインフ
レ(=通貨価値の下落)を引き起こしていたからです。冷戦の時代
は、共産圏と自由圏の貿易はほとんどなかったのです。

中国は、輸出経済を作るため、1994年からドルペッグにして、元の
価値の安定と、対外的な信用を確保しました。これを「人民元改
革」、または金融制度の整備を含みながら「金融の近代化」と言っ
ています。1990年代からの中国経済は、通貨のクローニー主義から
近代化への歴史でもあります。

社会主義の中に国家資本主義をはめ込んで、世界史にない一国二制
度をとった中国は、輸出で稼いだドルとユーロを、人民銀行が買っ
て外貨を準備通貨にしドルペッグ制をとって、貿易に必要な通貨信
用を確保したのです。

【目的は、安定した通貨レート】
内外からの通貨信用が低いと、商品輸出の経済は作ることはできな
い。輸出入では、基軸通貨のドルとの安定したレートでの交換が必
要だからです。1994年には米国の協調で、人民元を半分に切り下げ、
1ドル=8.72元としています。円では、1元=12円でした(1994年)。

元安にしたのは中国製品の価格を低くし、輸出主導の成長経済を作
るためです。米国は、中国に対し、輸出市場を提供しています。
現在は1ドル=6.9元です。ドルに対しては、26%上がっています
(18年10月13日)。

■5.ドルペッグの、金融政策との矛盾

しかし外貨準備を担保にしたドルペッグ制は、矛盾をはらみます。
ドルが下がるときは米国の消費景気が悪い。。そのときは、中国や
日本からの対米輸出が減ります。

【ドル安とドル高のときの矛盾】
しかしドル安のときは、人民銀行の担保資産である外貨準備額が下
がるため、元の発行を減らして(中央銀行が元を買って回収し)、
緊縮経済をとらねばならない。海外輸出が減った中で、金利を上げ
て元の発行を減らす緊縮策をとれば、悲惨な不況になります。

逆に米国の景気がよくドルの実効レートと株価が上がるときは、外
貨準備の価値が上がるので、元の発行を増やせます。しかし、この
ときは、中国の輸出は好調で、GDPの成長率は高い。

金利が名目GDPの成長率より低い中で増発された元は、あとの金融
危機を招く「不動産バブル」を生みます。金融危機の原因は、常に、
中央銀行または銀行により過剰に信用創造され、貸付けられたマ
ネーの投機された結果である資産のバブルです。

(注)1985年からの日本の資産バブル経済がこれでした。プラザ合
意後の日銀が、円の金利を下げ、マネーの流通量を増やしたことが、
銀行融資の拡大を生み投機買いが起こって、都市部では、地価が5
年で7倍から10倍にも上がる不動産の高騰になっていったのです。
中国では、住宅価格の上昇です。負債での購入で上がってきた住宅
価格が下がると、金融危機になります。

以上が、人民銀行のドルペッグ制が抱える矛盾です。しかし中国は、
共産主義政府からの財政信用が低く、政府紙幣の国際的な信用が低
かった。海外と交易するには、ドルペッグを採らざるを得なかった
のです(1994年~)。

【中国の金融の近代化の推進】
中国金融の近代化という名目で、コンサルタント役として金融利権
(中国商業銀行の株式)にあずかったのが、世界的な政商の色彩が
濃いゴールドマンサックスでした。習近平氏の子息は、ゴールドマ
ンの社員です。

1990年代にドイツがドル圏を離れる計画をもって、統一通貨のユー
ロを推進していたとき、米国は日本以外の米国債の買い手として、
ドル国債の買いを生む中国のドルペッグ制を歓迎し、交換条件とし
て、世界市場(米・欧)を提供しています。

【米国がWTOへの加盟を許諾した:2001年】
ドルペッグ開始の1994年から7年後、2001年には、WTO(世界貿易機
構)への加入を許諾し、輸出主導の中国経済を、米国の誘導で作っ
て行きます。1980年代初期までの共産主義の時代には、考えられな
かった変化です。当時、自由圏との貿易は、ごくわずかだったから
です。

日本の戦後成長は、GDPの200%を超える戦時国債で、財政が破産し
ていた日本(物価は300倍)に対して、1ドル=360円の円安とし、
日本に輸出経済を作るため米国が日本に市場を開放したことから始
まりました(1971年まで1ドル=360円)。

憲法で自前の軍事力を持たないとしたことの交換条件が、経済的な
面でドル通貨圏に入ることだったのです。明治時代には、金本位の
1ドルが同じく金本位の円では約1円、戦前は1ドル=2円くらいでし
た。

【通貨の覇権】
戦争は、経済的には、通貨覇権を広げる手段です。根底は、国家が
関与するマネーの覇権です。このため、2回の世界大戦の戦場にな
った欧州では、二度と戦争をしないために統一通貨のユーロを結成
したという目的があります。

ユーロが統一通貨なら、加盟19か国が戦争をして、自国の通貨圏を
広げることはない。現代の薩長と江戸が戦争をしないのは、人とモ
ノの往来が自由で、同じ円の通貨圏だからです。徳川末期には内戦
がありました。兵器の戦争の前段として、経済面では必ず預金封鎖
と禁輸があるのを見てもわかるでしょう。

人の往来、そして、通貨と交易は平和の手段です。近代以降は、貿
易で緊密に結びついた国同士は、経済的な影響が大きいため、戦争
をしかけることはできない。

【米国にとって、利益の新大陸になった中国】
ドル圏の拡大が国益である米国にとって、1994年からは、一国二制
度の中国でした。しかし1973年までの、スミソニアン体制崩壊後の
ドルと、世界の通貨の固定レートは壊れていました。このため、
1994年からは、人民元とドルとの関係を一定に保つドルペッグを推
進したのです。

リーマン危機の2008年まで、中国と米国は、米ドルとユーロにより
グローバル化する経済の中で、「ドルで結ばれた蜜月関係」でした。
米欧の工場部門が中国になったのです。遅れて日本です。

米欧は、アップルに典型的に見えますが、中国工場に委託生産して
販売する、流通部門になっています。日本では、SPA(専門店製造
直売)のビジネスモデルのニトリ、ユニクロが先頭でした。小さい
文字のラベルを見ると、衣料はもちろん家電や電子製品を含み、他
の新商品でも、その量に驚くくらいMade in Chinaになって、増え
て来ました。

トランプは、中国輸入品への関税(2018年は10%、19年から25%)
により、米国の物価を上げても、約15年の、蜜月の関係を断ち切ろ
うとしています。

■6.リーマン危機後の、ドルの下落

リーマン危機は、海外、とりわけ銀行危機のあとのゼロ金利の日本
からの、キャリー・トレードとドル買いの過剰マネーが、安易な
ローンとして不動産に投じられたことからの、資産バブルの崩壊か
らでした

これは、債権が合成され、デリバティブ化(証券化)していた米国
金融の、資産価値の全面的な急減をもたらしました。

【ドル安】
米国の金融危機は、ドルが売られて下がることでもあります。海外、
特に小泉内閣の日本からの大きなドル買いで上がっていたドルは、
ドル危機だったリーマン危機のあと、売られて急落したのです。
https://honkawa2.sakura.ne.jp/5072.html

【ドルの実効レート】
この表で見ると、ドルの実効価格(世界の通貨の加重平均に対する
ドル価格:緑色のグラフ)を見ると、2000年には指数で128だった
ドルは、2013年には95付近に36%下がっています。

一方で灰色のグラフの人民元は、貿易収支の黒字(=元買い/ドル
売りになる)のため、2006年の83から、2015年には130にまで56%
も実効レートが上がったのです。

ドル・元の関係では、差し引き92%も元の実効レートが上がり、同
じことですが92%ドルが下がったことになります。

【元にとっては、1/2のドル安になった】
一方で、元を発行する人民銀行がもつ外貨資産は、ドル安で、元に
対しては約1/2に下がり、同じことですが、元が2倍に上がったので
す。人民銀行のドル準備は足、元の発行担保として、足りなくなり
ます。人民銀行は、価値が減ったドルを買い増して(=元を増加発
行し)、元のドルペッグを維持してきたのです。

【リーマン危機のあと、ドルと金への認識の変更が起こった】
リーマン危機後には、世界が「金はドルの反通貨(ドルが下がると
金が上がる。逆もある。)」と認識しはじめます。

新興国の中央銀行と、世界の投資家が、ドル資産の下落をヘッジす
るため、上がっていた金を買ったからです。これが、2010年からの、
新興国の中央銀行の金買いの理由です。

日本は、日銀すらもドル以外の世界を見ていません。このため、金
への投資家の認識シフトには、気がついていない。残念なことです。
対外資産のリスクヘッジとしての金買いは、政府、金融機関、企業
が行っていないのです。今も円安がいいとして、ドルだけに縋(す
が)りついています。

【人民銀行の金集めの理由】
人民銀行が、金を集めてきた理由は、リーマン危機後の米ドルの下
落です。ドル安のとき、ドル資産を金で補強しないと、人民元の発
行が、銀行の「浮き貸し」と同じになるからです。(注)スルガ銀
行は、貸付の金利収入を目的に、担保と相手信用を嵩上げした浮き
貸しを行っていました。

【金準備制への野望(推測)】
次は、世界でいちばん大きく金を増やしている人民銀行が、金準備
制への野望をもっているかの検討です。なぜ、金を集め続けている
のか。金準備制のためなら、きっかけと方法は、どうなるのかの、
論理的な推理です。

中国は、リーマン危機後の、人民銀行による4兆元(60兆円)の元
貸付を起点とする企業負債の過剰の結果として起こった不動産の高
騰から、2020年から2021年の金融危機(不良債権の増加)に向かっ
ています。

予測される中国危機の構造は、サブプライムローンの不良化が起点
だったリーマン危機と同じです。1990年代の日本の金融危機、
2008年のリーマン危機、そして、数年内の中国の金融危機の、原因
と結果は同じです。金融緩和により、企業の負債が過剰になって起
こった資産バブルが原因だからです。

しかし、予測には中国の不動産価格の実態の下落を含み、多くこと
を検討しなければならない。

共産党が意図的に数字を作っていた社会主義が残る政府統計では、
今年も、住宅の価格は上がり続けているからです。嵩上げされてい
るGDP統計を含み、中国の統計数字に対しては、他のデータと関連
付けて矛盾を探し、実態を推計する「読み」が要ります。紙幅がな
くなったので、次号とします。

有料版のバックナンバー(約1000編を購読できます↓)
        https://www.mag2.com/archives/P0000018/

【後記】
2019年からは25%に上がる対中国のトランプ関税は、中国企業の輸
出売上を確実に減らします。15%も売上が減れば、企業利益は消え、
赤字会社が増えます。赤字会社への貸付金は、不良化して行きます。

利益の減少は、GDP比で世界1大きな中国の企業負債(GDP比160%:
2016年)の、不良債権化を促進します。トランプ関税は、中国企業
への元の貸付金の不良債権化を促進し、銀行の危機から金融危機が
襲う可能性が一層高まったと言えるでしょう。

多様な可能性を検討しても100%必然に思える中国の金融危機
(「チャイナ・ショック」になるか)に対し、政府と人民銀行は、
どんな対策をもち得るのか。次号で検討すべきは、これでしょう。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【感想やご意見を、お待ちしています。内容は自由ですが、以下は
項目の目処です。】

1.内容は、興味がもてますか?
2.理解は進みましたか?
3.疑問点やご意見はありますか?
4.その他、感想、希望テーマ等
5.差し支えない範囲で横顔情報があると、テーマの選択と記述の
際、的確に書くための参考になります。

気軽に送信してください。読者の方の感想は、励みとその後の記事
の参考にもなりうれしく読んでいます。返事や回答ができないとき
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