世界各国との貿易で巨額の黒字を積み上げ、その不均衡が国際的な摩擦の一因となってきた中国。しかし最新の貿易統計では輸出を上回る勢いで輸入が増加し、多くの国との取引が双方向に拡大していることが明らかになりました。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』ではジャーナリストの富坂聰さんが、2026年1~9月の中国の貿易実績を詳しく紹介。さらに輸出入の品目や伸び率を比較しながら、隣国の貿易に生じている変化と製造業の競争力を考察しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:1~9月の貿易統計で見える中国対外貿易の強さと質の転換
中国は世界の市場をどう変えるのか?1~9月の貿易統計で見える中国対外貿易の強さと質の転換
イラン戦争をめぐるアメリカとイランの不透明な駆け引きが続く中、ホルムズ海峡は依然として世界経済の深刻な変数であり続けている。そんな中、今度はイエメン北部を拠点とする武装組織「フーシ派」がサウジアラビアとの間で激しい戦闘を繰り広げ、紅海入口であるバブ・エル・マンデブ海峡の支配を強めている。
ホルムズ海峡を通る原油にとって、わずかな迂回ルートの意味を持つ紅海入口のバブ・エル・マンデブ海峡が閉鎖の危機に直面するとなれば、中東のエネルギーに依存する世界、とりわけアジアの国々へは深刻な影響が及ぶことは避けられない。
それでも国際通貨基金(IMF)は、「堅調なAI(人工知能)関連投資が中東で起きている戦争に伴うエネルギーショックを相殺する」として、2026年の世界経済成長率を3.1%に上方修正(7月時点の予測値3.0%から)した。
このIMFの予測に関する報道については、同時に日本の名目国内総生産(GDP)が、「2027年にインドと英国の両方に抜かれて世界6位となる見込み」という予測とともに報じられたので、記憶している読者も少なくはずだ。
そんな中、中国の税関総署は14日、2026年第1~3四半期(1~9月)の貿易統計を発表した。その数字の凄まじさに世界は唖然となった。
まず輸出入の総額である貿易総額は39兆9,400億元で、対前年比18.8%の増加となった。この伸びは過去5年間で最大だという。しかも、貿易の拡大傾向も顕著で、第3四半期は対前年比で22.3%も伸びているのだ。
ちなみに第1四半期と第2四半期は、それぞれ15.3%、18.3%の増加であるから、絵にかいたような右肩上がりだ。
また足元の9月だけに限ってみれば、単月で5兆1,600億元と、初めて5兆元を突破した。
この統計を受けて、中央広播電視総台(China Media Group=CMG)は、ホームページに掲載した記事で、中国の貿易を「速さ(快)、新しさ(新)、優位性(優)、良質(好)」という4文字の特徴から説明している。
まず、最初の「速さ」だが、これは発展のスピードで、すでに触れた対前年比で見た拡大のスピードだ。
次の「新しさ」は、中国の輸出品目に起きている先進化を指している。工業用ロボットやコンピュータ関連部品、半導体、コンデンサ、抵抗器などの電子部品、そして電設資材などの需要が大きく伸び、従来の低付加価値の商品からの転換が図れていることを指している。
また「優位性」が意味しているのは構造の最適化である。理由として挙げているのが周辺国との貿易関係の進展である。とくに陸上交通を通じた貿易の拡大が目立った。
そして最後は「良質」という意味だ。これは貿易の双方向性を指している。言い換えれば公平性となるのかもしれない。貿易においては一方が黒字を稼ぎ過ぎれば貿易摩擦は避けられない。
貿易の「良質」さについては、今回の貿易統計から相手国との関係にウインウインの要素が拡大していることが読み取れる。
具体的には中国の2026年1~9月の輸出額の伸び率が16.4%だったのに対して輸入額が増加率は22.3%と輸入が輸出を大幅に上回ったことだ。
中国と貿易する国のうち、なんと120カ国が輸出と輸入の両方を伸ばしたという。
対米貿易を筆頭に世界との貿易で黒字を積み上げている中国には厳しい目が向けられている。そうした逆風を弱めるという意味でも、中国にとっては嬉しい傾向である。
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もはや通用しない従来の「チャイナ・ショック」という思い込み
ちなみにどんなものが輸入品として伸びたのかといえば、目立ったのは機械・電気製品で、中でも集積回路(IC)とメモリ部品が中心を担っている。
「具体的な数字を見ると、集積回路の輸入は前年同期比で56.6%増加し、メモリ部品は同1.5倍増加。また航空機部品は同17.6%増加した」(『人民日報日本語版』2026年10月15日)という。
また工業製品以外で伸びが目立ったのはやはり食料品で、『人民日報日本語版』では以下のように報じられている。
2026年1~9月、中国がマレーシアから輸入したドリアンは前年比で3.3倍増加し、デンマーク・フェロー諸島から輸入したサーモンは同41.4%増、イタリアのオリーブオイルは同28.6%増、フランスの香水は同28.5%増だった。
貿易不均衡を気にしている中国は、常々「中国の発展は世界のチャンス」と主張してきた。そして外国からの輸入量を増やすために中国国際輸入博覧会(輸入博=上海で開催)を2018年から毎年開催してきた。
中国の輸入が増えるということは、中国国内の消費が少し改善しつつあるという解釈にもつながるため、これも嬉しい傾向だ。
そもそも個人消費が振るわない中国が、その穴を貿易で補おうとしているという不満が欧米諸国にはくすぶっていたからだ。
一方、輸出は相変わらず中国の製造業の強さが目立った。
対前年比16.4%増という驚異的な数字をけん引したのは、まずは産業用ロボットだ。産業用ロボットの輸出は対前年比で58.9%増だったというから驚くしかない。
だが、ICは前年からほぼ倍増の99.1%も増えたというから産業用ロボット以上に伸びだ。ICは輸入の方でも大きく伸びたと書いたが、具体的には56.6%増となっている。このことが意味しているのはAI・半導体関連の双方向の活発さだ。
これに続いたのが電気自動車(EV)の72.3%増、リチウム電池の36.4増、風力発電の22.4%増だ。
こうした数字を見ていると、欧米先進国で話題となる「チャイナ・ショック」が、従来の「安価な過剰生産品」によってもたらされるという思い込みは、もう通用しないことがわかるのではないだろうか。
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2026年10月18日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)
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