海外ミステリ通信

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海外ミステリ通信
発行周期
隔月刊
最終発行日
2018年01月15日
 
発行部数
1,050部
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0000075213
形式
PC・携帯向け/テキスト形式
カテゴリ
アート・文芸 > 文芸 > エッセイ

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              月刊 海外ミステリ通信
          第126号 2018年1月号(隔月15日配信)
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★今月号の内容★

〈特集〉       ミステリと乗り物
〈ミステリ雑学〉   ぶらりGoogleミステリウォーク『マルタの鷹』の巻
〈邦訳新刊レビュー〉 『ワニの町へ来たスパイ』『七年の夜』
           『雪の夜は小さなホテルで謎解きを』

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 ■特集 ―― ミステリと乗り物
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ケネス・ブラナー版の映画『オリエント急行殺人事件』をご覧になっただろうか。
ストーリーはみなさんご存じだと思うので省略するが、列車での旅の様子が贅沢で、
心が躍った。ミステリには様々な乗り物が登場する。旅をする、標的を追う、追っ手
から逃れる。乗り物という非日常的な舞台効果で、物語に緊張感が生まれることもあ
る。乗り物好きだと更に楽しめるだろう。傑作と評判の作品、比較的新しめの作品な
ど、乗り物が舞台となっているミステリをいくつかご紹介する。

『大破壊』(上)(下) "THE WRECKER"
 クライブ・カッスラー&ジャスティン・スコット/土屋晃訳
 扶桑社ミステリー/2014.11.10発行 (上)800円(下)800円(いずれも税別)
 ISBN: (上)9784594071035(下)9784594071042

《20世紀初めの米国各地で鉄道事故を起こす〈壊し屋〉と名探偵ベルの対決!》

 1907年。米国の西海岸に沿って南北に走るサザン・パシフィック鉄道ではトンネル
の崩落や列車の脱線といった事故が続いていた。全米一の探偵事務所ヴァン・ドーン
社は事故の調査にアイザック・ベルを差し向ける。数々の事故の背後に〈壊し屋〉と
呼ばれる男が関わっていると推測した探偵ベルは、サザン・パシフィック鉄道の社長
ヘネシーが仕立てた特別列車で北から南へと移動しながら、調査を進める。
 ボストンの銀行家の御曹司で名門イェール大学を卒業したベルは、親の敷いたレー
ルには乗らず、探偵稼業にいそしんでいる。育ちがよく、文武両道で美男のベルが勇
猛果敢に事件を解決するシリーズは、前作『大追跡』から始まった。前作で西部を駆
け巡って事件を解決したベルは、本作では西部からニューヨークまで足をのばし、縦
横無尽の活躍をみせる。
 ベルの指揮にしたがって米国各地にいる探偵が調査に乗り出したあとも破壊工作は
続く。そのためベルは犯人を探すとともに、新たな事件の発生を防がなくてはならな
い。読者には物語の三分の一ほどで〈壊し屋〉の正体が分かる仕掛けになっているが、
犯行の動機はなかなか分からない。ベルのそばにいる犯人は、調査に協力するふりを
しながら凶行を繰りかえし、ベルや彼の恋人マリオンを危険にさらす。終盤で破壊工
作の真相に気づいたベルが犯人と対決して新たな犯行を防ぎ、一連の事件に決着をつ
けるまで700ページほどの長篇だが、途中で飽きることはない。
 長篇ながら中だるみしないのは、登場人物の個性がいずれも際立っていることもあ
るが、〈壊し屋〉の犯行を通して描かれる鉄道の仕組みや豪華列車の様子がとても詳
細で、鉄道ファンならずとも興味をそそられる点も大きいだろう。列車以外に、ベル
やマリオンらが乗るクラシック・カーや船、馬、カヌーなども、ここぞというところ
で登場し、見せ場を作っている。
〈アイザック・ベル〉シリーズは昨年10作目が発表され、第3作(『大諜報』)まで
翻訳されている。ぜひシリーズ全作を翻訳してほしい。
                               (杉山まどか)
◇アマゾン・ジャパンへ
『大破壊』(上)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4594071031/whodunithonny-22/ref=nosim
『大破壊』(下)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/459407104X/whodunithonny-22/ref=nosim
◇著者のサイト(〈アイザック・ベル〉シリーズの紹介ページ)
http://clive-cussler-books.com/category/books/isaac-bell/
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『スカイジャック』 "A TOUGH ONE TO LOSE"
 トニー・ケンリック/上田公子訳
 角川文庫/1998.09.25発行 780円(税別)
 ISBN: 9784042531012

《旅客機ごと360人の乗客を誘拐して、身代金をせしめる方法教えます!》

 国際標準時2014年3月8日17時21分13秒、マレーシアのクアラルンプールから中国
の北京に向けて飛び立ったマレーシア航空370便(ボーイング777-200ER型機/登
録番号9M-MRO)が、乗員乗客239人とともにレーダーからその機影を消し、消
息不明となったことはみなさんもご記憶のことと思う。
 本号で乗り物ミステリ特集をやるにあたって、一番初めに頭に浮かんだのは、この
旅客機行方不明事件のことだった。公式には、翌年マレーシア政府が乗員全員死亡の
墜落事故と発表、その後同機の破片の一部がインド洋域上で発見された。
 だが、著名な航空ジャーナリストのジェフ・ワイズは『旅客機はどこへ消えたのか
:マレーシア航空370便の行方』(山本光伸訳/アマゾン電子書籍)の中で、公開デ
ータなどからハイジャック説を主張し、墜落せずにカザフスタンに着陸していると主
張している。kindle版のみの発行だが、プライム会員なら無料で読めるので、
興味のある方はぜひ一読をお勧めする。現代の航空システムから得られる公開情報を
もとにして真相に迫る筆致は、フーダニット小説なみのスリルが味わえて面白いよ!

 さて、ケンリックだった。

《360人の乗客を乗せてサンフランシスコを飛び立ったジャンボジェット機が忽然と
消息を絶った。空に消えたか、地に潜ったか、ジャンボ機の行方は翌日になっても杳
として知れなかった。狐につつまれたような航空会社幹部の許に一つの小包が届けら
れた。小包にはジャンボ機に乗っていたはずの乗客の身の回り品と、乗客の命と引き
換えに2500万ドル相当のダイヤモンドを渡せとの犯人からの要求書が入っていた。フ
ットボール競技場のも匹敵するような巨大なジェット旅客機と360人もの乗客を犯人
たちは何処に隠したのか? 今ここに史上最大の誘拐事件の幕が開かれた》

 これは、“読まずに死ねるか!”シリーズで、数々のエンタテインメント小説を紹
介した故内藤陳氏の巻末解説におけるストーリー紹介だ。原著は1972年に出版、角川
文庫で邦訳され、その後1987年までに15刷の重版ののち絶版となったが、1998年に改
訳版として復刊、現在はふたたび絶版となっている作品。
 設定からしてシリアスなサスペンスものかというと、探偵役の主人公は弁護士ビリ
ーとその秘書アニーの元夫婦カップル。その会話のやり取りがコメディタッチで、随
所で読者の笑いをとりにくるという、かなり異色の作品に仕上がっている。
 話は緻密な計画に基づいて犯行グループの一人ひとりが犯行に加わるいきさつと、
身代金の受け渡し交渉を進めていく過程、そして消失したジャンボ機と乗客の行方を
追う、ビリー&アニーのふたつの視点で描き分けられていて、ストーリーを追う読者
が事件の真相を推理する楽しみを満喫できるよう、ケンリックの小説技巧がいかんな
く発揮されている。
 さて、ストーリーだけでもじっくり楽しめるこの作品、ジャンボ機と乗組員の行方
の謎ときに関してはもちろん教えるわけにはいかないが、かつてニューヨークの観客
の前であの自由の女神の実物を見事消してみせた、デビッド・カッパーフィールドの
トリックなみに大胆とだけ言っておくことにする。

 フッフッフ……読みたくなったでしょ? 読まずに死ねるか!
                                (板村英樹)
◇アマゾン・ジャパンへ
『スカイジャック』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4042531016/whodunithonny-22/ref=nosim
『旅客機はどこへ消えたのか: マレーシア航空370便の行方』(Kindle Sin
gle)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00WKAKZPI/whodunithonny-22/ref=nosim
◆"David Copperfield - Vanishing the Statue of Liberty"
https://youtu.be/lEsbN5XJOw0
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『彼女のいない飛行機』 "UN AVION SANS ELLE"
 ミシェル・ビュッシ/平岡敦訳
 集英社文庫/2015.08.25発行 1200円(税別)
ISBN: 9784087607109

《飛行機の墜落事故を生き延びた赤ん坊。その子はいったい、誰なのか?》

 1980年12月23日。イスタンブール発パリ行きのエアバス五四〇三便が恐怖の山(モ
ン・テリブル)に墜落した。乗員乗客169名が死亡したが、救助隊員は赤ん坊を救護
する。たったひとりの生存者だ。しかし同機には、生後3か月の青い目をした女の子
が、ふたり乗っていた。DNA鑑定のない時代のこと、2組の家族が、後に「奇跡の
子」と呼ばれるようになるその女の子は自分たちのものだと主張する。ひと組は、成
功した実業家のレオンス・ド・カルヴィルとその妻、マティルドで、孫のリズ=ロー
ズだという。もうひと組は、ワゴン車でクレープ店を営むピエール・ヴィトラルとそ
の妻、ニコルで、孫のエミリー(リリー)だという。判断は裁判所に委ねられ、両家
からさまざまな証言を聞いた結果、赤ん坊はエミリー・ヴィトラルだと決まった。
 しかし諦めきれないマティルドは探偵のグラン=デュックを雇い、「奇跡の子」が
リズ=ローズだと証明できる手がかりを探すよう依頼する。以来18年にわたり、彼は
トルコに毎年、足を運んで調査を続けた。しかしマティルドの期待には応えられず、
あすで契約が切れるというとき、調査過程を記したノートを遺して自殺しようとして
いた。ところが、最後にもういちど、事故を伝える当時の新聞に目をやったとき、探
していた答えをそこに見つけたのだった。
 大惨事を生き延びた「奇跡の子」は、ほんとうは誰なのか。その謎が明かされるま
での物語が、過去と現代を行き来しながらじっくりと描かれている。その過程ではふ
たつの家族が駆け引きをし、さらには殺人事件まで起こる。長い物語ではあるが、緊
張感を持ったまま、最後まで読みとおせる。しかし何と言っても、グラン=デュック
が18年後に当時の新聞を見て、答えに気づいたという設定がすばらしい。何度も見て
きた写真のなかに、ある日、それまで気づかなかった何かを認める、というパターン
はよくある。しかし本書の場合、気づくのは18年後でなければいけなかった。その理
由が、とにかく秀逸なのだ。
 著者のビッシュはフランスのノルマンディ出身。2006年に作家としてデビューした。
本書はフランスでは2012年に出版されたが、名前を知られるようになったのは前年の
『黒い睡蓮』によってだという。順序が前後したが、その『黒い睡蓮』も現在、邦訳
が出ている。
                               (吉野山早苗)
◇アマゾン・ジャパンへ
『彼女のいない飛行機』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087607100/whodunithonny-22/ref=nosim
『黒い睡蓮』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087607402/whodunithonny-22/ref=nosim
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『TGV(フランス新幹線)殺人事件』 "MEURTRE DANS LE T.G.V"
 アラン・フォージャ/長島良三訳
 光文社文庫/1992.10.20発行 524円(税別)
ISBN: 9784334760724

《世界最速の新幹線で技師が殺された。事件の背景にある真相とは?》

 速度では世界で最高の列車、TGV(フランス新幹線)。TGV大西洋線の開通式
には、スペイン国王フアン・カルロスが来賓として迎えられた。列車はボルドーを出
発し、ミッテラン大統領がパリで国王を迎えることになっている。スペインは自国で
TGVを採用する予定で、フランスとしてもスペイン国王に乗ってもらうことが、喧
伝になると考えていたからだ。ほかにも、フランスの政財界の有力者たちも乗り合わ
せている。そんな要人たちの警護を担当するのが、フランス国有鉄道に創設されたば
かりのVIP課の職員、ジョエルだ。しかし出発を控えて車内点検にまわっていた彼
女は、国王が乗るコンパートメントで鉄道技師のベルナールの死体を発見してしまう。
 内務省貴賓警護課の現場責任者、ラブレル警視が捜査をはじめたところ、ベルナー
ルは銃殺されたことがわかった。とはいえ、犯人の特定はできない。やがて出発の時
間を迎えたTGVは、死体と要人たちを乗せたまま走りだした。一方でジョエルは、
乗務しているスタッフのひとりから1通の手紙を渡される。差出人はなんとベルナー
ルで、その内容に彼女は愕然とする。
 本作が発表されたのは1989年。当時はイタリア、ドイツ、日本などが、新幹線の開
発を巡って激しく争っていた。フランスも負けまいとTGVの性能向上に力を入れて
いたが、財政難の国鉄にあって、TGVに予算が割かれることに職員たちが反発した
のも事実だった。さらに、コンピュータ制御で列車が運行されればそれだけ人手が要
らなくなり、人員が削減されるかもしれない。それもまた、職員たちの懸念材料にな
っていた。今回の事件は、そんな彼らがTGVに対して起こした妨害工作なのだろう
か? あるいは、TGVの利権に群がる、政財界人たちの思惑が絡んでいるのだろう
か?
 作中ではフランスの事情だけでなく、ヨーロッパ全体の情勢がさまざまに語られて
いて興味深い。そして、あきらかになる真相。犯人の動機は意外なものだが、そこま
でに張られた伏線をきちんと回収しているので、納得するしかない。
 著者は日刊紙「ル・モンド」で、交通欄を担当する記者だった。それだけに、フラ
ンス国鉄に関する蘊蓄もたっぷり語られていて、鉄道ファンにはたまらない1作にな
っている。
                               (吉野山早苗)
◇アマゾン・ジャパンへ
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4334760724/whodunithonny-22/ref=nosim
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●ジャプリゾが描いた『新車のなかの女』と『寝台車の殺人者』の女性たち

《新車に乗ったダニーと寝台車に乗ったバンビが見つけるもの》

 セバスチアン・ジャプリゾは優れた脚本を書く一方で、ミステリの名作も残した。
なかでも傑作といわれて久しいのは〈わたしは事件の探偵で証人で被害者で犯人だ〉
という惹句も秀逸な『シンデレラの罠』である。ヒロインは2人だが、自らを〈わた
し〉と呼ぶ女性が2人のうちのどちらなのか、語り手の〈わたし〉にも読者にもはっ
きりしない。
 その『シンデレラの罠』の前後に、〈乗り物〉に乗った若い女性が事件に遭遇する
『寝台車の殺人者』と『新車のなかの女』が刊行された。
『新車のなかの女』のヒロイン、ダニーは26歳でパリの広告代理店に勤めている。バ
カンスシーズンの7月、スイスへ旅立つため家族とともに妻の車で空港へ向かう社長
に、その車を空港から彼の家へ戻しておいてほしいと頼まれる。これといった理由も
なく、社長の指示に背いて南仏へ向かったダニーは途中で暴漢に襲われ、けがをする。
それでもパリに戻らず、さらに南へ向かうダニーは、行く先々で見知らぬ人から、少
し前に彼女の姿を見たといわれる。白い新車のサンダーバードを駆る、白いスーツに
サングラス姿で金髪の若い女性は、否が応でも目立つから見間違えようがないという
ところらしい。だがダニーは初めて訪れた土地なのだから、そんなことはありえない
と思いつつ南へ進み、人違いどころではない、もっとありえないことに巻き込まれて
いると気づく。
『シンデレラの罠』も『新車のなかの女』も、自分は一体誰なのかとヒロインが悩む
点は共通している。『シンデレラの罠』は、ある女性が登場人物2人のうちのいずれ
なのか、当の本人にも読者にも分からないところが最大の謎である。そして謎が謎の
ままであるところがこの物語の魅力だ。それに対して『新車のなかの女』は、ダニー
にとって初対面の人々が、ダニーではない誰かをダニーだと勘違いしていることは当
の本人にも読者にも分かっていて、もどかしい思いを深めていくうち、大きな事件に
遭遇するものの、最後はその謎が解けて安心できる。
『寝台車の殺人者』の舞台となる寝台車は、〈乗り物ミステリ〉の傑作、アガサ・ク
リスティーの『オリエント急行殺人事件』の舞台のような欧州を走る豪華列車ではな
く、南仏マルセイユからパリへ向かう列車で料金も高額ではない。列車内で乗客が殺
されるところや同じ列車に乗りあわせた乗客が事件の解決に関わるところはクリステ
ィーの作品と似ている『寝台車の殺人者』だが、同じコンパートメントにいた乗客5
人のうち列車内で殺されるのは1人で、3人は降車後に1人ずつ殺されるところは異
なる。
 また事件の謎解きに関わるのはオリエント急行に乗っていたエルキュール・ポワロ
のような名探偵ではなく、若いタイピストの女性、バンビだ。犯人もその動機も分か
らないまま4人が殺され、残るバンビが最後の被害者になるのではないかと不安にな
るが、『新車のなかの女』と同様、ヒロインは無事で、事件も解決する。
 乗用車と寝台車の違いはあるが、何気なく乗った乗り物で思わぬ事件に巻き込まれ
るダニーとバンビが途中で知りあう男性とハッピーエンドを迎えるのは、どちらの物
語も事件の解決までがとても不気味なだけに、救われる思いがする。そしてジャプリ
ゾの最後の作品で、ヒロインのマチルドと彼女の最愛の男性に奇跡のようなハッピー
エンドが訪れる『長い日曜日』を読みかえしたくなる。
                               (杉山まどか)
◇アマゾン・ジャパンへ
『新車のなかの女』平岡敦訳/創元推理文庫
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4488142079/whodunithonny-22/ref=nosim
『寝台車の殺人者』望月芳郎訳/創元推理文庫
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000JA9KUM/whodunithonny-22/ref=nosim
『シンデレラの罠』平岡敦訳/創元推理文庫
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4488142060/whodunithonny-22/ref=nosim
『長い日曜日』田部武光訳/創元推理文庫
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4488142052/whodunithonny-22/ref=nosim
DVD『ロング・エンゲージメント』(『長い日曜日』映画化作品)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0009Q0J7E/whodunithonny-22/ref=nosim
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《クリスティー、列車と殺人と》

 アガサ・クリスティーで乗り物が出てくる作品といえば、『オリエント急行殺人事
件』を思い出す人も多いだろう。現在上映中の映画、デヴィッド・スーシェ主演の人
気テレビドラマ・シリーズ、あるいは日本版のドラマなどで、何度も映像化されてい
る代表作のひとつだ。
 今回は『オリエント急行殺人事件』をはじめ、列車を舞台にした『青列車の秘密』
と『パディントン発4時50分』の3作品を紹介する。
 イスタンブール発のオリエント急行が、ユーゴスラビアで雪だまりにつっこんで立
ち往生し、一等寝台で殺人事件が起きる。たまたま乗り合わせたエルキュール・ポワ
ロは、やはり同列車に乗車していた鉄道会社の旧知の役員から、現地の警察が到着す
るまでに解決して欲しいと依頼される。殺されたのはアメリカの金持ちで、かの有名
なアームストロング誘拐事件の主犯とされていたものの、証拠不十分で無罪となって
いた人物だった。犯行は恨みからなのかそれとも? 雪に足跡がなかったことから、
一等寝台の乗客の中に犯人がいるはずだとポワロは判断するが・・・・・・。
 その時々のオールスターが総出演して、豪華なオリエント急行が舞台の「オリエン
ト急行」だが、活字で読むと映画ほどの華やかさはない。とはいうものの各キャラク
ターの人物像や背景が、列車内でのポワロの観察や会話など、ほぼ限られた時間と空
間内ではっきりと伝わってくる。そしてなにより謎が解けた後、あれはそういうこと
だったのか、そんな意味があったのかと思わず膝をうつような鮮やかな幕切れに、い
まだ読み継がれる名作の理由だと再確認できた。
『青列車の秘密』は、ポワロ・シリーズ初期作品のひとつ。ロンドン発パリ行きの青
列車の中で富豪の娘ルースが殺され、忌まわしい歴史を持つルビーが盗まれる。誰が
いつどうしてルースを殺し、ルビーを盗んだのか、さまざまな人々がさまざまな事情
で乗りこんだ青列車を軸に人生が交錯していく。
 ポワロの出番がそれほど多くなく、ともすると傍観者のようにも思えてしまうのだ
が、そのかわりに場面や人物が次々に切り替わっていくスピード感が小気味よい。そ
して最後に、そんな語り口についうっかりだまされていた自分に気づくのだ。
 クリスティーのもうひとりの名探偵ミス・マープルが登場する『パディントン発4
時50分』は、上記2冊とは趣を異にする作品だ。
 ミス・マープルは訪ねてきた友人から不思議な話を聞かされる。彼女が乗車したパ
ディントン発4時50分の列車から、併走していた列車の中で起きた殺人事件を目撃し
たというのだ。しかし事件が報道されることもなく、警察や鉄道会社からは友人の気
の迷いとして扱われる。友人を信じるマープルは独自に調査して事件が起きたことを
確信し、家政婦のルーシーを雇って鉄道沿線で暮らすクラッケンソープ家に調査員と
して送り込む。
 今回ミス・マープルは体調不良で自分で調査できそうにない。自分の目となり手足
となる人物として選んだのは、あらゆる家事を完璧にこなすフリーランスの家政婦ル
ーシーだ。マープルの思惑通りに調査員としても完璧な仕事をしたルーシーは、他殺
体を発見する。この死体は誰なのかまた誰が何のために殺したのか、そこからはロン
ドン警視庁クラドック警部の捜査もはじまり、物語の世界が広がっていく。
 しっかりと自分の頭と技術を使って自立している女性として描かれた、ルーシーの
キャラクターがすばらしい。またクラドック警部や、老当主ルーサーをはじめとする
クラッケンソープ家の人々も現代風に言うとキャラ立ちしていて、世界に引き込まれ
ていく。次第に犯人にせまり、最後にミス・マープルが罠を仕掛けていく流れるよう
に進んでいく過程がすがすがしくもあった。
 ストーリーとは全く関係ないが、ルーシーの仕事ぶりを読んでいると思わずうちに
も来てほしいと思ってしまった。
                               (かげやまみほ)
◇アマゾン・ジャパンへ
『オリエント急行の殺人』ハヤカワ文庫―クリスティー文庫
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4151310088/whodunithonny-22/ref=nosim
『オリエント急行殺人事件』角川文庫
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4041064511/whodunithonny-22/ref=nosim
『青列車の秘密』ハヤカワ文庫―クリスティー文庫
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4151300058/whodunithonny-22/ref=nosim
『パディントン発4時50分』ハヤカワ文庫―クリスティー文庫
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4151300414/whodunithonny-22/ref=nosim

DVD
『オリエント急行殺人事件』1974年版
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00DACN6AQ/whodunithonny-22/ref=nosim

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 ■ミステリ雑学 ―― ぶらりGoogleミステリウォーク『マルタの鷹』の巻
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 グーグルのストリートビューっていうのは、年々すごいことになっていて、ちょっ
と前までは「おっ! 店の中まで入れる!」レベルだったのが、今では3Dで映画や
ドラマのドローン撮影映像みたいに、上空からあらゆる角度で街並みを眺めることが
できる。そこで、今回の〈ミステリ雑学〉では、ダシール・ハメットの『マルタの鷹』
(1930)を取り上げたい。
 この名作に関しては、当メルマガ2002年2月号、〈スタンダードな1冊〉でその価
値を書き記したので未読の方はご覧いただくとして、その冒頭で以下のエピソードを
紹介した。

《これは、スペードの相棒であるマイルズ・アーチャーの殺害現場――サンフランシ
スコのブッシュ通りからバーリット小路へ入ったあたりのビルの壁に実在する看板だ。
“WAS DONE IN BY”は“誰それに殺された”の意味。* の連なりの伏せ字には人名が
入る。マニアの間では有名なネタばらしだが、むろん答えは本書のなかにある》

 つまり、作中で起こった殺人現場はここです、っていう銘板が、サンフランシスコ
市中は、バーリット小路のビルの壁にとりつけられている、という話だ。
 いつかサンフランシスコに行くことがあれば、ぜひともそこに行ってみようと思っ
てはや16年がたつが、サンフランシスコどころか、アメリカ本土にはいまだ足を踏
み入れたことはない。そこで、ストリートビューがあるじゃないかと、はたと膝を打
ち、サンフランシスコへ行って探してみようというのが、本稿の眼目だ。

 結果は……おおっ、今もちゃんとそこにあった!

 実際はけっこう苦労したのだが、いったん見つけてしまえばどうということはない
場所なので、皆さんを現地にご案内しよう。まず、ブラウザでグーグルマップを開き、
出発点としてパレスホテルを検索していただきたい。住所は、"2 New Montgomery St,
San Francisco,CA,94105 United States" だ。
 あなたは昨日、はるばる日本から飛行機に乗り、サンフランシスコへとやってきて、
昨日はこのホテルに宿泊、ホテルの玄関をでて左に向かう。そこはホテルの北東側で、
ニューモンゴメリー通りに面している。少し歩くと大通り、マーケット通りだ。
 この交差点で少し右寄りの直進路、モンゴメリー通りを、左にウェルズ・ファーゴ
銀行を見ながら進む。ワンブロック歩くと、サター通りとの交差点に行き当たる。渡
った右側にスタバ、オーガニックサラダ専門店のプロパー・フードが入るシティ・ナ
ショナル銀行のビル、左にはチェース銀行もある。
 さらにワンブロック歩いて、東行き一方通行のブッシュ通りに突き当ったら左に曲
ってまっすぐ進もう。左手にスタバがあるカーニー通りを越え、右側にチャイナタウ
ンの入り口、ドラゴンゲートが見える。さらにストックトン通りを越えたら、左に茶
色のマーケット・リカーズという酒屋さんの建物を探そう。
 この店の正面に向かって右手にある袋小路が、事件現場のバーリット小路だ。車が
1台入れるかどうかの狭い路地だが、グーグルはちゃんと中まで入っている。その入
り口のすぐ右のビルの壁にその銘板は掲げられている。
 銘文は画像解像度が低くて判読不能だが、"Open Plaques" という世界の銘板の写
真と所在地を集めたサイトで読むことができるので、各自ご確認いただきたい。また、
気が短いか、不幸にも方向音痴の諸兄諸姉におかれては、このサイトの所在地リンク
を使ってのワープが可能であることをお伝えしておく。え? だったらもっと早く言
えって?

 それじゃあミステリにならないでしょ!
                                (板村英樹)

【参考サイト】
『海外ミステリ通信』2002年2月号「スタンダードな一冊 ―― スペードのプロフェ
ッショナリズム」
http://archives.mag2.com/0000075213/20020215030000000.html
"Open Plaques "
http://openplaques.org/plaques/10588
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 ■ 邦訳新刊レビュー
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『ワニの町へ来たスパイ』 "LOUISIANA LONGSHOT"
 ジャナ・デリオン/島村浩子訳
 創元推理文庫/2017.12.15発行 940円(税別)
 ISBN: 9784488196042

《訳ありCIA工作員フォーチュン。身を隠すべくルイジアナに来たものの……》

 スパイとルイジアナといえば、映画『007/死ぬのは奴らだ』で英国情報部のスパ
イ、ジェームズ・ボンドが、ルイジアナの町を流れる川をボートで疾走する場面があ
る。アクション満載の007シリーズの例にもれず、この映画では川を走るだけでは飽
き足らないとばかりに、川岸の邸宅の敷地をボンドがボートで突っ切っていく。保安
官は突然やって来て騒ぎを起こす謎の男を捕まえようとするが要領を得ない。世界中
を飛び回り、常に危険と隣り合わせの凄腕スパイと、自然豊かな町で事件にあまり慣
れていないらしい保安官との対比が印象的だ。
 そんなのどかなイメージのルイジアナの小さな町シンフル(罪深いという意味があ
る架空の町)にCIAの女性スパイ、フォーチュンがやって来た。CIAの暗殺作戦
のターゲットである中東の武器商人ではなく、彼の弟を殺してしまったフォーチュン
は、CIA長官の姪サンディ=スーになりすまし、シンフルでひっそりと暮らすこと
になったのだ。件の武器商人がフォーチュンの殺害指令を出したうえ、CIA内部に
裏切り者がいるらしいため、長官直々に潜伏命令が下されたというわけである。折し
もサンディ=スーの大おばマージがシンフルの自宅で亡くなったので、彼女の遺産を
処分するために訪れたという嘘の理由をこしらえて住むことにした。町の住人は誰も
サンディ=スーを知らないので身元はバレないだろうが、自分と正反対のタイプの人
物(美人コンテストの女王で司書で趣味は編み物)のふりをして、退屈な田舎町でい
つまで待機すればいいのか、町に着く前からフォーチュンは不安だった。
 だがそんな不安が杞憂に終わるほど、シンフルは刺激的な土地だった。町に着いた
その日に、マージの飼い犬ボーンズが人骨を見つけたのである。さらにマージの親友
で年老いた女性ガーティときたら、それは嫌われ者のハーヴィの骨のはずだ、ハーヴ
ィを殺したのは彼の妻マリーだと言い出す始末。マリーはガーティたちの親友で、現
在は行方不明とのこと。ハーヴィを殺したのは本当にマリーなのだろうか? 身元を
偽り目立たないように暮らすはずのフォーチュンは、持ち前の身体能力や工作員とし
て磨いた判断力を駆使してハーヴィ殺害の核心に迫っていく。
 町に来た当初は老人ばかりの退屈なところだと思っていたフォーチュンだが、その
老人たち、とくにガーティや〈シンフル・レディース・ソサエティ〉という地元婦人
会の会長アイダ・ベルのたくまざるユーモアと強靭な精神力は桁外れだ。最初はお人
よしと頑固者のでこぼこコンビのように見えるガーティとアイダ・ベル、行方不明の
マリー、故人のマージ。4人が歩んできた道や友情が徐々に明らかになり、殺人事件
の謎が解けていく筋書きは流れるようで、夢中になって読んだ後は気分爽快になる。
 老婦人たちの活躍に目を奪われがちだが、20代後半の若き主人公フォーチュンから
も目が離せない。正義感にあふれる勇敢な工作員である彼女がターゲットの弟を殺し
たのは、彼が企んだ悪事を見逃せなかったからだ。もちろん、想定外の行動で2年分
の工作を1分未満でぶち壊しにしたのだから、フォーチュンは模範的な工作員とはい
えないだろう。それでも免職されず、長官自ら彼女の身を守ろうとするうとするあた
り、将来有望な逸材に違いない。そして自分では意識していないようだが、ミスコン
の女王になりすませるほど美しい女性でもある。
 本書は〈ミス・フォーチュン・ミステリ〉シリーズの第1作。老人ばかりのシンフ
ルでは珍しくフォーチュンと同世代でベーカリーを開く夢を持ってカフェで働くアリ
ー、セクシーな保安官助手カーター、CIA工作員でフォーチュンを支援するベンな
ど高齢ではない登場人物たちの動向も楽しみである。続巻の翻訳が待ち遠しい。
                               (杉山まどか)
◇アマゾン・ジャパンへ
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4488196047/whodunithonny-22/ref=nosim
◇シンフルの住人たち(著者のサイト)
http://sinfullouisiana.com/sinful-residents/
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『七年の夜』
 チョン・ユジョン/カン・バンファ訳
 書肆侃侃房/2017.11.04発行 2200円(税別)
 ISBN: 9784863852839

《少年の〈父さん〉と〈おじさん〉、少女の〈パパ〉。3人の大人の絶望と希望》

 2004年9月12日。11歳の少年チェ・ソウォンの〈父さん〉チェ・ヒョンスが逮捕さ
れた。保安会社に勤める父の転勤に伴い、ソウォンが両親と3人でダムの村セリョン
の社宅に引っ越してから半月後のことだ。ヒョンスの容疑は妻のカン・ウンジュ、ソ
ウォンの同級生の少女オ・セリョン、セリョンの〈パパ〉オ・ヨンジェの3人を殺害
し、ダムの水門を開いて警察官や村の住人を溺死させたというものだった。ヒョンス
の部下で同じ社宅に住む〈おじさん〉ことアン・スンファンに守られて難を逃れたソ
ウォンは、事件後、凶悪な殺人犯の息子として世間から疎外されるようになる。その
間、親戚の家をたらい回しにされていたが、やがて親戚からも見放されたソウォンを、
ゴーストライターとして生計を立てる〈おじさん〉が救ってくれた。
 事件から7年経ったいま、高校を休学中のソウォンは海のそばの灯台村でようやく
静かに〈おじさん〉と暮らしている。だが2011年12月26日、ソウォン宛てに荷物が届
き、中に入っていた手紙やUSBメモリの内容から、事件の真相を知る。ソウォンが
知ったのは過去の事実だけではなかった。〈父さん〉に死刑が執行されたあと、事件
の鍵を握る人物が〈おじさん〉とソウォンの命を狙うつもりでいることも知ってしま
ったのだ。相談したい〈おじさん〉は突然いなくなり、翌27日、〈父さん〉に死刑が
執行されたので、28日午前9時以降、ソウル拘置所まで遺体を引き取りに来るように
との電報が届く。〈父さん〉の遺体を引き取るとき、すなわち〈おじさん〉と自分が
危険にさらされるときまであと半日になった夜、ソウォンは〈おじさん〉と自分を守
るべく、ある行動に出る。
 ソウォンが読む手紙や、事件の謎を追う〈おじさん〉が保存していたUSBメモリ
の情報など、事件の真相が明かされる部分は三人称で、事件前後のソウォンの暮らし
や現在の心境を示す部分は彼の一人称〈ぼく〉で語られる。三人称の部分で事件の背
景や、ヒョンスと妻、セリョンと〈パパ〉の抱えているものを知るにつれ、事件の凄
惨さがいっそう胸に迫り、家族への病的な執着を愛情と勘違いした親がその子に及ぼ
す影響の大きさに愕然とする。また一人称の部分で、セリョンが父ヨンジェを〈パパ〉
と呼ぶ様子や、その〈パパ〉というひと言が〈父さん〉の心にもたらすものは悲しく、
切なく、恐ろしい。そして死刑囚の息子としていわれなき差別を受け、父を見る目は
変化しても、常に父を〈父さん〉と呼び、慕う気持ちは変わらないソウォンと、彼か
ら信頼を寄せられ、チェ親子のために尽力する〈おじさん〉の姿は、新しい家族の形
のように思える。
 本書は映画化され、今年、韓国で公開予定になっている。〈父さん〉と〈パパ〉を
名優リュ・スンリョンとチャン・ドンゴンが演じている。架空の場所ではあるが、美
しいセリョン湖と灯台村がどのように映像化されているのかも楽しみだ。
                               (杉山まどか)
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『雪の夜は小さなホテルで謎解きを』 "GREENGLASS HOUSE"
 ケイト・ミルフォード/山田久美子訳
 創元推理文庫/2017.11.22発行 1300円(税別)
ISBN: 9784488135041

《偶然、見つけた海図に導かれ、少年と少女は謎解きの冒険にくり出す》

 川を見下ろす丘の中腹に建つホテル、〈グリーングラス・ハウス〉。経営者のパイ
ン夫妻の12歳になる息子、マイロが冬休みの宿題をしていると、玄関ポーチのベルが
鳴って来客を告げた。そのあとも来客はつづき、けっきょく5人も宿泊することにな
った。冬の時期には珍しいことだ。学校の休みがはじまり、両親とのんびり過ごせる
と思っていたマイロは、それが気に入らない。そんなとき、彼は宿泊客の誰かが落と
したらしい海図を見つける。
 翌日、思いがけず忙しくなった夫妻のため、料理人のキャロウェイさんとふたりの
娘、リジーとメディが手伝いにやってきた。妹のメディは遠慮することなく、マイロ
にあれこれと話しかける。そして海図のことを知ると、ふたりで持ち主を突きとめよ
うと提案する。マイロは乗り気ではなかったものの、自分の部屋に置いておいた海図
が何者かによって白紙とすり替えられたことに気づくと、やる気に火が付いた。とは
いえ、自分たちのしていることは秘密にしておきたい。そこで、マイロとメディはそ
れぞれがゲームのキャラクターになり、ロールプレイングゲームをしているふりをし
て宿泊客たちから話を聞くことにする。
 とあるホテルで繰り広げられる、海図の持ち主を探す少年と少女の冒険譚と思いき
や、本作の楽しみはそれだけではない。じつはマイロは養子で、心のなかでは屈託を
抱えている。どんなキャラクターになりたいかと考えることは、生みの親のもとで育
っていたらどうなっていたかと考えるのとおなじようなものだった。そしてそんなこ
とを考える自分は、養親であるパイン夫妻を裏切っているように感じていたのだ。し
かし夫妻はそんな息子の気持ちをとっくにお見通しで、彼を大きな愛でやさしく包み
こんでくれる。舞台は雪に降りこめられたホテルでも、心がじんわりと温かくなる物
語でもあるのだ。さらには思いもよらない展開がつづき、その結末にはあっと驚かさ
れる。
 本書は2014年のMWA賞のジュブナイル部門を受賞している。その賞のとおり、ジ
ャンルはいわゆるYA(ヤングアダルト)だ。しかし訳者あとがきにもあるように対
象年齢の上限はなく、どの世代が読んでもかならず心に何かが響くはずだ。
                               (吉野山早苗)
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で行われております。
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■編集後記■
 ケネス・ブラナー版『オリエント急行殺人事件』の見どころのひとつは、セルゲイ
・ポルーニンのアクションですよね。                  (清)
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 海外ミステリ通信 第126号 2018年1月号
 発 行:フーダニット翻訳倶楽部
 発行人:うさぎ堂(フーダニット翻訳倶楽部 会長)
 編集人:清野 泉
 企 画:石田浩子、板村英樹、かげやまみほ、佐藤枝美子、杉山まどか、中島由美、
     矢野真弓、山田亜樹子、吉野山早苗
 協 力:出版翻訳ネットワーク 小野仙内
     西洋冒険譚翻訳倶楽部
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