海外ミステリ通信

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特集や、ミステリ邦訳新刊・未訳原書のレビュー、ミステリ雑学、翻訳家のインタビューなど、ボリュームたっぷり! 毎月15日配信。  発行:フーダニット翻訳倶楽部

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メルマガ名
海外ミステリ通信
発行周期
隔月刊
最終発行日
2017年07月15日
 
発行部数
1,065部
メルマガID
0000075213
形式
PC・携帯向け/テキスト形式
カテゴリ
アート・文芸 > 文芸 > エッセイ

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              月刊 海外ミステリ通信
          第123号 2017年7月号(隔月15日配信)
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★今月号の内容★

〈特集〉      ノベラ・ネグラ・エスパニョーラ(スペイン・ミステリ特集)
〈インタビュー〉   宮崎眞紀さん
〈黒猫フーダのスペイン映画館〉 『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』
            『永遠のこどもたち』『記憶探偵と鍵のかかった少女』
〈邦訳新刊レビュー〉  『スパイの血脈 父子はなぜアメリカを売ったのか?』
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■特集 ―― ノベラ・ネグラ・エスパニョーラ(スペイン・ミステリ特集)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 今回のスペイン・ミステリの特集に当たり、以前〈ニュー・スパニッシュ・ブック
ス〉のインタビューをさせていただいた、スペイン大使館商務部の金関あささんにス
ペインのミステリ事情について言葉を寄せていただいた。

《土臭いスペインの「ノベラ・ネグラ」》

 マヌエル・バスケス・モンタルバンという作家をご存じだろうか。スペインには、
「ノベラ・ネグラ(黒い小説)」と言われる小説のジャンルがある。探偵、ギャング、
警察などの裏の世界を風刺したスリラーやミステリ小説だが、モンタルバン(1939年
~2003年)はこのジャンルの草分け的な作家だ。スペインでは1975年にフランコ将軍
の死をもって独裁政治の幕が閉じるが、フランコに厳しく弾圧されたカタルーニャ地
方出身のモンタルバンは、共産主義の政党に参加したり、デモに加わって投獄された
りする。そんな暗い彼の体験から生み出されたハードボイルド小説は、私立探偵ペペ
・カルバイヨという名の主人公が活躍する人気シリーズとなり、『楽園を求めた男』
(1979年)や『中央委員会殺人事件』(1981年)はスペイン国内外の重要な文学賞を
いくつも受賞した。
 小説なども厳しい検閲を受けた独裁政権下では海外に亡命する作家も多く、スペイ
ンは優れた文学が育つのに相応しい風土ではなかった。しかし、民主化後は、モンタ
ルバンの影響を受けた数多くの作家が誕生している。日本のハードボイルド小説の大
御所でスペインに暮らしたこともある作家の逢坂剛も、モンタルバンの作品を愛読し
たと語っている。日本語に訳されているモンタルバンの作品は数冊あるので、ぜひス
ペインならではの土臭い探偵小説を味わってほしい。
 モンタルバンの主人公カルバイヨが探偵事務所を構えていたのはバルセロナのラン
ブラス地区だったが、『風の影』で「忘れられた本の墓地」の場所をその地域に選ん
だのは、今世紀のベストセラー作家カルロス・ルイス・サフォンだ。世界で1000万部
以上を売り上げた『風の影』を皮切りに「忘れられた本の墓地」が登場する4部シリ
ーズを発表している。一冊の本と出会ったことから、主人公は薄暗いバルセロナで数
々の謎に巻き込まれていく。特に読書好きにはたまらないミステリだ。
 もしかしたら、日本人に一番知られているスペインのミステリ作品は『情熱のシー
ラ』かもしれない。女流作家マリア・ドゥエーニャスによるこの小説はスペインで大
ベストセラーとなった後ドラマ化されて、2015年、日本でもNHK総合テレビで放送
された。貧しいお針子だった少女が、内戦勃発や独裁政権樹立といった歴史に翻弄さ
れ、スパイになっていくというストーリーだが、女性が主人公なだけあって、華やか
さが程よく混ざったスリル満点の作品だ。ドラマをご覧になった方も多いかもしれな
いが、原書はより深みがあって楽しめる。
 北米や北欧の作品とはまた一味違った世界観が味わえるスペインのミステリを、小
説や映画・ドラマでぜひご体験いただきたい。
                                (金関あさ)
◇スペイン大使館のプロジェクト〈ニュー・スパニッシュ・ブックス〉のサイト内、
逢坂剛氏へのインタビューのページ
http://www.newspanishbooks.jp/node/7432

◇アマゾン・ジャパンへ
『風の影』上・下 "LA SOMBRA DEL VIENTO"
 カルロス・ルイス・サフォン/木村裕美訳/集英社文庫
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087605086/whodunithonny-22/ref=nosim
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087605094/whodunithonny-22/ref=nosim

『情熱のシーラ』上・中・下 "EL TIEMPO ENTRE COSTURAS"
 マリーア・ドゥエニャス/宮崎真紀監訳/NHK出版
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4140056657/whodunithonny-22/ref=nosim
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4140056665/whodunithonny-22/ref=nosim
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『情熱のシーラ』DVD BOX1(第1~8話)・BOX2(第9~17話)
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▼当メルマガ2015年7月号でドラマ『情熱のシーラ』のレビューをお読みいただける。
http://archives.mag2.com/0000075213/20150715080000000.html
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『ジブラルタルの女王』(上)(下)"LA REINA DEL SUR"
 アルトゥーロ・ペレス・レベルテ/喜須海理子訳
 二見文庫/2007.08.25発行 (上)790円(下)790円(いずれも税別)
ISBN:(上)9784576071145(下)9784576071152

《スペインの裏社会で、女王と呼ばれるまでになった激動の半生とは》

 グエロ・ダビラはメキシコの麻薬組織に雇われ、小型のセスナ機でコカインとマリ
ファナをアメリカへ密輸していた。しかし、ボスの目をごまかして自分でも商売をし
ていたことが発覚して殺され、恋人のテレサも組織から追われることになった。そこ
で彼女は、ドン・エピファニオを頼る。グエロの父親代わりで、いまは政治の世界に
進出しているが、かつては麻薬王と組んで密輸をしていた人物だ。グエロから託され
ていた、麻薬の密輸に関わる組織や人々について記された手帳と引き換えに、ドン・
エピファニオは彼女をスペインに逃がす。
 スペインのメリージャにおちついたテレサはバーでの仕事に就き、まもなくサンテ
ィアゴと知り合う。彼もまた麻薬の密売人で、ボートでジブラルタル海峡を行き来し
てマリファナやハシシを運んでいた。しかしある夜、税関に発見され、銃撃戦の末に
サンティアゴは命を落とす。彼とともに密輸に関わるようになっていたテレサは、刑
務所に服役することになった。出所後、刑務所内で出会ったパティに誘われてある計
画に加担すると、テレサの運命はまたも大きく動きはじめ、やがて南スペインの裏社
会で“南の女王”と呼ばれるまでになる。
 メキシコの貧しい家に生まれた少女が、いかにしてスペインの裏社会でのし上がっ
ていったか。ジャーナリストの“わたし”がその足跡をたどるという形で、テレサの
激動の半生が語られる。麻薬を題材にしているとはいえ、ドン・ウィンズロウの『犬
の力』のように圧倒的な暴力に満ちたものではなく、どこかスタイリッシュな雰囲気
が感じられる作品だ。終盤、ある人物がテレサを訪ねてきてグエロの名前を挙げると、
彼女はふたたびメキシコへともどる。そこで明かされる真実とは。そして、いま現在、
テレサはどうなっているのか。最後までドラマチックな展開を存分に楽しめる。
 著者のレベルテはスペインの地中海に面した港湾都市、カルタヘナ出身。ジャーナ
リストから作家に転身した。『呪いのデュマ倶楽部』は「ナインスゲート」のタイト
ルで、ジョニー・デップ主演で映画化された。
                               (吉野山早苗)
◇アマゾン・ジャパンへ
『ジブラルタルの女王』(上)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4576071149/whodunithonny-22/ref=nosim
『ジブラルタルの女王』(下)
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『犬の力』(上)ドン・ウィンズロウ/東江一紀訳
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『犬の力』(下)ドン・ウィンズロウ/東江一紀訳
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/404282305X/whodunithonny-22/ref=nosim
『呪のデュマ倶楽部』大熊栄訳
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087732568/whodunithonny-22/ref=nosim
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『バサジャウンの影』 "EL GUARDIAN INVISIBLE" (Nの前のAにアクセント記号)
 ドロレス・レドンド/白川貴子訳
 ハヤカワ・ミステリ/2016.12.15発行 1900円(税別)
 ISBN: 9784150019143

《故郷で発生した連続殺人事件の捜査を通じ、自らの心の闇と向き合うヒロイン》

 本書のヒロイン、アマイア・サラサルは、スペイン北部ナバラ州警察の殺人捜査課
の捜査官だ。わけあって故郷のエリソンドを離れたアマイアは、州都パンプローナで
学業を修めたのち、警察官になった。米国出身の彫刻家ジェームズと結婚した現在も
パンプローナで暮らしているが、久しぶりにエリソンドに帰ることになる。故郷の渓
谷で少女が2人、連続して殺害される事件が起こり、捜査の指揮を任されたためだ。
アマイアは叔母エングラシの家に泊まって精力的に捜査を行うが、事件の解決に結び
つく有力な手がかりを得られないでいるうちに、第3、第4の犠牲者が出てしまう。
 真犯人かと思われる人物が数名浮上するものの、いずれも決め手にかけるまま、物
語の最終盤でようやく真犯人が判明し、5人目の犠牲者は出ずにすむ。とはいえ、真
犯人も、事件の解明に関わる意外な人物も、心に深い傷を負っている。殺人が許され
るものではないことも、被害者が犠牲者であることもいうまでもない。だが、加害者
を探し出して処罰しさえすれば、犯罪で損なわれたものが完全に回復するわけではな
いことに改めて気づかされる。
 事件の捜査と並行して、アマイアが故郷を離れたわけが明らかになるにつれ、幼い
頃の彼女の過酷な体験も明らかになり、胸がふさがれる思いになる。しかし、だから
こそ、アマイアが自らの心の闇を認めて、ジェームズとの絆をさらに深めていく様子
に、心が温まる。
 スペインとフランスにまたがるバスク地方の緑したたる渓谷を舞台に、バスク神話
の大男バサジャウンや女神マリにも話がおよぶので、おとぎ話を読んでいるようにも
感じられ、全体にバスクの地方色が濃い異色のミステリである。
 その一方で、アマイアら捜査官のやり取りから、警官ならではの苦労や、スペイン
の自治警察と治安警察の違いがほのめかされるところは、骨太な警察小説といえるだ
ろう。アマイアがかつて米国で研修を受けたFBIの分析官やロシア出身の科学者が、
アマイアに協力する点は非常に現代的であり、スペインの一地方にとどまらない国際
性を感じさせる。
 幻想的な神話と現代的な警察小説、地域性と国際性というバランスのよさが、この
物語に深みを与えていると思われる。本書はバスクが舞台の3部作の第1部とのこと、
続く第2部、第3部も遠からず翻訳してほしい。
 なお、本書を映画化した作品がスペインでは今年の春に公開されており、インター
ネットで予告編を見ることができる。日本でもぜひ一般公開してほしい映画である。
                               (杉山まどか)
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『ヴェサリウスの秘密』"EL SECRETO DE VESALIO"
 ジョルディ・ヨブレギャット/宮崎真紀訳
 集英社文庫/2016.10.25発行 1100円(税別)
 ISBN: 9784087607277

《エンタメ要素満載! 一気読み必至の600ページ》

 舞台は1888年、万国博覧会を間近に控えたバルセロナ市。大きな発電所が新設され、
展示館の準備も整えられ、市民はお祭りムードに沸いていた。一方スラム街では、手
足を切断されていたり大きな噛み痕がついていたりする若い娘の遺体が相次いで発見
され、悪霊〈ゴス・ネグラ(黒い犬)〉の仕業だと人々を震えあがらせていた。とこ
ろが、万博前に騒ぎは困るとあって、当局は事件を隠ぺいしていた。
 ダニエルは、自宅の火事で、親に決められた婚約者と実の弟を亡くした後、医師の
父親と折り合いが悪くなりイギリスで暮らしていたが、父親の死の知らせを受けて7
年ぶりにバルセロナに帰郷した。葬儀では、火事の直前に駆け落ちの約束をしていた
イレーナと顔を合わせ、胸がざわついた。そんな時、フレーシャという新聞記者が近
づいてきた。ダニエルの父親は自分と一緒にある事件を追っていた、彼はそのせいで
殺されたのではないかという。その事件こそ、スラム街の連続殺人事件だった。
 ダニエルはすぐには信じなかったが、部屋を荒らされ、父親の遺品が盗まれたこと
から疑いを抱き、フレーシャと共に調べはじめる。幸い、盗まれた宝石箱の中身はダ
ニエルが持っていた。それはオムスという、精神を病み、患者仲間を殺して逃走中の
医師のノートだった。内容は日記のようなもので、特に重要なことがあるとは思えな
い。そこで、ひょんなことから知り合った医学生のパウに確かめてもらう。すると、
解剖学の父ヴェサリウスの『人体構造論』は7巻までしかないのに8巻と書かれてい
ると指摘した。単なるミスなのか?
 パウは大学の図書館司書からの情報で、オムス医師の蔵書部屋からヴェサリウスの
書を持ち帰る。ダニエル、フレーシャ、パウがその本を調べると、なんと暗号が見つ
かる。この暗号は事件を解く鍵になるのだろうか? バルセロナ万国博覧会は無事に
開催されるのか? 今は新発電所のオーナーと結婚しているイレーナとダニエルの未
来は? 多くの疑問を抱えながら怒涛のクライマックスへとなだれ込む。
 マッド・サイエンティストを思わせるオムス医師の存在、切り裂きジャックを彷彿
させる若い女性たちの惨殺死体、燃えるような赤い目をした悪霊犬の噂、都市の地下
に張り巡らされた迷路のような下水路での追跡劇、過去の偉大な科学者が残した暗号
に隠された謎。この作品には数々のエンタメ要素が詰まっている。だが、たとえ切り
裂きジャックを彷彿させたとしても本家のように背筋が凍ることはないし、悪霊犬も
おどろおどろしくはないし、登場する悪人でさえどこかユーモラスだ。権威主義の政
治家たちや、出世や私腹を肥やすことで頭がいっぱいの役人や警察官を風刺する一方
で、貧しい庶民は真面目に生き、娼婦さえ魅力的に描かれている。ギャンブル依存で
悪徳高利貸しに借金をしたどうしようもないフレーシャが最後に男前な活躍をするあ
たりも、ピカレスク小説(悪者小説)の血脈を受け継ぐスペインらしさを感じさせる。
                                (矢野真弓)
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■インタビュー   宮崎真紀さん(「崎」は正しくは「大」ではなく「立」)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 スペイン・ミステリというと、日本でも話題になったカルロス・ルイス・サフォン
の『風の影』や英国推理作家協会賞受賞のホセ・カルロス・ソモサの『イデアの洞窟』
が思い浮かぶが、実際にスペインのミステリがどういうものかというイメージは、す
ぐには湧いてこない。そこで、近年、スペイン語圏のミステリやエンターテイメント
の翻訳を多く手掛けておられる宮崎真紀さんにお話を伺った。
+――――――――――――――――――――――――――――――――――――+
|《宮崎真紀さん》東京外国語大学外国語学部スペイン語学科卒。『ヴェサリウス|
|の秘密』(ジョルディ・ヨブレギャット著/集英社文庫)、『偽りの書簡』(R|
|・リーバス&S・ホフマン著/創元推理文庫)、『時の地図』上・下(フェリク|
|ス・J・パルマ著/ハヤカワ文庫NV)など、訳書多数。          |
+――――――――――――――――――――――――――――――――――――+

――スペイン発のミステリはなかなか日本に紹介されることが少ないですが、とくに
理由があるのでしょうか?

 スペインでは1936年に内戦が始まり1939年に終結後、1975年までフランコの独裁政
権が続きました。その間、書籍は厳しい検閲を受けたので、ミステリなどのエンター
テイメント系小説は他国に比べて発展が遅れたという局面があると思います。また、
スペインでは、日本のような純文学とエンターテイメント小説(その中でもミステリ
とかSFとか)といったジャンル分けが進んでいないので、作家がとくにジャンルを
意識して書いておらず、純粋にミステリといえる作品が少ないのかもしれません。

――では、スペインのミステリ的要素をふくむ小説にはどんな特徴がありますか?

 長い独裁政権が終わり、作家たちが自由に書けるようになってまだ40年あまり。当
時は書きたくても書けなかった、そして心に深い傷を残した内戦や独裁政権時代を題
材にしたものが多いですね。でも、最近は世代的にも、ようやくそこから脱した作品
も見られるようになりました。

――もうひとつの特徴として、歴史上の事実を絡めた作品が多いようですが?

 そうなんです。スペイン人は歴史ものが大好きで、歴史小説がひとつのジャンルと
して確固たる地位を得ています。日本でも歴史小説は人気がありますが、これはアメ
リカでは書けない分野ですよね。

――文学とエンターテイメントの区別があいまいだということですが、スペインでは
あまりミステリは書かれてこなかったのでしょうか?

 マヌエル・バスケス・モンタルバンの〈私立探偵カルバイヨ〉シリーズや、フラン
シスコ・ゴンサレス・レデスマの〈メンデス警視〉シリーズといった人気の作品はあ
りましたが、ディクスン・カーやエラリー・クイーンのようなひと昔前のミステリで、
どちらかというと文学的な香りのある作品なので今のエンタメ作品とは少し趣が違い
ます。

 その後の世代では、ロレンソ・シルバの、ベビラクアとチャモロの男女コンビが事
件を捜査する警察ものや、アリシア・ヒメネス・バルトレットの女警部ペトラ・デリ
カドを主人公にしたシリーズがあります。両者とも、スペイン国内では絶大な人気を
誇り、ナダル賞やプラネタ賞といった大きな賞も受賞しており、シルバのベビラクア
&チャモロ・シリーズはテレビドラマや映画にもなっています。ただ、スペイン国内
の事情を知らないと肝の部分がわかりづらいことから日本への紹介はされていません。

 そして最近の世代では、英米ミステリの影響を受けた作品も見られるようになりま
した。

――確かに、トニ・ヒルの『死んだ人形たちの季節』や『よき自殺』は英米ミステリ
と同じような感覚で読めました。

 トニ・ヒルさんは、来日されたときにお会いしたのですが、元々、英米作品の翻訳
をされていたこともあり、英米ミステリの影響を大きく受けていたのでしょう。まさ
に今の時代の作家さんです。

――他にも、スペイン・ミステリの新しい流れはありますか?

 女性作家が出てきたことですね。日本でもドラマが放映された、マリーア・ドゥエ
ニャス原作の『情熱のシーラ』の大ヒット以来、女性作家たちが活躍しています。そ
の筆頭に挙げられるのがドロレス・レドンドでしょう。

 また、スウェーデン発の『ミレニアム』がスペインでも大人気を博しました。この
作品がスペインのエンタメ発展の大きな原動力になったことは間違いありません。

――実際に、その影響を受けたと見受けられるような現象はあるのでしょうか?

 北部のヒホンという街では元々、毎年〈セマナ・ネグラ〉というミステリ・フェア
が開かれているのですが、最近になって、おそらく『ミレニアム』以降だと思います
が、他の各地でもミステリ・フェアが行われるようになりました。ミステリ・フェア
では、優秀な作品にミステリ賞を授与したり、作家による講演やミステリに関する討
論会などが開かれます。フェアが各地に広がったということは、ミステリというジャ
ンルが注目されてきているということだと思います。

――ミステリ・フェアが各地に広がる一方で、作品の舞台はバルセロナが多いようで
すが?

 確かに首都はマドリードですが、経済的・文化的中心地と言えるのはじつはバルセ
ロナなんです。なので必然的に出版社も多く、作家たちもバルセロナに集まってきま
す。その結果、バルセロナ発のミステリが多く生まれているわけです。とはいえ、最
近は他の地方発のおもしろい作品も出てきています。

――たとえば、お薦めの作品はありますか?

 前述の女性作家ドロレス・レドンドの『バサジャウンの影』は、バスクの地方色と
ミステリが見事に融合した作品でお薦めです。

――国内の地方ではありませんが、同じスペイン語で書かれる中南米の作品はどうで
しょう?

 アルゼンチンの作品がとくにおもしろいですね。グスタボ・マラホビッチの『ブエ
ノスアイレスに消えた』は、時間や場面が急に飛んだり、突然バレーボールが出てき
たり、英米ものにはない展開がおもしろいです。この作品はシリーズ化されるそうな
ので、次の作品が楽しみです。

 それから、アカデミー賞最優秀外国映画賞をとった『瞳の奥の秘密』の原作者、ア
ルゼンチン人のエドゥアルド・サチェリは、スペイン語で書かれた未刊の小説に与え
られるスペインの文学賞、アルファグアラ賞を受賞し、スペインでの出版を果たしま
した。彼の作品はおもしろいので注目していきたいです。

――映画の話題が出ましたが、最近のスペイン映画でお薦めの作品はありますか?

 ミステリではないのですがJ・A・バヨナ監督の『永遠のこどもたち』がよかった
です。ギレルモ・デル・トロの『パンズ・ラビリンス』のような雰囲気のあるホラー・
ファンタジーで、虚しさがたまらないです。救いがないのだけれど、彼らにとっては
救いなんですよね。

 それと、ラテン・ビート映画祭で観た『「僕の戦争」を探して』もすごくいい作品
でした。ジョン・レノンの大ファンである中年男性が、途中で拾ったワケありの若い
女性と家出少年と共に、スペインでロケ中のジョン・レノンに会いに行くというロー
ドムービーです。テーマになっているビートルズの「ストロベリー・フィールズ・フ
ォーエバー」の歌詞がストーリーとうまく絡んでいて、いい味を出していました。

――宮崎さんは英語の翻訳もされていますが、スペイン語の翻訳をするうえで英語の
翻訳にはないご苦労はありますか?

 スペインは文化的に多様な国で地域によってカタルーニャ語、ガリシア語、バスク
語と異なる言語が使われています。もちろん翻訳するときにはスペイン語からなので
すが、名前などの固有名詞は読み方を調べなければならず、苦労します。とくに『偽
りの書簡』の舞台は、スペイン語以外は使用を禁止されていたフランコ政権時代だっ
たので、カタルーニャ語の名前をスペイン語読みにするべきかどうか、かなり悩みま
した。

 また、アメリカもそうですが警察組織が複雑で、時代によっても違ってくるので、
そのたびに調べています。

――今後、スペインのミステリ界はどのようになっていくと思われますか?

 文学とエンタメの垣根がまだあまりない状態なのですが、最近は、スペインの文学
賞であるプラネタ賞やアルファグアラ賞に、わたしたちから見ればミステリと思われ
る作品が受賞していますし、ジャンル小説も出てきつつあるので、これからどんどん
おもしろいミステリが出てくるのではないでしょうか。

 北欧やフランスに比べればまだミステリとして完成されていない感は否めませんが、
今後、ミステリとしての完成度とスペイン独特の個性がうまく絡み合えば、爆発的に
おもしろい作品が生まれると思います。『時の地図』などはその先駆けではないでし
ょうか。英米作品には決して見られないユニークさがあります。

――では最後に、これから翻訳出版される作品を教えてください。

 ファンタジーですが、ハーパーコリンズからマリア・V・スナイダーの "SHADOW
STUDY"(邦題は未定)が10月に出ます。イレーナ3部作の新シリーズ第1弾です。

                     (取材・文/矢野真弓・杉山まどか)

◇ベビラクア&チャモロ・シリーズ
▼当メルマガ2008年9月号で "EL ALQUIMISTA IMPACIENTE"(by Lorenzo Silva)の
レビューをお読みいただける。
http://archives.mag2.com/0000075213/20080915030000000.html

◇ナダル賞、プラネタ賞、アルファグアラ賞
 スペインの文学賞については、当メルマガ2012年5月号でご紹介したスペイン大使
館商務部の〈ニュー・スパニッシュ・ブックス〉のページをご覧いただきたい。
http://www.newspanishbooks.jp/node/3211

◇アマゾン・ジャパンへ
『死んだ人形たちの季節』"EL VERANO DE LOS JUGUETES MUERTOS"
                 トニ・ヒル/宮崎真紀訳/集英社文庫
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087606929/whodunithonny-22/ref=nosim
『よき自殺』"LOS BUENOS SUICIDAS" トニ・ヒル/宮崎真紀訳/集英社文庫
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087607127/whodunithonny-22/ref=nosim

『情熱のシーラ』上・中・下 "EL TIEMPO ENTRE COSTURAS"
            マリーア・ドゥエニャス/宮崎真紀 監訳/NHK出版
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4140056657/whodunithonny-22/ref=nosim
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4140056665/whodunithonny-22/ref=nosim
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4140056673/whodunithonny-22/ref=nosim
『情熱のシーラ』DVD BOX1(第1~8話)・BOX2(第9~17話)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00YP6A27Q/whodunithonny-22/ref=nosim
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00YP6S9YY/whodunithonny-22/ref=nosim
▼当メルマガ2015年7月号でドラマ『情熱のシーラ』のレビューをお読みいただける。
http://archives.mag2.com/0000075213/20150715080000000.html

『ミレニアム 1 ドラゴン・タトゥーの女』上・下
       スティーグ・ラーソン/ヘレンハルメ美穂、岩澤雅利訳/早川書房
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4152089830/whodunithonny-22/ref=nosim
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4152089849/whodunithonny-22/ref=nosim
『ミレニアム 2 火と戯れる女』上・下
       スティーグ・ラーソン/ヘレンハルメ美穂、山田美明訳/早川書房
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4152090197/whodunithonny-22/ref=nosim
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4152090200/whodunithonny-22/ref=nosim
『ミレニアム 3 眠れる女と狂卓の騎士』上・下
       スティーグ・ラーソン/ヘレンハルメ美穂、山田美明訳/早川書房
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4152090480/whodunithonny-22/ref=nosim
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4152090499/whodunithonny-22/ref=nosim

◇ヒホンの〈セマナ・ネグラ〉
 スペイン北部のビスケー湾を臨む都市ヒホンで毎年行われているミステリ・フェア。
1988年に始まり、今年で30回目を迎える。10日間にわたって様々な催しが開かれ、そ
の年の最優秀作品にはハメット賞が贈られる。
http://www.semananegra.org/index.html
※国際推理作家協会北米支部のハメット賞との関係については、〈翻訳ミステリー大
賞シンジケート〉の「2つの《ハメット賞》の関係」をお読みいただきたい。
http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/20130404/1365027246

◇アマゾン・ジャパンへ
『バサジャウンの影』"EL GUARDIAN INVISIBLE"(Nの前のAにアクセント記号)
     ドロレス・レドンド/白川貴子訳/ハヤカワ・ミステリ
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4150019142/whodunithonny-22/ref=nosim
『ブエノスアイレスに消えた』"EL JARDIN DE BRONCE"(Dの後のIにアクセント記号)
     グスタボ・マラホビッチ/宮崎真紀訳/ハヤカワ・ミステリ
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4150018952/whodunithonny-22/ref=nosim

『瞳の奥の秘密』DVD
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B004CCQSTY/whodunithonny-22/ref=nosim
『永遠のこどもたち』DVD
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B006QJSZU6/whodunithonny-22/ref=nosim
『パンズ・ラビリンス』Blu-ray
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00BHULSVC/whodunithonny-22/ref=nosim
『「僕の戦争」を探して』DVD
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B015RWO6J6/whodunithonny-22/ref=nosim

『偽りの書簡』"DON DE LENGUAS"
        ロサ・リーバス&ザビーネ・ホフマン/宮崎真紀訳/東京創元社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4488128076/whodunithonny-22/ref=nosim
『時の地図』上・下 "EL MAPA DEL TIEMPO"
        フェリクス・J・パルマ/宮崎真紀訳/ハヤカワ文庫
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4150412278/whodunithonny-22/ref=nosim
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4150412286/whodunithonny-22/ref=nosim
▼当メルマガ2012年3月号でレビューをお読みいただける。
http://archives.mag2.com/0000075213/20120315030000000.html

◇ハーパーBOOKS刊行予定リスト
http://hpbooks.harpercollins.co.jp/
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                                  ΛΛ
οοΟ○οο。。。黒猫フーダのスペイン映画館 οΟ○ο。。。   ミ・.・ミ
                                  (m m)/γ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』"CONTRATIEMPO"
 2016年/スペイン/カラー

《姿の見えない第三者の存在は、証明できるのか?》

 ホテルの一室で、アドリアンは意識を失った状態で警察に発見される。バスルーム
には、愛人、ラウラの死体。部屋は内側から施錠されて密室だったため、警察は彼女
を殺害した容疑者としてアドリアンの身柄を拘束する。彼は、部屋に現れた何者かの
犯行だと主張するが、目撃者がいないだけに信じてもらえない。実業家として成功し
ているアドリアンは、会社や家族のためにも無実を証明しようと、敏腕女性弁護士の
グッドマンに助けを求める。
 あの部屋で何があったのか。当事者以外、誰もいない状況での事件、それを第三者
の犯行だと示さなければならない「悪魔の証明」。グッドマン弁護士はアドリアンの
話をねばり強く聞き、徐々に真相へと迫っていく。ストーリーは二転三転して、見て
いるほうは気が抜けない。そして迎える結末には、まさに度肝を抜かれる。しかし、
セリフのあちこちに真相へと繋がる鍵が隠されていたとわかり、気持ちよく「してや
られた」と思える、エンターテイメント作品の秀作だ。
                               (吉野山早苗)
◇アマゾン・ジャパンへ
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B072BNCCJ5/whodunithonny-22/ref=nosim
◇公式予告編映像
http://www.albatros-film.com/movie/cineespanola2017/
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『永遠のこどもたち』"EL ORFANATO"
 2007年/スペイン、メキシコ/カラー

《切なくて、悲しくて、優しいホラー・ファンタジー》

 ラウラは障害を持つこどもたちのための児童養護施設をつくろうと、自分が育った
元施設の屋敷に夫と7歳の息子シモンと共に越してきた。HIVを患っているシモン
は感受性が鋭く、空想の友達が何人もいる。ラウラはそんな息子に本当の友達をつく
ってやろうとしたのだ。ところが引っ越してからというもの、空想の友達はますます
増えていき、ついにはシモンが行方不明に。
 一方、屋敷ではラウラの周りで怪現象が起こりだし、シモンを見つけようと必死の
彼女は霊媒師を呼ぶ。すると、昔、この孤児院では何か恐ろしい事件が起きたらしい
とわかる。果たしてラウラは息子と再会できるのか?
 無邪気なこどもたちが織りなすゴシック・ホラー。だが、最後は母子の愛と絆に涙
があふれる。製作は『パンズ・ラビリンス』のギレルモ・デル・トロ。ラストの映像
の美しさは彼の作品を彷彿させる。監督は、現在日本各地で公開中の『怪物はささや
く』のJ・A・バヨナだ。
                                (矢野真弓)
◇映画.comの特集サイト
http://eiga.com/movie/54068/special/
◇アマゾン・ジャパンへ
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B006QJSZU6/whodunithonny-22/ref=nosim
◇『怪物はささやく』のオフィシャルサイト
http://gaga.ne.jp/kaibutsu/
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『記憶探偵と鍵のかかった少女』"MINDSCAPE" または "ANNA"
 2013年/スペイン、アメリカ、フランス/カラー

《真実か虚構か? 記憶の迷宮で迷子になる!》

 記憶探偵とは他人の記憶に入り込み、その体験を観る能力を持つ者たち。ジョンも
そのひとりで、今度の仕事は、絶食している16歳の少女アナの記憶に入り、その原因
を見つけることだった。少女本人は、継父が母親の財産を手に入れるために自分を施
設に入れようと食べ物に薬を入れているかもしれないから食べないのだと主張する。
アナはIQが非常に高く、ジョンは最初、ソシオパスを疑っていたが、セッションを
重ねるうちにこの少女を守ってやらなければと、真相の解明にのめり込んでいく。
 記憶は主観的なものであり、本人の都合の良いように歪められている可能性もある
ので絶対ではない。ジョンは彼女の記憶の中で、教師による性的虐待やルームメイト
の殺人未遂事件など衝撃的な出来事を目の当たりにしていくが、それらはなぜか関係
者の証言と食い違っていく。どれが真実で、嘘をついているのは誰なのか。わたした
ちはジョンと共にアナの記憶に翻弄されていく。
 監督のホルヘ・ドラドはペドロ・アルモドバルのもとで助監督をしていた新鋭。こ
の作品でスペインのアカデミー賞、ゴヤ賞の新人監督賞にノミネートされた。
                                (矢野真弓)
◇オフィシャルサイト
http://kiokutantei.asmik-ace.co.jp/#
◇アマゾン・ジャパンへ
Blu-ray
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B011BB8OGI/whodunithonny-22/ref=nosim
DVD
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B011BB8JMM/whodunithonny-22/ref=nosim
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 ■ 邦訳新刊レビュー
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『スパイの血脈 父子はなぜアメリカを売ったのか?』 "THE SPY'S SON"
 ブライアン・デンソン/国弘喜美代訳
 早川書房/2017.05.15発行 2000円(税別)
 ISBN: 9784152096869

《ロシアのスパイになったCIA工作員。息子にもスパイ行為をさせた理由とは?》

 CIAの上官から切れ者と評価され、アメコミのヒーローになぞらえてバットマン
と呼ばれた男、ジム・ニコルソン。今年67歳になるジムは、1994年からロシアのスパ
イとなるが、1996年にFBIによって逮捕され、現在も収監中である。ブカレスト支
局長に上りつめたのちにロシアに情報を流し始めたジムは、これまで諜報罪に問われ
たCIA職員の中で最高レベルの職位にあった有能な人物だ。そんな立場にある者の
スパイ行為だけでも由々しい事態だが、驚くべきことにジムは実の息子ネイサンをロ
シアのスパイに仕立て上げた。それも、自らは刑務所にいながらである。面会に来る
ネイサンにスパイ行為を指示し、実行させたのだ。ネイサンは2008年に逮捕されるが、
2010年の判決で5年の保護観察に処され、実刑を免れた。その一方、ジムは獄中から
のスパイ行為により、懲役年数が延び、出所するのは2024年の予定だ。
 ジムがCIA職員でありながらロシアのスパイになった理由は本人には切実なのだ
ろうが、他人から見ると国益を損なわなくても、ほかにいくらでも方法はあるのでは
ないかと拍子抜けして思わず失笑してしまうほど単純なものだ。だが、彼が獄中から
息子をそそのかした件に関しては単純なひとつの理由に絞り切れず、ジムの複雑な人
間像が垣間見える。
 そして、父を英雄視していたとはいえ、20代前半のネイサンが事の重大性に気づか
ずにスパイ行為を働く様子は痛ましく、失笑する気にはなれない。それでも、判決後
のネイサンの様子を知ると、過ちを犯してもやり直せることが分かり、心強くなる。
 ジャーナリストである著者は、世界で2番目に古い職業といわれるスパイや、1970
年代から現在に至るまでのCIAの方針の変遷、情報機関に対するオバマとプーチン
の政策も広く取材し、深い考察を加えている。取材者と取材対象者との関係について、
米国のジャーナリズムで従来から正しいとされてきたあり方に著者が異を唱えるとこ
ろは、彼が優秀なジャーナリストであり、罪を憎んで人を憎まずという言葉を体現す
る心豊かな人物である証のように思われる。
 ジムが出所する際は、ニコルソン親子をめぐる取材が活発になるのではないか。そ
のときには、ぜひまた著者の取材に基づく論考を読みたい。
                               (杉山まどか)
◇アマゾン・ジャパンへ
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4152096861/whodunithonny-22/ref=nosim
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■編集後記■
 今月号の編集作業中、無性に旅行に行きたくなりました。ああ、どっか行きたい。
                                   (清)
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 海外ミステリ通信 第123号 2017年7月号
 発 行:フーダニット翻訳倶楽部
 発行人:うさぎ堂(フーダニット翻訳倶楽部 会長)
 編集人:清野 泉
 企 画:石田浩子、板村英樹、かげやまみほ、佐藤枝美子、杉山まどか、中島由美、
     矢野真弓、山田亜樹子、吉野山早苗
 協 力:出版翻訳ネットワーク 小野仙内
     西洋冒険譚翻訳倶楽部
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