千字一話物語

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川崎ゆきおの千字程度の不思議な小説。

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メルマガ名
千字一話物語
発行周期
ほぼ毎日
最終発行日
2017年11月18日
 
発行部数
83部
メルマガID
0000192904
形式
PC・携帯向け/テキスト形式
カテゴリ
アート・文芸 > 文芸 > 小説

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■   千字一話物語 川崎ゆきお  

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   2959 ホラー小説

 上島は昼食後散歩に出たついでに決まって
入る喫茶店がある。結構広いファスト系で、
最初に入ったときは見知らぬ人ばかりだが、
数年通うと常連客の顔を覚えてしまう。しか
し、ここはターミナルに近いのか、風通しが
よく、見知らぬ人も結構いる。今まで見たこ
とのない人の比率は半々だろうか。ただ、客
が少ない日は常連客ばかりのときもある。雨
の日とかだ。
 それで見慣れてしまっているので、もう客
など見ないで、買ったばかりのタブレットを
覗いていた。主な使用アプリは電子書籍や、
動画。ただの娯楽のひとときで、休憩に入っ
ただけ。散歩そのものも休憩だが、散歩では
目の前の現実しかなく、フィクションがない。
それで喫茶店で休憩するときに、現実では有
り得ないようなフィクションを楽しむ。これ
も散歩のようなものだ。散歩では見られない
ようなものに接することができる。
 今日の客層は平均的なもので、常連客が六
人と、一見さんが六人。それぞれテーブルを
離して座っている。つまりある間隔を取って
いる。広い店なので、それができる。
 タブレットで至近距離を見ていると、目が
疲れるので、たまに遠くを見る。その視線の
先に偶然一見さんがいたのだが、上島は手に
したタブレットをガタンとテーブルの上に落
としそうになった。数センチなどで落下とい
うほどではないが、気を取られるような人が
いたのだ。
 しかし、思い出せない。また見た覚えがあ
るのかないのかも曖昧で、知っているようで
知らない。上島と同年代で少し年がいってい
る。これは昔の知り合いかもしれないと思い、
旧友を色々と思い出した。またよく見かけて
いた近所の人かもしれないが、家とこことは
結構離れているので、近所の人は見たことが
ない。
 しかし、タブレットから手が離れるほどの
衝撃があったのだから、余程の人だ。合って
はいけない人とか。
 その客は文庫本を開いて読んでいる。距離
は遠い。顔は正面。相手は上島が見ているこ
とに気付いていない。本を読んでいるので、
そんなもの。
 しかし、たまに目玉が動く、姿勢も変わる。
そんなとき、視線が合いそうになるので、上
島はチラリチラリと観察した。
 あの衝撃の意味は、余程大事なことで、と
てつもない人に出くわしたほどのショック。
それにふさわしい人物を探さないといけない。
下手をすると、合うともの凄く都合が悪い相
手かもしれない。相手が気付けばおしまいの
ような。しかし、過去にそんな経験はないは
ず。人から怨まれるようなことも、合っては
まずい人はいない。
 しかし、上島がそう思っているだけかもし
れない。
 いくら思い出しても該当する人物が出てこ
ない。
「自分ではないか」
 これはフィクションとしては成立しても、
顔かたちが違う。しかし中に詰まっているの
は自分ではないか。自分自身がそこに座って
いれば、衝撃だろう。タブレットを落として
当然。だから該当するものは自分自身となる。
 しかし、これは何処か似ている人の場合。
何度見直しても似ていない。ではあのショッ
クは何だろう。どうして驚いたのか。決して
不思議な顔ではない。
 そして男は立ち上がり、上島の前をスーと
通り過ぎ、レジへと向かった。男は上島を見
たはず。しかし無視している。上島のことを
知らないのだ。
 これでほっとした。
 そして読んでいたホラー小説の電書を閉じ
た。
「これだったのか」
 と、該当する原因が分かった。フィクショ
ンが現実に介入したのだろう。
 
   了



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