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経営コンサルタント・小林啓倫の『シロクマノイズ』

登場したばかりの技術やサービスから、新たな研究結果、一風変わったモデルを追求するビジネスまで。まだ誰もが注目する「シグナル」ではないけれど、ちょっと気になる「ノイズ」をアトランダムに紹介します。アイデアを出すための頭の刺激に、あるいはお昼休みの話のネタにどうぞ。

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著者プロフィール

小林 啓倫
(株)日立コンサルティングの経営コンサルタント。1973年東京都生まれ、筑波大学卒。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、2003年に米マサチューセッツ州Babson CollegeにてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム等を経て、2005年から現職。著者に『災害とソーシャルメディア』(マイコミ新書)、訳書に『ウェブはグループで進化する』など多数。ブログ「POLAR BEAR BLOG」は2011年度のアルファブロガー・アワードを受賞している。
はじめまして、小林啓倫と申します。仕事がら新しい技術やビジネスのニュースを集めることが多いのですが、正式な報告書等には採用しない、でも捨ててしまうには惜しい話がたくさんあります。ここではそんな小ネタを集めて、ご一緒に楽しめればと思います。
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◆◇ シロクマノイズ:創刊号(2012.9.14) ◇◆
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はじめまして、小林啓倫です。今日から毎週金曜日、「シロクマノイズ」という
メルマガを発行させていただくことになりました。これまでブログや雑誌など
で記事を書いてきましたが、メルマガに取り組むのはまったく初めて。まだま
だ勝手が分からず、正直なところ少し緊張しています……

とはいえブログやSNSではない、本でも雑誌でもないメディアにチャレンジで
きることに、ブログを始めた時のような嬉しさを感じています。肩肘はらずに、
その時感じていることをお伝えしていければと思いますので、皆さまどうぞよ
ろしくお願いします。

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【タイトルについて】

情報の世界を語る際に、「シグナル」と「ノイズ」という表現が使われることが
あります。シグナルは意味のある情報、つまり知識と呼べるようなもの。そし
てノイズは無意味な情報、文字通りの「雑音」という意味ですね。そしてノイ
ズの中にどれほど多くのシグナルが含まれているのかを「S/N比」(シグナルの
量÷ノイズの量)という値で示し、これが高ければ高いほど良い状態である、
というのが一般的な考え方です。

しかしS/N比が高いのは、本当に望ましいことなのでしょうか。昨年米国で話
題になり、日本でも翻訳書が出版された『閉じこもるインターネット』という
本があります。この中で著者のイーライ・パリサーは、ある人物にとって意味
のある情報(つまりシグナルですね)を抜き出して提供しようという技術が行
き過ぎるあまり、幅広い視野を得る機会や、自分とは異なる意見に触れる機会
が失われているのではないか?と警告しています。例えば特定の人物や組織に
対して不快感を抱いている人に対して、彼らが望んでいるからといってその思
いを裏付けるような情報だけを与えていたら、正しい評価ができなくなってし
まうでしょう。極端にS/N比を高めてしまうことは、逆にリスクを招くわけで
すね。

僕らの仕事も一緒で、効率が落ちることを承知しつつ、あえて関係の薄いと思
われる分野をリサーチすることがあります。S/N比は低くても、その中にシグ
ナルになるノイズ、つまり誰もが見落としていた大切な何かを見つけられる可
能性があるからです。また些細な情報がきっかけで、誤った固定概念を崩すこ
とができる場合もあります。もちろんまったくの無駄足で終わることも多いの
ですが、それがずっと後で、まったく違う場面で役に立つということもあるの
が面白いところです。

限られた時間の中で、シグナルとノイズをバランスさせるのは難しいことなの
ですが……しかしシグナルを追求しようという風潮がますます高まる中では、
あえてノイズに耳を傾ける余裕も必要になるのではないか。そんな思いを込め
て、このメルマガに「シロクマノイズ」というタイトルをつけてみました。

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【今週のひとこと】

“If we ever got to the point where 100% of the startups we funded were
able to raise money after Demo Day, it would almost certainly mean we were
being too conservative.” -- Paul Graham

「私たちが出資するスタートアップ企業のすべてが、デモ・デーの後で資金調
達に成功するとしたら、それは私たちが保守的になり過ぎていることを意味す
るに違いない。」(ポール・グレアム)
◇引用元: http://paulgraham.com/swan.html

最近米国のビジネス界で注目されている仕組みに、アクセラレーターというも
のがあります。ベンチャーキャピタルと同じような、スタートアップ企業を支
援する組織の一形態で、立ち上げ間もない(中にはまだアイデアレベルのもの
も)ベンチャー企業を選抜して資金を提供し、同時に短期集中型で経営ノウハ
ウを叩きこむというスタイルを取るのが特徴。そしてアクセラレーターの代表
とも呼べる企業「Yコンビネーター」の創業者が、他ならぬポール・グレアム
氏です。

アクセラレーターが投資を回収するには、当然ながら支援しているスタートア
ップたちが成功をおさめなければなりません。そこで彼らは、一般に「デモ・
デー」と呼ばれるイベントを開催して他の投資家たちを招待し、文字通り支援
企業の「デモ」を見せることを通じてさらなる投資を呼びかけます。従ってデ
モ・デーが終わった後には、できる限り多くの企業が資金調達に成功していな
ければならないはずですが、冒頭の発言の真意はどこにあるのでしょうか?

◇◆◇

実は先ほどの言葉の前に、グレアム氏はこんなことを述べています:

「歴史は成功者によって書き換えられるものだ。そのため過去を振り返ると、
私たちは彼らが成功したのが当然のように感じられてしまう。だから私は、あ
る思い出を非常に大きな教訓にしている。それは私が初めてフェイスブックの
ことを耳にした時、それが上手くいくようには思えなかったというものだ。大
学生が無駄な時間を過ごすためのウェブサイトだって?まったくバカげたアイ
デアだ、ってね。」

そんな思いから、彼は将来的に革命を起こすようなアイデアほど、現時点では
その価値を理解されないことが多いのだと説きます。逆にいま評価されるアイ
デアは、現在の成功法則に則っているに過ぎない──従って自分が支援する企
業がみな資金調達を達成したとしたら、それは短期的には成功かもしれないけ
れど、次のフェイスブックや次のグーグルを生み出すことにはつながらないと
いうわけですね。

実はちょうど同じ状況が、いま読んでいる本で描かれていました。ティム・ウ
ー氏の新刊『マスター・スイッチ』という本なのですが、その中にこんな記述
があります。米国において、20世紀初頭にメディア産業としてのラジオがどう
発展したのかを解説している章の中の一節です:

「RCA社長でNBC創業者のサーノフは、米国ラジオ界の絶対的な権力者にのし
上がっていく。記者や歴史家をつかまえては、自分が1914年にいち早くラジオ
放送を考案したとか、ボクシングのデンプシー戦中継を考案したのは自分だと
か、全国ネットの放送を真っ先に築き上げたといった自慢話を披露するように
なる。

サーノフは権力を手にしたとたん、それがあたかも天命であったように、古代
中国の皇帝よろしく歴史を都合よく書き換えてしまった。そしてラジオの揺籃
期を盛り上げたリー・ドフォレストらのアマチュア愛好家や発明家はもちろん、
AT&Tの名前さえも、公式ラジオ史から消されていった。」

米国でラジオ業界が花開くにあたり、サーノフ(デビッド・サーノフ、米国で
ラジオやテレビの普及に大きな影響を果たしたと評価される実業家)以外の
人々がどれほど貢献していたのか、あるいは逆にサーノフの成功がどれほど「約
束されたものではなかったか」についてはぜひ本書をお読みいただきたいので
すが、サーノフが認めた「公式ラジオ史」を読んでいる限り、彼の成功は確実
で予測できるものだったという幻想に陥ってしまうことでしょう。

何かが成功した後では、成功したという事実だけしか目に入らなくなってしま
う──それは文字通り「歴史を書き換える」という作業が行われた結果という
場合もあれば、後知恵や「コロンブスの卵」のように、私たちの頭が錯覚して
しまう場合もあるでしょう。いずれにしてもそうした状況を数多く接している
と、何が成功するかを見出すのは簡単なことだと勘違いしてしまい、(今の自分
から見て)成功しそうなアイデアにしか接しようとしなくなる。グレアム氏の
考え方は、そんな罠に陥らないための自戒と言えるのではないでしょうか。

◇◆◇

それでは私たちの場合には、「勝者の罠」に陥らないためにはどんな工夫が考え
られるでしょうか。そもそも今の基準から見て成功しそうにないものの中から、
実は将来成功するものを選ぶというのですから、簡単な話ではありません。こ
こではひとつだけ、『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌2012年8月号に掲
載された「低予算イノベーションのすすめ」という論文中のアイデアを紹介し
てみましょう。

この論文の中に、リョービが開発した「One+」という電動工具の事例が登場し
ます。実はこの製品、一度お蔵入りになったプロジェクトの成果物を活用した
ものだったのだとか。性能面では文句なかったものの、見た目のインパクトに
欠けるということで行き詰っていたところ、他の製品用に実施された知己再調
査の結果を応用することで成功を収めたのだそうです。この事例から、著者の
ベッテンコート氏らは次のように結論づけます:

「この経験から言えるのは、却下された製品コンセプトをきちんと管理し、振
り返る癖をつけなければならないということである。現在のプロジェクトや業
界の変化に照らして、何か新しい可能性はないか。別の市場に適応できる革新
的な特徴がなかったか。そのイノベーションがものにならなかった理由は、い
までも当てはまるか。」

これはいわば、勝者が「正史」だけを残そうとするのを許すのではなく、失敗
や敗者の歴史、あるいは勝者がまだ競争者だった頃の歴史も残してゆくという
解決法ではないでしょうか。仮に次の成功につながるヒントが見出せなかった
としても、勝者が敗者だった時代、あるいは無数の競合が存在していた時代を
振り返るだけでも、私たちにとって良い戒めとなるでしょう。

「成功とはたやすく予測できるものではないのだ」という気持ちになるのは、
もちろん心地良いものではないのですが。かといって心地良さを優先して、目
先の成功率100パーセントを目指したとしたら、グレアム氏が警戒しているの
と同じ罠に陥ってしまうに違いありません。その意味では、適度な失敗はむし
ろ正しく行動しているシグナルなのだと考えた方が良いかもしれませんね。

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【今週気になったニュース】

■ ユニセフがPinterestを活用したシエラレオネ救済キャンペーンを実施
(参考URL: http://pinterest.com/AmiMusa/pins/ )

アフリカ西部にシエラレオネという国があります。かつてはクーデターや内戦
で政情が不安定だったのですが、最近は治安が安定し、外務省の表現によれば
「内戦復興期から開発期に入りつつある」とのこと。しかし今年7月からコレ
ラが蔓延し、既に死者が200名を超える事態となっています。そんなシエラレ
オネにおける子どもたちの窮状を訴えるために、ユニセフが開始したのが
Pinterestを活用したキャンペーンです。

Pinterestといえば、ウェブ上で画像を自由にクリッピングできるサービス。
最近「ビジュアル系」や「イメージ系」と総称されるウェブサービスの先駆け
となった存在で、商品プロモーションとの相性も良いということから、企業か
らの注目を集めています。そんな華々しいイメージからは大きく離れた、意外
な使い方をユニセフはしてきました。

上記のURLにアクセスすると、アミ・ムサ(Ami Musa)という13歳の女の子が
集めた画像のページが表示されます。そこに写っているのは、彼女がいま一番
欲しいと思っている品々。といっても通常のPinterestに集められているよう
な、美しいファッションや豪華な食事などではなく、水・石鹸・サンダルとい
った日常品(であるはずのもの)ばかり──実はアミ・ムサは架空のユーザー
で、実在の人物ではありません。しかしここに集められているのは、本当のシ
エラレオネの子どもたちが欲しているものであるということが、画像を通じて
強く訴えかけられます。

ちなみに各々の画像には、募金を受け付けるユニセフの公式ページへのリンク
が貼られています。また通常のPinterestの通り、画像を見たユーザーがそれ
をリピン(選択した画像を自分のページに表示する機能)することも可能。意
外なキャンペーンのようですが、実は「ビジュアルに感情を訴えることができ
る」「画像が人々のネットワークを伝わってゆく」というPinterestの特性を、
十分に活かしたアイデアと言えるのではないでしょうか。

■ 出会いとテクノロジー"then-n-now"
(参考URL: http://vimeo.com/47489145 )

動画です。約5分、ドラマ仕立ての内容ですが、セリフはありませんので休み
時間などにチェックしてみて下さい。ちょっとテクノロジーに批判的ではあり
ますが、忘れないようにしたい感覚かもしれませんね。音楽家Shing02こと
安念真吾氏の作品。

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【おしまいにひとつ】

ということで、創刊号はここまでになりますが、いかがでしたでしょうか。一
方通行になりがちなメールというメディアですが、できる限り「言いっぱなし」
にはせず、「あの話はそれからどうなったの?」や「この話の意味が分からない
んだけど……」といったご意見・ご質問を聞かせていただければと考えていま
す。ぜひお気軽に、以下のアドレスまでコメントをお寄せください。お待ちし
ております。

akikoba.mag2@gmail.com

ではまた!
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