冷泉彰彦
ID: 0001628903

冷泉彰彦のプリンストン通信

冷泉彰彦
  • 殿堂入り
  • まぐまぐ大賞2016
  • 独占インタビュー
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冷泉彰彦のプリンストン通信

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アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、
「アメリカでの文脈」をお伝えする。
「日本を少し離れて」見つめる。
この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。

定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。

著者プロフィール

冷泉彰彦

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業(修士、日本語教授法)。福武書店(現、ベネッセ・コーポレーション)、ベルリッツ・インターナショナル社、米国ニュージャージー州立ラトガース大学講師を経て、現在はプリンストン日本語学校高等部主任。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を毎週土曜日号として寄稿(2001年9月より、現在は隔週刊)。「Newsweek日本版公式ブログ」寄稿中。NHK-BS『cool japan』に「ご意見番」として出演中。『上から目線の時代』『関係の空気 場の空気』(講談社現代新書)、『チェンジはどこへ消えたか オーラをなくしたオバマの試練』『アメリカは本当に貧困大国なのか?』(阪急コミュニケーションズ)など著書多数。

無料メルマガやウェブ上のコンテンツが「開かれたメディア」であるならば、有料メルマガは「閉じたメディア」だという言い方があります。ですが、このメルマガは、読者の皆さまの質問に答える中で、またその質疑応答から出てきたディスカッションを記事内で展開することなどを通じて、「見通しのよいメディア」「発展性のあるメディア」を目指します。

サンプル号
▼第178a 号                       2017/07/22
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『冷泉彰彦のプリンストン通信』(サンプル版)

   1.ご紹介

   2.短信・短評
     日本の空洞化はどうして『筋が悪い』のか?
     米版『ビフォー・アフター』に見るお国柄
     デヴィット・サンボーン・クワルテット(演奏評)

   3.メイン・コンテンツ「プリンストン通信」(特別号)
     非効率社会ニッポン

   4.連載コラム「フラッシュバック72」(サンプル版)


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<ご紹介>

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※ このメルマガ「プリンストン通信」は2014年3月に創刊されました。
既に発行回数は180を越えており、多くの読者の皆さまの支持をいただいて
おります。冷泉彰彦個人のメルマガですが、できるだけ多角的な内容をお届け
できるように試行錯誤を続けております。ここでは簡単にメルマガ全体の構成
についてご紹介させていただきます。

(1)冒頭の「短信・短評」は、同時代性を重視しつつ、幅広いジャンルをカ
バーするようにします。内容的には、「アメリカの社会時評」「日本のネット
論壇批評」「交通論(鉄道が中心)」「芸術論(音楽の演奏評、映画評な
ど)」について、毎週平均して2つのトピックを取り上げます。

(2)メイン・コンテンツ『プリンストン通信』については、もう少し踏み込
んだ時評、社会評論のコラムです。アメリカにフォーカスした号と、日本にフ
ォーカスした号を意識的に書き分けることにしています。また、どちらの場合
も、できるだけ読者の皆さまの議論を喚起できるような仕掛けを「巡らす」よ
うにしています。

(3)「フラッシュバック」は、プリンストン大学の東洋図書館の蔵書にある
朝日新聞の縮刷版を使って、今から45年前の同月同週の世相を振り返る企画
で、1970年の分から初めて、現在は1972年に突入しています。沖縄返
還を花道に佐藤長期政権が退陣し、田中角栄時代が動き出した時代を毎週振り
返るというのは極めて興味深い作業になっています。現在の日本では、角栄再
評価が盛んですが、私は是々非々の立場です。東京一極集中では日本の成長は
止まっていくという問題意識は重要と思うのですが、反面、日本を超高付加価
値の先進国に持っていくビジョンが根本から欠落していたということで、「日
本という挫折の起点」として批判すべき点も多々あるように思います。

(4)読者の皆さまから寄せられた質問については、できるだけタイムリーに
お答えをしつつ、議論が広がっていくように心がけております。皆さまのご参
加をお待ちしています。


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<短信・短評>

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▼「日本の空洞化はどうして『筋が悪い』のか?」

 2016年には、英国での「BREXIT」があり、米国での「トランプ現
象」がある中で、先進国における「空洞化への反省」や「過度のグローバリズ
ム」による「空洞化」への批判というのが湧き起こったわけです。

 では、日本の場合はどうなのかというと、空洞化の進行というのは米国に負
けず劣らずヒドいわけです。ですから、多国籍企業の跋扈を批判したり、ある
いはトランプやサンダースのように「保護主義」を主張する部分があっても良
さそうなのですが、実際はほとんどありません。

 例えば、アベノミクスというのは、円安誘導を露骨にやったわけですが、そ
れで何故、株価が高くなるのかというと、以下のような「掛け算」があるから
です。徹底的に空洞化が進んだ日本では、海外で売上も利益も出ているので、
特に主要な市場である北米でドルが高くなれば、そこで獲得した利益を円に換
算して日本の「本社に連結決算」すると、膨張して見える、それだけです。

 もっと言えば、トヨタやソニーのように多国籍化した企業の場合は、株価の
形成もNYSEでドルで決まるわけで、円安になれば自動的に東京の株価は上
がる仕組みです。ですから、80年代までの日本のように、円安になれば輸出
産業が儲かるというビジネスモデルでは「ない」のです。

 では、製造の現場などをもう一度日本に差し戻せという「保護主義運動」が
どうして起きないのかというと、一つには「終身雇用契約のある正社員」とい
う身分の人間は、海外を含めた連結で利益が出れば基本的にメリットがあるわ
けですから、反対する理由はないということが言えます。

 もう一つには、現時点で基本的に「人手不足」である日本国内では、サービ
ス産業を中心として雇用が提供できているので、例えば「国際競争力のある、
従って安い労賃」での「製造業」が国内回帰しても、そんなに喜ぶ人はいない
わけです。

 では、日本の空洞化は必然であり、反対する理由はないのかというと、私は
そうは思いません。というのは、日本の空洞化は「筋が悪い」からです。どう
いうことかというと、自動車産業がいい例ですが、日本の空洞化は「製造拠点
を外に出す」段階は既に十分に進んでおり、現在は「先端部分を外に出す」と
いうプロセスになっているからです。

 自動車産業はR&Dを外に出し、ITはシリコンバレーとの協業に走り、一
部の製造業は事務部門の本部機構を準英語圏に出すなど、頭脳労働・意思決定
に近い中枢の部分がどんどん外に出ていく時代になっています。

 これは大変なことです。このまま行けば、日本は観光立国とか福祉国家とい
えば聞こえはいいものの、サービス業中心の低付加価値労働だけが残った国に
なってしまう危険があります。というより、既にそうなりつつあります。

 多国籍企業にしても、最終的に超円安になってしまえば、ドルでの出資が増
えていって、気がついたら多くの主要産業が「元は日本企業」だったものが、
過半数以上のオーナーシップは国際化ということにも、なりかねません。そう
なれば、内部留保を日本に還元などということも消えてしまいます。

 本メルマガではこの問題を皆さまと考えていきたいと思っております。


▼「米版『ビフォー・アフター』に見るお国柄」

 2016年の10月に発売された『マグノリア・ストーリー』という本が、
アメリカで話題になっています。長いあいだアマゾンの紙版ベストセラーで1
位を維持して今も上位に入っており、珍しいロングセラーになっています。

 この本は、ある夫婦の「サクセス・ストーリー」です。テキサス州のウェコ
市にある「マグノリア」という小さな工務店を経営する、チップ・ゲインズと
ジョアンナ・ゲインズという夫婦の物語です。妻のジョアンナが家の内外装を
手がけるデザイナー、夫のチップはアイディアマンの腕のいい大工ということ
でなかなか良いコンビを組んでおり、主として中古住宅のリフォームを手がけ
ているのです。

 この夫妻が人気者になったのはTVへの出演が大きな契機となりました。2
013年にスタートした「フィクサー・アッパー」という番組がヒットしたか
らです。この番組ですが、住宅に関するDIT的な情報を扱うケーブルTV局
HGTVのもので、住宅物件のリフォームの「ビフォー・アフター」をリアリ
ティー・ショーに仕立てた番組です。
http://www.hgtv.com/shows/fixer-upper

 この番組ですが、実に日本の「ビフォー・アフター」に似ていて、まず依頼
主が出てきて不満を述べるのですが、そこで「匠」ならぬこの「ゲインズ夫
妻」が登場します。ダンナのチップは大胆なアイディアを述べ、妻のジョアン
ナはデザインを考えるという中で、コンセプトが決まっていきます。

 その辺は、正に日本の「ビフォー・アフター」ソックリなのですが、一つ大
きな違いは、工事の開始の際に「儀式」があることです。それは、「デモ・デ
ー」というのですが、要するに中古住宅の「古い内装をぶっ壊す」のです。ダ
ンナのチップがハンマーでガンガンと古いキッチンの作り付け家具をぶっ壊
し、床板を剥がし、妻のジョアンナもマスクをして一緒にガンガンやるので
す。

 そのワイルドな感じというのが、バカバカしくもアメリカンなわけですが、
この番組、あるいはこの夫婦が人気があるのは、そうした「少年ぽさ」を持っ
たダンナのチップがいかにも庶民的な白人のノリであり、妻のジョアンナの方
はもしかしたらヒスパニックかネイティブ・アメリカンかという風貌に、どち
らかと言えば冷静で、厳しいコスト管理と品質管理をやるというキャラの組み
合わせにあると思います。

 ちなみに完成時に、オーナーを案内する際の「壮麗な音楽」とか、オーナー
のサプライズを演出する手法なども、日本の「ビフォー・アフター」とソック
リと言えましょう。とにかく、今年の秋からは「第4シーズン」に突入してい
るのですから、リアリティーショーとしても、なかなかの成功を収めていると
言っていいでしょう。

 この「フィクサー・アッパー」ブームですが、背景には、アメリカの住宅市
場の変化というのもあると思います。アメリカではまず、中古住宅というのが
非常に重要なマーケットを形成しています。中古住宅の価値は手を入れていけ
ば下がらないという商慣習があり、また新築の場合は手抜き物件が多いことか
ら、中古のほうが信用されるという妙な現象もあります。

 ただ、リーマンショックの前は、リフォームというのは売り主がやる、つま
り転居するので家を売る場合に、まず直して綺麗にして「値段を釣り上げて」
売るというのが売り主の態度であり、買う方も「高い買い物なのだから、綺麗
にリフォームされたものを」という習慣があったわけです。勿論、今でもそう
した流れはあります。

 ですが、リーマンショック以降の住宅不況の中では、40代とか30代の
「子育て世代」などが特にそうですが、「安い中古物件を買って、自分好みに
リフォームをする」という傾向が少しずつ人気になっているのです。

 そんな中で、アイディア満載で、しかもデザインのセンスが良く、更にコス
ト管理も厳しいという「ゲインズ夫妻」のアプローチは、ある種の人々の琴線
に触れたというわけです。

 それに加えて、夫婦で一緒になって共通のプロジェクトを手がけ、しかも夫
と妻は「キャラの違いが相互補完している」というあたりが、理想の夫婦像と
されているということもあるかもしれません。人種の違うカップルということ
も、現代アメリカを象徴しています。この「フィクサー・アッパー」という番
組には、色々な意味で、2010年代のアメリカのカルチャーの一端が垣間見
えるのではないでしょうか。


▼「デヴィット・サンボーン・クワルテット(演奏評)」

 2016年9月22日(木)NYソーホーの『ブルー・ノート』でのセッシ
ョンを聞く機会がありました。ドラマーである畏友ビリー・キルソン氏が、ボ
ストンのバークレー音楽院の講師に就任したりして忙しくしていた中で、久々
の『ブルー・ノート』復帰ということもありましたが、何よりもビリーさんの
熱く繊細なドラムと、一見すると軽いと思われているサンボーンのサックス
が、どんなケミストリを醸し出すかという期待があったのも事実です。

 サンボーンと言えば、いわゆるフュージョンが流行の時代には、その軽妙な
タッチが人気であったわけですが、別に軽い音楽をする人ではなく、とにかく
自然体ということなんだと思います。今回は、少しジャズに振った形で音楽を
極めてみたいということで、テクニックの達者なメンバーを集めてのクインテ
ット結成ということになったわけですが、それはかなり成功していると思われ
ました。

 メンバーは、サンボーン、キルソンに加えて、超絶技巧トロンボーンのウィ
クリフ・ゴードン、ナチュラルなベースを弾くベン・ウィリアムス、そして、
キーボーはアンディ・エズリンという顔ぶれ。冒頭からビリーさんが、かなり
熱いリズムを入れ込んで、良い意味で挑発する格好でしたが、少しずつ音楽の
温度を上げていったウィリアムスとのコンビで、音楽の土台が出来上がると、
サンボーンも、ゴードンもどんどん心地よさそうに吹いて行って、いつの間に
か立派なクインテットになっていたのには驚かされました。

 こういう音楽におけるケミストリというのは、クラシカルの世界ではもっと
微妙な部分で起きるものですが、ジャズの場合はそれが命という格好で、本当
に自発的に音楽が「そこで生まれる」という感覚があるわけです。それがどこ
から来るのか、リズムの揺れというのは実は全てではなく、強弱、ニュアン
ス、長短、緩急、その全てを伴った、ある種のクールな感覚と、熱い感覚が正
に「そこで」生まれるというわけです。

 私はクラシカルに比べると、ジャズに関しては全くの素人ですが、この辺の
音楽のマジックについて、機会をみてビリーさんにしっかり教えを乞うておこ
うと思ったのでした。


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<メイン・コンテンツ「プリンストン通信」特別版>

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「非効率社会ニッポン」(メルマガJMM879Sa号の寄稿内容を改稿)


 日本経済の現況を大きく見渡して見ると、「一人当たりGDP」の低迷とい
うのは「生産性」の問題だと理解ができます。つまり、非生産人口を加えた
「一人あたりGDP」だけでなく「就業者一人当たりのGDP」ということで
見ても、非常に低迷しているからです。OECDのデータに基づいて生産性本
部が集約したところでは、日本は73,270ドルでOECD加盟34カ国中
の22位。1位のルクセンブルグ(127,930ドル)に比べると65%し
かありません。

 これは「もと英国病」のイギリス(19位)の後塵を拝しているばかりか、
破綻国家と見られているギリシャ(18位)、2009年の金融危機で事実上
破綻したアイスランド(21位)にも負けています。もっと言えば、日本人の
視点からは「働かない国」というイメージのある「ラテン系」のフランス(7
位)、イタリア(8位)、スペイン(13位)にも大きく差をつけられている
のです。

 この数字ですが、確かに「円安」を反映しているということはあります。で
すが、仮に現在「1ドル=80円」というレートが復活したとしても、輸出分
は関係しないので労働生産性が50%増になるわけではありません。また、欧
州各国との比較に関して言えば、日本と同じように対ドルでユーロが大きく下
げているので、相対的な順位としては大きくは変わらないと思います。

 これは「大変なこと」です。「一人当たりGDP」というのは、就業者だけ
でなく人口全体の数字であり、高齢化が進めば当然「薄まってくる」わけで
す。言い方を変えれば、年々「就労人口が非就労人口を支える」傾向が強まっ
ていくのです。

 ということは、その分だけ「就労人口が頑張って稼ぐ」必要があるのです
し、事実「少数の就労者が、増えていく高齢者を支える」構図という変化のト
レンドがあるということは、何年も前から「日本の宿命」として言われ続けて
きたことです。にも関わらず、「就労者の生産性」が悪いというのは、これは
「大変なこと」だと言わねばなりません。

 この問題ですが、まずその一方で、産業としては「時代遅れ」つまり競争力
のなくなった部分と、一部分の「高付加価値先端産業」として食べていける部
分、これに加えて空洞化の結果として海外移転した現業から「持ち帰った利
益」(厳密にはGDPではありませんが、キャッシュフローが還流していると
して)といった「売上」の総計を、全体で薄く広く分け合っている構造がある
わけです。

 その結果として、国内で回る内需型の消費も低迷になりがちであり、全体と
しては「大勢の人が働いている」にも関わらず「一人当たり」は薄くなって行
く、そんな構造が指摘できます。

 ちなみに、ビジネスの規模、すなわち「売上」ではなく、「儲け」すなわち
「利益」ということで考えると、「先進国の生計費、先進国の人件費、先進国
の諸経費」といった高コスト体質を抱えていることがあります。ですから、国
全体としては財政規律を崩しながら行くしかないという構造もあります。

 財政の問題はヨコに置いておくとして、産業構造の話に戻りますが、要する
に「全体が稼いでいない」ので、「一人当たり」も薄くなってしまうというこ
とです。その割には就労者の人数も労働時間も多いので、全体の生産性は低く
なるというわけです。

 そこで、産業構造転換の議論をしなくてはならないのですが、いきなり「ス
マホOSの国際標準をオールジャパンで」とか「少なくともCJK(日中韓)
エリアのオフィス・スイート・ソフトはMSを追放して日本発でまとめよう」
とか、あるいは「自動操縦車ではグーグルよりもアップルよりも日本勢が先に
実用化しよう」「ボーイングとエアバスが真っ青になる高効率中型機を202
5年までにデビュー」「アルツハイマー防止薬は絶対に高齢化先進国の日本が
先行」などという目標を立てたとしても、単なる掛け声に終わってしまうでし
ょう。

 この「社会の成熟に伴って、産業構造としては高付加価値の先端産業へ入っ
て行かなくてはならないが、思うように行けない」というのは何に原因がある
のでしょうか?

 その前に一つの命題があります。「何も無理をして先端産業へ行かなくても
いいではないか」という議論です。先端産業は知的な頭脳産業であり、大きな
付加価値を生産できる人間は限られるので「格差を伴う」とか、先端産業にな
ると「環境問題や生命倫理などに抵触する」といった抵抗感を背景に、「これ
以上の経済成長は望まない」というセンチメントと言ってもいいでしょう。

 こうしたカルチャーに関しては、日本社会にかなり根を張っているわけで、
「身の丈にあった経済でいい」とか「人口が減れば一人当たりの自然は増えて
心の豊かさが取り戻せる」とか「自分の死後に自然を汚していくような経済成
長には反対する」といった、一種の宗教がかったセンチメントとして広がって
いるわけです。

 自然との共生とか、環境の保護、あるいは人間らしい生活というのは勿論大
切ですが、そうしたカルチャー自体が「巨大で深刻な抵抗勢力」として日本を
縛っているのは大きな問題だと思います。こうした感覚を持っている個々の
人々は「全く悪気はない」のでしょうが、その背景には3つの問題がありま
す。

 1つは「子や孫のいない人口」にとっては、自分の死後の日本社会の経済成
長は「必要ない」中で、日本列島が自然に還るなどという「文明と民生の破
滅」を「美化してしまう」という無自覚な意識があるという点です。2点目
は、既にリタイアした世代に取っては、自分の生活環境に大きな変化は望まな
い中で日本社会の「激変を嫌う」傾向がどうしてもあるわけです。3点目とし
ては、これも引退しつつある世代に取っては「モノづくりなどで成功した過去
の自分の栄光、成功体験」を否定されたくないということもあるのでしょう。

 いずれにしても、こうした「経済成長否定論」というのは、今後の日本社会
では広まりこそすれ、簡単には鎮静化できないものとして残りそうです。た
だ、非常にノイジーであるものの、発言は引退世代や「非民間セクター」から
出てくるだけですから、日々のビジネスの活動の中では基本的にスルーするこ
とができます。ですから、深刻なようでいて、それほど深刻ではないとも言え
ます。

 問題は、ビジネスのセクターの中にある「非効率」ということです。その
「非効率なカルチャー」を列挙していくと、多くの点で、それが「最先端へ行
けない」企業風土、あるいは社会風土の背景にもなっていることに気付かされ
ます。以降は、その「非効率なカルチャー」について指摘をしたいと思いま
す。


(形式主義)
 そのこと自体には「意味」がないか、あっても極めて薄い「事務作業の過
程」や「行動様式」が多く積み上がることで、時間とエネルギーが浪費される
一方で、問題の解決は一向に進まないということが多くあります。

 まず「原本主義」というものがあります。口頭ではダメで文書、それも電子
メールではダメでファックスならいいとか、あるいはファックスで送ってもい
いが「原本」を送らないとダメだとか、その原本は「手書き」でないとダメ、
しかも「正式な様式」に書かないとダメで自由な形式で書かれたものは参考資
料にすらしてもらえない・・・では、そうした「正式な原本」はしっかり保管
するのかというと、意外にも民法や会社法、税法の時効が来ると廃棄してしま
ってウヤムヤにするという意味不明な文化があります。

 この原本主義に付随して「捺印の習慣」というものもあります。これも形式
主義で煩雑な手間となっているだけでなく、特に捺印ということの「色」が象
徴する「原本への権威付け」、つまり「契約というミューチュアル(相互の善
意による)合意」という「目に見えないもの」よりも「目に見える原本」に権
威を与えるカルチャーを象徴しているように思います。

 この捺印主義、とりわけ実印という習慣については、印鑑証明書と印影が
「合体」するとスーパーパワーになるというシステムよりも、公証制度をもっ
と普及させて、公証人の門前署名ということで効力発生とした方がセキュリテ
ィ上も「理に適って」いると思います。

 法律の世界では「成文法主義」あるいは「逐条主義」というものが横行して
います。つまり、何でも法律の文面になっていないとダメで、その代わりに法
律の条文になっていると、強くその形式に束縛されるという傾向です。

 例えば、民法における「離婚した女性の再婚禁止期間」が問題になりました
が、こうした「個々のケースでは最善の判断が可能」な問題で、「最終的に当
事者(女性と、例えば離婚・再婚の過程で妊娠出産のあった場合の子)」の幸
福追求のために判断がされればいい問題についても「条文」が優先するという
問題です。

 勿論、日本は狭い国の中に多くの人口を抱えるだけでなく、宗教も文化もイ
デオロギーも非常にバラエティに富んだ拡散をしており、「より上位概念とし
てのコモンセンス」が何かという「合意形成」が難しい社会です。(そのコト
自体が大変な非効率であるわけですが)ですが、だからといって何でもかんで
も「条文」が金科玉条になり、反対に「条文」でカバーされない部分について
は法律の規制が及ばないというのは大変に非効率だと思います。


(「過渡的措置のズルズル感」)
 何か改革をしようとすると、その際には切り捨てられる部分や、変わること
で影響を受ける部分があるわけです。そうしたマイナスの部分に目を向けるこ
とから、日本では「変化に伴う過渡的措置」ということに極めて神経を使いま
す。

 例えば、電子マネーの様式などがそうで、特に公的交通機関用には非接触式
のICカードが普及しているわけです。ですが、その前にあった接触式のカー
ド、例えばJRの「オレンジカード」や関東の私鉄の「パスネット」などは、
非接触式が普及して行く中で「半年などの過渡的措置」を経て無効にしてしま
えばよかったのです。

 それをズルズルと「過渡的な受付」を続けているわけで、例えばパスネット
などは2015年の3月までは有効だったわけで、そのシステム上の(コンピ
ュータとか自販機だけでなく、人的な確認作業など)コストはバカにならない
と思います。

 スパっと「切る」ことができない一方で、新しいこともスパっと始められな
い、これも問題です。今回の「マイナンバー」導入に関しても、実際のICカ
ード交付に関しては、恐る恐るという雰囲気が漂っていましたが、どうせ「見
に行くデーターべースが多岐にわたっている」中で、本格稼働には程遠い状況
がウラであったのだと思います。

 迷宮のようになったシステムではなく、もっと、目に見える「規制」でも同
じです。例えば、「姉歯事件」の際に建築基準法が厳格化したわけですが、過
渡的期間が中途半端に長かったために「駆け込みで」新規制に適合しない物件
がドンドン建てられたわけです。今回の「基礎工事トラブルでマンションが傾
いた」という事件は、その「駆け込み」の中で起きたわけで、この基礎工事に
関する規制強化も、同じように「駆け込み」を許すために問題を生む危険があ
ります。

 考えてみれば国際社会には "effective immediately" (エフェクティブ・イ
ミディエイトリー)という考え方があります。プレスリリースなどで発表する
際に、「発表と同時に直ちに効力が発生する」という意味ですが、日本ではま
ずありません。不祥事を起こして経営者が退任する場合も、発表即日というの
は珍しく「末日付け」まで待つなどの「ノンビリ」した対応が多いように思い
ます。

 企業の合併や買収も「新会社の看板や名刺」ができるまでダラダラ準備を続
けますし、やっと新組織が動き出したとしても、簡素化できるはずの間接部門
を統合できないとか、新しいデータベースに一発で移行できないので、合併前
の2つのシステムを並行で走らせて最後にはパンクするといった「ズルズル」
が目立ちます。

 その「ズルズル」の最たるものが決算でしょう。3月31日に会計年度を締
めてから決算発表まで、2ヶ月半というのはスピードが重要な現代のビジネス
世界において「異常な遅さ」であると思います。四半期、いや月次決算が簡素
過ぎるので、バランスシートとPLの整合性確保は中間と本決算の2回しかや
らないとか、決算処理と称して「いちいち判断しながら」損切りや売上利益の
修正をチマチマやり、その作業に膨大な社内政治の労力が費やされるなど、ム
ダもいいところです。


(過剰な儀式)
 そもそも企業にしても、官公庁にしても「仕事以外」の時間や労力が多すぎ
ます。入社式、内部向けの経営計画発表会、毎週の朝礼、横断型のプロジェク
ト、社内レクリエーション行事・・・更に近年では「コンプライアンス説明
会」とか「ガバナンス」がどうとか、膨大な時間をかけて書類を作り、一体ど
んな効果があったのかは、東芝の例を見れば火を見るよりも明らかです。

 こうした儀式的な行動ということについて言えば、企業が家族のような団結
を得て、最終的には個々のモラルが向上して生産性に結びつく、そう信じてい
る経営者が多いようですが、全く違うと思います。仮に儀式をやったり、社内
の行事を増やすことで、個々の従業員がリフレッシュしたり、全社的な位置づ
けを理解することで動機づけされるのであればいいのですが、多くの行事は
「ヒエラルキーシステムの鉄壁さ」を確認することだけが目的であり、動機付
けを強める効果は限定的だと思われるからです。

 コンプライアンスが「儀式・形式」に堕落している一方で、企業を取り巻く
リーガル・マインドというのも妙な方向に行っています。いまだに日本では
「法廷に出て戦う」というのは、それだけで不祥事だという感覚が残ってお
り、正規のリーガル・システムが紛争解決のツールとして使いづらいものにな
っています。これに加えて、あらゆる私法において、時効が短いというのも問
題です。時効を過ぎたものは法律が「原状回復のパワーを失う」中で、私的な
紛争解決が横行するからです。そのために、弱いものが泣き寝入りをしたり、
係争に無駄な労力と時間がかかったりするのです。


(カネがない)
 字数が尽きてきましたが、こうした「非効率」に加えて、ベンチャーや新規
事業を立ち上げる際に「リスクを取るマネー」が少ないために、「新しいこと
を軌道に乗せる」ための「十分な資金」がないという問題もあると思います。
知的な財産を無形固形資産という形で、しっかり認識する会計制度が弱いこと
もあいまって、ソフト化社会において日本人が文明として持っている「知恵」
が新しいビジネスとして開花していない、その背景で「資金不足、会計制度の
不備」が足を引っ張っていると言えます。


(それでも日本の「強み」を活かす道はある)
 それでも、日本という文明には「世界の他にはない強さ」というものがある
と思います。目に見える価値に関しては、ここまで完璧や潔癖を示す文化はな
いでしょうし、一旦そのように「目に見える」形で様式が決まっていくと、実
にロジカルに、そして実に現実的に動くことができる、そんな動作のカルチャ
ーもあるように思います。

 目に見えるものには強く、目に見えない概念とか契約といったアイディアに
は弱いのですが、それでも大自然への畏敬、悠久の時間への畏敬、大海原への
畏敬といった独特の哲学あるいは世界観があり、それが環境との共生や生命全
般への畏敬という形で、一種の人類の普遍的な価値観に近いものとなっていま
す。そうした哲学は、必ずや近未来の人類のビジネスないし地球レベルでの新
しい規範づくりには役立つでしょう。

 今回お話したように、現在の日本社会では「日本社会の弱み」がかなり顕在
化しています。特に「目に見える中付加価値製品を大量生産する」ことばかり
に走っていた過去の栄光は現在の国際社会では通用しないか、少なくとも先進
国の経済を支える産業にはならなくなっているからです。

 ですが、今後、日本が高付加価値の先端産業で競争力を持っていくために
は、そのために日本の独自性を訴えていくのであれば、日本の文化的な特質を
活かしたユニークな「新しさ」を追求していく可能性は十分にあると思われま
す。


(女性リーダーへの期待)
 最後に、前回の問題提起では欠落しているというご指摘をいただいたのです
が、女性のリーダーシップの問題があります。

 世界中でヒットした映画『スター・ウォーズ・フォースの覚醒』にちなん
で、面白いニュースが世界を駆け巡っています。というのは、玩具メーカーの
「ハズブロ社」が、今回のスターウォーズ映画を題材にした「モノポリー」と
いうゲームを発売したのですが、その中には善玉としての「ルーク」「フィ
ン」そして悪玉としての「ダース・ベイダー」「カイロ・レン」の4人のキャ
ラが入っていたのでした。

 ですが、これに対してイリノイ州の8歳の少女が「ハズブロ社」に手紙を出
したのだそうです。その手紙には「(今回の主人公である女性の)レイがいな
くては悪が勝って世界が滅んでしまう」という訴えが切々と綴られていたので
す。このニュースが世界中を駆け巡る中で「ハズブロ社」は、「モノポリー」
に「レイ」のキャラクターを入れることを約束したのです。

 半分冗談のような話ですが、女性が世界を救うというのは、欧米だけでな
く、アジアでも、あるいはアフリカでも様々な形で出てきている現象だと思い
ます。(2017年のヒット映画『ワンダー・ウーマン』は正にそうです)

 私は前世紀の末に、前の勤め人の人生の時期に、デンマークでビジネスの会
合に出たことがあるのですが、デンマークの人々は「複雑な現代において紛争
処理をしたり、問題解決をするようなマネジメント業務については女性の方が
向いている」として「男性は専門職が似合うので技術者や会計士に適性があ
る」というようなことを言っていました。

 思えば、日本の場合はその反対をやっているわけで、元来が「世界を救う」
とか「マネジメントとしてチームのパフォーマンスを最高に持っていく」とい
うようなスキルの適性もなければ、訓練もされていない男性がそうしたポジシ
ョンにあることが、組織全体の非効率を生んでいるという面はあると思いま
す。

 この点に関しては、単に女性の採用と昇進昇格を男性と平等にしただけで
は、足りません。ここへ来て、政府が設定した「女性の管理者登用」の目標値
が「全く達成できない」ということが続いています。それは優秀な女性が足り
ないとか、女性は伸びないということではなく、むしろ実態はその反対である
にもかかわらず「最近平等に採用されるようになったばかりの女性が管理職や
上級管理職に昇進するには20年から30年の時間がかかる」というだけのこ
とです。

 つまり、遅れていた日本の「女性のリーダーシップ活用」を進めるには「男
女平等の採用と昇進昇格」を実現するのでは全く足りないのであって「年功序
列システムを同時に廃止するしかない」のです。その英断を実行できた組織は
生き残り、できない組織は自滅していくのであり、そんな中でどう考えても
「できない組織」を多く抱えるということも、大きな日本の「非効率」である
と言えるでしょう。

 いずれにしても、この「ニッポンの非効率」の問題、継続的に考えていきた
いと思います。


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<連載コラム「フラッシュバック72」サンプル版>

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 45年前の「同時代」を確認してゆくこのコラムは、『朝日新聞縮刷版』を
参考に、本メルマガに合わせて同年の「同じ季節」の「同じ週」を追い
かけています。今回は、サンプル版として、1972年の6月21日(水)か
ら1972年6月27日(火)の動きを見て行きましょう。

 この前週に佐藤総理は退陣を表明しており、三角大福による自民党総裁選は
熾烈な争いに入っていました。日本はニクソンショックによる円高不況に苦し
んではいましたが、高度成長の成果が豊かさとして実感できる社会でもあり、
希望や夢には溢れていたようで、それがこの後は一時的な田中ブームを作り出
します。

 一方で、学生運動への大弾圧の結果、一部の過激な部分は日本赤軍としてイ
スラエルでのテロ活動を行ったり、反対に学園には四無主義が顕在化していた
り、過渡期的として大きな時代の転換期に入ってもいたのです。


(1972年6月21日)

 朝刊の一面トップは、「去年の政治資金、総裁候補派が急増」というタイト
ルで、加熱する総裁選と飛び交う政治資金の問題が取り上げられていました。
政治団体の収入の総合計は385億円で、そのうちの63%が出所不明という
いい加減な時代でした。

 国鉄労組の「順法闘争」は、新幹線にまで及んで恒常化していました。戦術
としては「安全確認のドア扱い」で1分遅延させるとか、司令からの「速度回
復司令」を受けても無視するという中で、結局は30分などの遅延を発生させ
るというものです。その方法が「順法」なので摘発できないのがミソで、労組
側としてはそれで「生産性運動(マル生)」への抗議行動、そしてベア完全実
施への圧力として正当な手段だということになっていたのです。

 その順法闘争では、この日の中央線は特に影響が激しかったようです。全体
では、103万人に影響が発生して、首都圏での負傷者が14名も出ていまし
た。新宿駅では、余りの混雑に「降りるに降りられない」乗客を、駅員が手伝
って「窓から出す」光景もあったのです。

 プロのオーケストラである日本フィルは、スポンサーのフジテレビと文化放
送が「降りた」ために経営基盤を喪失して、その存続が危ぶまれていました
が、16日に行われたマーラー2番の演奏会は、その「思いのたけ」をぶつけ
た激しいものだったそうです。林光氏の演奏評によれば、「一体感の生む壮絶
さ」であったそうですが、どこかに録音は残っていないものでしょうか?


(1972年6月22日)

 日教組大会では「詰め込み教育の典型」だとして、ワークブック類を「ヤリ
玉」に挙げていたそうです。確かに静的な知識の暗記と、反復作業の訓練とい
う「ワークブック」は特に国語などのアプローチには疑問な点も多くありま
す。ですが、「詰め込み教育」がダメなのは、そこで停滞していて高付加価値
を生み出すような縦横な抽象概念の操作力を教えない点にあるわけです。

 だからといって、静的な知識と作業訓練を否定していては、何もスキルとし
て残らないわけで、バカバカしいにも程があります。今でも残る、この「知識
と作業」止まりの公教育の限界には、労組の下らない左派ポピュリズムも影響
していたのではないかと思います。

 中国政府は、少数民族重視の政策の一環として、日本のアイヌを15名招待
したそうです。

 米大統領選の予備選では、20日のNY予備選でマクガバン候補が圧勝し
て、正式指名へ大きく近づいていました。

 前日の21日、日本赤軍によるテルアビブ空港乱射事件に対して沈黙を守っ
ていたイスラエルは、レバノン南部の「アラブ・ゲリラ拠点」を空と陸から攻
撃し、レバノン側には大きな被害が出ていました。


(1972年6月23日)

 一面トップは利下げのニュース。景気回復への刺激と、円高回避を狙って
「公定歩合は4.25%(0.25%下げ)」という措置が決定したのです
が、当時の感覚では、これでも「超低金利時代スタート」という表現で紹介さ
れていたのでした。

 自民党総裁選では、「三角大中」が連携を強化して福田氏に対抗するという
動きを見せる一方で、福田陣営は「1・2位連合論」に乗り気を示すなど、水
面下の駆け引きが続いていました。

 この日、昭和天皇は在位日数で明治天皇を抜いて「史上最長」になっていま
す。

 札幌五輪で人気になった米国のジャネット・リン選手は「銀盤の恋人」と呼
ばれてもてはやされていましたが、五輪の記録映画完成記念イベントのために
再来日したところ、報道陣とファンが殺到して大騒ぎになったそうです。

 インドは年内にも核実験を行うと宣言。外務省は「踏み切るようなら反対」
という立場を示していましたが、やがて腰砕けになっていきます。NPT体制
は発足早々に挑戦を受けたわけです。

 この日の午後、東京の日暮里駅構内で停止中の京浜東北に山手線電車が「追
突」するという事故が発生。負傷者を出していますが、「順法闘争」が一段落
したら、今度は「たるみ」事故だということで、厳しい批判を受けていまし
た。


(1972年6月24日)

 朝刊の一面トップには「ポンド変動相場制へ」という大きな見出し。欧州市
場はこのショックで閉鎖、世界的にドルも安値傾向となる中で、円高圧力は
「必至」となっていました。この日は土曜日でしたが、当時は株式市場も「半
ドン」で空いており、空前の大暴落(約7%の下げ)というショッキングな結
果となっています。

 光化学スモッグの被害が、東京近郊の「療養の町」清瀬にまで及んでいると
いう東京ローカルの記事。学校や病院で次々に健康被害が出る中で「清瀬がダ
メならもう住むところはない」という声も出ていました。


(1972年6月25日)

 日曜の一面は、依然として「ポンド変動相場制」のショックから「通貨不
安」の4文字が大きく躍っていました。「日本への影響避けられず」などとい
うのですが、当たり前の話であり、通貨の力が強まることによる効果をどう経
済成長に結びつけるかという戦略的な観点が欠落したまま、「怖い」という感
情論が蔓延していたのです。この傾向は、今に至るまで変わっていません。

 この日の「ひと」欄には、日本フィル存続へ向けて奔走している一人とし
て、作曲家の山本直純氏が登場。トレードマークの髭は、既に有名でしたがこ
の時点でまだ39歳という若さでした。後に政治的に少し右へ寄ったりもした
氏ですが、誰もやらない「本気での啓蒙」ということに一貫して取り組んだ業
績は見直されてもいいのではと思います。

 朝刊の社会面にはパリ発ということで、シモーヌ・ド・ボーヴォワール氏の
インタビューが掲載されていました。「高度技術社会になったのに女性の地位
は中世と同じ」という厳しい指摘は、しかしなかなかこの時代の日本では浸透
して行かなかったのです。


(1972年6月26日)

 前日の25日に投票の行われた沖縄県知事選挙では、現職の屋良朝苗氏に対
して、自民公認の大田政作氏が挑戦するという構図でしたが、約25万票対1
8万票という大差で屋良氏が当選しています。同時に行われた県議選でも、反
自民が過半数を取りました。

 政治記者の座談会という形式で「激しさ増す、角福対決」という記事。大き
な紙面を使っているにも関わらず、人間や組織の関係にフォーカスした、細か
な情勢分析ばかりで、政策の視点はほとんど入っていないという内容でした。
こうした報道姿勢が続くことで、政治に民意の参加による合意形成機能や決定
機能が育たないという弊害がいつまでも残っているのです。

 国際欄には、北爆の猛威ということで、米軍は繊維業の中心都市を徹底破壊
して「産業施設攻撃の意図」を示していたという報道。戦争終結を探りなが
ら、現場の名誉を確保しつつ、保守派の抵抗の抑えるには悪魔的行為が必要と
いうメカニズム、これは非常に悪質なもので、単にニクソンが悪いとか、産軍
共同体が悪いという話を越えているように思います。


(1972年6月27日)

 週末の「ポンド変動相場制へ」というショックから閉鎖されていた東京外為
市場は、この日もオープンできず、この時点では29日に再開かという見方が
報じられていました。そんな中、ロンドンからはEC閣僚委の決定として「現
通貨体制の維持」「変動相場制は採用せず」「イタリアに支援措置」というニ
ュースが飛び込むと、「これで大量投機は防げる」ということで、東京市場は
急速に戻していました。

 総裁選は、田中派が「三角中」の連携を強める一方で、佐藤首相は福田派に
肩入れする気配を見せており、それが、田中陣営からの猛反発を呼び込む構図
になってきていました。この日には、椎名派、水田派の両派は田中支持へ回る
という報道も。

 折角収束に向かっていた「順法闘争」ですが、労組員の対立に絡む暴力事件
で逮捕者が出たことへの「抗議」で、動労は再び「闘争」を開始するという事
態になっています。


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