石 平
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石平の中国深層ニュース

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毎月二回、執筆者独自のルートと手法を用いて中国の政治・経済・外交などの動きにかんする情報分析を徹底的に行ない、その深層を掘り下げて記事にまとめて配信する。
目の離せない中国問題に関する情報分析をより早くより深く提供するのが本メルマガの役割である。
中国関連で重大な出来事や突発事件が発生した際は号外記事を発行する。

著者プロフィール

石 平

石 平 1962年、中国四川省に生まれる。北京大学哲学部を卒業。1988年に来日。1995年に神戸大学文化学研究科博士課程修了後、民間研究所勤務。2002年に『なぜ中国人は日本人を憎むのか』(PHP研究所)を著して中国における反日感情の高まりについて先見的な警告を発して以来、フリーの立場で評論活動に入る。 著書は多数。『なぜ日本は中国から離れるとうまくいくのか』(PHP新書)は第23回山本七平賞受賞。 2007年に日本国籍に帰化。現在は中国問題・日中問題を中心に執筆・講演・テレビ出演などの言論活動を展開。 2009年3月から産經新聞本紙にて「石平のChina Watch」隔週コラム連載中。

かつては中国人として中国のことを知り尽くし、今は日本人として中国問題に深く切り込む一人である。

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石平の中国深層ニュース サンプル号

「北朝鮮危機」を利用してトランプ政権を屈服させた中国 その戦略の限界

今年3月18日、東アジアを歴訪中の米国のティラーソン国務長官は、就任後初めて中国を訪問し北京で王毅外相と会談した。中国外務省の発表によると、会談の中でティラーソン氏は「米国は一つの中国政策を堅持し、中国と衝突せず、対抗せず、相互に尊重して両国関係がさらに発展することを願う」と述べたという。
 翌日の19日、ティラーソン氏は中国の習近平国家主席とも会談したが、そのなかで彼は習主席に対して、トランプ大統領が主席との「早期会談」を期待していると伝えたのと同時に、「「衝突せず、対抗せず、互いに尊重し、ウィンウィンの協力」との米中関係を提案したと、中国メディアが伝えている。
 このように、中国側との一連の会談においてティラーソン氏は、「衝突せず、対抗せず、互いに尊重」とのキャッチフレーズを盛んに持ち出して中国との友好関係構築の意欲を示したが、それは、トランプ政権は誕生する前後から示した中国への厳しい対抗姿勢とは打って変わったものである。
 例えば今年1月11日、国務長官に指名されたティラーソン氏は米国議会の公聴会で、中国が軍事的進出を進めている南シナ海問題にかんして、「われわれは中国に対し、まずは人工島の造成を中止しなければならないと伝え、次に中国によるこれら島々へのアクセスは認められない」と発言して波紋を呼んだ。この発言は額面通りに受け止めれば、要するにアメリカは今後、場合によっては実力を持って中国の南シナ海での軍事行動を阻止するかもしれないという、この上なく強烈にして対抗姿勢の強いものである。
 実際、この発言を受けてNYタイムズのネット版は1月16日、「南シナ海の人工島封鎖で米中衝突が現実に?」との署名記事を掲載して、米中間軍事衝突の可能性を本気で心配していたが、それから二ヶ月経った今、当のティラーソン氏自身は北京へ出向いて「衝突せず、対抗せず、互いに尊重」と熱心に説くとはまさに「隔世の感」があろう。これをもって、トランプ政権の対中姿勢は劇的に転換したと言わざるを得ない。
 しかも、いわゆる「「衝突せず、対抗せず、互いに尊重」の表現はもともと、以前のオバマ政権時代において、中国の習近平国家主席がオバマ大統領に対して持ちかけたものである。当時、オバマ大統領はそれに対して否定も肯定もせずにして単に聞き流したが、今、トランプ政権の国務長官は逆に中国側に対してそれを「提案」したとは、中国に対する態度の軟化というよりも、中国への迎合とも捉えるような卑屈な姿勢というしかない。
 ティラーソン氏の訪中を受け、ワシントンポストは「ティラーソンは北京に外交的勝利をもたらしたようだ」というタイトルの記事を掲載して、「一部の批評家はティラーソンは過度に頭を下げたと見る」とし指摘したが、まさしくその通りであろう。トランプ政権は完全に、北京に頭を下げてきたわけである。
 問題は、政権成立の当時から南シナ海問題や貿易問題などで中国にあれほどの厳しい姿勢を示したトランプ政権が、北京に迎合する姿勢に転じたその理由は一体なんだったのかである。よく考えてみればその理由は一つしかない。キーワードは要するに「北朝鮮」である。

 周知のように、北京訪問を含めたティラーソン国務長官の東アジア歴訪は、まさに北朝鮮問題対策のためである。
 今年2月13日の金正恩政権による金正男暗殺の一件以来、特に3月6日、北朝鮮は「在日米軍基地への攻撃訓練」と公言して日本近海にミサイルを4発も打ち込んで以来、北朝鮮問題、というよりも北朝鮮危機は一気にアメリカの最大の関心事となった。いよいよ暴走し始めた金正恩政権を前にして、北朝鮮からの核脅威はアメリカとそのアジアの同盟国にとっての、「今そこにある危機」となっているからである。
 危機の発生を未然に防ぐため、その時点からトランプ政権は、「斬首作戦」などの軍事攻撃も選択肢として含めた、北朝鮮からの脅威を取り除くための根本的な解決策を本気で考え始めたようである。ティラーソン国務長官の東アジア訪問は、まさにこの「根本的な解決」のための地ならしと理解できよう。
 例えば日本訪問中には、ティラーソン氏は岸田文雄外相との会談後の共同記者会見では、「北朝鮮を非核化しようとする20年間の努力は失敗に終わった。脅威がエスカレートしており、新たなアプローチが必要だ」と指摘した。そして安倍晋三首相との会談では、ティラーソン氏はトランプ政権が進める北朝鮮政策の見直しを巡り、「全ての選択肢がテーブルに載っている」と述べた。
 ティラーソン氏がここでいう「新たなアプローチ」や「全ての選択肢」は当然、北朝鮮に対する軍事行動の実施を含めている。まさにそのために、米軍基地のある同盟国日本との合意と連携が必要となっており、ティラーソン氏訪日の最大の目的はここにあると断言できよう。もちろん、軍事行動を検討するなら、もう一つの同盟国であり、北朝鮮問題の当事者である韓国との連携も大事であるから、日本訪問の次にティラーソン氏が足を運んだのは韓国である。
 しかし問題は、韓国訪問の次に、ティラーソン氏はどうして、同盟国でもなんでもない中国へ赴いたのかであるが、実はそれこそがミソなのである。アメリカは軍事的攻撃を含めた北朝鮮問題の根本的な解決策を考える際、中国の存在と動向を無視してはならないからである。
 まず軍事行動の場合から考えよう。アメリカは北朝鮮に対して軍事攻撃を実行する際、北朝鮮軍の抵抗はほとんど何とも思っていない。軍事力と軍事技術の差はあまりにも大きすぎるからである。アメリカが唯一心配しなければならないのは中国の動向だ。
 今から67年前に始まった朝鮮戦争の時、国連軍の主力軍として朝鮮半島に入ったアメリカ軍は、南侵した北朝鮮軍をいとも簡単に撃破して追い返したが、その直後に中国共産党軍が越境して参戦してくると、アメリカ軍は3年にわたっての苦戦を強いられることとなり、中国軍のために14万人ほどの死傷者を出したという苦い経験がある。だから今になっても、アメリカは北朝鮮への軍事行動を考える時、朝鮮戦争の悪夢がまず頭をよぎってくるのであろう。
 トランプ政権にしても、朝鮮戦争の二の舞にならないためには、北朝鮮に対する軍事攻撃を考える際、まずは中国の黙認、了解を取り付けなければならない。もちろん軍事行動だけでなく、別の選択肢で北朝鮮問題の根本的解決を図る時でも、中国からの協力、少なくとも中国からの暗黙の了解がなければ、それは成功できるはずはない。つまり、トランプ政権が本気で北朝鮮問題の解決を図る時、まず超えなければならないのは中国という厚い壁なのである。
 だからこそ、ティラーソン氏は東アジア歴訪の仕上げとして最後は中国へ赴いた。そして彼は、この記事の冒頭で記しているように、卑屈と思われるほど中国に平身低頭して「衝突せず、対抗せず、相互に尊重」の友好姿勢を示さざるを得なかったのである。
 それこそは、トランプ政権の中国に対する姿勢転換の最大の理由であるが、逆に中国からすれば、トランプ政権に態度を変えさせ、当時は予想されていたトランプ政権の対中国攻勢を見事にかわしたことはまさに外交上の大勝利であり、アメリカに対する立場の逆転でもあるのである。

 そういう意味では、金正男暗殺から日本海へのミサイル発射までの北朝鮮の一連の動きは結局、中国を大いに助けたことになっているのである。北朝鮮が暴走したからこそ、米国は中国に頭を下げなければならなかったからだ。
 そうなると、金正男暗殺からの北朝鮮の一連の動きは実にタイミングよく、中国の戦略的利益に適っていることは明々白々である。ならば、北朝鮮のこの一連の動きの背後に中国の暗影はないのか、との疑念は当然生じてくるのであろう。
 例えば金正男氏の暗殺にしては、今まで彼が中国政府の保護下にあったから、金正恩政権は簡単に手を出すことができなかったが、ここにきて暗殺の断行に至ったのには、中国から何らかの形で「容認」のサインをもらったのではないか、との可能性も十分にありうる。
 さらに不可解なことに、金正恩暗殺の後、北朝鮮に対する国際社会の風当たりが依然として強かった中、2月28日から北朝鮮の李吉聖外務次官は突如北京訪問を始めた。中国が保護していたはずの金正男氏が暗殺されてからわずか2週間後、手を下した金正恩政権の高官の北京訪問を中国が受け入れたこと自体、まさに不可思議なことであるが、その背後に一体何があったのか。
 2月28日から北京滞在した李外務次官は、翌日に中国の王毅外相と会談した。会談の中で王外相が「中朝の伝統的な友好をしっかりと発展させることが中国の一貫した立場だ。北朝鮮との意思疎通を強化したい」と述べたのに対し、李次官は「両国の友情は共同の財産」であり、「朝鮮半島情勢について中国との意思疎通を深めたい」と応じたという。
 このような和気藹々の会談の雰囲気からすれば、中国が別に金正男暗殺を本気で怒っていないことはよくわかるが、さらに注目すべきなのは、李次官の北京滞在期間の長さである。3月1日に王毅外相との会談が終わってから、彼はさらに数日間北京に滞在して、帰国したのは3月4日である。その間、李次官の動静はいっさい伝えられていない。もちろん、単に北京で遊んでいるわけもない。つまりこの数日間、北朝鮮の李次官は、中国側とさらに突き込んだ話し合いをしたのか、王毅外相以外の中国高官とも秘密会談したのか、との可能性は大であろう。
 そして李次官が帰国した2日後の3月6日、北朝鮮は「米軍基地への攻撃訓練」と称して日本海に4発のミサイルを打ち込んだ。タイミング的には、この行動と、上述の李次官の北京訪問とは無関係であるとは考えられない。北朝鮮がこの冒険に踏み込んだ背後には、中国の暗黙の了解あるいは積極的な支持があったはずである。
 つまり中国は、北朝鮮の暴走をうまく利用してトランプ政権に対して優位に立つことができ、それをもってアメリカの対中姿勢を軟化させることに成功したわけであるが、問題は、この成功はどこまで続くかである。

 中国は北朝鮮問題でアメリカとの協力姿勢を示した一方、トランプ政権が考える北朝鮮への軍事攻撃にはあくまでも大反対である。北朝鮮が米国の軍事攻撃によって滅ぼされ、そしてそれによって、中国が在韓米軍からの軍事的圧力に直接晒されることは、中国にとっての悪夢だからである。
 だからこそ、中国の王毅外相がティラーソン米国務長官との前述の会談では、「朝鮮半島は危険なレベルに達している」との認識を米国と共有しておきながらも、「平和的解決には外交的手段が必要」と強調して、武力行使にはあくまでも反対する立場を示している。
 しかし中国側のこの姿勢はいずれか、トランプ政権を苛立たさせることになりかねない。中国があくまでも軍事攻撃という選択肢に反対するなら、トランプ政権にしては、中国に頭を下げて迎合しなければならない理由は半減するのであろう。
 しかももっとも肝心なことは、中国自身が決して、北朝鮮問題の根本的な解決を望んでいない点である。北朝鮮が常に「問題」となっているからこそ、アメリカは問題解決のためにいつも中国に頭を下げてくるのであり、問題が解決されてしまったら、中国のアメリカに対する優位はなくなってしまうからである。
 つまり北朝鮮問題の根本的な解決を急ぐトランプ政権に対し、中国はあくまでもそれが「解決されない」方向へと持っていこうとするから、北朝鮮問題をめぐっての米中連携は最初から成り立たない。この中で、いずれかトランプ政権が、中国を頼りにして北朝鮮問題の解決は不可能であると悟った時、あるいは中国こそが北朝鮮問題解決の邪魔であるとわかった時、その時こそ、トランプ政権は再び、矛先を北京へと向けていくのであろう。
 
 




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