元証券会社社長・澤田聖陽が教える「投資に勝つニュースの読み方」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
元証券会社社長・澤田聖陽が教える「投資に勝つニュースの読み方」
Vol.001
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
/ 2019年12月03日発行 /

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
元証券会社社長・澤田聖陽が教える「投資に勝つニュースの読み方」では、毎週その週のニュースで何点かをピックアップして、「投資に勝つ」にはどのようにニュースを読み、分析していけばよいのかを（投資の最前線にいる）私の視点から解説いたします。
■□■□■□■■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

◎目次
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・自己紹介
・ニュース解説
1.ソフトバンクグループの中間決算の赤字について（WeWorkショック）
2. Zホールディングス（ヤフー）とLINEが経営統合に向けた協議を進めている件
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

……………………………………………………………………………………
今回は初回号ですので、まず私のどんな人間か知って頂く為に、自己紹介をさせて頂き、１１月に出た注目のニュースを何点かピックアップさせて頂き、解説させて頂ければと考えております。

◎自己紹介
私、澤田聖陽は、大学卒業後、１９９８年に当時の国際証券（現三菱ＵＦＪモルガン・スタンレー証券）に入社致しました。１年半ほど九州の支店で個人営業を行った後、本店のエクイティ部（株式の売買を取り扱う部署）へ異動しました。

その後、2001年に松井証券に転職いたしました。その当時はネット証券黎明期であり、もともと地場証券であった松井証券はネット証券へ鞍替えし、取り扱う株式の売買高も面白いように伸びていました。同時に松井証券は2001年に東京証券取引所に上場しました。まだスマホもなく、インターネット自体も黎明期でしたが、ネットの力というものをまざまざと見せつけられました。今でいうところのフィンテックの走りだったと思います。

その後、ジャフコというベンチャーキャピタル（ベンチャー企業に投資する会社）に転職しまして、ベンチャー投資を行っていました。ジャフコ在籍時には、2008年にリーマンショックがあり、金融がクラッシュするとどのような事が起こるかという事を、金融業界にいながら身をもって体験させて頂きました。

2009年には、極東証券の投資銀行部に転職しまして、M&Aや不動産の案件を手掛けさせて頂きました。日本初のREITの合併のアドバイザーをさせて頂くなど、特に不動産に係るディールに多く携わらせて頂きました。2013年からはAIP証券（現SAMURAI証券）の代表取締役に就任し、クラウドファンディングサービスの立ち上げや、多くの投資銀行業務のディールに関わらせて頂きつつ、証券会社の経営者という貴重な経験をさせて頂きました。2017年にはAIP証券のSAMURAI&J PARTNERS（JASADQ上場企業）への売却を行い、今年の6月でSAMURAI証券の代表を退任しました。

9月からは投資会社で投資とコンサルティングの事業を行いながら、数社の企業の顧問をしておりまして、引き続き投資の最前線で仕事をしております。

得意分野は、新興市場、不動産、M&Aです。

このメルマガでは、上記の私の20年強の証券、投資の現場での経験をもとに、日々起こるニュースを「投資に勝つ」にはどのように読み、分析すればよいかを各個別ニュースをピックアップして解説していきたいと考えております。

今回は創刊号なので、１１月の気になるニュースを解説致します。
（11/20入稿期限なので、１１/20時点で発表されているニュースになります）


◎ニュース解説
……………………………………………………………………………………
１．ソフトバンクグループの中間決算の赤字について（WeWorkショック）

ソフトバンクグループの９月中間決算の発表のニュースですが、営業損益が１５５億円の赤字になりました。孫社長の言葉をそのまま借りれば「真っ赤っかの大赤字」という状況です。
既にご存じの通り、ソフトバンクグループが運用するビジョンファンドの投資先であるWeWorkが上場を延期し、経営者であるアダム・ニューマンCEOの問題（コンプライアンス及びガバナンスの問題、要するにやりたい放題の無茶苦茶な経営をしていたという問題です）が発覚し、valuation（時価総額　会社全体の株式の価値の事です）が大幅に下がった為、ソフトバンクグループの決算で
多額の評価損が生じ、赤字決算になりました。

WeWorkのvaluationの変遷は大まかに以下の通りです。

２０１７年と２０１９年で合計約１兆円の投資
→　IPO直前valuationを約４．７兆円と試算
→　アダム・ニューマンCEOの不祥事、コンプライアンス及びガバナンスの問題が表面化
→　IPO評価額が２兆円前後に下落との見通しが出る
→　IPO取り止め、アダム・ニューマンCEOが辞任
→　WeWork株式全体の公正価値は 78 億米ドル（約８，５００億円）まで下落。
→　ソフトバンクグループはWeWork株式の評価損で約８,９００億円の損失を営業損失として計上
　　（ファンドの外部投資家持分の控除前）
→　以前にソフトバンクグループが行使価格１１０ドルのワラントを引き受けていたが、その行使価格を１１．６ドルに引き下げて１０月に行使。ソフトバンクグループの持ち株比率は４１．２％に。その後、公開買い付けも行い、持ち株比率を過半数以上とする予定。

この一連の流れが僅か３ヵ月ぐらいの間に起こっているのです。
３ヵ月の間にvaluationが五分の一程度に下落する。
まさに投資家にとっては悪夢ですが、本当に価値がこれだけ下がったのでしょうか？
WeWorkのPLの状況（売上、利益の水準）は変わっていません。
それなのにvaluationは五分の一程度に下落する。
要するに、当初の約４．７兆円というvaluationが砂上の楼閣であったという結論にしかなりません。

このような状況の中でソフトバンクが選んだ方策は、ナンピン買い（当初の株式の買値よりも安い価格で株を引き受け、平均取得価格を下げること）を行い、子会社化するという事でした。（その方策しか取る余地がなかったと言ったほうが良いかもしれません）

私はシェアオフィスのビジネスについては成長性があるとは考えていますが、本来は不要なスペースを有効活用するという比較的地味なビジネスであり、コツコツと積み上げていきながら、比較的薄い利益でありながらも安定的に儲けることができるビジネスだと考えています。

少なくともアダム・ニューマンCEOが行っていたような派手さとは無縁のビジネスではないかと考えており、ソフトバンクの子会社になり、堅実経営に舵を切った今ではより地味なビジネスとなるのは必定かと考えています。

要するに、WeWorkについては、今後は如何に損失を少なくできるかという撤退戦のビジネスにしかなり得ないであろうと思います。

ベンチャー投資を行っていけば、百戦百勝はないので、これからも投資先からWeWorkのような会社は出てくるでしょう。ある意味で、WeWorkのような投資先の撤退戦を、どれだけ損失を少なくできるかにソフトバンクグループのファンドの命運が掛かっているのかもしれません。

最後に、ソフトバンクグループの会計処理について述べておきたいと思います。
ソフトバンクグループはIFRS（International Financial Reporting Standards、国際財務報告基準といいます）基準という会計基準を採用しております。（IFRSを採用していない企業は日本基準といいます）

IFRS基準と日本基準は何点か大きく異なる部分がありますが、最も顕著な違いと言えるのはのれん（のれんとは企業を買収した時に、純資産以外に支払うブランドの対価です）の償却方法です。

日本基準では、償却年数を決めてのれんを規則的に償却していきますが、IFRS基準ではのれんの償却は行いません。しかし、それではのれんが貸借対照表に計上されたままとなってしまいますので、IFRS基準では、のれんの価値が著しく下落した際に、減損処理を行うこととされています。

要するに、当初見込んだ計画から、あまりにも下方に乖離した状況になると、一気に損が発生するという事です。WeWorkの今回の件が、まさにそうです。（ちなみに日本基準でものれんは固定資産に計上されるため減損会計の適用対象ともなります。のれんの価値が著しく下落している場合等は減損処理をする必要があります）

もう一つIFRS基準の特徴として、投資先企業や不動産の含み益がPLに計上できるという点です。これはIFRS基準の実態を反映するため“時評評価”を進めるべきという考え方に基づいているからです。

前期までのソフトバンクグループの決算は、このIFRSによる含み益のPLへの計上をうまく利用？（正式に認められている会計基準なので利用というのは言い過ぎなのかもしれませんが）
していました。

利益のかなりの部分が投資先である未上場企業の含み益という状況です。これは含み益なので、キャッシュインを伴わないPL（損益計算書）上の利益です。会計とキャッシュフローがずれる事は間々ありますが、あまりにもその比率が高いと、PLの信頼性が揺らぐと考えるのは私だけでしょうか？

ちなみにソフトバンクグループの２０１９年３月期の営業利益２兆３,５３９億円のうち、１兆３,７８６億円が投資先の未実現評価益です。


……………………………………………………………………………………
２．Zホールディングス（ヤフー）とLINEが経営統合に向けた協議を進めている件

今月報道されたM&A関連のビックニュースです。

報道を見たとき、私はなるべくしてなった話だなと思いました。

両社長は、今年の夏から話していたそうですが、背景には今のままではGAFA（Google、Apple、Facebook、Amazon）に対抗できないという危機感があるのでしょう。

実は、私はこの合併はあまりプラスにならないのではないかと考えています。（正確に言いますと、LINE単独でやっていくのが厳しくなっていた為、LINEの親会社であるNAVERにはメリットがあるとも言えます）

一応、ニュース発表直後は両社とも株価はプラスに反応しています。

・Zホールディングス
　　11/14　終値　４４９円（前日比６４円高）
　　11/15　終値　４１７円（前日比３２円安）

・LINE
　　11/14　終値　５,２９０円（前日比７０５円高）
　　11/15　終値　５,０４０円（前日比２５０円安）

市場はとりあえず材料に飛びついたという感じでしょうか。

Zホールディングスは、検索、SNS、Eコマース、決済、金融等を横断的に手掛け、一つのグループによるワンストップサービスを提供したいようです。（目指すところはネットビジネスのコングロマリットでしょうか？）勿論、親会社であるソフトバンクグループと連携してという事でしょう。

果たして、このネットのワンストップサービス戦略はうまくいくでしょうか？

結論から言いますと、私は上手くいかないと考えています。

事例をもとに説明しますと、中国では比較的上手くいっていると言えます。ネットサービスはアリババグループとテンセントグループが複数のサービスを手掛けて、寡占化が進んでいるようです。

但し、中国の場合は自由な競争が行われて今の状況になった訳ではなく（ご存じの通り中国ではGoogleもFacebookも使えません）、少し特殊なケースであると考えます。

出来る限り情報を一元管理したいという、中国政府の意向もあるような気がします。

一方、アメリカではどうでしょうか？

Googleも以前はGoogle+などのSNSを手掛けたこともありましたが、結果として失敗しました。現状は、検索はGoogle、SNSはFacebook、EコマースはAmazonというように、それぞれサービスを提供する会社が分かれています。

消費者もすべての会社で一元的に管理される総合サービスを望んでいるかと言えば「？」です。

例えば、リアルの世界ではショッピングモールに行けば、銀行もあるし、食料品も服も買えるし、食事もできるみたいなワンストップサービスの効果はある程度あるかと思います。昔の商店街もそんな感じですね。百貨店もしかりです。リアルの世界では距離の概念があるからだと思います。食事をして、そこから何時間もかかるところまで行って買い物をするという人は殆どいなく、食事をしたら近くで買い物もして、銀行に用事があれば近くですましたいという人が多いと思います。

一方、ネットの世界はどうでしょうか？

あるサイトからあるサイトへ移るのはクリック一つで、時間は殆どかからない。

一度会員登録すれば、複数のサイトを使いこなすのは、それほど難しいものではありません。

もともとネットビジネスでは囲い込みという概念は通用しにくく、各消費者が自分で好きなサービスを選ぶという傾向があると思う。逆に言うと、メリットがあまり無い中で、１社にサービスを委ねる（囲い込まれる）のは嫌がるのではないかと思います。

そんな中で今回のヤフーとLINEの経営統合は市場がどのような評価をするのか？

報道された直後の株価は上昇しましたが、今後具体的な統合内容が固まってくる中で、市場はどのような評価をするのか？サービスが重複しているものも多そうなので、統合自体もかなり大変でしょうね。

やはり個人的には経営統合によるシナジー効果は薄かったという結論になる気がします。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
■有料メルマガの購読、課金に関するお問い合わせは、reader_yuryo@mag2.com(まぐまぐの場合）までお願いいたします。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

***************************************************************************
・編集・発行元：澤田聖陽
本コンテンツの著作権は、すべて編集・発行元に帰属します。
公式Twitter：@k19sawada

***************************************************************************