谷口恭の「新・その質問にホンネで答えます」

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谷口恭の「新・その質問にホンネで答えます」
2024.X.XX【Vol.001】

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■目次

〇最近の医療情報
〇読者からの質問・相談
〇【実録】階上ボクシングジムとの戦い（まだ続きます…）
〇谷口医院からのお知らせ
〇谷口恭の記事・コラム

★お知らせ

【重要】「まぐまぐ！」によると、特定のドメインについて無料メルマガが届きにくくなっています。そういった事情もあり、本メルマガを有料とさせていただくことにしました。月100円（税抜き）です。

・ご質問・ご相談は谷口医院のウェブサイトの「お問い合わせフォーム」から受け付けています。
http://www.stellamate-clinic.org/toiawase/
このフォームからメールを送って返信が届かない場合は下記のアドレスに直接お送りください。
t.internationalclinic@gmail.com

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〇最近の医療情報

　小林製薬の「紅麹事件」の影響を受けてなのか、サプリメント関連の質問や相談が増えています。そこで今回は、サプリメント関連では過去数年で最も質問の多いビタミンDを取り上げることにします。

　しかしその前に、ビタミン・ミネラルの総論を簡単にまとめておきます。

　僕が医学部で公衆衛生学を学んだ90年代後半は「日本人が不足している栄養素はカルシウムだけ」と言われていました。しかし、これは現在ではまったく当てはまりません。

　なぜなら、90年代の「国民健康・栄養調査」で調査されていたビタミンとミネラルはカルシウム、鉄、ビタミンA、B1、B2、Cの6項目しかなかったからです。このなかで日本人の平均摂取量が基準を下回っていたのはたしかにカルシウムだけでした。
　
　現在同調査で日本人の平均摂取量が調べられているビタミンは、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、パントテン酸、ビタミンCの12種。ミネラルは、カルシウム、マグネシウム、リン、鉄、亜鉛、銅の6種です。

　このうち国が決めている基準量を超えているのは、ビタミンでは、ビタミンE、ビタミンK、ナイアシン、ビタミンB12、葉酸、パントテン酸、の6種類だけ。ミネラルでは、リン、鉄、銅の3種だけ、つまりビタミンもミネラルも半分しか適量摂取ができていないのです。

　尚、「医薬基盤・健康・栄養研究所」によると、ビタミンではビオチンが、ミネラルではマンガン、ヨウ素、セレン、クロム、モリブデンが、基準量は設定されていますが国民調査が実施されていません。
https://www.nibiohn.go.jp/eiken/info/kokucho.html

　ではビタミンDの話を始めましょう。

　ビタミンDが不足している理由は2つあります。１つは純粋に日本人の摂取量が減少していることで、2001年の時点では男性9.0ug/日、女性7.9ug/日摂取していたのに、2019年には男女の摂取量がそれぞれ7.9ug/日、7.2ug/日と低下しています。

　この低下量はそれほど大きく感じられないのに日本人の摂取量が大きく不足している理由は「基準値（＝目標値）が大きく引き上げられたから」です。2001年の時点では基準値が男性2.9ug/日、女性3.0ug/日だったのが、その後次第に引き上げられ、ついに2019年に男女とも8.5ug/日とされたのです。

　過去にも述べたかもしれませんが、谷口医院で職員のビタミンD血中濃度を何度か調べたことがあって、いつもほぼ全員が基準値を下回っていました。尚、血中濃度の基準値は「医薬基盤・健康・栄養研究所」は15～40ng/mLとしていますが、厚労省は20（または30）～100ng/mLを基準とし、30ng/mL未満をビタミンD欠乏または不足としています。
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586561.pdf

　50歳以上の日本人女性1,211例（平均64歳）を対象とした調査では、血中ビタミンD濃度が30ng/mLを超えているのは121人、全体の10％だけです。つまり、残りの9割は欠乏（または不足）しているのです。
https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/shokuji-eiyo-kokucare/h31-4-2-3.html

　18年前に比べると、基準値が男性でいえば2.9ug/日から8.5ug/日と3倍近くに引き上げられたわけですからこの基準を満たせなくなる人が続出するのは当然です。僕自身も自身の血中濃度を測定し、まったく基準に足りていないことを自覚して、ビタミンDのサプリメント摂取を開始しました。

　では、なぜ基準値がここまで極端に変更されたのでしょうか。おそらく厚労省の役人は日光から合成されるビタミンDの量を甘く見積もっていたのではないか、というのが僕の推測です。

　ビタミンDは日光を浴びれば体内で合成されます。おそらく過去にどれくらい日光から合成されるかの基準があり、そこから「日光だけでは足らないビタミンDの量を補うための食事量」が算出されたのでしょう。

　ところが、厚労省の役人には日本人が日光を浴びなくなった現実がみえていなかった。だから予想に反して日本人の血中濃度は低くなり、そのため少しずつ食事から摂取すべき基準値を上げていったのです。

　では、僕のこの推理が正しいとして、日本人は再び過去のように日光を浴びればいいのかというと、それは不可能です。なぜなら過去に比べて夏は暑すぎて屋外で過ごせなくなってきていますし、以前に比べ紫外線の有害性が認識されるようになってきたからです。

　もはやサンオイルを塗って日焼けしようとする人はほとんどいなくなりました。「小麦色に焼けた肌」は死語となり、ガングロなんてもはや歴史的な風俗でしょう。

　もちろん、今も日焼けや黒い肌に価値を求める人もいるわけで、そういう人たちに対して「紫外線の有害性は……」などという野暮な話を僕はしません。血中ビタミンD濃度がどれだけ上昇しているのかは気になりますが（だから測らせてほしい！）。

　では不足しているビタミンDをどうすればいいかというと、食事から摂取できるならそれに越したことはありません。ですが、ビタミンDを豊富に含むとされる食品、例えばサーモンやキノコ類をいくら食べたところで限度があります。

　僕が初めて自分自身のビタミンD濃度を計測したとき、実はけっこう自信がありました。サーモンもキノコ類もそれなりには食べていると自負していたからです。ところが、手にした結果は予想をはるかに下回る16.1ng/mL。「もっと食事からビタミンDを摂るようにしなければ……」とは思えませんでした。そしてサプリメント摂取を決意しました。

　読者の皆さんも、バランスのとれた理想的な食事をしている自信があったとしても、一度血中濃度を調べてみてください。僕のように一瞬でその自信が崩れ去るかもしれないですから。

　ビタミンD摂取がやっかいなのは「食事と日光からの摂取では限界があるから」だけではありません。「摂りすぎにも注意が必要」です。日本のサプリメントのメーカーのものを決められた量（たいていは1日1粒）摂るだけであれば基準値を上回ることはほぼないと思いますが、長時間日光に当たる人や、南国に住んでいる人はこの限りではありません。

　また、一部の意識が高い人たちはわざわざ海外メーカーのビタミンDを取り寄せていますが、これは危険です。ときどき「ビタミンDの血中レベルを一般の基準より上げた方が調子がいい」、なかには「血中レベルを基準より上げれば花粉症が治り、コロナにもかからない」などと豪語する人がいますが、そんな都市伝説のような噂を信じてはいけません。

　上述したように、ビタミンDの適正血中濃度は30～100ng/mLとされています。ビタミンDを摂取しすぎると、血中カルシウム濃度とリン酸濃度が高くなります。その結果、腎臓に石が貯まる（腎結石）リスクがでてきます。また体重減少、食欲不振、嘔気なども起こります。
https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/overseas/c03/10.html

　死亡例もあります。高カルシウム血症で死亡した英国の89歳の男性は少なくとも死亡の9ヶ月前からビタミンDのサプリメントを摂取していたと報道されました。
https://www.mdlinx.com/article/when-daily-vitamins-become-a-death-sentence-what-doctors-need-to-know/kUBAGUISu7vnmIiDPaR4G

　また、血中ビタミンDの濃度が高くなると心疾患のリスクが増大するという報告があります。そして、この報告が非常にややこしいのは、21ng/mlを超えるとC反応性蛋白（CRP）という体内の炎症の程度を示す値が上昇し、そして心疾患のリスクが増えるとしているからです。
https://www.amjmed.com/article/S0002-9343(13)00084-3/fulltext

　ビタミンDの血中濃度が高くなると心疾患のリスクが上がるのは理解できますが、20ng/mLを超えればリスクとされると、いったいいくらにすればいいのかが分からなくなります。一方では30ng/mL以上にせよと言われ、他方では20ng/mLを超えると心疾患のリスクと言われているわけで、いったいこれはどのように解釈すればいいのでしょうか。

　極端に低くなったり高くなったりするのがNGなのは明らかでしょう。10ng/mLを下回ったり、100ng/mLを上回るようなことは避けなければならないのは自明です。個人的には「21ng/mlを超えると危険」とする報告があったとしても、30～50ng/mLにしておくのが無難かと思います。

　適正なビタミンD摂取が難儀な理由がまだあります。ビタミンDの血中濃度は（特定の病気がない限り）保険診療で測定できないのです。しかも、ビタミンDはどれだけ下がろうが上がろうが自覚症状はまずでませんから「たまたま〇〇の症状が出て医療機関を受診してビタミンDの不足（過剰）が発覚した」というストーリーはまず期待できません。

　ではどうすればいいか。年に一度くらい（自費になりますが）測定して、自覚症状や他の検査結果（腎機能、心機能、あるいはカルシウム濃度など）を参照しながらビタミンDのサプリメントを開始するのか、量を減らすのか、あるいは中止するのかを決めるのが妥協案になるのかな、と考えています。すっきりしませんが。

　一番いいのは疫学的に大量のデータを集めることです。職場の健診や市民健診でビタミンDを誰もが無料で受けられるようにして、日本人の大規模データベースをつくるのです。そしてビタミンDの利点とリスクを疫学的に算出すれば、より正確なビタミンDの適正基準が分かり、自分の数値と比較できます。

　そうすれば各自がビタミンD対策が取りやすくなります。足りている人はそれでいいわけですし、不足している人は日光浴、食事の改善、サプリメントなどを医療者の助けを借りなくても自分で考えることができます。

　これってやろうと思えばそんなに難しくはないと思うのですが、行政や公衆衛生学者はやる気になってくれないでしょうねぇ……。

　これからもビタミン・ミネラルについてときどき取り上げていきたいと思います。


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〇読者からの質問・相談

【お知らせ】

みなさんからのご質問・ご相談は谷口医院の「メール相談」
http://www.stellamate-clinic.org/toiawase/
から承っています。このフォームは患者さん用のものですから、電話番号や生年月日の記載欄もありますが、適当に書いてもらってOKです。

冒頭の「お知らせ」で述べたように、下記アドレスに直接いただいてもOKです。
t.internationalclinic@gmail.com

「ご質問の内容」に「メルマガ掲載希望」と書いておいてください。「メルマガ掲載希望」と書かれていない場合は、原則として本メルマガで紹介することはありません。

1回あたりの配信量を考慮して、ご紹介は2～3件だけとしますが、採用されなかった方にも個別に返信をしていますので、お気軽にご質問・相談をお寄せください。また、数週間から数か月（あるいはそれ以上）経過してから掲載させてもらうこともあります。

尚、「採用」の場合も、記載する内容に若干のアレンジを加えますのでプライバシー確保については心配いりません。

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▽質問１▽

谷口先生こんにちは。先生の（新型）コロナの記事が分かりやすく以前から読ませてもらっています。
今日教えてほしいのは4月からのコロナの薬についてです。大きく値上がりすると聞きましたが、私の母は85歳で以前脳梗塞を起こし、今も血圧の薬を飲んでいます。本人はいたって元気でコロナになっても高い薬は要らないと言いますがどうすればいいのでしょうか。
かかってからあたふたするよりも事前に決めておきたいと考えています。

▲回答１▲

ご質問に対する回答としては「脳梗塞や日々の血圧を含めた現在の状態、コロナに感染してどのような症状があるのか、発症してどれくらいたつのかなどを総合的に勘案して検討することになります。よってこの時点ではお答えできません」という身も蓋もない「こんなことなら聞かなきゃよかった」という残念なものになってしまいます。

そこで、ご質問への直接的な回答ではなく「現時点でわかっているコロナ内服薬の総論」をまとめてみたいと思います。コロナの内服薬にはパキロビッド、ゾコーバ、ラゲブリオの3種類があります。

まず費用を確認しておきましょう。これら3種の内服薬はいずれも昨年（2023年）の9月までは無料でした。10月からは（3割負担で）9千円となり今年（2024年）の3月末まで続きました。4月からは次のようになります（いずれも3割負担）。

パキロビッド：29,700円、ゾコーバ：15,600円、ラゲブリオ：28,200円

パキロビッドとラゲブリオは重症化リスクがある人のみが対象です。ゾコーバは重症化リスクがあってもなくても使えます。

谷口医院では2022年9月中旬よりラゲブリオは一切処方していません。パキロビッドの方が重症化するリスクを低減させるというデータがあるからです。そして、これが決定的となったのは、英国でコロナワクチン接種済みの25,783人を対象とした「Panoramic」という研究です。「ラゲブリオは重症化を減らさなかった」との結果が出ました。

「重症化を防ぐための薬」が「実際には重症化を減らさない」なら処方する意味がありません。よって、ラゲブリオの存在価値は「パキロビッドが（定期薬との相互作用などで）飲めない人がダメ元で飲む程度のもの」に成り下がったわけです。

ゾコーバは塩野義製薬が発売する薬として期待されましたが初めから「重症化を防がない」とされていました。では重症化リスクがない人が飲めば早く治るのかというと、「使わなければ症状消失まで8日かかるところが7日になる」という程度であり、これではほとんど意味がありません。

しかし、ゾコーバはコロナ後遺症のリスクを33％低減させるという報告が塩野義製薬から出されたため、後遺症のリスクがあると考える人には有難い薬だといえます。
https://www.shionogi.com/jp/ja/news/2023/2/20230222.html

とはいえ、この報告はメーカーから提出されたもので、きちんとした論文にはなっていません。今後の研究を待つ必要があります。これからは、こういったことを念頭において15,600円を負担するか否かを検討することになります。

では、パキロビッドは依然有用な薬なのでしょうか。結論を言えば「イエス」です。医学誌「The New England Journal of Medicine」2022年2月16日に発表された論文では「パキロビッドは重症化リスクを89％減らす」とされています。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2118542

ただし、この研究は2,246人の「ワクチン未接種で重症化リスクのある人」が対象です。

では、それ以外の人に対してはどうなのでしょうか。最近、このことを明らかにする研究（EPIC-SR臨床試験）の結果が発表されました。研究の対象者は次の2つのいずれかです。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2309003#ap0

#1　コロナワクチンを完了し、重症化リスクを少なくとも1つ有する患者
#2　重症化リスクを持たず、1年以内にワクチン接種を受けていない患者

研究を完了した対象者は合計1,288人でパキロビッドを投与されたのが654人、投与されなかった（プラセボを投与された）のが634人です。結果、入院または死亡したのはパキロビッド投与群で5人、プラセボ群で10人でした。「パキロビッドは重症化を半分にした！」ようにみえますが、論文によると統計学的な有意差はないようです。

症状が改善するまでの期間はパキロビッド投与群で12日、プラセボ群で13日とやはり有意差はありません。

この研究から言えることは、重症化リスクがないか、あってもコロナワクチンを接種していれば（少なくとも最初の3回と1年以内の追加接種を受けていれば）、パキロビッドを内服してもほとんど意味がないということになります。

ということは、どこの国もパキロビッドの対象者を重症化リスクのない人にまで広げることはないと思われます。実際、米国も英国もいまでも重症化リスクのある人のみが対象です。
https://www.nhs.uk/medicines/paxlovid/who-can-and-cannot-take-paxlovid/
https://www.fda.gov/media/155052/download

その逆に「積極的に使うべき人」は、「重症化リスクがあって、なおかつワクチン追加接種を1年以内に受けていない人」となります。

この4月から政府はコロナワクチンの定期接種対象者を「65歳以上か60～64歳までの基礎疾患がある人」としました。ということは、感染すると重症化するかもしれないからパキロビッドを積極的に考えるべき人は、「年齢に関係なく、ワクチン追加接種を（1年以内に）受けていない重症化リスクのある人」となります。

ややこしくなってきたのでまとめてみましょう。

18～60歳で重症化リスクなし　→　ワクチンもパキロビッドも不要
18～60歳で重症化リスクあり + ワクチン1年以内に未接種　→　パキロビッド検討
18～60歳で重症化リスクあり + ワクチン1年以内に接種　→　パキロビッド不要
60～64歳で重症化リスクなし　→　ワクチンもパキロビッドも不要
60～64歳で重症化リスクあり + ワクチン1年以内に未接種　→パキロビッド検討
60～64歳で重症化リスクあり + ワクチン1年以内に接種　→パキロビッド不要
65歳以上でワクチン1年以内に未接種　→　パキロビッド検討
65歳以上でワクチン1年以内に接種　→　パキロビッド不要

この研究（EPIC-SR臨床試験）を主導したのがファイザー製薬だということが注目に値します。「効果がなかった」という結論の臨床試験をその薬の製造会社がわざわざ発表したわけです。ファイザー社内の”反乱分子”の仕業なのでしょうか、それとも同社としての何らかの意図があるのでしょうか。

もしかすると、「重症化リスクがないかワクチンを定期的に受けている人には不要と主張し、重症化リスクがあってワクチン追加接種を受けていない人がターゲットであることを強調した方が利益になる」と考えたのでしょうか。実際、米国では対象者の8割にパキロビッドが処方されていないとする報告があります。
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/73/wr/mm7303a2.htm

ここからは私見です。谷口医院でも一応は上記の「まとめ」のように、「年齢」「重症化リスクの有無」「ワクチン追加接種の有無」を基準にパキロビッドの適用を検討していくつもりです。ただ、上記で「パキロビッド不要」とされたカテゴリーでも患者さんが希望される場合は処方してもいいと考えています。

統計学的な有意差がなかったといっても、もう一度EPIC-SR臨床試験で重症化した患者数をみてみると、パキロビッド投与群では5人（/654人＝0.8％）、プラセボ群で10人（/634人＝1.6％）です。みかけ上のトリックに僕が騙されているのかもしれませんが、「重症化率が半減した！」と僕は”素直に”感じます。

重篤な副作用はないわけですから（軽度なものは多数ありますが）、たとえ大きな効果が期待できなかったとしても僕は使ってもいいと思っています。自分の経験に影響を受けすぎそれに縛られるのはよくないのですが、これまでパキロビッドを（たぶん）100人以上に処方してきた僕の印象は「パキロビッドはよく効く！」なんです。

ただし、29,700円をどうするんだ、という問題は残りますが……。


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▽質問２▽

東京在住の者です。妻の頭痛のことで相談があります。妻は昔から頭痛があって昔は市販薬を毎日のように飲んでいました。谷口先生が危険だというナロンエースも飲んでいて、せめて安全な他の痛み止めに替えるよう説得し、一時は替えたようですが、最近またナロンエースを買っているようです。

病院に行くよう説得するのですが、どうせ行っても痛み止めを出されるだけだから意味がないと考えているようです。それに、私自身も正直病院には期待できないと考えています。アーユルベーダがいいと聞いたんですけど本当でしょうか。谷口先生の意見を聞かせてください。

▲回答２▲

慢性の頭痛で毎日のように痛みが出るタイプは治る見込みは充分にあるのですが、時間はかかります。ときには社会的、あるいは心理的背景から話をすることもあります。奥さんのケースはナロンエースに含まれるブロムワレリル尿素への依存もあって余計に複雑になっていると思います。

メルマガで回答するような内容ではなく、やはり医療機関を受診すべきなのですが、ここではすぐにできる鎮痛療法を紹介します。これは冗談に聞こえるかもしれませんが、本気で僕が考えている治療法です。

それはパートナーのあなたが奥さんの手を握ることです。こんなことを言い出す医師はたぶん僕の他にはいないと思いますが、これが有効であることを示した心理学の研究もあるんです。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5856497/

この研究は、女性の被験者に痛みを与え、男性パートナーが被験者の女性の手をつなぐときと触れないときで痛みがどのように変化するのか、またどのように脳波が変化するのかを調べたものです。結果は驚くべきものです。

パートナーが接触すると痛みがやわらぎ、脳波が”結合する”というのです。論文ではこれが「brain-to-brain coupling」と表現されています。何度読み返してもこの部分をきちんと理解できないのですが、おそらく被験者の脳の動きとパートナーの脳の動きが一種の「共鳴」または「シンクロ」を起こして同じような脳波が記録された、ということだと思います。

興味深いことに、「パートナーが存在するだけでは、痛みの軽減には不十分」ということも分かりました。また、見知らぬ人による接触では鎮痛効果が得られなかったそうです。

この論文、僕流に解釈するとおそらくこういうことです。

「相手が痛みで苦しんでいるとき、その苦しみに共感して手をつなぐと、二人の脳の状態がシンクロし、その結果鎮痛効果が生じる」

是非今夜から、と言わずに可能なら今すぐにでも始めてみてください。いい医師探しには時間がかかるかもしれませんが、共感して手をつなぐことはすぐにできて、当然のことながら副作用はゼロ、他にもいいことがあるかもしれません！


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▽質問３▽

（前回の）メルマガで薬剤師と医師の話、静岡の知事の話が出ていましたが、谷口先生はそういう考えだったとしても、多くの医者は他のコメディカルを下にみているのが現実ではないでしょうか。

▲回答３▲

この問題、前回紹介した過去のコラムでも述べたように、僕は10代の頃から気になっていて、若い頃の僕はわざわざ「職業に貴賤はない」という言葉を持ち出して、たとえその場の空気が変わろうが「人間の価値は職業で決まらない」ことを説いていたのですが、いつしかそんなことはやらなくなり、そのように考える輩が一定数いると理解するようになりました。

静岡県の川勝知事はそういう輩の典型です。知事がかつて学長を務めていた大学の女子学生に「11倍の倍率を通ってくるんですから、もうみなきれいです」、「めちゃくちゃ顔のきれいな子は賢いこと言わないとなんとなくきれいに見えないでしょう。ところが全部きれいに見える」などと発言しました。
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/73151.html

この報道、当時僕は上記NHKのニュースで知ったのですが、「めちゃくちゃ顔のきれいな子は……全部きれいに見える」の日本語がいまだによく分かりません。NHKが報道しているのだからきちんとした言葉なんでしょうが、僕には意味不明の表現です。僕と川勝知事では脳の中身が全然違うのでしょう。

もちろん川勝知事が僕より遥かに”エライ”んですよ。川勝知事は「オックスフォード大学で博士の資格を取ったことが自慢で、世界トップクラスの大学を卒業していない者を見下している」と以前誰かが言っていました。

そう言えば、日本学術会議任命拒否問題のとき、川勝知事は菅首相（当時）に対し「菅義偉という人物の教養のレベルが露見した」と発言しました。
https://digital.asahi.com/articles/ASNB761QMNB7UTPB00D.html

調べてみると、菅首相（当時）は法政大学出身でした。

相談者の指摘どおり、医師の世界もひどいというか、ひどさを通り越して笑ってしまうほどです。

医学生が医師と積極的に関わるのは5回生の臨床実習のときで、当時の僕は先輩医師たちから次々と”迷言”聞いてこの世界が怖くなりました。「歯医者は偏差値が低いから……」とか「看護婦（当時はまだそう呼ばれていた）は頭が悪いから……」という言葉を平気で言う医者もいるのです。

そのうちに僕は、医者は「偏差値」という言葉が大好きなことに気付きました。すぐに「偏差値が高い（低い）から……」という言い方をするのです。医学部の間にもヒエラルキーがあり、僕が行っていた大阪市大（現・大阪公立大）は阪大よりも受験の偏差値が低いため、阪大から「阿倍野ドクター教習所」と揶揄されているとか（大阪市大は阿倍野区にあります）。

ちなみに僕ば医学部の前は関西学院大学を卒業しているのですが、元大阪府知事の橋下徹氏によると、「８流大学」だそうです。
https://twitter.com/hashimoto_lo/status/236786871236190208

こんなこと書いていてなんだか馬鹿らしくなってきました……。


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〇【実録】階上ボクシングジムとの戦い

【前回までのあらすじ】

2020年12月に谷口医院の階上に何の挨拶もなく突然入居したボクシングジム。重症患者やコロナ疑いの患者さんが受診していてもおかまいなしに振動・騒音をつくりだし、「対策をとってほしい」とお願いしても完全に無視。

対策の工事を2021年4月末にした、と言っているが、振動・騒音はまったく変わらず、工事をした証拠を要求しても返答なし。ついにはレントゲン室の通路の壁やサーバー室の天井にヒビが入りだしたがそれを伝えても無視。

「（2021年）6月20日を目途に新たな工事をする」と申し入れが文書で届いたが、一向に工事が始まる様子もなく、7月になり、なんと「やっぱり工事はやらないことにした」という通知が当院の弁護士に届いた。

ビル側に対しては、そもそもこんな（鉄筋ではなく）単なる鉄骨の構造のビルに、「階下にクリニックがあると分かっていながらジムを入居させること自体がおかしいのではないか」と当院の弁護士がビルに申し入れをおこなったが返答なし。

そこで「レントゲン撮影時に大きな振動が起こると危ない」ことを伝えると、なんと「ならばレントゲンを撤去せよ」という回答が届いた。家賃未払いもなく、当院をかかりつけ医にしているビルの職員もいるのに、当院をビルから追い出そうとしているとしか思えないその対応はなぜなのか……。

そこで裁判を起こし、「当初の約束どおり防振工事をしてください」と、当院がジムとビルを訴えた。一級建築士が測定した振動のデータを裁判所にも提出したが、ジムもビルもそれを認めない。

このままでは裁判所がジムに防振工事を命じたとしてもかなりの年月がかかるため、不本意ながらも「閉院」を決意し、2023年1月4日、それを公表した。

しかしながら、予想以上に「閉院は困る」という声が多く再び物件を探し始めることに。2023年6月5日、ついに新たな物件の契約が成立した。そして8月14日から新天地で谷口医院を再開した。

そんななか、太融寺町谷口医院が入居していたビル（すてらめいとビル）が、「谷口医院がビルの4階を不法占拠していた」という訴えを起こしてきた。判決が下され、「原告（すてらめいとビル）の請求を棄却する＝谷口医院の全面勝訴」というものだった。しかし決して喜べるわけではない……。

事件番号：「大阪地方裁判所令和4年（ﾜ）第540号大地16民3B係」
第1回期日：2022年3月9日午前11:30　大阪地方裁判所本館608号法廷　終了
第2回期日：2022年4月27日　終了
第3回期日：2022年6月16日　終了
第4回期日：2022年7月20日　終了
第5回期日：2022年9月13日　終了
第6回期日：2022年10月25日　終了
第7回期日：2022年12月8日　終了
第8回期日：2023年2月16日　終了
第9回期日：2023年3月24日　終了
第10回期日：2023年4月24日　終了
第11回期日：2023年5月17日　終了
第12回期日：2023年6月6日　終了
第13回期日：2023年7月5日　終了
第14回期日：2023年9月5日　終了
第15回期日：2023年10月25日　終了
第16回期日：2023年12月8日　終了
第17回期日：2024年1月26日　終了
第18回期日：2024年3月18日　終了
第19回期日：2024年4月24日　予定

谷口医院がビルを「不法占拠」していると訴えられた裁判
「令和4年（ワ）第4817号　損害賠償請求事件」

第1回期日：2024年1月12日　終了
第2回期日：2024年3月4日　判決＝原告の完全敗訴（＝谷口医院の全面勝訴）
2024年3月25日：すてらめいとビルが控訴することが決定
2024年3月29日：すてらめいとビルが控訴を取り下げ

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　谷口医院が移転できたのはよかったのですが、移転したことで遠くなり患者さんには負担になっています。なかには「近くなりました！」と言ってくれる人もいるのですが、大半の人は以前に比べて（Google Mapによると）500メートル（やはりGoogle Mapによると7分間）東に歩かねばならなくなりました。

　僕は診察室で患者さんにお礼を言うことはめったにありませんが、移転後に新・谷口医院に受診された人に対しては内心ありがとう、と心ではつぶやいています。移転後最初の数か月は「今日は誰が移転後初受診をされるかなぁ……」と毎日を楽しみにしていました。

　移転から8か月が過ぎようとしている今も、ほぼ毎日のように「移転後は初めて」という久しぶりの患者さんが受診され、僕にとってはちょっとした”イベント”です。

　受診の背景も様々で、単に「安定していたから久しぶりに受診が必要になった」という人もいれば、「しばらくの間、別のクリニックを受診していたけれど、やっぱり少々遠くても谷口医院の方が合っていると思った」という人もいます。なかには「10年ぶりに受診したらなくなっていてびっくりした。スマホで調べてやってきた」という人もいます。

　医師は必要以上に患者さんと世間話をしてはいけませんから、ぐっと我慢しているのですが、しばらく見ない間にどんなことをされていたのか、どんな出来事があって、どんなよかったことやよくなかったことがあったのかを教えてもらうのは僕にとっても貴重な経験です。

　しばらく見ない間に、転職、転勤（「大阪に戻ってきたら谷口医院がなくなっていて驚いた」という声が多い）、結婚、離婚などを経験している患者さんも少なくありません。

　不思議なのは（以前も述べたことがあるような気がしますが）、ふとしたときに思い出した患者さんが偶然その日に、あるいは翌日に受診することがとても多いんです。スピリチュアル的なことはあんまり言いたくないのですが、本当に不思議です。

　もちろん「ふと思い出した患者さん」の全員が受診するわけではありません。なかにはもう十回以上「ふと思い出している」のに今も来られていない人もいます。そういう患者さんがあと数十人はいるので、明日は誰に会えるかな、と想像するのが最近の僕の楽しみのひとつとなっています。

　第19回期日は4月24日です。

（つづく）


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〇谷口医院からのお知らせ

・麻疹ワクチンは谷口医院をかかりつけ医にしている人が優先です。さらに、その人の年齢、既往歴、過去に1回接種しているか、などで優先順位が変わります。

・7種（男性は5種）のがんの超早期発見ができる尿中mRNA検査（マイシグナル・スキャン）は55,000円（1種は33,000円）です。

・RSウイルスのワクチンは60歳以上が対象となります。費用は25,000円（税込）です。谷口医院がかかりつけの方は診察代不要です。

・針刺し事故などでのHIVの曝露後予防（PEP）は最優先します。費用は1日1,100円です。曝露前予防（PrEP）は30日分で7,700円です。性被害の場合は、HIVの曝露後予防（PEP）＋緊急避妊＋DoxyPEP（診察代・処方代などすべて込みの合計額）は36,950円です。

・発熱外来は終日実施しています。谷口医院未受診の人も対象です。必ず電話予約が必要です。

・オンライン診療を受け、その直後に階下の「ひまわり薬局」のオンライン服薬指導を受けることができます。この場合、自宅にいながら診察が受けられ、自宅で薬を受け取れます。しかも送料はたいてい無料です。

・車椅子でお越しの方には（入り口が階段状のため）スロープを用意します。広いスペースの多目的トイレをご利用いただけます。

・「HIVの自立支援医療」による抗HIV薬は当院階下の「ひまわり薬局」でお渡しできます。プライバシーが確保された「個室」が利用できます。


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〇谷口恭の記事・コラム

★谷口恭のマンスリーレポート

2024年4月　サプリメントや健康食品はなぜ跋扈するのか～続編～
http://www.stellamate-clinic.org/blog/2024/04/20244-1522016.html

2024年3月　「谷口医院がすてらめいとビルを”不法占拠”していた」裁判の判決
http://www.stellamate-clinic.org/blog/2024/03/20243-1521847.html


★はやりの病気

第247回（2024年3月） 認知症のリスク、抗うつ薬で増加、飲酒で低下？
http://www.stellamate-clinic.org/blog/2024/03/24720243-1521896.html

第246回（2024年2月） 我々は飲酒を完全にやめるべきなのか
http://www.stellamate-clinic.org/blog/2024/02/24520241-1-1521677.html


★GINAと共に

第213回（2024年3月） 性は「認める」ものではなく、性加害の"冤罪"は簡単に生まれる
http://www.npo-gina.org/blog/2024/03/21320243-1521911.html

第212回（2024年2月） 依存症に陥る人たちはなぜ魅力的なのか
http://www.npo-gina.org/blog/2024/02/21220242-1521750.html


★医療ニュース

2024年3月31日　帯状疱疹ワクチン、安い方でOK？
http://www.stellamate-clinic.org/blog/2024/03/2024331ok-1521941.html

2024年3月11日　「座りっぱなし」で仕事をする人にとっての効果的な運動は
http://www.stellamate-clinic.org/blog/2024/03/2024311-1521853.html


★毎日新聞「医療プレミア」総合診療医の視点 -命を救う5分の知識-
【お知らせ】「医療プレミア」は有料ですが、2022年4月までに谷口恭が書いたものはすべて無料で読めます。

第35回（2024年4月8日）「紅麹」小林製薬だけが悪いのか　本当に「罪」を問われるべき存在は
https://mainichi.jp/premier/health/articles/20240404/med/00m/100/013000c


★日経メディカル「「谷口恭の都市型総合診療の極意」」

第13回（2024年4月3日）「ギャンブル依存症」にどう関わるべきか
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/shintaniguchi/202404/583754.html


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『総合診療医がみる「性」のプライマリ・ケア』（金芳堂）』発売中です。
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