週刊彩花みず穂のトラベルライターマガジン

陸羽東線 ― 奥の細道湯けむりラインの魅力と課題

東北地方の鉄道には、それぞれ独自の歴史と風景が刻まれています。その中でも宮城県と山形県を結ぶ「陸羽東線（りくうとうせん）」は、鉄道好きはもちろん、温泉や紅葉を楽しむ観光客にも愛される路線です。愛称は「奥の細道湯けむりライン」。その名の通り、松尾芭蕉が歩いた道に重なるかのように、数々の温泉地や景勝地を結びながら、東北の四季を車窓に映し出してきました。

しかし一方で、陸羽東線は赤字ローカル線の一つとして存続の課題に直面しています。本稿では、その歴史と魅力、そして未来に向けた課題についてご紹介します。

陸羽東線の歴史と路線の概要

陸羽東線は、宮城県美里町の小牛田駅を起点とし、大崎市の古川駅で東北新幹線と接続します。そこから北上し、有備館駅を過ぎると、東北屈指の温泉地・鳴子温泉郷へと至ります。川渡温泉、東鳴子温泉、鳴子温泉、中山平温泉と、歴史ある湯治場が駅ごとに広がっており、古くから温泉客の足として利用されてきました。

鳴子温泉駅からは鬼首温泉へ向かうバス路線も伸びており、間欠泉を目当てに訪れる観光客を迎えています。また、鳴子温泉駅と中山平温泉駅の間には、紅葉の名所・鳴子峡があります。特に秋のシーズンには、江合川にかかる鉄橋で列車が徐行運転を行い、観光客はその瞬間を撮影しようとカメラを構える光景が風物詩となっています。

山形県に入ると、赤倉温泉駅に到着。ここからは銀山温泉へのアクセスが可能で、大正ロマン漂う旅館街を目指す観光客に利用されています。そして終点の新庄駅では、山形新幹線「つばさ号」、奥羽本線、陸羽西線と接続。駅構内には「かもん新庄駅店」というレストランが併設され、最上鴨と蕎麦の絶品料理を楽しめます。この店は日本テレビの『満点★青空レストラン』でも紹介され、東京駅から新幹線でわざわざ食べに行く価値があると評判です。

陸羽東線の魅力

陸羽東線の最大の魅力は、「温泉と自然美をつなぐ路線」である点です。奥の細道湯けむりラインの名の通り、沿線には古くからの温泉地が点在し、東北ならではの癒しと歴史を味わうことができます。さらに四季折々の風景が美しく、春は桜、夏は深い緑、秋は鳴子峡の紅葉、冬は雪景色と、一年を通じて訪れる価値があります。

また、観光鉄道としての演出も特徴的です。紅葉シーズンの徐行運転は全国的にも有名で、SNS映えする鉄道写真を撮影できるポイントとして注目されています。加えて、新庄駅をはじめとする駅構内のグルメや地域連携イベントも、観光資源としてのポテンシャルを高めています。

抱える課題 ― 赤字ローカル線の現実

しかしその魅力の裏で、陸羽東線は厳しい現実に直面しています。JR東日本が発表したデータによれば、鳴子温泉駅から最上駅の区間は、同社が抱える赤字路線の中でもワーストクラスに位置しています。比較的利用者が多いとされる小牛田駅から鳴子温泉駅の区間ですら、輸送密度は1000人に満たず、経営的には極めて厳しい状況です。

さらに追い打ちをかけたのが、2024年7月の大雨災害です。土砂流入の影響により、鳴子温泉駅から新庄駅の間が長期間不通となり、現在は代行バスによる輸送が続いています。地域住民や観光業への影響は大きく、鉄道の持つ「定時性」と「安心感」が揺らいでいます。幸いにも2025年9月から復旧工事が始まる見込みですが、今後も自然災害のリスクは避けられず、安定運行には多くの課題が残ります。

陸羽東線の未来に向けて

陸羽東線の存続には、単なる鉄道路線としての役割を超えた「地域との共生」が不可欠です。観光資源との連携をさらに強化し、温泉や食文化と結びつけた周遊型の旅行商品を開発することが求められます。加えて、災害リスクに備えたインフラ強化や、地域住民が安心して利用できる環境整備も急務です。

一方で、デジタル時代ならではのアプローチも考えられます。例えば、鉄道と観光を結ぶ情報発信をSNSや動画配信で行い、若い世代に「乗ってみたい路線」として認知してもらうことも有効です。

結びに

陸羽東線は、単なる移動手段ではなく「東北の文化と自然を結ぶ旅路」です。奥の細道湯けむりラインの愛称が示すように、芭蕉が辿った歴史の香りと、今も湧き続ける温泉の恵みを未来へと伝える存在であり続けてほしいものです。赤字ローカル線としての課題は厳しいものの、地域と利用者が共に支えることで、その魅力を次世代へ残す道が開けるでしょう。