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中国があえて「武装船」で尖閣を領海侵犯しなければならない国内事情

去る12月26日、またもや中国海警局の船が尖閣諸島周辺領域へ侵入しました。しかし今までと大きく異なる点が一つ。それはその内の一隻が「武装船」とおぼしき船だったことです。メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんが、なぜ「武装船」が領海侵犯したのか、その経緯と中国の国内事情について解説しています。

「武装」中国船が領海侵犯 尖閣周辺、ほか2隻も

26日午前9時半すぎ、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の領海に中国海警局の船3隻が相次いで侵入した。1隻は機関砲のようなものを搭載しており、領海外側の接続水域を航行しているのが22日から確認されていた。第11管区海上保安本部(那覇)によると、武器のようなものを装備した中国船が領海に侵入するのは初めて。

この船は海警31239で、他の2隻は海警2307と2308。中国当局の船が領海侵入するのは20日以来で、今年に入って35日目。尖閣周辺での航行が確認されたのは7日連続。

海上保安庁の巡視船が領海から出るよう警告したのに対し「貴船はわが国の領海に侵入した。ただちに退去してください」と応答があった (12月26日付け産経新聞)

武装した中国公船が姿を現したとの海上保安庁の発表は12月22日で、直ちにマスコミが報道することになりました。

当然、ネット上では「撃沈してしまえ」といった子供じみた声が飛び交うことになりましたが、実を言えば中国側にも似たような過激な反日世論が少なからずあり、それに苦慮している中国側が国内の声に応えるために示したのが、今回の武装公船の領海侵犯だったと受け止める必要があるのです。

これまでにもお話ししてきたことですが、中国共産党政権が頭を悩ましてきた国内問題の最たるものは、固定化してしまった経済格差に対する国民の不満が「愛国的動機」や「反日を隠れ蓑として噴出し、政権の基盤を揺さぶる事態です。なにしろ「愛国無罪」という言葉が飛び交う中で警察車両に乱暴狼藉を働いても、動機が動機だけに取り締まりもままならない。かといって、それを放置すれば政権転覆にエスカレートすることさえ憂慮される。

そこで共産党政権は、日米両国とは軍事摩擦が起きないぎりぎりのところで公船による領海侵犯や海軍艦船によるレーダー照射などを行い、それが日本のマスコミのニュースになるよう仕向けてきたのです。日本のマスコミが大騒するほどにニュースはリアルタイムで中国国内に拡がり、弱腰批判を封じることにつながるというわけです。

「日米両国とは軍事摩擦が起きないぎりぎりのところで」と言いましたが、いくら中国が軍事力を増強したところで相手が日米両国ということになれば、どんな些細な衝突でも世界的な戦争にエスカレートする要素を含んでおり、事態の推移如何によっては中国に進出している国際資本の撤退という事態を招きかねず、そうなってしまったら中国経済はとどめを刺されることになりかねません。経済がアウトになれば、軍事力増強どころではなくなります。

だから中国側は、軍事衝突が起きないようにする一方で国内的に言い訳できるだけのニュースが流れるよう、腐心してきたといってよいのです。

尖閣諸島周辺で領海侵犯を繰り返す公船にしても、これまでは例外なく機関砲など固定武装を搭載しない非武装の船を展開させてきました。これが南シナ海との違いでした。中国人民解放軍の将官たちも、私に対して「日本に対して気を使っているからこそ、非武装の船しか出していないことを理解してほしい」と繰り返していました。

それが今回、1隻とはいえ武装した公船を繰り出し、そして1時間ほどとはいえ、領海侵犯させたというのは、何が理由なのでしょう。外交面での雪解けムードとは裏腹に、対日戦略上、大きな変化があったとでもいうのでしょうか。日本周辺での軍事的な緊張が高まるというのでしょうか。

そうではないと思います。中国の対日戦略に変化が生じたのではなく、これまで同様、国内の「反日」に名を借りた突き上げに対して、決して弱腰ではないと言い訳するために武装公船を領海侵犯させたのだと受け止めるべきでしょう。それは、武装公船を繰り出してきたタイミングを見れば明らかです。

12月24日、日本政府は来年度予算を閣議決定しました。防衛費は5541億円と初めて5兆円の大台を超え、その理由として中国の海洋進出」に対する正面装備などの強化が挙げられたのですから、中国としても黙っているわけにはいかない。特に国内世論の弱腰批判だけは封じなければならない。そこで、初めての武装公船の投入になったのだと考えてよいのです。

海上保安庁の巡視船からの退去を求める呼びかけに対して、中国公船は「貴船はわが国の領海に侵入した。ただちに退去してくださいと応答していますが、その言葉遣いにも対日強硬姿勢を窺うことはできず、むしろ「これでも気を使っているのを理解してね」と言っているようにさえ聞こえるのです。

新しい年は、少なくとも領海侵犯を許さないだけの強制力を備えた領海に関する法律を整備し、尖閣諸島の領有権についても国際法に基づいた主張をさらに明確にする日本に進化してほしいと期待する次第です。

image by: Wikimedia Commons

 

NEWSを疑え!』より一部抜粋

著者/小川和久
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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