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安倍総理の外交戦略を揺るがすプーチンの重大疑惑

なかなか訪日しないプーチン大統領にしびれを切らし、今春、非公式ながらロシアを訪れる方針を固めた安倍総理。しかしメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では、「プーチン大統領の元スパイ暗殺承認疑惑」に判断がくだされた今はそのタイミングではないと断言、断末魔のロシア経済の立て直しに協力させられるのがオチであるとしています。

安倍訪露を揺るがすプーチンの重大疑惑

ロシアのプーチン大統領は米経済誌フォーブス「世界で最も影響力のある人物」で、3年連続1位に選ばれた。その理由は「自分がやりたいと思うことをやってしまう、世界で数少ない人物の1人だから」という。

安倍晋三にとっても、プーチンは特別な人かもしれない。「やりたいことをやってしまう」。それは安倍の理想とする政治家像ではないか。

あの場面が思い浮かぶ。

2015年9月29日、国連総会出席のためニューヨークを訪問し、プーチン大統領と会談した安倍首相。遅れて会場入りし、待ち構える大統領を見つけると、小走りで駆け寄り、嬉しそうに握手した。

どんな状況であれ、外交の場における首脳は、背筋を伸ばし、堂々たる態度を心がけるもの。ところが、安倍は思わず地金を出してしまった。相手はいまだ得体の知れない雰囲気を漂わせる旧ソ連KGB出身の独裁者だ。ウクライナ問題でアメリカに同調し対ロ経済制裁を科したがゆえに、安倍はよけいプーチンから威圧感を受けたかもしれない。

安倍はその年のうちに訪日してほしいとプーチンに伝えた。北方領土問題を前に進めたいからだ。だが、その後の事務方の交渉は難航し、いまだ訪日のめどは立っていない。しびれを切らした安倍首相は今春、非公式にロシアの地方都市未定を訪問し、プーチン大統領と首脳会談を行う方針だという。

先ごろ訪露した自民党の高村正彦副総裁がプーチンの訪日を要請したが、いまだプーチンは動かず、先に安倍首相が出向くことになった。あいかわらずプーチンはしたたかだ

おりしもロシアは資源価格暴落のあおりで、石油や天然ガスの税収を基盤とする政府の基金が2019年にも枯渇するといわれるほど経済が悪化している。追い込まれたロシアが、例のごとく北方領土をエサに、日本と経済的に有利な取引を画策しているのは目に見えている。夏の参院選を前に、安倍首相はロシアの窮状につけ込んで、北方領土交渉を見せかけだけでも進展方向に持っていきたいという腹だろう。

しかし、筆者はいま日本の首相がプーチンと会うのは、好ましくないと感じている。彼がプーチン大統領と電話でロシア訪問について話し合ったのは1月22日。英国で、プーチンの重大な疑惑に判断が下された直後のことだった。

2006年、ロシアFSBの元情報将校、アレクサンドル・リトビネンコが、ロンドンで飲み物に放射性物質ポロニウムを盛られ、殺害された事件。リトビネンコの妻、マリーナはプーチンの関与を疑い、英国内務省に真相解明のための調査を求めていた。英政府はロシアへの外交的配慮から事件の捜査資料を封印してきたが、高等法院がマリーナの訴えを支持したことから、潮目が変わった。

その後、ウクライナのクリミア編入などに対してプーチン大統領に揺さぶりをかける政治的目的なども絡んで、英政府は2014年7月になって方針を転換した。内務省に「独立調査委員会」を設置、昨年1月から関係者の聞き取りを進め、報告書を1月21日に公表した。328ページに及ぶ報告書の概要は、以下のようなものだ。

旧ソ連の国家保安委員会(KGB)元職員、アンドレイ・ルゴボイら2人が、06年11月1日、ロンドン市内のホテルでリトビネンコに猛毒の放射性物質ポロニウムを飲ませ、殺害した。ルゴボイらは事件のあと、ロシアに帰国した。ここまでは、07年のロンドン警視庁の捜査結果と同じである。英国検察当局はルゴボイを容疑者としロシアに身柄引き渡しを要求したが、ロシア当局はそれに応じなかった。

問題は、ロシア政府やプーチン大統領が関与したかどうかだ。報告書は語る。

2人はロシア連邦保安庁(FSB)の指示に基づいて実行した可能性が極めて高い。当時のパトルシェフFSB長官も認識していた。プーチン大統領によっても承認された可能性が濃厚だ。

FSBはソ連KGBを引き継ぐ、最も強力なロシア特務機関だ。リトビネンコは1998年、FSBの腐敗を内部告発したが、当時のFSB長官こそ、誰あろう、プーチンその人だった。リトビネンコはイギリスに亡命しプーチン政権批判を続けた。そして、同じくプーチン政権に批判的な報道姿勢を貫いたジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤ射殺事件の真相を究明していた。

ポロニウムも「ロシアの政府機関で製造された可能性が高い」と報告書は指摘している。まさに国家の犯罪を指弾する内容だ。

英国のメイ内相は「これは国際法や市民社会の根本的な原理に反する悪どく、許しがたい行為だ」と批判し、実行犯とされるルゴボイらの英国内資産を凍結する方針を明言した。この問題に対して慎重だった英国外務省ですら、対露関係の深刻化を懸念しつつも、ロシア大使を外務省に呼んで抗議した。アメリカもすぐに反応した。アーネスト米大統領報道官は、「将来的に何らかの措置を取ることを否定しない」と述べ、ロシアへの制裁を示唆した。

このような状況下、プーチンに会うためわざわざロシアの地方都市に安倍首相が出向いて、何が得られるというのか。せいぜい、合意文書に、さも北方領土交渉の進展があったかのようなサービス文言を織り込んでもらう代わりに、ロシア経済の立て直しに協力させられるのがオチだろう。それでも安倍首相は、米英に睨まれるのを覚悟で、プーチン大統領に会うというのだ。それは、リトビネンコの妻、マリーナと、彼女を支援する人々やメディアを敵にまわすことでもあるのではないか。

マリーナの苦難を振り返ってみよう。

もともと英国の有名な情報機関「MI6」とロンドン警視庁は、ロシアがリトビネンコ事件に国家ぐるみで関与していたことを示す証拠をつかんでいた。にもかかわらず、ルゴボイら2人を容疑者として引き渡すよう求めて拒絶されると、それ以上の追及をせず、外交問題に発展するのを避けた経緯がある。

納得がいかないマリーナは死因審問を開くよう政府に働きかけ続けた。彼女の活動を資金面で支えたのが、英国亡命中のロシア人実業家、ボリス・ベレゾフスキーだった。

容疑者、ルゴボイはモスクワで記者会見し「MI6とベレゾフスキーの仕業だ」と主張した。リトビネンコとその後援者ベレゾフスキーはともにMI6のメンバーで、プーチン大統領を政権から追い落とすための情報収集をしていた、とも語った。

ベレゾフスキーは2013年、謎の自殺を遂げる。それでもマリーナはあきらめなかった。MI6が有する証拠を出させるため公開調査を求め、内務省に拒否されると、こんどは高等法院に訴えた。高等法院がマリーナの訴えを認めたため、内務省も公開調査のための独立調査委員会を設置しないわけにはいかなくなったのである。1人の女性の闘いが英国政府を動かし、ロシア大統領の関与したに違いない犯罪を糾弾しているのだ。

ロシアではポリトコフスカヤ事件などジャーナリストの暗殺事件が多発、とくに1999年~2006年の間に126人のジャーナリストが死亡もしくは行方不明になった。このすべてにプーチンの関与があったとはいえないにしても、そのジャーナリストたちがプーチンを批判していた事実は重く受け止めねばならない。

プーチンのように荒っぽくないにせよ、安倍晋三もまた、別の方法でアンチ安倍の言論人に圧力を加えている。プーチンには安倍をひきつける磁力があるのかもしれない。

image by: 首相官邸

 

国家権力&メディア一刀両断』 より一部抜粋

著者/新 恭(あらた きょう)
記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。
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