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元旅行誌編集長が明かす、「現地取材していない記事」の見分け方

先日掲載した記事で「出版不況で旅行雑誌の紹介記事の質が落ちている」という現状を暴露した、元旅行雑誌編集長の飯塚玲児さん。最近の雑誌は、現地へ取材に行くことなく書いた記事も多いとか。飯塚さんは、自身のメルマガ『『温泉失格』著者がホンネを明かす~飯塚玲児の“一湯”両断!』で、本当に現地へ取材にいったかどうかがわかるを。信頼できる旅行雑誌を選ぶ基準にすることができますよ。

旅行雑誌のウラ読み術(2)

前号の続きである。 前号では、旅行雑誌業界の取材の現況について書いた。

売れない訳だ。大手旅行誌の元編集長が暴露する出版不況「負の連鎖」

出版不況が、紹介記事の質を落としているということを紹介した。今号は、そうした旅行雑誌の記事の中で、正しい情報を読み解くには、どういったこと、どういった表現に気をつければいいか、を解説しよう。

温泉の紹介記事は、一般的には写真と文章で成り立っている。

僕はカメラマンでもあるのだが、まずは、本業である文章について書く。

旅行雑誌の文章表現には、ある「宿命」というものが存在する。

それは難解な言葉を使えないということだ。

読んで楽しく、平易な文章を求められる旅行雑誌では、論文のような漢字ばかりの難しい記事は読んですらもらえない。 すると、どうしても語彙が限られてくる。 つまり、表現が似てくるのである。

たとえば料理を紹介する表現の常套句は、「四季折々の料理」「季節ごとの食材を盛り込んだ」「温かいものは温かく、冷たいものは冷たいままで」などがお馴染みである。

こうした表現ばかりが連続している記事というのは、取材が甘い、あるいは現地に足を運んでいないということが考えられる。

つまり、詳しく書くことがないから、曖昧な言葉で逃げを打っているのだ。

また、詳しく紹介すること、書くことがないということは、それだけその宿や施設ならではの魅力が乏しい、ということにもなる。

こういう記事で紹介されている宿や施設には注意が必要である。

同じような内容の料理でも「春はウルイや山ウドなどの山菜、夏は鮎、秋は松茸、冬はシシ鍋など」というふうに具体的なことが書かれていれば、1行プラスくらいの文章量でも明確な魅力を伝えることができる。

さらに「春のサヨリ、夏の岩ガキ、秋から冬のカサゴなど、旬の食材に“走り”と“名残”を盛り込んで、料理からも季節を楽しませてくれる」なんていう書き方になれば、ぐっと高級感も増しておいしそうな雰囲気になってくる。 こういう表現はキチンと取材をしていないと書くことが難しい。

僕自身は、料理に関して“おいしい”という言葉を使わないように心掛けている。 味の好みは個人的なもので、千差万別だからだ。

それに、自分がおいしいと思ったことを表現するのに、ただ「おいしい」と書いたのでは、プロのライターの名が廃るというもの。

それよりは、どんな食材をどういう風に調理してあって、舌触りや歯応えはどうなのかを書いた方が、読者にとってはずっと味のイメージをしやすい。こういうことを書くためには、やはり実際に味わわないといけない。

逆に言えば、そうした味わった人間にしかわからない表現で書かれている記事は信頼に足るといってもいいだろう。

ただ「では、お前は現地取材に行かずに原稿を書いたことはないのか」と聞かれたら、もちろんある、と答えなければいけない。

むしろ、そっちの方が圧倒的に多い。 なにしろ不況で経費節減が叫ばれているから、編集部もなかなか現地へ取材に行けとは言ってくれないのだ。

これについて、ある知人がこう言っていた。

「旅行雑誌は全部の施設に実際に行って記事を書いているんだと思ったよ。取材に行かないで書くなんて詐欺じゃないの!」

地元周辺の施設だけを紹介するタウン誌ならいざ知らず、日本中の施設を取り上げる旅行雑誌の場合、全部に取材に出かけていたら、時間もお金も到底間に合わない。

幸い僕は、プライベートを含めて日々全国を回っているので、現地の雰囲気や気候、風景までを確実に見て知っている。 電話取材だけでも相当に精度が高い原稿を書くことができる。 よって、お仕事をいただけているわけだ。

ところが、行ったこともない場所の記事を電話と資料だけで書け、という編集部もある。 良心的なライターはこういう依頼を断る。 断れない駆け出しのライターなどに仕事が押し付けられる。 結果、曖昧な表現で逃げを打った原稿が氾濫することになるわけだ。

お風呂、つまり温泉の紹介記事はチト厄介だ。 よほどの温泉好きでない限り、浴感を書いても理解されにくいからである。

本メルマガは、温泉が好きな人が読むものだと思って解説するが、一般的に「しっとり感」と「すべすべ感」の違いが明確にわかる“男性”というのはまずいないといってもいい。 女性なら誰でもわかるそうだが……。

食塩泉の特徴である「湯上がりのベタベタ感」という表現も、わからない人にとってはあまり心地よい響きがないだろう。

さらに、泉質名を書かれても、それは単なる記号でしかないに違いない。

お風呂紹介の常套句としては「お風呂はこぢんまりとした内湯のみだが、肌触りの優しい弱アルカリ性の湯がなみなみとあふれている」などというものがある。 はっきり言って、これでは読者は何もわからない

雑誌記事には文字数の制約があるので一概に言えないが、同じお風呂でも「お風呂は5人も入ればいっぱいになるこぢんまりとしたものだが、浴槽は檜造りで肌に温もりを感じさせてくれる。 無色透明無味無臭の湯は、ぬるっとした感触で、湯舟に身を沈めていると全身に細かい泡がつく」と書いてあれば、かなり具体的でわかりやすいだろう。

露天風呂の場合は、湯舟から見える風景がキチンと書かれているか、がキモ。

何も書いていない場合は、目隠しがあってほとんど眺望がないか、特筆すべき眺めではない場合が多い。

庭園露天であれば庭木などの草花、展望露天であれば眼下に何が見えるのか、あるいは山を遠望するのか、その山の名前や形はどんなものなのか、といったことを書くのがプロのライターである。

仮に取材に行ったときにあいにくの雨模様だったとしても、キチンと宿の人に取材をすれば「晴れていれば○○山が目の前にそびえ、遠く××連峰を望むことができる」ということが書けるわけだ。

それを書いていないのは、やはり取材が甘いか、実際に訪ねていないということを疑う余地がある。 ただし、文章量の制約でどうしても書けないこともあるので、記事全体のボリュームを見て考えていただければと思う。

image by: Shutterstock

 

『温泉失格』著者がホンネを明かす~飯塚玲児の“一湯”両断!』より一部抜粋

著者/飯塚玲児
温泉業界にはびこる「源泉かけ流し偏重主義」に疑問を投げかけた『温泉失格』の著者が、旅業界の裏話や温泉にまつわる問題点、本当に信用していい名湯名宿ガイド、プロならではの旅行術などを大公開!
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