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中国が尖閣諸島を諦める可能性はあるのか?ドイツで日中が激論

尖閣諸島を巡っては日本と、南シナ海を巡っては主にアメリカと火花を散らす中国。先日も米軍が西沙諸島で「航行の自由作戦」を決行しましたが、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者・小川和久さんはこれを「西沙だけの問題ではなく、尖閣問題で日本の動きを助ける効果につながる」と分析しています。いったいどういうことなのでしょうか。

中国が尖閣諸島を諦める可能性は

2月13日、ドイツで開かれた「ミュンヘン安全保障会議」で「中国と国際秩序」と題した討論会が行われた際、日本と中国の政府関係者が沖縄県の尖閣諸島を巡って意見の応酬を繰り広げる場面がありました。

参加者の1人として質問に立った日本の黄川田外務政務官が、南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島で中国が人工島を造成していることについて、「海洋での一方的な現状変更は容認できない」と述べたところ、中国の全人代で外交分野の責任者を務める傅瑩氏が、日本政府が沖縄県の尖閣諸島を国有化したことを取り上げ、「一方的な現状変更こそ中国が懸念したことだ」と反論したのです。

これに対し、黄川田政務官が「尖閣諸島は歴史的にも国際法上も日本固有の領土であり、解決すべき領有権の問題は存在しない。中国側が歴史の修正を試みていると考える」と反論すると、傅氏は「尖閣諸島は中国の領土であり、中国が苦境にあるときに盗み取られた」と主張するなど応酬が繰り広げられましたが、議論は平行線をたどることになりました。

一方、1月30日には米海軍のイージス艦が西沙諸島の至近距離を航行しました。

米海軍のイージス駆逐艦「カーティス・ウィルバー」が30日、中国の実効支配下にある南シナ海・西沙(英語名パラセル)諸島のトリトン(中国名・中建)島から12カイリ(約22キロ)内を事前通知なしに航行した。米国防総省によれば、行き過ぎた海洋権益の主張に異議を唱える「航行の自由作戦」の一環。ただ、訓練などの軍事活動を伴わない「無害通航」だったという。(後略)
(1月30日、時事通信)

それぞれのニュースを別々に見ると、米中、日中のせめぎ合いだけが目立つことになりますが、国際政治はそれほど単純なものではありません。

ここでは、1つの見方を提示しておきたいと思います。

米海軍のイージス駆逐艦の西沙諸島近海での航行には、中国が西沙諸島の領有権を国際司法裁判所に訴えるのを促す効果があり、それはとりもなおさず尖閣諸島問題で日本が国際法に訴える動きを助ける効果につながってくるという見方も成り立つのです。

西沙諸島は、以下のような経過をたどって中国の実効支配のもとにおかれています。

1954年の第1次インドシナ戦争の終結に伴い、旧宗主国のフランスが去って以後、永興島(ウッディー島)に部隊を駐屯させた中国が、1956年に東のアンフィトリテ諸島を占領、北緯17度以南に成立したベトナム共和国(南ベトナム)も西のクレセント諸島の複数の島礁を占領しました。そしてベトナム戦争(1965年 – 1975年)中の1974年1月、中国軍が西のクレスセント諸島に侵攻して南ベトナム軍を排除し、西沙諸島全体を占領したのです。そして1974年1月19日に中国によって占領され、同諸島の全てが中国の実効支配下に置かれることになりました。

中国は、尖閣諸島問題については日本が国際司法裁判所に提訴することに難色を示し続けてきました。その中国が、西沙諸島問題について領有権を国際司法裁判所に訴えるというのはどういう風の吹き回しなのでしょうか。

2014年6月12日号のセキュリティ・アイで、おなじみ西恭之氏(静岡県立大学特任助教)が鋭い指摘をしていますが、その要点を紹介するなら次のようなことになります。

  1. 中国外交部は2014年6月8日、「『981』ボーリングリグ作業──ベトナムの挑発と中国の立場』(以下「中国の立場」)という文書を発表したが、この文書は西沙諸島に対する中国の領有権を、これまでになく国際法に則った形で主張している。
  2. 中国はそれまで、南シナ海の諸島と尖閣諸島に対し、近代以前の航海記を根拠に領有権を主張してきたが、文書「中国の立場」は一転して、20世紀の中国歴代政権の言動と他国の承認を、領有権の根拠としている。
  3. 「中国の立場」によると、現在のベトナムの前身であるベトナム民主共和国(北ベトナム)は1958年、中国が西沙諸島に設定した領海を承認し、65年には「中華人民共和国西沙諸島の領海」を米国が戦闘地域に指定したことに抗議し、70年代には国定の世界地図と地理教科書で、西沙諸島を中国領と記述した、としている。
  4. これについては、南ベトナムは1974年に中国軍の軍事侵攻で追い出されるまで西沙諸島の半分を実効支配しており、議論の分かれるところも残るが、文書「中国の立場」は、その後のベトナムの主張を「禁反言の法理など国際法の原則の甚大な違反と批判している。

この中国側の批判の表現は、実は、西氏が2012年9月、尖閣諸島に対する中国の主張について、ニューヨークタイムズのコラムニスト、ニコラス・クリストフ氏のブログに「禁反言の法理など国際法の原則からすれば日本の主張のほうに正当性がある」と投稿し、英語で掲載されたのち、中国語版にも掲載された論考とまったくと言ってよいほど似通っているのです(2012年9月27日号参照)。

さて、中国は尖閣諸島を手放すことにつながろうとも、国際法的に有利な西沙諸島だけは獲得しようと動くのでしょうか。

image by: Wikimedia Commons

 

NEWSを疑え!』より一部抜粋

著者/小川和久
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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