久しぶりに仕事で中国へ行ったというファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さん。そこで、根本的な装飾やデザインの問題について考えさせられたといいます。いったい、どんな問題について考えたのか、自身のメルマガ『j-fashion journal』で詳しく紹介しています。
装飾と機能性とデザイン
みなさん、こんにちは。
久しぶりに中国に行きました。中国のアパレル企業へのコンサルティングです。
中国ではあらゆるものが凄い勢いで変化していますが、その中で取り残されているものもあります。例えば、デザインの概念です。
中国において、デザインは装飾と理解されているようです。ですから、どんどん装飾を盛り込んでいきます。
日本では、装飾を廃すことが近代的デザインであり、機能性そのものがデザインであるという概念が定着しています。
洋服のデザイン線も、装飾的な切り換えではなく、何らかの役割を持つことが求められます。単純に切って、もう一度縫製するのは無駄とされます。
しかし、中国では単なる装飾としての切り換え線も存在します。ファスアーも装飾だけに使われることもあります。平らな生地の上に、ファスナーをたたきつけています。
こうした根本的な問題について考えたいと思います。
1.ファッションデザインを構成する要素
現在のビジネス環境下で、ファッションデザインの最も重要な要素はカラーではないだろうか。
店舗販売にせよ、WEB販売にせよ、最初に消費者に訴求するのは視覚的要素である。その中でもカラーが最も強い印象を与える。
カラーはテクスチャーと密接な関係にある。同じ染料を使っても、なめらかな表面なら彩度が高く、凹凸のあるラフな表面では、光が乱反射するので彩度が低く見える。
カラーは、消費者が抱いているイメージともリンクする。例えば、現在は、天然素材のほうが高級で、合繊は安物というイメージが定着している。したがって、ポリエステルの光沢感が嫌われることも多い。
また、シルクならではの深い発色をポリエステルで再現するのは困難であり、シルクであることを強調するなら、シルク独特の深い色彩を選択することが望ましい。逆にポリエステルでも深みのあるカラーを使うことによって、シルクのイメージを獲得することもできる。
ウールも発色は良いが、表面がスケールで覆われ、短い繊維であるため光沢は少ない。そのため、高彩度の色よりも、低彩度で深みのあるカラーが適している。ウールライクな素材がトレンドである場合には、単にウール混が良いというのではなく、ウールライクのカラーで対応することもできる。
洋服を販売する時点ではカラーが重要だが、着用した段階ではシルエット、フォルムが重要になる。シルエットはテキスタイルと連動するので、テキスタイルの選択がシルエットに反映される。言い方を変えれば、シルエットを出すためには、テキスタイルの選択を誤ってはならない。
シルエットを構成する要素は、パターンと縫製仕様であり、デザイナーのイメージ通りのシルエットを表現するには、パターンナーの理解と技術が欠かせない。同様に、縫製仕様も適切でなければ、思うようなシルエットは表現できない。
2.単品アパレルが装飾過多になる理由
単品アパレルメーカーの製品は装飾過多になる傾向が強い。
その第一の理由は、変わったシルエットの製品は売れないので、べーシックなシルエットに集約されてしまうこと。
第二の理由は、素材の選択はコストに直結するため、小売価格が設定されると選べる素材の範囲も決まってしまうことだ。
シルエットと素材が決まってしまえば、差別化を図る要素は装飾的なデザインしか残らない。そのため、ディティールデザインの変化ばかりが強調されるのである。言い換えれば、店頭の商品はどれも同じシルエットで、同じような素材、ディティールだけが異なるということになる。
トータルアイテムを展開するブランドは、コーディネートにより差別化が可能であり、単品だけで差別化する必要はない。無用な装飾はコストを上げるだけと判断されるし、装飾過多のデザインはブランドイメージを下げることが多い。
結果的に、量販店向けの安物商品ほど、無駄な装飾が目立つ。無駄なファスナーやボタン、無駄な切り換えやデザイン線は安物であることの証明だ。
逆に高級ブランドは、高い原料を使った上質なテキスタイルをベーシックなデザインで表現する。無駄なデザインは必要なく、純粋にシルエットを追求することが可能で、それが差別化要因にもなっている。
高級ブランドのデザインは、微妙なシルエットの変化、テキスタイルやカラーの変化によってなされる。また、限定された顧客を対象としているため、ベーシックなデザインだけでなく、遊び心のある変わったデザインやディティールを選ぶこともできる。限定された顧客は、多くの人が着ないようなデザインを好むのである。
安物のデザインは、視覚的に判断しやすいプリント、刺繍、装飾物、切り換え等による変化が中心である。高級ブランドはリピート顧客を大切にしているため、耐久性や着心地が重視されるのである。
3.単品アパレルが目指すべき二つの戦略
単品アパレルのメリットは、生産設備が絞り込めることだ。メーカーとしてのアパレル企業であれば、単品の方が対応しやすい。
トータルアイテム展開では、一つの工場だけで対応することはできない。そのため、生産はOEMアパレルに委託することになり、アパレル企業は小売店の性格を強めていく。
単品アパレル企業は、メーカーとして生き残るのか、小売店の性格を強めながらブランド企業を目指すのかを選択しなければならない。
また、単品メーカーがブランド企業を目指す場合も、どうしたらソフトランディングできるかが問題になる。
ある意味でメーカー機能を弱めながら、小売り機能を強めていくには、微妙なバランス感覚が必要になる。
もう一つの課題は、現在はアパレル不況の時代であり、慢性的な供給過剰に陥っていることだ。その中で、新たなブランドを訴求するには、既存のアパレルとは異なるコンセプトが必要になる。
4.例えば、サイクルライフを想定する
例えば、一般的なタウンカジュアルではなく、特定の生活シーンを想定し、その中でトータルアイテム展開をすること。
例えば、健康と環境のために自転車を主要な交通手段とする生活、「サイクルライフ」をコンセプトとする。
サイクリングウェアというと、自転車レースで着用する肌に張りついた派手なカラーの服を想像するが、自転車を取り入れた日常生活を対象にするのであれば、更にバリエーションが必要になる。
例えば、パンツはストレッチ性のある織物、ニットファブリックで構成される。できれば、撥水性、防風性のあるものもバリエーションとして加えたい。
トップスは袖の機能性が重要になる。通常のジャケットよりも袖の前振りを強く設計し、肩甲骨部分の伸縮にも対応しなければならない。前丈は短めに、後ろ丈は長めに設計し、自転車の姿勢に対応する。しかし、この姿勢は、仕事をする場合にも共通しており、パソコン操作にも対応していると言える。
収納にも工夫が必要である。日常的に携帯しているフマホ、ヘッドホンやイヤホンケーブル等の収納とコードの経路を考える必要がある。
夏には、紫外線対策、熱中症対策も重要である。
このように特定の生活シーンに対応することで、既存ブランドとの差別化が可能になり、ブランドのポジションが明確になるだろう。
image by: Shutterstock
著者/坂口昌章(シナジープランニング代表)
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